——素っ気なく言い放ってやったから、沈黙のまま事が進むかと思えば……此処で始めやがった。部外者が居ると言うのに、豪胆と言うべきか愚かと言うべきか。
和奏としてはあの2人が大浴場から去ってから話を始めるのかと考えていたが、予想とは裏腹に此処で事の顛末を展開し始めたのだ。
——……何と言うか、馬鹿と言うべきか或いは……御涙頂戴って奴か。
シャルル・デュノアと言う偽名で転校して来たと言うが本名がシャルロット・デュノア。
実父は本国、フランスで有名なデュノア社の社長で、自分はその実父の愛人との間に生まれた非嫡出子(父親は認知している)。実父は社長として婚姻を結んだ正妻がいる為、世間体として風潮が悪くなるので実母と一緒にフランス郊外にて静かに暮らしていた。
しかし、実母はやがて病没し状況は一変した。数年前に実父に引き取られるも正妻から『泥棒猫』と良く言われて虐げられる毎日が続いた。実父と正妻の仲はシャルロットの件で微妙な関係となっており、
そして肝心のデュノア社だが、欧州地域合同で行われる『イグニッション・プラン』での開発では後発でデータ不足も相まって経営状況が悪くなっており、此の儘ではISの機体の開発権限が失われて経営破綻を迎えてしまう。
其処でシャルロットが広告塔兼フランス初の男性操縦者と言う名目の下、IS学園に転校(適性値が比較的高い事も理由)し、同じ男性操縦者の機体情報や生体データの機密情報を手に入れるのが目的だったと言う。
——或いはそう言う
「酷ぇ話だ……‼︎ な、なぁ、アンタもそう思うだろ⁉︎」
話を最後まで聞いた一夏が唐突に和奏に話を振った。思えば元よりそのつもりだったのかも知れないが後の祭りだ。
「何故、俺に話を振るんだ? お前達、IS学園関係者の問題だろうが、一介の部外者を巻き込むと首を絞める事になるし、そもそも俺はお前らの事情に興味が無ぇって言ったろう」
——オマケに家庭問題も付随しているのかよ。
「アンタは何とも思わないのかよ。シャルル……シャルロットの話を聞いて」
「思わん」
和奏はキッパリ言い切る。
「未遂だろうが何だろうが、スパイ行為は国益に響くから重罪だ。俺にバレている時点でIS学園側も気付いているだろうよ。敢えて泳がしているのかもな。まぁ、遅かれ早かればれるだろう。
で、フランスの法律がどうなっているかは詳しくは知らんが、相手が男性操縦者となれば未遂であっても良くて30年以上はムショ暮らし、悪けりゃ……死刑もあり得るかもな」
和奏にそう言われてシャルロットは何も言い返せない。自覚はあるらしい。
「……そ、そんなのアンマリじゃねぇか⁉︎」
「俺に当たるな、男性操縦者」
——……そもそもスパイにしちゃ、ズブだ。
和奏は其処で酒をまた飲む。
「で? お前さんは如何したいんだ? 男性操縦者」
「お、俺はシャルロットを助けたい……‼︎」
一夏はシャルロットの話を聞いて助けたいと言う感情が芽生えたらしい。その感情は尊くて美しいモノだろう。しかしながら、完全にチェックメイトを決められている状態である事を気付いているのか。或いは逆境を覆す事にカタルシスを感じたいのか。
「具体的には如何言う状況にしたい? 其処の嬢ちゃんが無罪放免の状態が望ましいってか?」
——ぶっちゃけ、相当難しいと思うがな。それこそ、フランスを地図から消さんと無理なレベルだしよ。
「あ、ああ‼︎ シャルロットは嫌々やっているんだ。
あ、そうだ……確か、学園特記事項21って奴が……『本学園における生徒はその在学中においてありと凡ゆる国家、組織、団体に帰属しない。又、本人の同意が無い場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』と言う校則があった筈だ。それを盾に何とか」
「お前さん……。見かけによらず反吐が出る程のクズだな」
「……何だと?」
和奏は思わず一夏に対して『クズ野郎』と罵った。その言葉に一夏は眦が無意識に動いた。
「それは聞いた限り『在学中』に限り効力を発揮する。卒業したり家庭事情で中退……となれば、その時点で無効になる。3年間の執行猶予でしかならない」
「……‼︎」
——下手に希望を持たせるのは絶望に陥れる為の常套手段だ。それに事の内容は時間が経てば経つ程、悪化する内容だからな。
それに、IS学園の裏事情から山田教諭辺りは嬉々として売却相手を物色しているだろう。犯罪者だ、遠慮する必要は無ぇし、揉み消しは幾らでも出来る。
『あ、デュノアさーん‼︎ 入っていますか〜? 入浴中にすみませ〜ん‼︎』
