——くだらない。
「痛いッ……痛いッ‼︎ 簡易バリアシールドがあるって言うのにッ……‼︎」
——痛覚遮断? そんなモノがあれば
「……あ、あ、あ、……‼︎」
濡れた地面に尻餅をついて怯える生徒。その手にはアサルトライフルが握られており、震える手で銃口を彼女に向ける。
「脇をしめてしっかり持て。……でなければ当たるモノも当たらん」
ナイフを取り出して投げる。投げられたナイフはその生徒の目線近く、耳朶を掠って外れた。
その光景を自覚してその生徒は動悸が激しくなる。ほんの数cm、ズレていれば眼球を破壊されていた。その刹那、首を掴まれる。小さい体躯だが、腕力は強く首を絞める力が強まっていく。
「あ゛っ……あぁ……‼︎」
「どうした? 貴様の覚悟はその程度か?」
「…………」
「フン……」
恐怖か酸欠かは知らないが、気を失った様だ。その生徒を地面に投げ捨てて彼女、ラウラ・ボーデヴィッヒは歩き始める。
——くだらない訓練だ。我がドイツの志願した
ラウラはドイツ代表候補生兼ドイツ軍IS特殊部隊『黒兎隊』隊長だ。当然、専用機持ちである。
『セスルーム』開始後、ラウラにも専用機を欲する一般生徒達が殺到して来た。女尊男卑、嫉妬、欲望を混ぜた感情を持って。
しかし、ラウラは既にIS操縦者として軍人と言う身分である。素人同然の者達が銃火器を持った所で相手になる筈も遅れを取る筈も無く、襲撃される度に悠々と制圧して来た。
——……ISをファッション程度の認識しか無い、連中に専用機など持て余すだけだ。
IS学園に来て早々、ラウラは失望の念しか浮かばなかった。言動から態度、それ以外諸々含めて全部と言えば良いだろうか。
この学園の大半の連中はISの存在をアクセサリーやファッションとして認識している。
なんと、醜い事であろうか!
「……連中はISを持つ事の意味を知らない。いいや、分からないのだろうな」
歩き続け、視界の隅にもう何回目かの襲撃者と視線が合う。誰も彼もが『力』を欲する。
殴り、手刀、蹴り、体術のみで『腕輪』を奪おうと襲い来る一般生徒達を制圧して行く。簡易バリアシールド発生装置故に、恐れる事無く向かって来るが『痛覚』はある。
地面に転がり回り、悶える者達を尻目にラウラは歩き続ける。
——貴様らには、ISと言うモノは過ぎたモノだ。向上心も無ければ、覚悟も伴わない。あるのはただの醜い自己顕示欲だけだ。
「……貴様らの相手をするのは時間の無駄か」
ラウラとしては初日の訓練はまだ理解は出来たが、今日の訓練ほど無駄な時間や労力を割く必要が無いと考えていた。
そもそもIS学園に編入したのも元はと言えば上層部からの命令に過ぎず、件の男性操縦者と接触せよと言う内容だった。
——織斑 一夏。教官の弟。……取るに足らん奴だ。あんな奴に固執して何になる?
