川の辺にて目撃した女性の後を追う一夏達。
「予想以上に足が速いぞ⁉︎」
「彼方は手ぶらで、私達はキャリーケース持ちですから当然ですわッ‼︎」
木々の間を縫う様に駆ける女性。足元も草木が生い茂っており、油断すれば転びかねない。
——流石にキツいって‼︎
「此の儘だと、見失うわッ‼︎」
乱立する木々に隠れてどんどん先へ行ってしまう。辛うじて長い金髪の毛先が見える程度の距離。見失う直前の距離間、見失ってしまえば方角を完全に見失い、遭難確定と言う笑えない状況に陥る。
「あ、居た‼︎」
木々や草を掻き分けて進んだ先、件の女性はとある木の前に居た。その木の幹には大型の果実が実っており、その女性はその果実を毟り取っているのが見えた。
「えーとー、なんこだっけ?うーんと、ろっこ? にじゅっっこ……?」
袖に付けられ余っているのか垂れている黒い革ベルトを揺らしながら頭を捻っている。自分達よりも身長が高く見えるが、その口調は幼い様にも聞き取れる。
足元には取った果実が置かれている様だ。
「……此方に気付いていないみたいだな」
「見た感じ、あの見た事のない果物を採っている様ですわ……」
彼女が採っている事から食用なのは分かる。どんな果実かは分からないが……。
「やっと追いついたんだ、声を掛けてみようぜ?」
「んー? だれか、いる?」
その時、一夏達の話し声に気付いたのかその女性が振り向いた。
——やっぱ、千冬姉よりも身長が高ぇ……‼︎
「しらないひと、いっぱい……」
長い金髪を左右で纏め、大人の女性顔負けのボディスタイル。反面、幼さが残る顔立ちであり、それに加えて巨乳。そして1番眼を惹くのがその服装だった。
灰色のローブを羽織り、下の服の上には胸を上下で挟むように黒い革ベルトが胸元と胸下を走っており、ダボダボの服の袖にも黒革ベルトが付けられており、その袖の下に見える手首には2つ、スカートの下から見える太腿には1つ、黒革のベルトが巻かれている。そのスカートはサスペンダーで固定されており胸の下の黒革のベルトと連結されている。
そして、首には首輪が嵌められており、その首輪は胸下の黒革のベルトと鎖で連結されていると言う構造。
その服装は正に囚人服か拘束衣を彷彿させ制服に魔改造した様な服と言えた。……いや、やっぱりオシャレ感をぶち込んだ拘束衣や囚人服にしか見えないが。
そんな奇天烈な服装の彼女は困惑した様な顔で此方を見つつ自分で採った果実を隠す様に立っている(足の間やはみ出ている為に丸見えである……)。
——なんだろう……見た目は大人の女性に見えるのに、幼い子供を相手している様な感覚は……。
見た目とは裏腹に彼女は言動がとても幼い。容姿相応で考えるならば小学生低学年かそれ以下。色々と吃驚な人だが……精神年齢が幼く見える以上、変に警戒されてしまうと逃げ出してしまうかも知れない。
「アンタ、此処の人? ちょっと聞きたい事があるんだけど?」
「!」
鈴音が声を駆けると彼女は驚いてそそくさと目の前の木の後ろに隠れてしまった。そして、隠れながら此方の様子を窺っている。
「鈴さん……。彼女、怯えていますわよ……」
「今のは流石に擁護のしようが無いな」
「何でよ⁉︎ この流れで責められるの、私⁉︎」
——いや、息が上がってて暑さと追い掛けっこでイラついている状態でのその口調は流石に俺でも、擁護出来ないぞ……。
セシリアと箒から呆れながらの言葉に鈴音は憤る。
「え、えーと、ごめんね? 僕達は君に危害を加える気は全くないから、ね?」
「…………」
代わりにシャルルが対話を試みる。比較的、温和な性格で女みたいな容姿の彼ならば会話が成立するかも知れない。一夏? 別の意味で問題だらけの絵面になる。
「うー……」
「取り敢えず、僕はシャルル・デュノア。君のお名前は?」
「リィエル。リィエル・クロスナイト……」
彼女はリィエルと名乗った。取り敢えず、自己紹介は出来た。
「君、此処の島の人かな? 実は僕達、『遊獄館』って所を目指しているんだ。知っているかな?」
シャルルは前置きは省いて自分達が今、1番知りたい情報を訊ねた。
「ゆーごくかん? リィエル、しってるー!」
「「「‼︎」」」
リィエルは一夏達が目指している『遊獄館』を知っていると言う。その言葉に一気に目的地への道が開けたと思った。
「おにーちゃん、が『ぱらみつをとってきて』って、いってた。だから、リィエル、あつめてる」
