遊獄館前のヒドゥンビーチは午前中はIS学園生徒達に開放されていたが、午後になれば生徒達は訓練と言う事で無人となる。
午後からは和奏達がヒドゥンビーチでバカンスする事になっていた。と言うより当初からそう言う理由でこの島に来ていたのだが。
——やれやれ、やっと俺達もバカンスが出来るな。
電脳空間関連のメンテやらでほぼ缶詰状態だった上に日本では女装しなければマトモに活動が出来ない有様。こう言う時くらいに羽目を伸ばしたい。
そう言う心境であった和奏はトランクスタイプの水着の上に南国感溢れるアロハシャツを羽織りサングラスを額に引っ掛けて砂浜へと出た。
此処のヒドゥンビーチは島の内部の地形が陥没し海水が入り込んで出来たビーチ、その為に周囲は岩壁で覆われており、その一部が崩れて外の海と繋がっている構図となっている。その為、島近海に目撃が確認されているヨゴレ等は暗礁によりビーチ内に入れない為、安全性はある程度保たれている。
——まぁ、あのバカ共の場合は張り倒していそうだけど……逆に動物虐待になってしまいそうだ。
更衣室の方ではリデアや廻空達はまだ着替えている頃合いだろう。女子の着替えは長いと言うのは定説だし、此処は適当にビーチパラソルなり何なり用意しつつ時間を潰す事にした。
「おとうっとくーん♪」
ビーチパラソルを数本の用意が終わった時、後方から弾んだ声が聞こえてきたかと思った瞬間、背中に柔らかく弾力のある感触が走ってきた。
「姫姉……暑い」
「えぇええ⁉︎」
背中から抱きついて来た姫舞を引き剥がした。半色の髪色に合う紫色のビキニで腰にはパレオを着けている。
「弟君、どう⁉︎ どう⁉︎」
食い気味に迫って来る姫舞。此処は野郎として何か一言、言ってやるべきだろう。
「大人っぽくて良いと思うな」
——普段のイカれ服装と比べればかなり健全だ。
普段から目にする彼女達の服装は他所行きを除けば拘束具と拘束衣やら露出度の高いコスプレ衣装やらばかりなので、普通に水着の場合は露出度を抜きにしてマシと言って良かった。
「うにーっ(/>ω<)/」
「わー、うみー♪」
「こらこら、走っちゃ転んじゃうわよ〜」
次に砂浜に出て来たのは黒いビキニにパレオを着けた蔡歌と、ウィキリピアとリィエルの幼子コンビ。ウィキリピアは白地のタンクトップとホットパンツと言う子供らしいタンキニ水着。対するリィエルは白いビキニで胸元に赤いリボンが着いている。2人とも海へと飛び込んで行く、蔡歌が見ているので大丈夫だろう。
「マスター、お待たせしました」
「ふ、フィウさん……その少し、恥ずかしいです」
その次に出て来たのは陽光に照らされて煌めく銀髪を靡かせたフィウと、小夜の2人だった。
「弟君、どうしたの?」
「……いや、健全な筈なのに何故か頭が痛い」
フィウと小夜の2人は純白のスクール水着をその身に包んでいた。胸元にはそれぞれ『フィウ・エファアルティス』と『嵐藤 小夜』と書かれている。2人とも小柄な体格だが、胸が大きい(小夜の方が大きい)為、胸がかなり強調されていた。しかも、表面の質感は微妙に半透明の仕様で光の加減で透けて素肌が見えてしまう。
何と言うか別の意味で犯罪臭が凄い。
「あ、あのっ‼︎ へ、変ですかっ⁉︎」
小夜が自分の水着姿を見て赤面して狼狽している。
