現時刻、午後5時半。真耶が指定した制限時間に達するまで残り、1時間半。
「和奏君。病姉妹の2人が、IS学園の生徒達を見つけて無事に此処に到達したって」
『遊獄館』にある一室。特に何か用途がある訳では無い個室。
其処で和奏がリデアから報告を受けていた。だが、普段の2人の服装とは打って変わっていた。和奏もリデアも囚人服や拘束衣を彷彿させる衣を纏っている。
和奏は上着である灰色のローブを腰結びの形で留めており両方の腕の手首には短く破断した鎖が垂れた腕枷が付いている。黒革のベルトは腰や、太腿付近に巻かれている。ローブ自体にも黒革のベルトが留められずに其の儘、下に垂れている。
「リィエルが専用機持ち共を連れて最初に戻ってきて他の面々も順番に来たから……」
「……後は1人だけ、つまり……それ以外の者達は遅刻確定、って事だね」
リデアも他の面々と同じ様に、灰色のローブを羽織り、下の服の上には胸を上下で挟むように黒い革ベルトが胸元と胸下を走っており、胸が強調される様に縛られている。両方の手首には黒革のベルトが2つずつ巻かれている。
スカートはサスペンダー固定されており胸の下の黒革のベルトと連結されている。
そして、首には重厚な首輪が嵌められており、その首輪は胸下の黒革のベルトと鎖で連結されている。
囚人服として大差ない服装をしているが、当人達は気にする素振りは無い。
此処、『遊獄館』は島の中央に位置しているのだが、その周辺は深い樹海と化している上に招かれざる部外者には視認出来ない様に熱光学迷彩が張られている。それは
「……まだ残っているのはユリエだけだな」
——全く……如何してこうなったのやら。
和奏は如何してこう言う状況になったのか思い起こす。事の始めはある日の深夜にまで遡る。
その日よりも以前に
タイミングが悪くその時、連日連夜の仕事に加えて和奏はチビ達(主にウィキリピアの癇癪)が遊びに行きたいと駄々を捏ねた為、自分達の別荘地とも言える五稜遊獄島にバカンスを計画していたのだ。
だが、その計画は学院長には筒抜けであり、追加の無茶振りをされたのだ。
『IS学園の行事である臨島学校のスタッフ役をやれ』、と。
コレは学院長の思い付きでは無く、IS学園の学園長が発端である事も序でに言われた。どうやら先の一件のクラス代表対抗トーナメントの結果に何かしら不服な点があったのかも知れない(そんな事まで、知るか)。
しかも日程が完全に被ってしまった。臨島学校の日程はズラせず、かと言って此方の日程もカツカツなのでズラせない。その為、何が悲しくてバカンスなのに休日出勤みたいな真似をせにゃならんと言うのか……。しかしながら、和奏達は学院長には逆らえないのが実情。
和奏達がIS学園に干渉するのは『遊獄館』に関する事のみ。それ以外は一切干渉しない。勿論、この臨島学校でIS学園の訓練内容なぞ知った事ではない。
「しっかし、IS学園の教師陣……つーか、山田 真耶だっけか? 随分とまぁエグい内容を考えたな」
干渉はしないが実施訓練の内容は聞いている。初手でいきなり現地集合させる上に辿り着けなかった者に対しては野宿させると言う、無茶振りな訓練。
まぁ、士官学校ならば割と普通にありそうな内容だし……IS学園も見方によったら士官学校に近い(対外的には士官学校では無いと公言しているが)だろうし、その辺をツッコむ気は無い。
「……確実に勝者と敗者が決まる。そして現状、時間内に辿り着けた者には専用機持ちが含まれているね」
IS学園はワザと生徒達間に軋轢を作ろうと言う意図が見える。
しかも当てつけの様に午後7時から遊獄館玄関前広場でバーベキューの予定(用意するのは和奏達である)。
広場と外の境界線には有刺鉄線で仕切られているので、遅刻者は外から眺めて自分達で現地調達しなければ夕飯にはありつけないと言う、何とも惨めな思いを叩き込むスタンスだ。
外から指を咥えて眺めるしか無い生徒達にとっては何とも言えない感情が浮かぶだろう。
「ま、IS学園の連中が何を企んでこんな内容の訓練にしたのかは知らねぇし、興味も無ぇ。……IS学園に付き合ってやるのは初日だけで充分って学院長から言質とったからな、明日以降はこっちもこっちで勝手にバカンスするぞ」
逆を言えばIS学園の生徒が『遊獄館』に宿泊出来るのは初日だけ、と言う可能性が浮上する。
「流石に4週間ぶっ続けでパソコン作業漬けってのは目に悪すぎる……」
オフラインとは言え凄まじいまでに膨大な情報量を誇る『電脳空間』のシステム。ぶっちゃけるとメンテ要員としては人数的に足りていないと言うのが実情だった。
「……明日とかは仕事を忘れて楽しみましょう?」
リデアはそう言い首輪から垂れる鎖を鳴らしながら、部屋の窓から見えるのは陥没した地表の下に広がる浜辺、所謂『ヒドゥン・ビーチ』と呼ばれる構造の海岸を眺めた。それは、島の内部に広がる海岸線だ。
「……そうだな。まぁ、仕事した分の報酬は貰えるからボーナス刑務と考えておくかね。で、リデア……。今、何時なんだ?」
「午後6時頃。IS学園が指定した時間切れまで1時間を切る頃かな」
現在の時刻は午後6時……未だに到達出来ていない生徒は焦り出す頃合いと言える。
「ほんじゃま、そろそろバーベキューの用意でもすっか。分けてやんのも面倒臭いし、纏めてやる方が片付ける時、楽で良いからな」
その為、IS学園の連中を待つ面子に夕飯の事を考えて其々、島内で調達出来るモノを回収させる事を兼任させていた。ユリエ以外、帰って来ている為、そろそろ始めても良いだろう。
「ん、他の皆にも連絡するね。皆もお腹が空いているだろうし……」
「ああ、任せるよ」
「神楽、今何時⁉︎」
「現在、午後6時半……。流石に厳しいかと思われますわね」
「うへぇ……もう、完全に暗くなっちゃったよ〜」
「……光源が無いから、殆ど前が見えないです……」
その頃、簪、神楽、本音、さゆかのチーム。4人で島の中央部を目指して移動を続けていたが、深い樹海に踏み込んだ為、盛大に迷っていた。
ISも真耶の意味深な言葉故に使用が躊躇われており、地上から目的地に向けて進んでいるのだが、方向感覚を完全に見失ってしまった。
——……流石に、これはちょっとマズいかも。
「……完全に右も左も分からなくなって来ましたわね……。それにタイムオーバーも迫っています」
「ええ〜、野宿はヤだよ〜」
樹海の中で、絶賛遭難中の簪一行。事前の説明では時間内に辿り着けなかった生徒は『遊獄館』前で野宿(夕飯も自分達で現地調達)する事になっている。勿論、お風呂も自分達で用意しなければならない事を意味していた。
「……さ、流石に私も、野宿は避けたいです」
しかし、完全に暗くなっている為、周りが見えない。ほぼ詰んでしまっている状態であった。