樹海の中で、絶賛遭難中の簪一行。事前の説明では時間内に辿り着けなかった生徒は『遊獄館』前で野宿(夕飯も自分達で現地調達)する事になっている。勿論、お風呂も自分達で用意しなければならない事を意味していた。
「……さ、流石に私も、野宿は避けたいです」
しかし、完全に暗くなっている為、周りが見えない。ほぼ詰んでしまっている状態であった。
「それに聞いた事ありますか? 誰も居ない暗い森の中、其処にはバケモノが潜んでいるとか」
「し、四十院さん。こんな時にそんな怖い事、言わないで下さいよ……‼︎」
「いえ、冗談」
その時、草木を掻き分ける様な音が聞こえて来た。つい先程、恐怖を煽る様な言葉が出て来た為に、恐怖心が表面化する。
「え?嘘、嘘だよね……⁉︎」
「徐々に大きく、こっちに来る……⁉︎」
——最悪、打鉄隷式で周辺の樹海を吹っ飛ばす……‼︎
徐々に掻き分ける音が大きくなり、すぐ近くにまで接近して来ている事が分かる。そして、遂に——。
「誰がバケモノよ、全く……‼︎」
「って、え……?」
「あ、貴方は……‼︎」
草木を掻き分けて簪達の前に現れたは——。
——え、あ、……ゆ、ユリエさん⁉︎
「……待っててもだーれも来ないから帰ろうと思っての帰り道にまさか、アンタ達と遭遇するとはね。もうとっくに『遊獄館』に到着しているかと思っていたわ」
水色髪の髪を靡かせたユリエであった。本当にこんな所で遭遇するとは思っても見なかった。そもそも『ストラトス・デザイア』の職員の人が何故、この島に居るのかが疑問でもあった。
「え、かんちゃん……知っている人?」
「う、うん……‼︎」
——『ストラトス・デザイア』関連の話は伏せておこう……神楽も避けるだろうし。
ただ、服装は様変わりしている。『ストラトス・デザイア』で見たラバーメイド服ではなく、囚人服か拘束衣を彷彿させる装いだ。灰色のローブを羽織り、黒革のベルトが配われ、首元には首輪が嵌められ鎖で胸元の黒革ベルトで繋げられているのが分かる。
それは囚人服や拘束衣を制服に仕立て直した風に見える。
「話は全部知っているわ。IS学園の臨島学校で、『遊獄館』に向かっている」
「ええ……その通りです」
「IS学園の教師も中々、下衆ね。
「そ、そうなの⁉︎」
「はい、後は移動しながらね。時間、無いでしょ?」
話を一旦、切り上げた。そして、其の儘、流れる様にユリエの案内で樹海の中を移動する。
「……時間内に辿り着けるでしょうか?」
「平気よ平気。多少ズレたって問題ないわ」
午後7時までに辿り着けるか不安視したさゆかが質問するが、ユリエは振り向かずにそう断言した。
「……四十院と更識は色々と聞きたい事とかあるでしょうけど、後にしなさい」
確かに色々と疑問が浮かぶ。しかし、ユリエにとっても部外者である本音とさゆかの2人が居る。……ユリエとしても『ストラトス・デザイア』の業務関連は口外する気が無い様だ。
右折、左折、果てはUターンをして突き進む事。15分程、遂に深い樹海を抜け少し、開けた場所に出ると同時に照明らしき灯も見えた。
多数の有刺鉄線が幾重にも格子状に組まれた高い柵の向こう側に建物が建っているのが見える。そして、何かを焼く良い匂いが風に乗って漂って来る。有刺鉄線の隙間から見えるのは建物前の広場に多数の机や椅子が疎に置かれての野外でバーベキューらしきモノをしている光景が垣間見えた。
「おー、始めているわね。取り敢えず、ようこそ『遊獄館』へ。時間的にアンタ達が最後着になりそうね」
『遊獄館』の敷地内と外を仕切る鉄門を潜った時の時刻は午後6時55分頃。かなりギリギリの到着だった。あの時、ユリエと遭遇しなければまず間違いなく辿り着けなかっただろう。
「更識さん、四十院さん、夜竹さん、布仏さん。お疲れ様でした。ギリギリの到着でしたが無事、初日訓練は合格です」
鉄門近くで真耶が4人の到着を労ってくれた。そのタイミングでユリエは『やる事あるから、バイバイ』との事で1人、先に建物の方へと向かって歩き去って行った。
「あ、あはは、はい」
「今、『遊獄館』の人達が今晩の夕食であるバーベキューの準備をしてくれています。夕食の時間は午後7時からです」
どうやら今日の夕飯はバーベキューとの事。苦労する訓練の労いの意味も兼ねてのレジャーな夕飯の様である。
「……興味本位ではありますが、現時点で何人程、辿り着けたのですか?」
神楽が気になった事を質問する。今回の初日の訓練で何人、時間内に辿り着いたのか。
