※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活 第2部   作:エスカルゴ・スカーレット

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さらば

「……あれ?」

 

 俺以外の者、つまり全ての天使が俺の目の前から一瞬で消えた。消える前のリエの発言から察するにシエルかルビーの能力なのだろう。

 そして、どうして俺だけが置いていかれたのか。悪魔は天界になど呼べない、リエはそう判断したと考えるのが自然か。

 サリエルは連行前にミカに手だけ拘束されていたので、サリエルのフィジカルでは、少し危険な気がする。殺されはしないはず。恐らくは、神によって正式に堕天使として追放されたりするのだろうが。

 

「こりゃ……早く助けに行った方がいい……のか?」

 

 サリエルは以前、天使である事に誇りがあるとも発言していた。ならば、堕天使になってしまうのはそれに反するのかもしれない。

 しかし彼女は頭がいい。ノコノコついていけば、そうなる事は読めていたはず。サリエルにも、何か思惑はありそうだ。死を司る彼女はその気になれば不老不死者すらも殺せるそうなので、有り得なくはないだろう。

 それに加えて、俺には、いや俺達(・・)にはある計画(・・・・)がある。今、俺の判断で動くワケにはいかない。

 するとその時、背後にスキマが開かれて、霊夢、魔理沙、遅れて紫さんが現れた。

 

「よう。3人一緒とは、仲良しだねぇ」

 

「『よう』じゃないわよ!なにまんまとサリエルを攫われてんのよ!」

 

「いや、母さんが望んだ事だ。今回のトラブルは、サリエルが原因。だからこれは、サリエルに決着をつけさせるべきだ────って言ってサ」

 

「え。あの(・・)神綺が……?」

 

「……エスカルゴ。確認だけれど、これは、幻想郷に無関係の問題なのね?」

 

「ええ。全くの無関係でしたよ」

 

「なら、どうしてエデン異世界調査隊(アイツら)は、幻想郷に侵入してきたんだ?」

 

「サリエルと行動を共にしていた俺達が、幻想郷と行き来したり……幻想郷に帰っていったから。けど、あの時サリエルは最後、宇宙から直帰(・・)したんだよ」

 

「ふむ。だからサリエルの行方を追う事ができず、サリエルと繋がりがあると思われる幻想郷の勢力と接触を図る為、ゼウスが侵入したのと共に幻想郷に侵入した、と。そういう事か?」

 

「恐らくそうらしい。けど、この侵入経路と経緯、どうも俺や巫月の使う『スキマ』を使いたいときと似てるんだよ」

 

「というと?」

 

「俺や巫月のスキマは、本人が知ってる、若しくは実際に行った事のある世界にしか繋げないんだよ。俺は、今でこそ《異世界へ行く程度の能力》があるお陰で、スキマに頼らずに移動できるんだけどさ。少し前まで『知らない所』には行けなかったんだ」

 

「……つまり、アレか?エデン異世界調査隊(アイツら)の中に、

『実際にその世界を知らないと、もしくは、行った事がないと侵入できない』みたいな能力の持ち主が居る……ということなのか?」

 

「そう。そうやって増援2人を呼んだんだろうな。そうじゃないとわざわざ最初にゼウスの侵入を利用するようなタイミングで侵入してくる理由が無い」

 

 シエルは増援2人を呼んでいない。つまりリエかミカのどちらかがそういった能力を持っていると考えるのが自然だが────恐らくそれは違う。

 リエの口振りから察するに、その能力を持つのはシエルとルビーの2人。ならどうやって増援として駆け付けたハズのルビーが侵入できたかというと、リエとテシフォーンか何かで連絡を取り合う事で、幻想郷の存在を知らせたのだろう。

 だからルビーの能力で増援を寄越す事ができた。

 つまり────これ以上の侵入を防ぐにはシエルだけではなく……ルビーを処理する(・・・・・・・・)必要がある(・・・・・)。

 ただしルビーはケルビムで……ケルビムは智天使。という事は、この予想が正しければ────!!