その声が大浴場の脱衣所から聞こえて来た時、一夏とシャルロットは背筋が凍る様な思いがした。真耶の声だった。しかも、シャルロットに要件がある様である。
「……まぁ、俺にバレている時点で学園側も気付いて当然だわな」
——脱衣所に陣取られちゃあ、退路は無いな。男性操縦者がどう足掻こうが無駄って事だな。
「う、嘘だろ……?このタイミングで……⁉︎」
『……うーん、もう単刀直入に言っちゃいましょうか〜。シャルル……いいえ、シャルロット・デュノアさん。貴方の目的は知っています、織斑君の機体データ及び生体データ等の窃盗行為』
「ッ⁉︎」
淡々と告げられる内容。完全に真耶に対してバレている事を理解したシャルロット。その顔はもはや諦めに近い表情だ。
「あ、あの、山田先生‼︎」
『あ、織斑君も居るんですね? 入浴中にすみません。IS学園教師として、
「ち、違うんです‼︎ シャルロットはただ」
『やらされていた? 織斑君、世の中には従犯と言う概念があります。デュノアさんは従犯です。……そしてIS関連のスパイ行為は重罪に当たります上に、国際問題レベルです。未遂であろうとも、かなり重い罪になります。
仮に弁護士を雇っても無罪を勝ち取るのはほぼ不可能でしょう』
「……そ、そんな」
『まさかと思いますが織斑君……国際犯罪者と呼べるデュノアを庇うつもりですか?』
ガラス扉越しではあるが有無を言わせぬ詰問。この答え方次第で、恐らく一夏の学園生活が変わる事は容易に想像出来る。
「おいおい、山田教諭。部外者がまだ入ってんのにこれ以上の内輪揉めは他所でやって頂きたい」
『え?あ、あぁぁぁぁぁぁ⁉︎ ご、ごめんなさい‼︎ 無関係な貴方も入浴中だったんですね⁉︎ 本当にごめんなさい‼︎ そして、此方の事情に巻き込んでしまって本当にすみません‼︎』
あの会話はIS学園内に留めるべきだ。部外者に聞かれて良い内容では無い。
「この件、胸の内に留めておく。結末も見えているからな」
その後、一夏とシャルロットは大浴場を後にした。その後、脱衣所の外で騒がしい言い争いが聞こえたのは余談だろう。
「やれやれ……俺がさっさと出れば良かったな」
「……やっと、必要のない人間達が出て行ってくれたわね」
その時、大浴場の壁の一部が開かれた。隠し扉であり、外からは普通の壁にしか見えないその扉の奥から廻空が男湯の大浴場へと入ってきた。
首に付けた首輪は其の儘でありバスタオルを巻かず豊満な胸を隠さず晒し、その長い銀髪を靡かせて浴槽の中へと躊躇わずに入り和奏の隣にしゃがみ湯船に浸かる。
「ったく、いつの間にそんな隠し扉を……‼︎」
身内の素肌を晒す行為は飽きる程に見て来た。それでも視線はズラすが。
「……少し前に、皆でちょっと細工をしたのよ。ご主人様、貴方にバレない様にね」
「……バレない様にって。絶対ェ陽炎の睡眠薬を盛った時だろ」
「ふふ、当たり。陽炎も『耐性が付いてきて難儀する』って言っていたわ。その内、効かなくなるんじゃないかしら?」
そのタイミングで廻空が更に距離を詰めて来る。そして腕を伸ばし、和奏の腕を絡めて自身の胸の間へと引き寄せて挟んだ。湯船のお湯に浸りながらスベスベで柔らかい感触が左右から押し寄せて来る。柔らかく弾力があり、もっと触れたい衝動に駆られる。
「おい……‼︎」
「ふふ、偶には良いでしょう? 何時もは緊縛拘束の調教プレイだけど、時にはこう言う混浴……縛めの無い肉体接触は」
更に身を捩り廻空は自分の顎を和奏の肩へと乗せる。完全に密着する形だ。幸いにも後ろから乗せて来た為に一部は無事だ。
「……はいはい、分かった分かった。つーか、何故、君なんだ?」
——100%の確率で荒れそうなんだが、この手の場合。
「混浴チャンスを私が勝ち取ったからよ。他者に手枷を着けて吊し上げて行き、最後に残った者がご主人様との混浴する権利を得る……ってね」
——なんつー不毛な争い……。
恐らくその乱闘現場では今でも複数人が天井から鎖で吊るされているだろう。後で降ろしておこうと和奏は心の中で決めた(じゃないと後が怖いから)。
「勿論、予備はあるわ」
そう言い廻空は短い鎖で繋がれた手枷を和奏に見せる。此処まで来れば自分に着けろと言っているようなモノだ。本当に何処までも被虐主義な彼女達だ。
「……大浴場に要らんモノを持って来るな」
押し付けられた手枷を払うと廻空は続けて別の話題を振る。
「それで、ご主人様。彼女を如何するの?」
「……ふむ、1回仕掛けてみるか? どう転ぼうが構わない。酒の肴にしちゃあ、不味かったからな」
「貴方様の仰せのままに……。後、お風呂上がりに手枷を着けてくれない?」
「……最後の一言が無ければ、締まっていたのになぁ」
ターゲットにされたシャルロット。