「さて、余程蒸し返したいのか? 昨日のフランス娘の事を」
「なッ、お、おい「諦めろ」なっ⁉︎」
——正直に言うと俺からすれば終わった事だからな。今更、蒸し返されても面倒なだけだからな。それに……目敏く気付いたようだ。
「織斑君。今日以降はお互い相互不干渉だと通達しましたよね?」
その時、大食堂に来た真耶が目敏く和奏達に接触して来た一夏を見付けて声を掛けていた。
「え⁉︎ あ、そのアイツが良いって……‼︎」
「相互不干渉を言い出した本人がそんな事を許可する筈がありません。ご迷惑をお掛けしている以上、これ以上の面倒事を起こさないでください。来年以降のIS学園の評判にも繋がりかねません。貴方がその要因ともなれば、教師としても貴方の対応を考え直す必要が出て来ます」
最もらしい事を告げ一夏を和奏達のテーブルから退席させる真耶。如何にも一夏の対応に苦心しているのやも知れない。
「……すみません、重ねてご迷惑をお掛けしました」
「学生にとっちゃ教師が目の上のたん瘤だからな」
「……あー、だから敢えて許可したんだ〜」
学生と言う身分にとって教師の言葉には従う必要がある。真耶の言葉だからこそ、大人しく従うと踏んだからこそ、和奏はわざと座る様に促したのである。
「さて……じゃあ、
和奏は指を鳴らした。その直後、和奏達が座るテーブルを包囲する形で壁がせり上がり大食堂に集まる面々と此方へ視界を遮断した。
「これは……⁉︎」
急に壁が現れて大食堂の中に隔離区域が現れた事に真耶は驚く。確かに大食堂にこんな仕掛けがあると言う事は予想は出来まい。
「昨日、言ったろ? 此処は俺達にとって別荘みたいなモノであると。だからこう言う小細工は備わっているんだよ。……まぁ、使う機会が来るとは思ってはいなかったがな。防音処理がされているから其処の点は心配しなくて大丈夫だ」
真耶は和奏が女装しリーリスと名乗りIS学園に『仕入れ』に来ている事も当然、知っている。
此処からIS学園の『裏』の会話だ。
「……男性操縦者が喧しく騒いでいるシャルロット・デュノアは如何なる?」
真耶が向かいの席に座ったのを見計らってから本題を切り出した。内容は勿論、シャルロット・デュノアである。今回は毎月恒例の放学処分では無く列記とした重犯罪者。少し話が異なる。
放学処分者の場合はオークション等で競り落とされた後に『加工』して納品と言う流れの為、此処で切り出す事は無い。
「そうですね。放学処分者は人権が剥奪されますから肉便器なり家畜化するなり、スラム街に放り込んで性処理道具として使い潰されるなりありますが……今回は少し複雑ですね」
「複雑……ですか?」
どんな犯罪者でも基本的に『人権』はある。死刑囚でさえ、人権は確保されている。
「昨夜、フランス政府と国際電話で交渉しました」
——交渉ねぇ、まぁ……IS学園にとって有益な内容になる様に手配すると思うが。
「その結果、幾つかの内容が纏まりました。貴方方、『ストラトス・デザイア』にも関係する内容です」
「聞かせてくれ」
「はい。先ず、シャルロット・デュノアの件ですが……これから午後に行われる訓練の合否により処遇が決まる事になりました。
合格であれば、今回の一件、国際的スパイ行為の責任やその他諸々の追及は全てデュノア社とシャルロット・デュノアの国家代表候補生の承認関連に関わった政府要人に被って貰う形になります。フランス政府も一枚岩ではありません。経緯説明と代表候補生権利云々は未定ですが……その場合、概ねほぼ当面の間は正式に女子生徒として在籍を認める形となります」
フランス政府とて、全面的にデュノア社を信頼しているとは言えない。最近落ち目であり、ライセンス剥奪目前だ。見切りを付けている可能性もあるし、女性権利団体が関わっていないとは断言出来ない。
「不合格であった場合は勿論、表向きはフランスに強制送還の上で死刑判決と言う名目で人権剥奪の上、放学処分となります。
買い手は未定ですが、金髪で可愛らしい顔立ちですので性奴隷としての需要があると言えますね」