 

「そもそも、知らない所にまで直に行けるのなら、捜索する意味すらも無いもの。幻想郷でサリエルやサリエルを知ってる者を探していたという事実は、

『知らない所には行けない』という、能力の欠陥の証明にもなっているのよ」

 

「言われてみりゃそうか……うーむ」

 

 紫さんの補足を聞き、成程と素直に頷く。確かにそうでなければ、直に幻想郷に来るどころか、直にサリエルの元に行けるのだ。幻想郷に来るという、ワンクッション置く必要がそもそも無い。だから、そうする必要があったのだという事は、逆説的に、そうするしかなかったとも言える。

 

「……じゃあ、エスカルゴはもうお役御免?」

 

「そうね、依頼した私としては、だけれど。でも、エスカルゴとしてはどうなのかしら?」

 

「まだ……やる事は、あります」

 

「はぁ?何よそれ?」

 

「そいつはちょっと言えない、かなぁ……へへっ」

 

 霊夢はジト目で睨んでくる。魔理沙は何やら頭で考えているようで、口元に手を当ててみたり天井を睨んでみたり、はたまたステップを踏みながら床を見つめてみたり。

 そして紫さんは────。

 

「あなたが何をしようと、私としては特に咎めないつもりよ。だけど、幻想郷に害を与えるのなら別。エスカルゴ。あなたのその『やる事』とは────幻想郷に害を与えうる(・・・・)行為ではないでしょうね?」

 

「……」

 

「……エスカルゴ?アンタ、まさかね……?」

 

「お前なら……大丈夫だろ?」

 

 今の紫さんは俺の彼女ではなく、明確に幻想郷の賢者としての立場で接してきている。その眼差しに思わずプルリと肩が震える。霊夢も魔理沙も、その視線に気付いているからか、どこか声が震えているようにも聞こえた。

 

「……ああ。ゼウスの件で学んださ。まして今回は、前と違って、へカーティアと組んでソレ(・・)をやるワケじゃないから────知恵熱が出そうな程、悩みに悩みまくっての結論さ」

 

「ならいいけど……1つ言いたい事があるとすれば、知恵熱ってそういうモンじゃないわよ」

 

「ンなもん知ってるわいッ!!」

 

 

 ◆

 

 

 その頃、楽園・エデンの園ではサリエルの神判が行われていた────。

 神の横にガブリエル、ミカエル、シャムシエル、ケルビム、アルミサエルが控えているようだった。

 

「ザラキエルと融合せし『死の天使』サリエル……。ようやっと、直接、相見える事が出来た。融合した理由を……聞かせてはくれまいか」

 

「ザラキエルとの融合、それに伴う、司る『死』の権能の譲渡、及び強化────。そのいずれもが、ザラキエル本人の意志によるもの」

 

「!?」

 

「彼女は病んでいた。己が司る力で、周囲からは、穢れた天使と扱われていたから」

 

「……穢れとは『生』があるが故に生まれるものだ。

『生』なくして『死』は生まれぬ。故に『穢れ』は

『死』と同義だ。『死の天使』が『穢れの天使』と扱われるのは至極当然の事である」

 

「……」

 

「そこに異論はあるかね?死の天使、サリエルよ」

 

「死とは即ち穢れ、そこに理解は示します。しかしそれを司るからと彼女を差別する謂れはないかと。あなた方も死を恐れはするでしょう。寧ろ、そんな彼女を大事にするべきだった。……違いますか?」

 

「死を……恐れる?誰がだと?我々が、か?」

 

「ええ」

 

「ハッ。ハッハハハ……ハハハハハッ!!面白い事を言う!神は恐れぬ!神に恐れるものなど存在せぬ!不敬なるその口、如何にして塞いでやろうか……」

 

「恐れぬ……ですか。それは申し訳ない事を…………。では、差し出がましいとは思いますが────私をザラキエルの代わりとして、天界にて、未来永劫、働かせてみては?」

 

「……は?」

 

「労働、それこそが償いと言えましょう。私なら、差別にも屈しません。……見れば、天界から『死』が失われたせいで、物事の循環が滞っているようにも見えますが?」

 

