「────そんじゃあ……まぁ……そろそろ始めるとしようか。……領域展開『
ホイミスライムを模した印を両手で結ぶ。領域に付与されている必中魔法は治癒魔法。今回は、俺が戦闘に参加しないので、既に俺の治癒魔法が領域に付与されている。その為、この領域内の者は決して死なない。
この領域内を戦闘区域と定め、戦闘してもらう。
また、この領域の副次効果として──ある効果が2つ程度、予め用意してある。
「これまでと違って、月光をはじめ、あらゆる光は透過するように設定してある。好きに戦うといい」
所謂「結界で閉じない領域展開」だ。まぁ、俺の魔法が適用される範囲を指定するだけだ、元ネタと違ってかなり難易度は低い。そして、領域の範囲を指定する為に、雷を地面に落として、その焦げ目で線を引いた。これで、見ればわかる状態なハズ。
「……頑張ってくれ、
とんでもない人数差の今回の「大戦争」。やはり簡単には見過ごす事のできない差だ。巫月、霊愛、穹、弦月姫、霊麗、レイチェル。人数で考えるならこの6人で打ち止めだろうに、幻想チルドレンは、更に人数で差をつけているのだ。
上記の6人に加えて更に、ここあ、シガレット、魅玖、阿弥、姫、真宵。ここで、既に2倍である。それなのに更に霊子、デビリサエル、神愛、妖舞、霊魔、虔魔、駆翔の追い打ち。凄まじい。
それに対し、霊幻チルドレンはたったの6人だ。マリン、ベル、セツ、マコ、ミコ、ハナ。
お分かりだろうか。19vs6だ。普通に考えれば、幻想チルドレンが負けるハズが無い戦いと言える。しかし相手は、身内だろうと殺し合いに躊躇が無い不死の悪魔の集団だ。精神的な面で見れば、極めて分が悪いと言える。
「…………始めッッ!」
俺の合図にて、子供達は一斉に動き出した。
そして
「……チッ。防がれたかよ」
「危ない、危ない……。時間停止に反応できたから、どうにかなったものの……」
「フフ。どうやら、防がれたのは妖舞お兄様の初撃のみのようですね。僕やお姉様、霊魔お兄様は既に敵の首を取っていますよ」
試合開始の直後──時間が止まるより速く動いた者が、1人……否、2人居た。
それが妖舞、そしてベルだ。
妖舞は弦月姫が時間を止める前に、敵の中で最も強いであろうベルを討ち取ろうと、瞬間的に距離を詰めていた。
しかし彼の刃がベルの首に滑り込む前に弦月姫が時間を停止させ──妖舞の動きは停止。これ幸いとばかりに、時間停止が通用しないベルは妖舞へ反撃しようとするも、
時間が動き出すのを知覚したベルは、妖舞の方が速いからと、反撃ではなく防御へと行動を変更し、彼の刃を防いだのだった。
虔魔はハナ、霊魔はミコの首を刎ね、それぞれが敵を討ち取っていた。
「……やっぱ虔魔は幼い子を殺すんだ」
「勘違いをしないでください。お姉様があの悪魔のシスターを狙ったから、僕は次に近いこの犬耳のを狙う事にしたのです。お兄様こそ、巫女服の少女を殺して……心は痛まないのですか?」
「巫女服が何?
「……」
なんて会話をしていると、それぞれが手に持った生首がボシュンと爆発するように消えてしまった。すると地面に倒れ伏していた血だらけの胴体から、ジュルンッと血の飛沫を上げながら頭が再生する。
「痛いですわね……全くもう、
「やめてください。悪魔のクセに神に仕えるような者の格好をする、恥知らずの妹なんか知りません」
「……あのー、弦月姫お姉様。それって霊愛お姉様と霊麗お姉様にまでブッ刺さってません?」
「ブフッ」
虔魔の冷静なツッコミに霊魔は吹き出した。だが発言者である弦月姫はそうもいかない。しまったと自覚するも時既に遅し。
眼下で待ち受ける霊麗は苦笑いを、一方の霊愛はわざとらしいまでの満面の笑みを貼り付けている。
「あっ!?ちちちっ違いますからね、お姉様っ!!虔魔はこんなバカみたいなことを言ってますけど!私はそんなこと思ってませんからっ!!」
「「霊符『夢想封印』ッッ!!」」
「きゃあああぁぁ〜ッッ!?」
姉妹の夢想封印が弦月姫を目掛けて飛ぶ。あわや仲間割れかと思いきや────。
「ぴゃッ!?……あうぅっ、中々効きますね……!」
「!?……あ、危ない……」
2人の夢想封印は──弦月姫の背後に迫っていたセツの顔面にブチ当たる。実際の所2人は弦月姫の発言など何とも思っていない。ただ、今にもセツに手刀で首を攻撃されそうだった弦月姫がマヌケで、思わず苦笑い、または笑ってしまっていたのだ。