「いや、似合っているし何でもない‼︎ 一般開放されているプールや海水浴場なら観光客諸共、灰燼にさせる必要があると考えてしまってだけだ」
「マスター。私達は皆、恥部付近は永久脱毛していますので陰毛の類はありません。お気になさらず」
「そう言う意味じゃないッ⁉︎」
全くフォローになっていないフォローを受けてしまった。
「はいはい、海に行くなら身体を解してからにしなさいっ‼︎ 特に其処のちびっ子達‼︎」
そんな声が聞こえて来る。ウィキリピアとリィエルに注意している水着の上にワイシャツを羽織った篠鴉の姿が見えた。医療関係担当故に体調管理には厳しい。
「ふふ、そんな単純な作戦ではご主人様には通じないわよ? やはり、畢竟は強引に辿り着くのよ‼︎」
——何かすっごい宣言が飛んで来た。
強引と言う何とも言えない宣言と共に現れたのは廻空であった。銀髪を靡かせて涼しげな笑みを浮かべている彼女が着ていた水着は……。
——……おい、そう来るか。
超弩級レベルのストレートなヒモ水着であった。
スリングショット、紐と形容して良い細さの帯が首から胸、胸から腰の股下に引っ掛ける形になっている。胸の乳房に帯を引っ掛ける形で辛うじて水着の姿を保っておりエロ&エレガンスなスタイルであった。
「ひ、ヒモ水着……‼︎ 廻空ちゃん、恐ろしい子……‼︎」
「……普段から全裸緊縛しているので然程、真新しいモノではありません」
全く正反対の感想を漏らす姫舞とフィウ。因みに和奏はノーコメントだった。口を開けば要らぬ追撃を受けてしまいそうだからだ。
「ふふん、スクール水着かスリングショットか悩んだけど……やはり、こちらの方が良いと判断したわ」
自信満々な廻空。昨日、男湯に潜り込んで来た上に日頃から身内の素肌が嫌でも見慣れてしまっている為、然程動揺はしなかった。
「あ、もう皆居る……‼︎」
遅れて来たのはリデアだった。白いビキニを身に着けてパレオよりも豪奢なフィッシュテールスカート状のモノを腰に着けている。スカートはシースルーであり、透けて見える。スカートがある為、直接的な露出度は控えめだがエレガントな印象があった。
「ど、どう、かな?」
「あ、ああ……。凄く似合ってるぞ」
その後、散開して思い思いに遊び始めた。大半の者は海に飛び込んで行き、久しぶりの海である為に泳いでいる。かく言う和奏は、ビーチパラソルの所で寛いでいた。
海では篠鴉がウィキリピアとリィエルに水泳を教えている様子が見えるし、砂浜では蔡歌とリデアがビーチバレーと言う名の夾叉と錯覚しそうなバレーと言う名の何かをしている。
「……ご主人様は海で泳がないの?」
「35徹もかくやだっつーのに、バカンスの時くらい寛がせてくれや、ユリエさんや」
ビーチパラソルの下にビーチチェアで寝転がる和奏の頭上から競泳水着姿のユリエが呆れた様子で覗き込んで来た。小柄な体躯でその水着は割と本気で犯罪臭がするが、口に出さぬが花。
「あー、そう言われると返す言葉も無いわ。ご主人様が1番、大変だしね」
「それに、すぐに面倒事が来るんだからよ」
「? ああ、成程……」
サングラス越しでユリエの後方、ビーチを囲む岩壁の崖上から1人の人間が飛び降り激突寸前で黒いISを展開し着地する光景が見えた。銀色の髪に黒い眼帯が特徴的な人物が一直線に此方は向かって歩いて来る。
どうして何時も面倒事はタップダンスしながらやって来るのか?
