「ふぅ……良い湯でしたわ」
「…………うん」
夕食の後、簪と神楽は大浴場で一風呂浴びて来た。
「さてと、この島はあの人達の所有物。となれば……」
「う、うん。そうだね……」
この五稜遊獄島は『ストラトス・デザイア』の者達の所有する島。簪も神楽も其処の職員達の性癖を知っている。となれば、この島にも
此の儘、何も無い部屋で過ごすのは時間的に勿体無い限りである。本音を言い切ってしまえば、明日の午前中は自由時間。殆どの生徒達は海浜へと繰り出すだろうが……簪と神楽の場合は、やはり被虐プレイに勤しみたいのだ。
一応、自分達が本来泊まる部屋に荷物等を置いているが……場合によってはその部屋で寝ないかも知れない。
「……4週間にも及ぶ長期臨時休業でご無沙汰でしたものね。強いて言えばIS学園の懲罰房でしか楽しめませんでしたし」
「……そ、そうだね」
『ストラトス・デザイア』は4週間程の長期臨時休業となっていた。理由は『電脳空間』の長期メンテナンスや施設内設備の一斉点検とされていた。その為、利用者は4週間以上も間悶々とした気持ちで過ごしていたのだ。
「織斑君。貴方の気持ちは理解はしましょう……ですが、それは貴方自身の首を絞める事になりますよ?」
「…………」
「で、ですが……‼︎」
脱衣所で着替えて廊下に出た時、大浴場近くで織斑 一夏と山田 真耶が言い争うと言うよりも真耶が一夏に諭している光景が見えた。そしてその近くに2人目の男性操縦者であるシャルル・デュノアが憂鬱な顔で立っているのが見える。
「……ハッキリと言いましょう。貴方の行動はIS学園にとっても由々しき問題と言うより他ありません。
容認すれば他の代表候補生の方々の権益を損ねる事に繋がります。そうなった時、織斑先生にも監督不届として責任が及びます」
「な、何で千冬姉がッ⁉︎」
——あ、コレ……聞いちゃマズい奴だ。
何があったのかは分からないが聞いてはマズい内容である事は容易に想像出来る。
「神楽、早く」
「え、ええ……‼︎」
神楽も現場を見て理解したのか、簪の言わんとしている事を察して2人揃って反対側へとそそくさと移動する。明らかに何か重大な事件が起きたのか、想像の域は出ないが詮索や想像はしない方が良いだろう。
「……さて、あの方々は5階の個室を利用しているそうですね。其方を訪ねてみましょうか?」
「……それよりもあの男性は誰なんだろう?」
「簪さんはあの男性の方が気になりますか?」
簪としてはあの腕輪状の枷を付けた男性の存在が気になっていた。あの人物も『ストラトス・デザイア』の関係者だと状況から察せられるが初めて見たのだ。
「うん、あの人は『ストラトス・デザイア』で見た事が無かったから……」
——それに纏め役っぽい印象がある。他の人達は皆、彼に従っているみたいだし……。だとすると、あのリーリスって人よりも上の立場の人?
代表とは言うがそれよりも上の役職が置かれている場合もある。企業の中には社長と代表取締役が別々の人間が就いている場合も良くある話だ。
「……関係者以外立ち入り禁止の場所で業務している方なら見た事が無くて当然ですわ」
「確かにそうかも知れない……。ちょっと、気になっただけ」
——何処かで……見た事があった気がするし……何処だっけ?
