『セスルーム』
訓練と言うには余りにも過激な内容と言えた。何故なら、結果次第で人生が大幅に狂いかねないからだ。その為、双方共に必死になって取り組む事になる。
真耶から見て今年の1学年は酷い態度に見えたのだ。最近の例を挙げれば1組と2組の合同訓練の時。その訓練は専用機持ちが5、6人の一般生徒達のグループで量産機によるISの歩行訓練の監督する行程であった。
詳細は省くが真耶視点で言えば『巫山戯ている』、その一言に尽きた。
あの時は千冬の一喝でその光景は瓦解したが、それでも擁護は出来ない。あんな態度が横行すれば怪我では済まなくなる。
口で言っても理解しないのならば巫山戯る暇を与えない訓練を組む。それだけだ。
「よもや、この様な訓練内容になるとは想定外だったな」
『セスルーム』開始から30分。3組の面々は固まって行動していた。説明の時点から不穏な空気になっていたのは誰もが理解していた。初日からの生徒間軋轢に加えての今回の訓練。その軋轢の罅と言うものは大きな亀裂となり関係の決壊を招くに至っている。
その軋轢に関して3組は無縁だが他のクラスの場合はかなり酷い有様となっている。
「2組と4組に至っては、クラス代表をシメる気満々やったな。まぁ、気持ちは分からんでも無いんやけどな……」
開始早々、2組と4組は自クラスのクラス代表を倒して専用機を奪取しようと追撃を開始し競争状態となっていた。
如何に代表候補生とは言え、特殊兵装が使えない状態かつ多人数相手ならば押し切れる可能性があるだろう。
「他の連中の事など知った事か。それよりも私達は如何するつもりだ? 名刀」
合格出来る最大人数はたったの7人。割合的に考えても半数も合格出来ない。
「コレ、絶対にクラス内で揉める上に如何転んでもギスギスするよね」
限られた
それを多人数で奪い合うと言う光景はさぞ醜い光景となるだろう……。
「「「…………」」」
「……それを踏まえて私の考えを言っても良い?」
「ええで」
「構わん、何だ?」
「うん」
多数から同意が飛ぶ。ならば言わせて貰おう。
「正直に言っちゃうと……仮に私達の内、誰かが専用機持ちの誰かの腕輪を獲得したとしても、きっとその人だけが手に出来る。でも、それで得たとして本当に使い熟せたりするのかな?」
今回の訓練で専用機を手に出来る可能性がある。それ故に専用機は愚か量産機に搭乗出来る機会が非常に限られている一般生徒達は狂奔している。そして、ISは女尊男卑の象徴とも言え、更にはステータスの一種とも言えてしまっている。
「……否定は出来ませんね。山田先生は交渉する権利があるとしか明言していません。専用機を受領出来ると確約していません。所属国家からすれば、何処の馬の骨に渡せるものかと言うのが目に見えています」
その言葉に槐が分析する。
「そうだな。調べれるだけ調べた限りだと、専用機は汎用型と言うよりも想定される環境に関しての特化型や実験や試作型だ」
更に続けて蒐集したデータを3組の面々と共有する。
「せやな。例えば1組の織斑なんかは近接戦オンリーや、牽制の射撃武装は一切搭載出来へんし、逆にオルコットのは近接武装は貧弱や。
それに加えてオルコットの『ブルー・ティアーズ』ってのはIS適性に加えてBT適性も要求されるそうや」
「他の面子も癖だらけよね。四十院の場合は一切武装が無いし、機動力に全振り。
動体視力に加えて相当な身体能力や体が柔軟じゃないと身体中の骨が折れかねないドM仕様。
ボーデヴィッヒは軍人だと聞いて、この時点で国に対して交渉もあったモンじゃないわよね。それ以前に素人が軍人に勝てるビジョンは浮かばないわ」
「……1組で安牌なのは〜、デュノア君ですね〜。ラファールなので量産機の発展系なので安定性がありますから、殆どの方から見て狙い目と言えるでしょうね〜」