「寛いでいる所、済まんな。少し時間をくれないか?」
顔がはっきり見える距離になった時、その人物は口を開いた。
「……何の用だ? ドイツ代表候補生、
「……其処まで知っているのか」
「まぁな、で?ISの訓練とやらをやっているんじゃ無かったのか?」
「くだらん内容だ。あんな連中の相手をしても私に何の益も無い」
——……仮にも軍人。しかもIS特殊部隊……となれば、考えられる事は限られて来るな。
「つまり、相手しろと?」
和奏はサングラスを外してラウラの顔を見る。少なくともコイツは気付いていると鎌を掛けるつもりでそう訊く。
「ああ、私と戦え。お前達は少なからず、IS関連の技術を有しているだろう? IS学園の学園長が交渉を持ちかける以上……普通の企業関連の関係者では無いだろう? 未成年でもIS企業所属と考えるのが妥当だ……」
——……これ以上、拘らわれるのは面倒だ。色々な意味で面倒な上に、後で超忙しくなるんだから今は休ませろや。
「戦うのは得意じゃないんだがなぁ」
「ッ⁉︎ ん、なッ⁉︎」
和奏は指を鳴らした。その直後、ラウラは不恰好な姿勢で砂浜に前のめりで倒れた。
「くっ、な、にを……したッ⁉︎」
和奏は指を鳴らしただけ。それ以外はビーチチェアで寛いでいる姿勢のままである。武装を展開した事も構えた事も何もしていない。その光景にラウラは理解できなかった。
「相手に手の内を解説する必要はあるか?」
「……くく、クハハハ……‼︎ 貴様にとって、私如き……指を鳴らすだけで事足りると言うのかッ‼︎」
——何か唐突に笑い始めたんだけど……頭イッたのか? 割と真面目に理解出来ないんですが?
「教えろ……。貴様は、いいや貴様らは何者だ? 武装を使うまでもない強さ……どうやって身に付けた?」
前のめりになり首だけ動かしてラウラは訊ねる。
「そんな事だろうと思ったわ。ラウラ・ボーデヴィッヒ、いいや
「ッ⁉︎ な、何故をそれを⁉︎」
「貪欲に強さを求める者にとって、IS学園と言うトリカゴは苦痛でしか無いだろう?」
——前例があるんでね。まぁ、本人は気にしていないだろうが……まだ、やっているのか。
その言葉はラウラの出生も含めて知っているぞと同義であった。
「クク……どうやって知ったかは知らんがその通りだ。IS学園の連中は弱い奴ばかりだ、他の国の代表候補生も大した事がない。しかし、私はこの私自身の現状に満足する程、自惚れてはいない」
——ISを力と捉える、か。現在のISがそう捉えられている上でそう考える奴が現れるのは必然だった。……あの
「続けて質問だ。貴様は世界が認知していない男性操縦者か?」
「残念ながらハズレだ。IS技術は今も進歩しているからな。ISコア無しでも簡易版拡張領域なんてモノも発明されつつある」
つまりISに搭乗せずとも拡張領域を使用出来る事を意味している。
「それは初耳だ。だが何故、公表しない?」
「簡単な事だ。その技術は試験段階だからな」
此処は適当に答えておく。仮にも相手は代表候補生、何時の日か露見するだろうが隠せる時は隠しておくに限る。
「クク……今はそう言う事にしておこう。だが、此処まであっさりと負けたのは何時ぶりか」
「……楽しそうだな」
「楽しい? ああ、少佐になり文字通り手も足も出ない敗北……。しかも、指を鳴らされた時点で負けた。……私はまだ強くなれると言う事だからな……‼︎」
——おいおい、返って面倒な奴に目を付けられた気がするな。……これ以上、女装機会が増えるのは勘弁して欲しいんだけど。
1人で勝手に盛り上がっているラウラ。その様子を生温かい目で見ているユリエ。
「……次は腕ぇ゛ッ⁉︎」
ラウラの後頭部にドスりと大型の注射器がブッ刺された。
「……和奏、幾らなんでも呑気過ぎるわ。アンタは
倒れたラウラに注射器を刺したのは篠鴉であった。先程までウィキリピア達の水泳の監督をしていたが、今は砂山で遊んでいる様子が見える。
「……済まん、すっかり忘れていたよ」
「ユリエもユリエで何で止めるなり初手で口封じしないのよ?」
「ご主人様に意見しても聞きやしないでしょ?」
篠鴉に問われやれやれと降参して肩を進めるユリエ。メイド長としてどうかと言う態度だった。
「和奏も和奏よ。外の人間への対応が甘過ぎる‼︎ そんなんじゃ何時の日か付け入る隙を与える事になるわ‼︎ まぁ、日頃から隙だらけな気がするけど」
篠鴉に説教され、否定要素が思い浮かばない為に甘んじて受け入れる他に無い。
「ちょっと聞いて居るの⁉︎」
その後、ラウラは篠鴉の手によって記憶処理された後に遊獄館のエントランスに捨て置かれた。