そんな他愛も無い話をしながら5階へと到着した。相手側からすれば『IS学園とは干渉はしない』と公言している以上、いきなり訪ねるのは流石に思慮に欠けるか。
「さて、来たは良いのですが……アポも無く訪ねるのも礼儀に欠けますわね。向こうから」
「おや、ドロシーさんにカグヤさん。いえ、此処では更識さんと、四十院さんとお呼びした方が宜しいでしょうね」
——あ……あの人は……ミソラさん、だった筈。
どう切り出そうか悩んでいる矢先に、背後から声を掛けられ振り向くと、例の囚人服を身に纏った廻空が今、まさに5階へと階段で登って来る途中だった。黒革のベルトが上下で圧迫し首輪から垂れた鎖でその胸が強調されている。彼女もお風呂上がりなのか肩にタオルを掛けていた。手首には黒い革のベルトが巻かれており、右手には2つ、左手には1つ巻かれている。
「あ、こ、こんばんは。夜中にすみません」
「いえ、問題ありませんよ。私達は大半の方が夜型人間ばかりですので……。お眠りになられるのはウィキちゃんとリィエルちゃんと言った精神的に幼い方達や業務の都合上、朝方に行動する方達ばかりですので」
午後8時も過ぎている時に訪ねるのは流石にどうかと考えたが廻空は笑顔で応対してくれた。『ストラトス・デザイア』は夜型人間が多いらしい。
「さて、ご用件……と言えば、拘束とかそう言うのですか?」
「はい。……この別荘地にもSMルームがあるのではありませんか? 使用許可を頂きたいのです」
——神楽、良くそんなセリフがすぐに出て来るね。
「長期間の臨時休業でしたので、溜まっておられる様ですね」
神楽のその言葉に廻空は納得と言った形で、そう返した。
「分かりました。では、その階層へとご案内しますので後について来て下さい」
廻空はそう言い踵を返して階段を降りて行く。簪と神楽もその後に続くように階段を降りて行った。
5階から降りて行き、1階へと降りる。此処は『ヒドゥン・ビーチ』前への玄関口となる階層。エントランス近くには脱衣所があり、直ぐに海へと繰り出せる構図になっているらしい。
「海より束縛がお好きとは、相変わらずの変態ぶりですね? お二人とも」
「……拘束具や縄の跡目とか、事情を知らない人に見られたくないから……」
——ボディスーツ型の水着ならば隠し通せるけど、それなら普通に監禁プレイの方が興奮するし。
「私も簪さんと同じ理由ですわ。海で遊ぶよりも被虐欲の方が優先事項ですので」
ブレない2人。赤の他人や家族から見れば度し難い性癖だと思われるが、関係が無い。
其の儘、1階の廊下を歩き『関係者以外立ち入り禁止』の張り紙が貼られた扉の前に到着する。
「此処から先は地下区画になっています。
元々、このような張り紙は必要は無かったのですが……IS学園の方々が来られた為、一応用意しました」
——確かに間違って入られちゃ困るし……扉の先が猟奇的な空間だったら引くよね、やっぱり。
その扉を開けると小さい部屋があり、その奥に扉があった。部屋の中には机が置かれているだけで何の為にあるのか分からない部屋だ。
「さて、此の儘案内するのも面白くありませんね? 其処でこんな趣向を用意しました」
廻空はそう言い、机の上にあるカプセル錠剤入りの瓶を置いた。
「……それは?」
「身内の方が製造した水無しで飲める睡眠薬です。飲めば直ぐに睡魔が起きて眠れる程の効力があります。勿論、身体に害はない事は実証済みです」
元々それは和奏の為に作られた睡眠薬である事は伏せられている。目的? 勿論、襲撃用であった。
「……つまり、コレを飲めば直ぐに寝てしまう、の」
「はい、その間に貴方方2人を地下区画の一室に幽閉致します。そして地下区画から脱出して頂きます」
「つまり……脱出ゲームみたいな事?」
「有り体に言ってしまえばそうなりますね。IS学園の生徒としてお越しになっているので時間になれば即時解放させて頂きますが、どうでしょうか?」
「……良いのですか? 仮にも貴方方も休暇中であり、コレは私達の我儘ですし」
「其処まで労力は掛かりませんよ。地下区画は元々、私達用の『遊び場』みたいなモノです。其処に2人分追加されるだけです。あと」
「うん、誰にも言わないし……言うつもりは無い」
——当たり前の事。もし、姉さんとかにバレたら絶対に止められるのは分かり切っているし……。
「……愚問でしたね。元々『ストラトス・デザイア』にお越しになる以上、その通りでしたね」
廻空としては当然の懸念だったが、今更だった事を再認識する。
「……では、時間も惜しいですし早速飲みましょうか」
「うん、目覚めた時が楽しみ」
後の事は目が覚めた時の状況に任せる事にして、簪と神楽は用意された睡眠薬を1錠摘み、飲み込んだ。
——……う。
その直後、意識が朦朧し睡魔が襲って来る。2人はその睡魔に抗う事はせず其の儘、深い眠りに沈むのだった。