病 灯火と病 陽炎の双子姉妹。対照的な印象を受ける姉妹。
「さてと、事前に見た名簿を見た感じ、君達は3組の人達かな〜?」
「ウチらの顔と名前、全部覚えてんのか⁉︎ しかも、全校生徒の面子もか⁉︎」
「まぁね〜! これくらい私に掛かれば」
「姉様、覚えるのに2時間くらい掛かってた」
「陽炎〜、余計な事を言わない‼︎」
——それでも充分、凄いと思うけど……。
8クラス分の生徒の顔と名前を記憶と言うのは自分達では無理だ。余程の記憶力がなければ不可能に近い。
「8クラス中、優秀な部類に入るクラス……。一般人だけの平凡であるが故に、協力、協調意識が強い……。組織行動に向いている」
「おーと、そうだったね。それに臨島学校のしおりを見て、ちゃんと事前対策出来る点も評価出来ちゃうよ〜?」
病姉妹は名刀達、3組にそんな評価を下した。評価を下す側としては囚人服を身に纏っているだけに違和感が拭えないのだが……。
「……情報をそれなりに持たされているみたいだね」
——色々、把握されているのかも。『遊獄館』の関係者である事は確定的だけど、此処まで把握していると言う事は、何か裏があるのかな。……油断は禁物、かも知れない。
「……そないな事はどうでもええわ。ほな、早いところ『遊獄館』って所に案内してくれへんか?」
「この島の西側は湿地帯だからねぇ〜。泥だらけで汗だくって奴だから、早いところ到達したいって心境かな〜?」
否定は出来なかった。沼地だった為に時折、休憩を挟むと言う訳にも行かなかったからだ。
「……取り敢えず、皆、ベンチで座って休憩は出来た。それに時刻はもう4時に差し掛かっている……日が暮れ始めると危なくなってくるわ」
既に時刻は午後4時になりつつある。残り時間は3時間……悠長に構えていられる余裕は無い。
夕暮れを迎えると暗くなってくる。街とは違い光源たるモノは皆無に等しい……懐中電灯を持ち込んでいたとしても暗い事に変わりは無い。
「おお〜、そうだね〜。じゃあ、そろそろ『遊獄館』に案内しよっか〜」
病姉妹の案内で3組一行は『遊獄館』へ向けてキャンプ地から出発する。進む先、辺り一面は深い森であり、樹海レベルの深さになっていた。
「島の中央部は広い樹海になっている。……地形の凹凸も激しくて真っ直ぐに進もうとしても、難しい。だから方向感覚が狂いやすいから迷ってしまう」
「初耳だぞ、それは。まるで富士の樹海みたいじゃないか……‼︎ そんな所を自力で向かわせるとはな、IS学園の上層部は気でも狂ったか?」
道中、陽炎から島の中央部に関する。そんな話が語られた。真っ直ぐ進もうと思っても大きな岩や大木で遮られて右に行ったり左に行ったり、或いはUターンまでしている。
逸れたり遅れれば遭難しかねない。固まって移動するのが理想な場所である。
樹海故に陽の光が遮られやすく予想よりも早く視界が暗くなり始めていた。
「将来的にIS操縦者は何らかの作戦で樹海とか危険地帯に足を踏み込まなければならないからじゃない? 若く早い内に経験を積ませるのが目的だと思うよ」
IS操縦者はTV等で見る限りは華々しい印象を与える。だが、TVと言うのは元々は情報操作の兵器と言う側面があった。偏向報道、プロパガンダもその一環と言える。TVで公開されているのは一般人に見せても良い内容だ。
「……否定、出来ませんね。ISは軍事利用もされていますし……戦闘の場合は市街地以外にも森林地帯や荒涼とした地域の可能性もありますし、或いは紛争地域の可能性も……」
「日本人やから、そんな所には行かない……って言う言い訳は通用しないのかも」
