「はーい、皆さん。本日の訓練『セスルーム』、お疲れ様でした〜」
遊獄館前の広場にて訓練終了後に集合した生徒達の前で真耶は集まった生徒達に聞こえる様に声を発する。
「合格者は……1組のセシリア・オルコットさん、織斑 一夏君。2組の凰 鈴音さん。この3人は無事に自身の腕輪を守り切りました。いやぁ、素晴らしいですね」
鈴音は2組の生徒一同を文字通り正面から叩き潰し代表候補生と言う格の違いを見せつけた。セシリアは太い木の枝の上でずっと待機して隠れていたと言う。狙撃手と言う手前、接近されればどうしようも無いからだ。
そして一夏はシャルロットと共に隠れては移動を繰り返した。最後は危なかったが何とか逃げ切った形となったのだが……。
「1組のラウラ・ボーデヴィッヒさん、四十院 神楽さん、4組の更識 簪さんは不合格です。確かに島全体とは言いましたけど、遊獄館内に潜伏するのは流石にルール違反です」
ラウラは言わずもがな、神楽と簪は時間切れ直前に遊獄館の外に出ようとしたがその時に教師に見つかってルール違反で不合格認定を喰らった。
「そして、シャルル・デュノアさんの腕輪を奪い無事に遊獄館に到達した3組の衣笠 名刀さんは合格です」
そして、名刀は3組の生徒達の協力もあって時間切れ直前に遊獄館に到達、合格した。
「「「……ッ‼︎」」」
それはつまり1学年の一般生徒達の中で唯一、『専用機』を獲得出来るチャンスを手にしたのと同義であった。羨望、嫉妬、怨嗟が織り交ぜられた視線と感情が3組の先頭に立つ名刀の背中に突き刺さって行く。
誰もが欲する専用機、力、名誉、羨望を一度に手にする事が出来る……即ち女尊男卑の象徴と言っても過言では無かった。
「では織斑さん、オルコットさん、凰さんは遊獄館の館内で食事した後、寛いで下さいね」
真耶は先に合格した専用機持ち3人に先に行くように促し、一夏が残ろうとしたが有無を言わせない視線で退け、其の儘、名刀へと向き直る。
「さて……貴方は見事今回の訓練に合格しました。デュノアさんの専用機を示す『腕輪』を持って、です。訓練開始前に説明した通り、貴方にはフランス籍の専用機『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』の交渉権が与えられます」
真耶はフランス政府に専用機受領の交渉権がある事を名刀に説明する。交渉権であって、確定事項ではない。どう言う形で説き伏せ折り合いを付けれるかは個人の話術に委ねられる。
正直な所、一介の学生如きの言葉に乗るような政府は何処に無いだろう。名刀自身、フランス政府を説得出来る自信は無かった。
「……いいえ、交渉権は使いません」
「何故ですか?」
名刀の返答に真耶は理由を問うた。
「……第一に私がフランス政府を説得出来る自信がありません。そもそも専用機を手にしても乗り熟す事が出来る保証も無ければ、専用機を持つに値する
第二に、私には一般家庭出身で後ろ盾がありません。仮にでもそんな人間が誰もが欲しがる専用機を持てば、きっと手放す他に道は無くなる。
そして、最後に……こんな形で専用機を手にしても、私自身が納得出来ない。以上です」
こんな窃盗紛いのやり方で専用機を持ったとしても誇らしくない。
「……成程、分かりました。貴方の意志を尊重しましょう」
名刀の交渉権破棄の申し出を真耶は素直に受け止めた。後方からはその対応にあり得ないなど、騒めきを見せる。本来ならば、欲しいと思う筈なのにこんな返答はあり得ないと考える生徒の方が多い事だろう。
「貴方は合格しましたので遊獄館へと向かって下さい。合格者の権利ですので」
「…………分かりました」
「連絡事項として、明日はもう帰るだけですので、忘れ物が無いように。それでは、一同、解散‼︎」
