※この作品はR-18です。

ストラトス・デザイア   作:夢現図書館

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欲望の獣

 

 

「…………」

 

「………………」

 

「……あ、あは、は……‼︎」

 

 『遊獄館』の大食堂は3階にある。歓喜に溺れる者、悲嘆に暮れる者が分けられた初日から夜が明けての翌朝。

 朝の時間帯、起床して朝食の為にIS学園の生徒達が集まった大食堂では、非常に気まずい空気に包まれていた。

 遊獄館へ到達出来なかった遅刻組は外での野宿で夜を明かしたが、翌朝以降は遊獄館への立ち入りは禁止されていない。つまり、朝食は遊獄館の大食堂で摂る事となっていた。

 

 つまり……こう言う事である。

 

 昨日、無事に遊獄館へ到達し豪華な旅館気分を堪能した生徒達。

 昨日、時間切れとなり外で野宿となって散々な心境の中に置かれた生徒達。

 

 二極化された心境の者達が1ヶ所に居合わせる形となれば嫌でも気まずい空間となるのは明白であった。

 

「……何つーか、爽やかな朝の気分って気ぃせぇへんな……」

 

「仕方なかろう。敷地内で豪勢なバーベキューを食っている連中を尻目に自分達は自炊をさせられて外で寝る羽目になったんだ。感情的に良い気分にはならん」

 

「……逆恨みとは言うけど、ちょっと同情はするわね」

 

「露骨な程、待遇に格差……。納得出来ないのは当然かと」

 

 特に2組と4組の生徒達の怨嗟の視線は凄まじい事になっている。

 何せ、専用機持ちかつクラス代表だけが合格したのだ。しかも、他のクラスの生徒と一緒に行動して、である。同じクラスメイトを放置して他クラスと一緒に抜け駆けした、当然良い気分にはならないだろう。

 取り分け専用機持ちが多い1組では贔屓だの何だので日頃から生徒間で溝が出来ていたが、より深い溝が出来つつあった。大食堂にて1ヶ所の大テーブルに集まって朝食を摂っている専用機持ちを遠目から見る限り当人達は気付いて無さそうではある。

 

 

 反面、比較的平和と言えるのは3組だ。団体行動であった為、全員無事に合格した。だから、周りの席で食事を摂っている生徒達の心境が丸分かりと言って良い程にハッキリと映って見えた。何せ、明らかに合格組と遅刻組に分かれて座っているから。

 と言うか負のオーラが視認出来るんじゃないかと思う位に分かりやすい。

 

「……なぁ、名刀」

 

「どうしたの?泳」

 

 其処で泳が朝食のサンドイッチを頬張りながら名刀に声を掛ける。ある疑問をぶつける為に。

 

「……IS学園がこの構図を作った意図、何やと思う?」

 

 それはこの意図的に作られた構図に関してであった。一方が一方的に敵愾心を抱かせる構図……明らかに管理する側にとっては面倒事に繋がると言うのに。

 

「意図、かぁ。ルールで事前に説明されたとは言うけれど……結構、不意打ちに近かったと思う。普遍(・・)的な認識だったら」

 

「しおりにもサバイバル関連の項目はきちんと記載されていました。良く読み込めば事前に察知は出来ます」

 

「……ちゃんと事前に用意していれば回避出来たかも知れない、と思うけれど……うん」

 

 事前に『サイン』は複数用意されていた。なのに、此処まで酷い有様となったと言う事は。

 

「確かにアンタらの意見も間違っちゃいないやろな……けど、この差はちょいと過剰な気がして腑に落ちんねん」

 

「ほう、貴様と同意見とはな。私もこの状況を考察して……別の意図があると踏んでいるぞ」

 

 泳の意見に黎芽が同意する。似た様な結論に至った様である。

 

「別の意図? 彼女達はあのルールで結果に結果に納得出来ないんじゃないの?」

 

「それもあるだろう。だが、普通の高等学校ならばそうだが、私達が籍を置いているのはIS学園。普通の学校では無い」

 

「そうや、資金力のある私学とは訳が違うやろ。……午後の訓練の内容もてんでさっぱり通知も事前情報も何もあらへん」

 

「となれば……」

 

「この構図は午後の訓練等に関係している?」

 

「そうだ、名刀代表。私の思い過ごしであればそれはそれで構わんが……此処まで露骨な格差待遇を強いておきながら訓練となれば身が入らんだろう。

 学園側としても訓練をするにあたって生徒本人のやる気が左右される以上、一定の成果は必要だ。教員とて教える事が仕事……生徒の成績の出来によって教員自身の指導評価の査定に響く……。露骨に生徒自身のやる気を下げる指導方法ではその教員は学園にとって使い物にならん。にも関わらず、敢えてこの様な構図を作ったと考えるならば……」

 

「訓練内容にこの状況が必要……かぁ」

 

 沙莉の言葉に黎芽は頷く。

 

「初日から中々ハードやったしな。……逆に自由時間で気ぃ抜くってのは」

 

「午後の訓練の時、危険かも知れない。余り気を抜きすぎると午後の訓練の成果がボロボロになるかも……精神的な意味合いも含めて」

 

——中々、良く考えている。ISを扱う者は遊び半分でやると怪我じゃ済まないって4月の時点で言われていた……。

 

「そう考えると、中々厳しいわね……」

 

「超高倍率の学園だ。それにISと言う危険な側面がある代物を扱っているんだ、その辺りは厳しく考慮して当然だろう。……逆を言えば現を抜かして物事を軽く考えている連中を篩に掛けているのかもな」