リィエルが言うには『パラミツ』と言うモノを集めているらしい。それも兄と呼ぶ者の指示との事。
「えーと、パラミツってのは?」
「おっきくて、あまくて、おいしい‼︎ リィエル、すきー!」
「あ、つまりコレの事?」
つい先程、リィエルが採っていた果実が『パラミツ』の様だ。地面に置かれた果実、パラミツを指差してシャルルが訊ねる。
「うん、えーと、『しろいふくのひとたち』が、くるからって、リィエル、おてつだい」
話を統合すると、『白い服の人達』と言うのは自分達、IS学園の生徒の事を指しているのだろう。IS学園の制服は白が基調だから。
となれば、彼女は遊獄館に関連する人の様である。スタッフ……と言うには精神年齢が幼過ぎる気がするが、今は考えても仕方ない。
「つまり集めたら『遊獄館』に戻るって事かな?」
「うん!」
「……じゃあ、君のパラミツ集めを手伝ってあげたら、遊獄館に道案内してくれるかな?」
「うん、いいよー」
「あ、皆に説明してくるから、少し待ってて」
シャルルが一夏達の下に向かいリィエルの話を伝える。
「パラミツを集めるのを手伝えば、『遊獄館』へ案内してくれる、か」
「……闇雲に歩き回るよりも効率的ですわね」
「最低でも時間内に辿り着ければ何でも良いわ……道に迷う事に比べたらマシよ、マシ」
成り行きで彼女の目的であるパラミツを集める事になった。セシリア達も迷いながら進むよりもマシと判断した為に同意した。
「一夏も良いよね?」
「おう、良いぜ。そのパラミツってあの果物で良いのか?」
「うん、彼女が言うには甘くて美味しいらしいよ?」
「……1個で良いから分けて欲しいですわね」
「ええ、そうね。流石にこの茹るような蒸し暑さの中では、ね」
そう考えれば彼女は暑そうな格好だと言うのに、平気な顔をしている。見た目のギャップが色々と激しいと思うのは自分達だけだろうか?
「ぱらみつ、とるー」
と言う訳で最初に見たパラミツの木。近くで見るとやはりデカい。小さなモノでも人の顔以上の大きさがあり、果実1つを食べ切るのに複数人必要になりそうな程だ。
「つか、重ッ⁉︎」
「デカい上に重たい……‼︎ 2人や3人で持とう‼︎」
「え、ええ……‼︎」
一夏、箒、セシリアの3人掛かりで大きなパラミツを持って地面に降ろす。40kgくらいはあろうか程の重さであった。
「ぱらみつ、ぱらみつ、えへへー」
「デカい奴を選ばなくても小ぶりな奴を選びなさいよ……」
小さいモノでも人の顔程の大きさがある。確かにそれを選べば良かっただろう。鈴音は体躯が小さい為、低い位置に実って尚且つ、小さいパラミツを選んで採っていた。
木に実っているパラミツ(他の木に実っているモノも)を集める事、数時間程……。
「ぽーん!」
「「「⁉︎」」」
1箇所に集めたパラミツをリィエルは手を翳した瞬間、パラミツが量子と化して光の粒と化して消えた。その現象は、一夏達、IS学園の生徒……ひいては専用機持ちならば知ってて当然の光景であった。
「ね、ねぇ、今の……」
「う、うん……」
「あ、ああ」
「ええ、量子変換、でしたわね……‼︎ 拡張領域へ格納……」
拡張領域はISの量子変換容量に依存するが、それ以外にもコアの『好み』のようなものがあり、それによって装備を取り込めるかどうかが決まる……。いや、そうじゃない。
——彼女は、ISを
拡張領域に取り込める武装はコアの好みで決まる。何でもかんでも格納出来る訳では無い……そう、言われていた。パラミツは武装では無い。そんなモノを好むISコアが存在するのか……?
——……彼女は、何者なんだろう? 少なくとも『遊獄館』の人ってのは分かるから、敵じゃないと思うんだけどな。
「うーん、これだけあれば、だいじょぶ……!」
今し方見せた光景で一夏達が驚いているのを尻目にリィエルはほくほく笑みで集めたパラミツの量に満足した様である。
「リィエル、かえる〜。いく〜?」
パラミツ集めを手伝い、予想外の重労働に疲労が蓄積している一夏達を尻目にリィエルは帰ると宣言した、……一夏達の体調もお構いなしに、である。
「さ、流石に少し休憩させてくれないかしら? ちょっと疲れてて……」
「ええ、流石に重労働、でしたわ……‼︎」
「うーん、わかったー、リィエル、まつー」
取り敢えず分かってくれた様である。暫く休憩した後、一夏達はリィエルの案内の下、目的地である『遊獄館』へ向けて出発するのであった。