 死とは必ずしも悪い事では無い。次に向かう為の1つの手段でもある。次の世代への交代、そして、循環。ザラキエルもサリエルもそれを司っている。

 死を忌避するという事は即ち循環を遠ざける事。やがて停滞した物事は腐敗し、死なぬままに朽ちてゆくのみだ────サリエルはそう考えている。

 

「物事の滞り、大いに結構。神は不変、不変こそが神だ。『死』などというものは、下界の弱き種族の者共で勝手に共有しておればよい!」

 

「……」

 

「死の天使サリエル、そして内包するザラキエル!貴様らを正式に下界に追放とする!二度と、楽園にその穢らわしい足を踏み入れるなよ!」

 

「追放、ですか。堕天使にすると」

 

「そうだ。死の堕天使サリエルよ」

 

「『死』を追い出すとは、おやおや。天界における最高権力者の『神』も、『死』だけは恐れていると見えますね。ふふっ、可笑しいですわ」

 

「なんだと……!?」

 

 クスクスと、心底可笑しいと言うように、口元に手を当ててサリエルは笑う。それを見て神も天使も眉間に皺を寄せ、あからさまに不快感を露わにしたというのは言うまでもない。

 

「神よ。あなたが見下している人間────彼らは死を恐れたりなどしませんよ」

 

「!?」

 

「私は知っている。ただの人間や、下賎な悪魔すら死を恐れずに立ち向かえると。死を司るこの私に。死を恐れ、追放などという脅ししか使えぬ神とは、まるで違いますね。……どちらが『弱き種族』なのやら」

 

「き、貴様ァッ!神を愚弄するかッ!!」

 

「まぁ尤も、その人間も悪魔も『不老不死』の者達だったので、死は恐れているんでしょうけどもね。ですが更に過去には────真の意味で死を恐れぬ人間がいた。不老不死などではない存在であるにも関わらず……一歩間違えれば死ぬとも理解しながら、死を司る、この私に立ち向かってきたのですよ」

 

「────バカな。そんな人間がこの世に……」

 

「もう、とうに死んでいますがね。ですが、そんな者を知っている私からすれば────神よ。そして天使達よ。あなた方の方が、よっぽど『弱き種族』ですよ」

 

 神の怒りはとうとう頂点に達するところだった。

 エデン異世界調査隊の天使は、これまでに多くの世界を見てきた経験があるので、サリエルの言葉も尤もかも……と、心の中では理解を示していた。

 しかし問題は、他の天使だった。

 

「貴様、穢れた天使のクセに!」

 

「よくもそんな不敬な……!」

 

「恥を知りなさいッ!神を愚弄するなどとはッ!!下界で心を真っ直ぐにして来るのですねッ!!」

 

「いやもう戻ってこないから……」

 

 神よりも圧倒的な数を誇る「天使」。サリエルはこれらの罵詈雑言を受けて、かつての異世界の友、ザラキエルがどのような心で日々を過ごしていたかほんの少しだけ察する事ができた。

 そして神は、額にピクピクと青筋を立てながら、

「静粛に」と、手を上げることで示す。

 

「……追放前に、何か言い遺すことはあるか?」

 

「そう、ですね……。私は魔界生まれ魔界育ちの天使ですので、私にとっては友人が住んでいただけの、腐りに腐り切った天界などを追放されようと、心底どうでもよいことなのですけれど……」

 

「…………」

 

「……さっさと死ね(滅びれ)ばいいのに、と思いますね」

 

「なにィ!?」

 

「今です、シエルさん」

 

「はいは〜い☆」

 

 サリエルはシエルに合図を送った。直後、神判の場には悪魔、堕天使の一団が現れた────!!




サリエルの言う「真に死を恐れぬ人間」とは、旧作主人公の博麗靈夢の事ですね。
前作からお読みの方にとってはくどい解説になると思いますが、俺の作品内では靈夢と霊夢は別人設定ですし、旧作(怪綺談)〜原作(紅魔郷)の間に時代も進んでいるので。
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