「そうですね。専用機持ちは更識さんと四十院さんが到着したので専用機持ちの生徒は全員、合格。特筆するべきは3組の生徒達全員が無事、到着した事ですね。
その他の生徒達はまばらまばらですけど、人数的に考えるなら5組と7組の生徒が多く辿り着けました。逆を言わせて貰いますと1組と4組の専用機持ち以外の大半の生徒は辿り着けていませんね」
そのタイミングで時計の針は午後7時を差した。つまり、時間切れとなったのだ。
「おっと、現時刻をもって時間切れとなりました。私達、教師陣は『遊獄館』に辿り着けなかった生徒達を回収して来ますので……。更識さん達は、夕食としてバーベキューを楽しんで来て下さいね」
真耶はそう言うや否や、鉄門を潜り外に出ると同時にその鉄門が閉じられた。後の事は教師陣の仕事だろう。学生である自分達の出る幕では無い。
「では、私達もバーベキュー会場へと向かいましょうか」
「う、うん。そうだね……」
「やったー、お肉お肉〜♪」
「お昼抜きの状態だったので素直に嬉しいですね……」
バーベキューが行われている場所では既に盛況な様子が見て取れた。香ばしく焼かれた肉の匂いが漂い、乱雑に並べられた机の上には焼かれた肉や野菜等が並んでおり、他にも焼き蕎麦やハンバーグと言った物が皿に盛り付けられておりバーベキューと言うよりバイキングと言った形式になっていた。
無事に辿り着けたIS学園の生徒達が和気藹々と言った様子で夕食を堪能していた。
「改めて見ると、凄い光景だよね」
「ええ……側から見れば、ですが」
IS学園の白い制服を纏った生徒達と、囚人服を纏った者達が一同に夕食を食べている。異様としか思えない光景だった。
「弟くーんッ‼︎ お肉〜‼︎ もっと、お肉が食べたーい‼︎」
「うにーっ(/>ω<)/」
「私たちの分、まーだ⁉︎ 早く私達も食べたいってばー‼︎」
「だぁぁぁぁあ‼︎‼︎ 分かったから、そう急かすな‼︎ ユリエ、あの問題児共の口にさっき焼いた豚肉を突っ込め‼︎」
「はいはい、分かったわよ」
——何、アレ……?
怒号に近い声が聞こえた方向に視線を向けると火を付けた土台の上に置いた鉄板の上で肉やら蕎麦を纏めて焼いている男性が見えた。ユリエと似た様な配色のローブを腰結びにしており、両手首には枷があり短かめに破断した鎖が垂れている。
その近くではギャーギャー騒いでいるヒナタとウィキリピア(髪を黒く染めてツインテールに纏められていた)や他に知らない人にユリエが皿に乗せた焼き肉を口に放り込むと言う光景が見えた。
「ユリエさんが居るのならば他の方々も居られて当然、ですわね」
——……『ストラトス・デザイア』は大きい企業だから、私有地として島を保有しても不思議じゃないのかも。
そして、ヒナタもウィキリピアもユリエと同じ様な囚人服や首輪をその身に纏っている。法則性を見出すならば『ストラトス・デザイア』の職員達は皆、囚人服みたいな装いをしていると言う事になる。
「マスター、注文していた牛肉がそろそろ届きます」
「時間通りだな。ほら、今、焼けた肉と蕎麦、持ってけ‼︎ そして食え‼︎」
今し方焼けた肉や蕎麦を皿に乗せた後に適当な面々に渡した直後、彼は熱せられて高熱を帯びている鉄板の端を素手で掴み後方へ投げ捨てた。放り投げられた鉄板は広場の片隅に深々と突き刺さり、油や熱により煙を上げている。
「え、ええッ⁉︎」
——火を通された鉄板は高熱でとても触れないのに、素手で掴んで投げた⁉︎
「さて、本番だ」
彼が指を鳴らすと無理矢理退かされた鉄板の代わりに溶岩プレートが頭上から降って来て豪快な音が鳴った。その轟音に何事かと複数人の人間の視線が其方へ向く。
「マスター、届きました‼︎」
銀髪の囚人服を纏った女性が彼にそう伝えるや否や、広場に運び込まれたのは巨大な肉塊。その肉塊を溶岩プレートに乗せて焼き始める。
焼きながら分厚い包丁と呼ぶよりもギロチンの刃と形容した方が良い物を使って(然も持ち手は無く刃そのものを直接持っていた)切り分けスライスし、火加減を見つつ肉を返して行く。
その調理風景を見る為なのかその周りにIS学園の生徒達が集まって来た(無論、その肉を食べたい気持ちも含まれている)。他にも囚人服の者達も集まって来た。
「ちっと、離れろよ。お前ら‼︎」
更に肉を切り分けた後、度数の高い酒の一種であるブランデーを振り分けた直後、溶岩プレートの上を一気に炎上させるフランベで焼き上げた。
「ほら、持ってけ‼︎」
豪快に焼き上がったステーキを見て、その光景を見ていた人間が殺到し、正しく戦場と化すのであった。