「2組代表の機体は安定性がウリ。遠近のバランスが取れているわ。それに牽制にも決定打にも使える衝撃砲の存在は相手に脅威。ただ、近接武装は扱いに慣れが必要ね、分離、連結が可能な両剣って武装だし。
それで、4組は……ピーキーって言えるわ。製作会社から見切りを付けられて自力で組み上げたって話……。搭載されているミサイルは全部、手動でコントロールするって噂まであるわ。その為、4組代表本人じゃないと十全に機体性能を発揮出来ない機体、と言える」
そう考えると殆どの専用機は『専用機』たる性能をしていると言える。本人の性質に合致した機体だ。本人じゃなきゃ到底、使い熟すのは困難。……にも関わらず、大半の生徒は嫉妬と羨望が織り混ざった目先の欲に駆られて群がる始末だ。
「うん、私だと……多分、デュノアさんの機体以外、とても使い熟せる自信が無いかな……。薙刀と言った長物とか使った事ないし……」
——日本刀でさえ、相当な鍛錬が必要だし……一朝一夕とか適当に振り回して出来るモノじゃない。
「……同感だ。戦闘しながらマニュアル操作の意識など割けれるかって話だ」
「並列思考とかウチも出来へん。棒立ちの間に懐に迫られたらそれで終いやしな」
「お国柄の予算事情もあるのでしょう。候補生にあわせるのではなく開発された機体の性能を発揮出来る候補生を選別する方が安上がりです」
皆が口々に冷静にそう判断する。目の前に専用機があったとしてその武装を使い熟す事が出来るかと冷静に考える。自分が如何言う操縦センスか、或いは戦い方をするのかは千差万別だ。
全員が全員、同じ戦法とは限らない。勿論、基礎は必要だがその過程で自分に合ったやり方を見出す事になる。……だが、一般生徒には量産機を使い自主訓練するのには予約制で長い期間待たされる為、中々進まないのだ。
「そう考えたら、1組のデュノアに仕掛けるか? 恐らく大半の生徒もそう気付くやろうから、乱戦になるやろな」
「…………」
泳がそう提案する。狙うならば1組のデュノアだと。しかし、名刀は言葉に詰まる。手に入れ、合格出来る1人だけだ……その後、3組内で奪い合うのか……?
「名刀。デュノアの機体はラファール・リヴァイヴが元になっている。元が元だ、操縦しやすい機体である可能性が高い。操縦者を選ばんと言う謳い文句は伊達では無い」
「黎芽、何が言いたいの?」
「クラス代表はお前だ、名刀。3組全員でデュノアから腕輪を奪い、お前が遊獄館へ、ゴールへ向かえ」
「え⁉︎ それだと皆は……‼︎」
「何言うとんねん。不合格やーって言うにはあんまりやと思うほどに人数が多すぎやし、ウチらは初日に合格貰うておるからプラマイゼロや。それに別にテント張ってのキャンプやろ?何処に嫌な要素あんねん」
テント張ってのキャンプ自体に不満要素が何処にあるのか。それが分からんと言う体だ。
「仮にも訓練です。訓練をやる姿勢を見せる必要がありますし……交渉権を放棄すると言う選択肢もあります」
仮に交渉するにしてもフランス政府もそうだがデュノア社を相手とる事になる。交渉が成立する見込みはかなり薄く思えるが……少なくとも訓練を真面目にしないと言う評価は避けたい所だ。
「偶には屋外のキャンプも良いと思うよ。中々無い体験だと思うしね」
他の3組の生徒達も口々に方針に関して同意の意見を並べる。
——……。
「うん、分かった……。その方針で行こう」
名刀はその総意を受け取り、そう返した。狙うはシャルル・デュノア。乱戦になりかねないが、隙を付ければ何とかなるか?
「よっしゃ、なら決まりや‼︎ 先ずはデュノアの行方を把握する事やな、誰かどの方角に行ったか見てへんか?」
「東の方角に飛んで行ったのを見た‼︎」
「東か……。その方角は未知数だな、兎に角……向かうとしようか」
3組一同は方針を固めデュノアの後を追うべく島の東へと向かうのだった。