「弦月姫!どーでもいいこと考える前に戦いなッ!人数で勝ってると思ってるとヨユーで負けるよ!!親も宿泊ローテも紅魔館も、何も守れないよ!!」
「……!」
「自覚しな!私達は今、自分や親を守る為にここに来てるんだッ!!生半可な思いでここに居るんならあんたは幻想郷イチの親不孝者だよッ!!」
「っ、はいっ!!」
そう声を張り上げ、妹を叱咤激励し戦闘に戻る。マコ達を殺した妖舞達も、再生から既に最低二度は瞬殺しているものの、何食わぬ顔で復活する3人を見て、殺り方を変えなくてはと、一旦引いて、思案している。
◆
「幻想チルドレンの最強は、あなただそうですね。巫月お姉様?」
「そーだよー。えっと、あなたはベルだっけ?相当魔法使い込んでるんだね、魔力の塊としか思えないレベルで魔力の気配が濃いけど」
「ええ。恐らくは魔法に関してのみで言うなら既にチルドレン最強だろうと思っていますよ」
「じゃあ……私より、まずは、幻想チルドレン最強の魔法使い達と戦ってみたら?」
「……!居るのですか?私に匹敵しそうな者が?」
「ふふ、あんまり舐めてると痛い目に遭うかもよ。さぁ──おいで、レイチェル!霊子!」
全てのチルドレンの頂点に立つ長女の呼び掛けに応じ、厨二病に開眼したレイチェル、魔法訓練中の霊子が参戦。2人の有する膨大な魔力を肌で感じ、ベルは身震いするのを感じていた。
「……美しき月夜に目覚めるは、そう、私ッ!紅魔の火炎使い・レイチェル!無様な姿を晒す前に、潔く自ら負けを認めるがいいわ!」
「ふふ、厨二病にお目覚めのようで……」
「厨二病じゃない、ただの事実よ。『
ピクリとベルの眉が動く。魔力量も魔法の練度も普通に見るならベルの方が上だ。レイチェルは別にベルほどの魔力量も無いし、ベルほどの練度があるようにも見えない。
舐めているワケではない、ただ事実としてベルがそう認識している。そうとしか認識できない──と表現した方が正しいかもしれない。
「面白い『
「やってやるわ!霊子は下がっていなさい!ここはお姉様の出番だからっ!」
「あ、うん。敵の技、できるだけ引き出してね」
「私が負ける前提で考えないでっ!──いくわよ!覚悟なさい!
「勃起薬の成分みたいな名前ですね」
「ワケの分からない事は言わない事ねっ!!」
レイチェルの放つ魔法の炎がベルを包み込む──しかしベルは何食わぬ顔だ。熱がる様子も無いし、ダメージを受ける様子も無い。
「……あ、あれ?もしかして、あなたも創造神とかの力を借りて弱点を消してるって言うの!?」
「いえ?そもそも私、ただの悪魔ですし。吸血鬼と違って、そんなに弱点らしい弱点も無いかなぁ、と思いますが……」
「悪魔なのっ!?吸血鬼かと思ったっ!!ガッツリ吸血鬼の見た目じゃん!お父様とモルモーの子供で悪魔ってどういう事かわかんないけどまぁいいか!んじゃあ、悪魔なら意味無いよねェ……チェッ!」
(楽観的ですね……もし殺したら泣き喚きそう……。というより、今の発言からすると────)
身を焼かれながらもある事を察したベル。するとレイチェルが魔法を解除する直前に、とある魔法を発動させる。
「『
「?」
「──ふふ。その魔法、
「ッ……!?」
「魔火『亜銀忍』────で、合っていますかね?レイチェルお姉様」
レイチェルに手をかざす。すると、途端に彼女の全身から炎が吹き出す。
「きゃあああああぁぁああぁぁっ……ああああっ!?痛い……痛いィ……ッッ!!全身がっ、あ゙ぁっ!!」
「まぁ……なんてことない、普通の『敵の弱点属性を突く魔法の炎』ですね。だから『亜』『銀』、と。
「グクッ、こ、このォォォ……ッ!!勝手に解析して良い気になってるんじゃあない!これでも喰らえ!燃え尽きろ!魔弾『ファイアボール』ッッ!!!」
名前に反し、最上級魔法レベルの超巨大な火球を放つ。その輪郭は高温が故に揺らめき、パッと見、小さな太陽だ。それを放ったレイチェルは出力限界近くまで魔力を放出し、その火球に込めていた。
「────『
「…………っ!?」
自分より出力の低い魔法を問答無用で破壊する、ベルの魔法。レイチェルの火球は轟音と共に破裂。その余波は極めて凄まじいもので、レイチェルへとやり返したベルの魔法がレイチェルから剥がれる程の爆風だった。
「そんな……」
「これで終わりです。これだけで折れてくれたら、助かるんですけど。早めにリタイアしてください。
『
「?……────ゲプッ」
突如、口元から血が溢れ出すレイチェル。霊子が声を掛ける間すら無く、全身から力が抜けた彼女の身体は地面へ墜落していった。