それよりも本当に退屈な訓練だ。何の役にも立たん雑兵連中の相手なぞ、何の価値も無い。
ただIS欲しさにやる気を出す連中では程度が知れる。そんな連中に拘う程、自分は暇では無い。
「……ふむ、此処はやはりあの連中の顔を拝みに行くとするか」
拘束衣や囚人服を彷彿させる服装をした集団。IS学園の者では無く、この島の所有する組織の構成員と思われる者達。リーダー格と思われるのは男で、それ以外は全員が女だった。
——少なくともただの人間では無い。IS関連の技術を持っているのは確実と言える。その強さ、一度見てみたいモノだ。確か、午後は例の海岸に居るそうだな……雑魚共の相手よりは有益な交流となるだろう。
「……ッ‼︎」
——しつっこいったらありゃしないわ……ッ‼︎ コレが嫉妬の力って言いたいのかしらねぇ……。
その頃、別の区域でも戦闘が行われていた。得物を片手に鈴音は銃火器等で武装したクラスメイト達に囲まれている。
「専用機があれば……私だって、織斑君に近付ける……‼︎」
「前々からアンタは気に入らなかったのよ……‼︎ クラス代表なのにクラスメイトよりも他のクラスの人と合格するだなんて、人として最低じゃないッ‼︎」
「専用機持ちは良いわよね……‼︎ 何でもかんでも優遇されててさ‼︎ いつでもお気軽にISが使えるし、アリーナだって場所申請すればすぐに使える‼︎ 私達は予約して半年も待たされて使える時間はごく僅かだって言うのにッ‼︎」
——あーあー、聞くに堪えない八つ当たりね。まー、一夏の回りは私を含めて専用機持ちばっかだから、その認識も間違って無いかもだけどさ。
クラスメイトからの批難の視線と罵倒。それを聞いて鈴音は心底、呆れる。大半が八つ当たりに近いのも含めてだ。
「アンタらが専用機、専用機、専用機が欲しいって宣うのは個人の勝手だし、どんな生活かしていたのは知らないけどね……」
鈴音は得物である双天牙月を模した模造武装を構え直して夢しか見えていないクラスメイト達に『現実』を教える事にした。
「私が代表候補生となって『甲龍』を拝領するのにどんだけ苦労したか、想像出来んの?
1年……。周りからはかなり早いって言われたけどね、その分、代表候補生になる為にかなり注ぎ込んだわ。寝る時間は毎日、1時間も割かなかった。訓練、知識、学業……限界を迎えて倒れる事もあったし、それでも続けた。続けなければ到底、なれないから」
逆を言えば身体が壊れる程の努力を費やしても1年は掛かる事を意味していた。
「そもそも中国ってのは人口も多い、代表候補生になろうって
刃を地面に突き刺し、その時の光景を思い起こす。自分もまたその1人だった……両親が離婚し、生活面でも苦難の日々が続いた。代表候補生以上になれば国から補助金が給付されるからだ。貧困故に、代表候補生になり生活面を改善しようと考える者は少なくない。
「代表候補生の枠を巡って候補生候補の争いは過激だった。人数が多いから手段は問われない……潰し合った末に僅差で退場する者も多く、候補生になれたとしても、後追いに追い越されれば価値が無く肩書は剥奪される。今の私は自分以外の他の代表候補生を何人も何十人も蹴り落とし続け国から実力を認められてやっと専用機を与えられた。
代表候補生……ひいては専用機持ちってのはそんな簡単になれるもんじゃないわ」
刃を地面から抜き放ち、鋒を正面に立つ生徒に突き付ける。
候補生になれてもその地位を維持する事も苦難の連続だ。自分よりも優秀な者が現れればお役御免となる。故に継続された研鑽が常に求められる。候補生がゴールでは無い、候補生はあくまで候補生、国家代表の候補故に、候補生同士でも潰し合う事となるのだから。
「……アンタらが羨んだり嫉妬するのは勝手。でもね、大した成果も無いのに私達から専用機を奪って専用機持ちになれる? 馬鹿馬鹿しい程に、呆れたストーリーね。
そんなんで代表候補生や専用機持ちになれるんなら誰も苦労していないわよッ‼︎ 本気で専用機が欲しいのなら……国に政府にアンタらの『価値』を認めさせてから、宣いなさいッ‼︎」
故に宣告する。
高々、こんなくだらない訓練で専用機で手に入れられると考えている自惚れ者達に。
「掛かってきなさいよ、三流にもなれない四流の候補生未満の連中」
「「「ッ‼︎」」」
クラスメイトから罵倒された鈴音は敢えて三流では無く四流だと罵倒で返した。IS学園は世間体では超が3つ付く程のエリート校と見做されている。倍率も10,000超え……その狭き門を潜り抜けた彼女達も確かに優秀だと自負しても遜色無い。
——優秀と有能は別問題。勉強が出来るのと頭が良いって意味は同一じゃないのと一緒。
本当にR-18なのか、コレ……。(2回目)