その後、新たに不合格となった生徒達は新規のテントを受け取って各自、組み立てて行く。あーだこーだと文句を垂れながらも作業を進めていく生徒達。初日合格者の荷物等は遊獄館内にあるのだが、後で取りにくる様に言われた。着替えが其方にあるからだ。
「……最後の最後で見つかってしまいましたね」
「うん、ちょっと残念……」
「しかし、それよりも貴方のクラスの方達の視線が厳しいですわね」
「…………」
神楽と簪は同じテントを組み立てていた。そして、視界の隅には恨めしい視線を突き付けて来る4組の生徒達が見え隠れしている。セスルームで専用機を強奪しようと算段を立てていたのだが、簪本人は遊獄館に隠れていた為に手出し出来ずチャンスを振ったのだ。
「……関係回復は難しい」
「でしょうね……。流石にこの状況では形勢不利なのは否めませんわ」
今回の臨島学校の件で4組内で簪対それ以外と言う対立構造が出来上がってしまった。正直な所、逆恨みも良い所ではあるのだが……元々、内向的な簪にとっては色々と面倒な環境となりつつあった。
「………………」
「やはり、あのお誘いをお受けするのですか?」
「…………」
ユリエから受け取った件の内容。後ろめたい理由も重なる。しかし、逃げる事が悪い事では無い事を既に知っている。
「私は止めはしませんわ。貴方自身の未来ですので……」
当然、簪の人生、その事に関しては自分で決めるべきなので神楽は其処の点に口は挟まない。同意するのならば代表候補生としての地位も更識家も捨てなければならない。
——ただ、あの資料……暗号が隠されていた。普通じゃ気付かない……私のISのハイパーセンサーで通すと浮かび上がる文字……。
「……その時はどうするの?」
「フフ、野暮な事はお聞きになさらず。道は1つだけではありませんわ」
「……?」
——ストラトス・デザイアは四十院財閥と繋がりがある……。何かしら伝があるのかも知れない……。
この時点で簪の答えはもう……決まっていた。
翌日、臨島学校最終日。この日は訓練は無く帰るだけとなっていた。組み立てたテント等は片付けなくても良いとの事でIS学園の生徒達は乗ってきたフェリーに乗り込み、この島を後にした。各クラスの生徒達の関係が悪化するだけ悪化した臨島学校。亀裂入った関係はもう、元には戻らない……。
臨島学校の翌日は土曜日であり、尚且つ月末であった。7月始めにはIS学園にとって大切な期末考査も控えている中、教師である真耶は『裏の仕事』がまだ残っていた。
「ふぅ……3名とシャルロット・デュノアさんが放学処分、と。しかし、意外でしたね。まさかシャルロット・デュノアさんを譲受したのが『ストラトス・デザイア』其の物とは……」
6月時点で成績最下位3名の元生徒(2組、5組、8組各1人)は事前の契約通りフランス籍の企業や個人が優先価格で落札した。
シャルロット・デュノアは訓練不合格であった為に予定通りオークションに掛けられる筈だったがリーリスが引き取った。特に問題は発生しなかった為に、其の儘恙無く話は進み取引は締結した。翌日にはフランスへ急遽帰国と言う形で生徒達に通達されるであろう。
「……まぁ、あの人達にも思惑があるのでしょうね。さて……2学期もまた
「学園長もまたトンデモない事を考えたモノです。2学期丸々使っての
学年留学。
数人程度が他の学校に赴く交換留学とは違い、1学年生、丸々留学させると言う常軌を逸したぶっ飛んだ内容。
期間は9月から12月半ばと言う俗に言う2学期の期間。
その期間は留学先の環境で実力向上を目指す……と言う名目だ。そして気になる留学先は。
「五稜監獄学院。IS学園以外で唯一、IS技術が関与している私立学校……」
立地、生徒、技術含めその全容は不明。その一言に尽きた。
「ちょお⁉︎ ガイア様、ソレは初耳‼︎ こうも立て続けに無茶振りは止めてくださいってば‼︎」