誰もが期末試験に追われる中、生徒会長である楯無はその期間中でも生徒会長としての仕事は終わる事が無い。色々な意味で今年はイレギュラーだらけなのだ。退院後でも休める暇は然程、多くは無い。
「会長、頼まれていた資料の用意が出来ました」
楯無はクラス代表対抗トーナメント時の襲撃者による負傷で入院している間に従者である虚に懸念事項の調査を命令していた。
何分、10年も前の……然も司法に関する内容。然も諸外国の司法に踏み入る内容だった。当然ながら相応に危ない橋を渡る事になったが、無事やり遂げた。
「どうだった?」
生徒会室に入室して来た虚が生徒会長席に座る楯無に資料を手渡す。内容は10年前かつ未成年で死刑執行された者達のリストであった。
「はい。個人的な感想を述べさせて頂ければ、多い、かと」
死刑執行された理由としての罪状も様々。大量殺戮を始め、医療テロや薬物テロ、政府へのクラッカー、残虐性の高い殺人……etc。どれもコレもが笑い話で済む内容では無いモノばかり並んでいる正に殺人鬼の名簿。
中には10歳未満の女児も含まれていた事は余りにも異常だ。
「一応、比較として9年前から8年前の死刑執行されたケースも合わせて調べて置きましたがやはり……多いですね」
「……確かに未成年で執行って話もかなり過激よね。普通なら有期懲役とかになると思うし……8、9年前と言えば女尊男卑思想や女性権利団体が誕生しての時期よね」
——中学生の年齢で死刑執行は普通はあり得ない。いえ、そもそもその年齢で此処までの残虐性のある犯罪に走った理由は一体……?
「凶悪犯罪者の遺伝子を何らかの形で採取して、培養しクローン人間として産み出したと考えるのが自然かも知れませんね」
凶悪犯罪者は良くも悪くも一芸に秀でている事が多いと言える。差はあれど主に『殺し』の技術において、である。
「……全く持って笑えない冗談よ、虚ちゃん。ISを操縦する上でIS適性は大前提……。そして、あれば有利なのは戦闘センス……」
武装、道具の扱い方、理解力、そして使い方。極論で言い切ってしまえば相手を殺すやり方のセンス。
元は
「仮にもそれが真実と仮定した場合。その者達が第三勢力、テロリストの類だと尚更、脅威よ……‼︎」
生身でISのシールドバリアを破壊する膂力。異常な電力に耐えられる頑強な特異体質。試合や競技と言う枠組みから外れた戦略級の機体の存在は頭痛の種だ。
それに元は殺人鬼の人格ならば殺人に一切躊躇いが無いであろう事は容易に想像出来る。
「もしかしたら今この瞬間にも新たな殺人鬼のクローンが生成されているのかも知れませんね……」
「怖い事言わないで頂戴……。頭のネジが外れた相手ってのは厄介其の物よ。何してくるか分かったモンじゃないわ……‼︎」
「……あの襲撃事件は試験的なモノだったのかも知れませんね。機体性能やIS学園の防衛力の調査目的……」
「防衛ラインをボロボロにしておいて試験的だなんてとんだ屈辱よ。……まぁ、実際問題ガタガタになってしまっているのも否定は出来ないわ。
此方の件は一先ず置いておいて……2学期の件ね」
「はい。1年生を対象にした『学年留学』の件ですね」
議題は次の話題。1年生の2学期丸ごと使って行われる『学年留学』の一件であった。此方も此方で厄介案件であると楯無は見ていた。
IS学園の学園長が留学先の五稜学院の学院長の間で締結された大規模留学だ。
「『五稜学院』を調べてみましたが……何処にも情報はありませんでした。規模、立地、そして内部構成や些細な情報に至るまで全てです」
情報源はIS学園の学園長からのみ。そして、自分達が知っている内容も学園長から知らされた内容に留まっている。
「……私の方でも調べては見たけれど、本当に何の情報も掴めなかったわ。学園長はどうやって知ったのかしら……?」
判明している情報を簡潔すればIS学園以外のISに関連する特殊学校と位置付ける事が出来る。私立の為かIS学園以上に秘匿性が高くほぼ全ての情報が遮断されている。
「IS関連ですから操縦者育成に力を入れていると予想は出来ますが……確定情報が少な過ぎる為にやはり憶測の域を出ません」
「よね。それに、IS学園の現在の防衛力問題もあるわ……」
戦闘教員は半数が殉職した。募集を掛けてはいるのだが、一定以上の実力があって教員免許のある人物は更に少ない。それに楯無自身の専用機の修理もまだ終わっていない。一応、夏休み期間中に終わる目処は立っているのだが。
「……男性操縦者を留学先に行かせるのもそれはそれで安全面での問題があると思われます」
「かと言ってIS学園自体の防衛力はガタ落ちしている状態……。専用機持ちは1年生に集中している中、ゴッソリ抜けた状況だと第三者及びテロリストに付け入る隙を与える事になるわ。
前回と同じクラスの襲撃者が現れないとは限らないわ……‼︎」
生身でISを圧倒する敵。
IS不敗神話が叫ばれる中でその存在は正に脅威だ。
「……学園上層部は2学期の期間中は政府の監視下で保護するべきと言う意見も出ているのですが、織斑先生は本人の意思を確認した所、本人も行くつもりみたいです」
「孤立するよりも他の専用機持ちと同居した方が安全かも知れないわ」
「ただ、男性操縦者と周りの専用機持ちは事あるごとに何かしらの問題もといトラブルを起こしています。主にISの無断使用による破壊活動……」
IS学園ならば千冬の鉄拳制裁で済まされるが仮にも留学先で破壊活動されてはIS学園の信用問題にも関わりかねない。もう高校生の年齢、そろそろ責任を感じねばならない年頃である。
「……留学先でそんな真似されちゃ困るわよね」
その言葉に楯無は頭を抱える。痴情の絡れで壁やら壁やらを破壊している、呆れる他しか無いのだが……他所でそんな真似されては後々、大問題に発展しかねない。
「一応、織斑先生は厳重注意の喚起をしてくれていますが……万が一の場合は本人達に責任を取らせるつもりのようです。仮にも専用機持ちで代表候補生ですからね」
IS学園に被害が及ばない様に当事者で終わらせる。学園内ならば兎も角、他所の場合だと厄介案件だ。その辺が落とし所になるだろう。
「……相手の五稜学院側の対応は不透明。五稜学院の生徒達が女尊男卑思想となれば危険ね……。男性操縦者の護衛は」
「はい……。本音に頼る他ありませんね」
楯無はIS学園の生徒会長。本音を言えば無理にでも同行したいのだが、男性操縦者以外にも狙われる要素がある為に学園最強である楯無はIS学園を長期的に離れる訳にはいかない。
「本音に対して不安要素しかありませんが……他に手はありません」
「……もどかしいわね。動きたくても動けないって言うのは……‼︎」