この辺りは概ね想像出来る範囲内だ。IS業界、ひいてはIS操縦者は殆ど実力主義だ。勝者が尊ばれ敗者が敗れ去って行く世界。その為、国家代表候補生でも日々、その座を巡り争い入れ替わりが激しい事になっている。
「次に今月の1学年における成績不振による放学処分対象者は最下位3名となります」
「む? 如何言う風の吹き回しだ?」
IS学園は毎月月末に各学年の成績最下位の者は人権剥奪からの放学処分となる。なのに、今月は下位3名となるとの事。
「はい。今月に限り成績下位3名は全員、フランス政府が専属買い取り形式にお願いしたいのです。IS学園の生徒達は容姿が優れている者が多いので接待用性奴隷としての需要はあるでしょう」
——成程……3名買い取るから少しまけてくれって言いたいのか。フランス政府としてはデュノア社が潰れるからその辺の事情は知ったこっちゃ無いが……。
「成程……。フランス政府は条件付きで生存を認めたのか」
「はい。フランス国内でも事情がある様です。其処までは関わりきれません」
「同感だ。要件に関しては分かった、他は?」
「以上ですのでありません」
「そうか。まぁ、もう会う事は無いだろうが男性操縦者の行動は注意した方が良いだろう。その内、犯罪を起こす事になるぞ。犯人隠避罪とかで」
「……しかも、今回の場合、話を聞く限りだと故意っぽいから庇いようが無いわよね〜」
「ご忠告ありがとう御座います。今回の織斑君の言動は由々しき問題の前兆と捉えていますので、学園に戻り次第……学園長を交えての慎重な討議を行う必要性が出て来ました。……結果によっては学園内に留まりますが男性操縦者と生徒の交流は限定的と言う検討に入ります」
つまり学園内の何処かに隔離しての個人授業で進め他者との交流も制限される形式を取らざるを得ないと言う事を意味する。
「はは、そりゃ当人からすれば災難だな。まぁ、男性操縦者の『性格』の情報は既に拡散しちまっているようなモンだ。
「はい、今回は未遂で終わりましたが次はそうとは限りません。何処の国でも男性操縦者の情報は喉から手が出る程に欲しい情報です。
どの国もオークションの機会まで待てないので、如何にか情報を得ようと躍起となります。学園側としては男性操縦者の商品価値を極力高めてから売りたいので、その様な価値を下げる現象は認可出来ませんね」
素直にオークションだけ参加……と言う利口な者はほぼ居ない。オークションだと勝者の総取りとなるが、それ以外の勢力は納得は出来ない。故に事前に少しでも遺伝子情報なり何なり欲しいのだ。
IS学園は校則により干渉されないとは言ってはいるが、
「一層の事、貴方方……『五稜監獄学院』に保管して貰った方が良いかも知れませんね」
真耶は冗談混じりで和奏達が本当の意味で在籍している組織の名前を口にした。しかも保護では無く保管と言う事から既に評価はそんなモノだ。
「面倒な連中は既に間に合っている。……それ以前に学院長様が認めないだろうよ」
「はい。資格もありませんし」
「ん……確かに」
「あー、学院長様って人間嫌いだもんね〜。しかも……織斑となれば、ね〜」
和奏達は揃って拒否反応を示した。これは一夏本人が嫌い……と言うよりも在籍資格が無いのが主な理由だ。
「……冗談ですよ。それだと貴方方が大儲けするじゃないですか」
「そうかい。今回はこの辺で良いだろう。俺達は午後からビーチで遊んでおくからIS学園の邪魔はしない」
——仮にIS学園側からISで殴り込んで来ても、10秒持たずに鉄屑に変換される。搭乗者諸共。
ルヴィアは居ないとは言え、ウチの身内の大半がベルセルクとかバーサーカーとかその分類の連中しかいない。比較的、性格が控えめなリデアや黎華、陽炎でさえ其処に分類せざるを得ない程に。『話し合いなんて物騒、此処は穏便に殴り合いで』とか言い出すに違いない。
大人としての対談が終わり壁が取り払われた後、真耶はお辞儀をし和奏達の前から立ち去って行った。遠くで男性操縦者が恨めしそうな視線を向けているが、此方にもう一度来るつもりは無さそうだ。
IS学園側の邪魔が入らなくなったので、和奏達は残りのコーンフレークを完食した。