 

 士官学校は日常生活に至るまで厳しく管理されているのは比較的有名な話だ。ましてやISは武装と言う一歩間違えれば大惨事に繋がりかねないモノを平然と搭載している。バカの遊び半分で使わせて良いモノでは無い。そして、その認識の甘さも容認出来るモノでは無い。

 

「けど、全部推測に過ぎないでしょ?」

 

「うん。確かに確信は持てないかな……でも、午後の訓練もハードな物になる事は予想は出来る。いきなり島を踏破させる以上、簡単な内容とは思えない」

 

 沙莉の言う通り、この考察は全て裏付けられた訳では無く推測は推測のままだ。だが、状況証拠的に完全にとは行かずとも部分的には合っていると思われた。

 

「よね……クラスの皆にも通知した方が良いわね」

 

「朝食が終われば皆にこの事を通達しよう。自由時間で羽を伸ばすのも良いけれど、訓練の為にも余力は残しておいてって」

 

 訓練の内容は分からない。だが、状況を考えるとこの心境の二極化を利用した内容であろう事は予想は出来た……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◯

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、見て。他にも男子が居る……⁉︎」

 

「本当だ、でも……IS学園の制服じゃない……?」

 

「周りにいる人も、何か……拘束具とか、ソッチ系の服装の人も居る。ファッション?」

 

「チョーカーじゃなくて首輪……本物⁉︎」

 

「あの男子も腕に錠を付けてる……」

 

 『遊獄館』の大食堂には何もIS学園の生徒達だけが使って居る訳では無い。この事は昨日、合格組は知っているが今朝、遊獄館に立ち入れた遅刻組はそうじゃない。その為、物珍しそうに大食堂の一角に固まって陣取っている囚人服を身に纏った物達を遠目から眺めていた。

 そして、その視線を一身に集めているのがそのグループの中で唯一の男性である和奏であった。

 大食堂の端の方にある大テーブルの席に座りその周囲も囚人服を纏った女性で埋まっている。IS学園の生徒達にとって男性を見る機会はそう多くない。女尊男卑と言う理由もあるにはあるが、IS学園では一夏以外の同年代の男性を見ない上にIS学園に来るまで男性をTVの映像以外で見かける機会が無かった者も多いからだ。

 

「……やれやれ、騒がしさも種類があるようだな。此処まで注目されると時間をズラすべきだったか」

 

「んー、そうなるとユリエが怒ると思う。ただでさえ貴方は事ある事に理由付けて1日の内、二食抜く悪癖があるから」

 

「おー、確かにそれは言えているわね。ユリエメイド長が頭を抱える要因の1つが君の食生活だもんね〜」

 

「……二食抜いたくらいで怒られる謂れは無いんだがなぁ」

 

「素直に、忠告は受け止めるべきです。マスター」

 

 和奏の右隣にはリデアが座り、左隣には灯火が座っている。向かい正面の席にはフィウが座っていた。彼らのテーブルにはシリアル食品の一種であり朝食として最適なコーンフレークスが並べられ、牛乳パックも複数本近くに置かれており幾つかは空になっていた。

 

「……やれやれ、3体1じゃ勝ち目は無さそうだ。暫くはユリエの機嫌を損ねないようにしよう」

 

——じゃないと精力関連ばっかのメニューにされちまいそうだしな。或いは沙夜ちゃんを嗾けられそうだ。

 

「で、チミっ子達はまだお寝んねか?」

 

——今日以降はIS学園の連中とは基本的に関わらない。身内のウィキリピアがまた変な悪戯を仕掛けないか見て置かないとな。

 

「蔡歌と姫舞さんが一緒ですので、問題は無いかと」

 

「……そうか。他に大食堂に来ていない面々も何時も通りだろうな。黎華がなーんか企んでいたっぽいが」

 

「あ、二兎を追う者は一兎をも得ずって言うじゃない?」

 

「……個人的にはその二兎は自ら捕まりに来る気がするんだが」

 

 灯火が要らん事を言い掛けた為に適当に相槌を打って終わらせる。隣でリデアがジト目を向けて来たが受け流しておく、変な意味で此処でスイッチを入れられるのも面倒だから。

 

「な、なぁ。少し……良いか?」

 

「ん? ああ、昨日の大浴場以来か」

 

 他愛の無い話を続けている時、背後から声が聞こえて来た。この声は織斑 一夏のモノだ。要件は大凡、分かる。恐らく昨晩の一件、シャルロット・デュノアの一件だろう。もう、教師に連行され一連の内容は終わったと考えていたがどうも彼は諦めきれずこの件を蒸し返したいらしい。

 

「今日以降は相互干渉はしないと言った筈だが? その場にお前さんも居たのにもう忘れたのか?」

 

「そ、そうだけどよ……」

 

「フ、顔を見ずとも納得は出来んって顔をしているのが分かるな。良いだろう、話くらいは聞いてやるよ。フィウ、席を移動して灯火の隣に座りなさい。片方が座って話を聞くのもフェアでは無い、向かいの席、向き合って話そうか」

 

「……ッ‼︎ あ、ああ‼︎」

 

 追い払う事をせず、和奏は一夏を迎え入れる向かいの席に座るように促した。この手の『正義』面をした人間は強引に自分の話に持ち込もうとする者が一定数、存在する。彼もこの手の類だろう……ならばある程度、御し易い方を選択するのがベストだ。

 

 

 

 

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