「……お前……レイチェルお姉ちゃんに何をした?」
「端的に言いますと、臓器を破壊したんです。私の今の魔法は破壊魔法の1つでしてね。任意のモノを好きに破壊できるんです。例えば────」
もう一度、同じ魔法を行使する。ただし今回は、例として見せるだけなので、霊子に直接的な危害を加える物ではなく……。
「うわっ!?……わ、わっ!?」
「ふふっ、どうですか、意図せず身体が舞い上がる感覚。今回はただのデモンストレーションですから
『
『重力』とあまり範囲を広げて設定してしまうと、同胞にも迷惑を掛けますから────おや」
身体が浮く感覚に適応した霊子は元いた位置へと舞い戻る。父親やサンズ、姫という重力を操る者が身近に居るからこその適応力だ。
「成程ね。こうして空中に留まる間、通常は重力と同等の浮力を働かせてる。でも重力を消しちゃえば浮力のみになって──どこまでも空に落ちていく!でもまぁ無重力だってんなら余計な事はしなければそれで済むんだけど……おっと、重力が戻ったね」
「ええ。概念は完全に破壊できなくって。たったの数秒で元に戻ってしまうんです」
「ふぅん……?」
大抵は「なんだ数秒だけか」と鼻で笑うだろう。恐らくは妖舞、そして霊愛や霊魔でさえ一瞬はそう考えるだろう。しかし気付きを得た霊愛達や、巫月なんかの、明確に「強者」に分類される者は違う。
そう、まさに霊子もまた「強者」である。
「一瞬でも気ィ逸らされるのは厄介だなぁ」
「ッ!」
「なら『どうしてこんな手をデモンストレーションとして見せたのか?』って感じだけど。もしこれを初見殺しとして使うと、一度目はきっと、初見だし超絶大きな隙を作れるよね。でも、二度目からは、ガチで警戒されまくる。きっと隙は少なくなるね」
「…………」
「でも、こうして『敢えて手札を見せておく』事で私はそれを警戒せざるを得なくなる。隙は、きっと段々と少なくなる。──だけど、警戒心ってのは、そう長く続くものじゃない。いずれ必ず綻びが出るだろう──と、あんたはそれを狙ってるってワケ。だから、一度だけの超絶初見殺しを捨て、長期的な目で、私の隙を作りに来たんだろうねェ。それも、一度だけじゃなく、何度でも作るつもりだ」
「………………ご名答です。模範解答ですね。もし仮にこの戦いが、一度殺せばそれで済む戦いであれば。私はきっと、一度きりの初見殺しを有効に活用したでしょう」
「だろーね。敢えて長期的な作戦に出たのは今回の戦いの『ルール』が、長期戦を前提にしてるから。警戒させた方が、敵の精神を削れるからね」
「……そこまで見抜いていたとは思いませんでした」
「別に私が
「?」
「つくづくヤんなるよ、
「!!!」
この戦いに限り、表を司る神・摩多羅阿弥は幻想チルドレン全員を「加護」している。
父エスカルゴがそうであるように「加護」を付与された者はその能力を使える────が、子供達にそこまでの器用な事をこなせる者は少ない。そして集中力も切れてしまいかねない。
だから霊子は考えた。
自分が阿弥の力を使うのではなく──阿弥の声を聞けるようにすればいいと。
要は、父エスカルゴが普段、神々と思念で会話をしているのを、自分達もやろうと提案した。
そうやってベルの本音を探り出した阿弥はそれを霊子に伝えるのだ。
「っ、なる、ほど……協力プレイですね」
「そ。そっちは単独プレイが主みたいだけどねー。こっちはチーム戦とかもよくやってんのよ。
「…………」
「昔はさ、自分は1人ぼっちだって思ってた。でも1人じゃないって思い知らされるコトがあってね。だから、協力プレイも悪くないって思い始めてる」
「協力プレイ──ね。笑わせますねぇ、レイチェルお姉様を見放しておいて……」
「そりゃあ、見放しもするってもんだよ。
「!?」
「……ヤッちゃえ、レイチェルおねーちゃん♡」
「しまっ……!?」
「これで終わりよ。一度だろうとも、この私に血を吐かせ、膝を地に着かせ、苦しみから逃れる為とは言えど自殺にまで導いたことを、地獄の業火に身を焦がされながら後悔するといい。さよなら。後悔をしたところで、もう遅い。神による救いなど、期待するな。──『無敵確率操作論〜一蓮托生〜』」
レイチェルの有する「最凶最悪」のラストワードシリーズの1つが、ベルに炸裂。
これにより、1つの条件を除き、霊幻チルドレン最強であるベルの敗北が100%、確定してしまったのであった……。