——まだ学生だからIS業界の実態は分からない所が多過ぎる……。確かに授業でISが使う武装で銃火器の扱い方を学ぶ機会があるし……水流さんの言う通り、将来的には紛争地域に派遣されるのかも知れない。
「それで、貴方達はIS学園の生徒達を待っている間、何していたの?」
話題が暗くなりそうだった為に、沙莉が話題転換を図る。それは最初、2人を見た時、何かしらの実験道具を広げていたからだ。見方によっては屋外で理科の実験をしていたようにも見えた。
「あー、アレ? 暇だったから薬を作ってた」
「毒を作ってた」
物騒な返答が返ってきた。しかも姉妹で全く違う答えであった。
「結局、何方なのよ……?」
「いやぁ〜、以前に調合の最中で割合間違えて棟丸ごと吹っ飛ばす爆破事故起こしちゃってね〜。そしたら、和奏から大目玉喰らっちゃって……。暫くは外でやれって言われちゃったんだよね〜。えへへ〜」
「副作用は眩暈、頭痛、本作用は異性に対して猛烈な発情期を誘発させる媚薬の調合に失敗した。和兄様の為にやったのに」
この姉妹は媚薬を作ろうとして失敗した所為で野外で調剤していたらしい。話題を転換したは良いが健全とは言い難い話題を突いてしまった様だ。
「び、媚薬って……‼︎」
聞いた沙莉が赤面する。流石にそう返ってきたのは予想外だった。
「んー、あっれ〜? そう言う話題はNGだった〜? いやぁ、初心だね〜。無知は怖いよ〜、知った時にはもう遅いってね‼︎ 良かった良かった、知れて良かったじゃ〜ん」
ケラケラと笑う灯火。いきなり発情だの媚薬だの話題を振られては性教育関連の話題はノータッチだった一般人のクラスには刺激が強過ぎた。
「まぁ、本命は別にあるんだけどね〜。媚薬を作っていたのは本当に気紛れみたいなモノだし。手元にあったら良いかな〜ってノリだもの」
「……気紛れで媚薬を作るのはどうかと思わないの?」
「……思わない。何故、人間は逐一、境界線を作るのか理解は出来ないから」
——……この人達、普通の人間とは感性が違うのかも、服装の嗜好の時点で違和感あるし……。
「じゃあ、本命は?」
「本命、ね。強いて言えば……」
「死は救い?それとも報い?」
「生は罰? それとも褒? 」
「果たして、貴方達は何方を尊ぶのかな?」
「貴方達は、何方を呪うのかな?」
陽炎と灯火はそう答えた。今度は生死の概念を問われたのだ。
「死って、死ぬ事の意味? そんな事を唐突に言われても……」
——確かに死ぬのは怖い……死生観に関して問われても。
「あっははは、細かく考えなくて良いよ。私達は貴方達、…………とはズレてるって自覚あるからさ」
「せやな、こんなクソ暑いのにそないな囚人が着てそうな服着とる奴がマトモな訳あるかい」
泳が灯火の言葉に同意して返しの言葉を投げ付ける。暗くなり始めた樹海の中とは言え、暑い事に変わりは無い。
「マトモ? ふーん、それは自分がマトモって思い込んでいるだけなんじゃない? 価値観が異なった時、基準になるのは自分だし」
「…………」
「……少なくとも此処にいる3組一同は皆、お前達2人の服装は特異に見えるが?」
「……其処まで変に見えるの?」
「ああ、常日頃からチョーカーの類ならば兎も角、首輪に加えて囚人服や拘束衣を彷彿させる類を着て出歩く奴はそう見まい」
「ふーん? 貴方達から見てそう見えるのか〜。でもまぁ、私達にとっては制服みたいなモノだからね〜。……私達にとっては君達の様にこんな島に汚れが目立ちそうな白い服で来る方が可笑しいと思うけど〜?」
「クッ……そう言われては返す言葉が無いな」
その後、灯火は言葉が少なくなり向かう方向を指示するだけに留まった。右折し左折し、時にはUターンしたり、倒木を乗り越えて深まっていく樹海の奥へ奥へと進んで行く……その先に——。