「はぁッ、はぁッ……なんッて魔力の密度だ……!!紅魔館で何が起きてやがる……!?」
魔法の森にて生活している「普通の魔法使い」、霧雨魔理沙。紅魔館方面からただならぬ魔力を感じ急遽家を出て紅魔館へ急行する。
紅魔館でのチルドレンのぶつかり合いは、もはや恒例行事に等しかった。感じ慣れた魔力しかない、そのハズだった。
しかし、この夜に感じられたのは、いつも感じるチルドレンの妖気や魔力を数倍に濃縮したような、そんな凄まじいものだった。
悪寒が止まらない彼女は、原因を究明する為にも現場であろう紅魔館へと急行したのだった。
◆
「あ、魔理沙。どうしたの?あんたもエスカルゴに呼ばれたの?」
「はぁっ、はぁっ……別に、そーゆー訳じゃあない、んだが……はあ、なんだよ、この
「あぁ……。アテられたのね。幻想郷のチルドレンと霊幻世界のチルドレンが殺し合いしてるから、その魔力とかが方々に影響を及ぼしてるのかも」
「はぁ、霊幻世界のヤツらが────は?」
「?」
「ころ……え?なん、え、なに……?」
「別に死にやしないわよ。エスカルゴの庇護下だし誰がどう足掻いても死ぬことができない。そういう概念なのよ、エスカルゴのあの『領域』の中はね」
「???……えっ」
霊夢の発言に魔理沙は思考も身体の動きも停止。目の前の霊夢が何を言っているのか、まるで理解ができなかったから。
しかし、理解が追いついたその瞬間、火がついたように激しく霊夢を責め立てる。
「霊夢、お前……お前!自分の子供に何させてんだ、殺し合いだなんて!しかもッ、片親とはいえ、血の繋がった兄弟姉妹だろ!?」
「そうだけど……?」
「何考えてやがる!?殺し合いにしない為のスペルカードルールだろうが!!修行の一環にもならない無駄な殺し合いだろ!『死なないからいいや』じゃ済まされないぞ!?」
「……そーね。そうであって欲しかったわ」
「……あ?」
「スペルカードルールは、私が巫女に就任してから制定された比較的新しいルール。それ以前の、昔の妖怪だとか──レミリア達の従兄妹だっけ?クレイドールみたいな『外の妖怪』にはルールなんてのは関係ないの」
「!」
「依姫だってそうよ。依姫は、自分が圧倒的に格上だから、その余裕が、弱者たちの提案するルールを飲み込ませるに至っただけ。でもそれは心に余裕があるから。──余裕が微塵も無かったり、遊びにも興味を示さない者には、ルールなんか関係ない」
「だ、だからってっ!自分の子供達に殺しをさせる理由には──」
「『殺し合い』を知らない者と『経験がある者』の動きには、天と地の差があるの。今後の異変解決にまず間違いなく役に立つでしょうね。明確な殺意の有無は戦闘中の身体の動きに大きな差を生むから」
「…………」
「私。夢想天生なんか使わなくても──なんなら、基礎体術や夢想封印だけで十分に早苗の心を折れる自信があるわ。『殺す』って伝えても、早苗は私のその言葉を『まさかね』と本気で受け取らないの。いざ死を実感する、その瞬間までね」
「……」
「そりゃ私だって、自分の可愛い子供だし、殺しに手を染めさせたくないわ。それは同意。でも、いざそういった場面になった時には、その経験は必ず、あの子達を救ってくれる」
「……私も霊夢と同じ時代を生きてる。ガキの頃から一緒に異変解決に行ったり、妖怪退治、したよな。だからこそ、
「ねェ、魔理沙。自分の子供を喪いたくないなら、最高品質での訓練を課すべきじゃない……?」
「────ッ!!」
「親としては、子供には健全に育ってほしいって、常々思ってるけど。でも、酸いも甘いも経験して、ただただ、元気に生きてくれればいい。だけどね。その為には戦いを生き延びなくてはいけないのよ。逃げてもいい、負けてもいい。でも
「……だから、殺し合いを認める……のか?」
「認めたくて認めてるワケじゃない。実戦訓練よ。霊幻世界の連中は、自分達が全員不死身だからって躊躇いなく殺してくるし────」
そんな話をしている2人の傍に、ドサリと何かが落ちてくる。よくよく目を凝らして見てみれば黒く焼け焦げた吸血鬼の翼のようなもの……。上を見れば霊麗がボタボタと血を垂らしながら肩で大きく息をしていた。
◆
「ハッ……ハァッ……まさか……爆発するなんて……」
「へっへーん!ハナの攻撃バカにしちゃダメだよ!絶対、楽になんか倒してあげないんだから!」
「っ……くっ、う……!」
片翼を失いバランスを崩した霊麗は徐々に高度を落とす。満月は未だ雲に隠れている。しかし、雲を晴らすのは今ではない。
「あーあっ!私も、霊子みたいに吸血鬼の技、早く使えるようになりたいな……」
「……?できないの?」
「できない事の方が多いかな」
「そーなんだ!ならリタイアした方がお姉ちゃんの為でもあるよ!!『
ハナの身体強化の魔法が猛威を振るう。極限まで強化された肉体は空を震わせ、空気は熱を帯びる。その熱は、炎属性の魔法を扱うハナと相性がいい。
「っ……」
片翼を失って、再生が不完全な霊麗はジワジワと高度を落とす。空中での機動力もまだ復活しない。このままではジリ貧だ、押し負けてしまう。しかしそう単純にはいかないのが、博麗の子供だ。
「……どーやったら心折れてくれんのかな、あなた」
「んー?……んーとねぇ、負け続けても折れないよ!ハナ、強いからっ!」
ハナは負け続けている。
霊幻チルドレンでは上澄みだ、20人のクラスではトップ3に入っている──けれどもハナは向上心がトップ2であるミコ、マコよりもある。
そんなハナは、クラス1になろうとミコやマコに勝負を挑む。そして負ける。負けては負け、負け、殺され、負け、トコトン負け続けている。
敗北の味を知る者は、小さくまとまる事はなく、何者にも負けないメンタルにて立ち上がるのだ。
ハナが言う「負け続けても折れない」は、希望的観測などではなく、全てが実体験に基づく発言だ。
──しかし霊麗は、能天気そうなハナからこんな言葉が出ても、実体験による発言だと思わず──。
「ホントに折れないか、試してみよっか……?」
「いーよ!折れても折れても無限に復活ぅ!復活のハナだぃっ!」
「あっ、そォ……なら……ガチで殺す気でブチ込んであげるっ!!霊符『夢想封印 絶』ッッッ!!!」
霊麗の放つは彼女オリジナルの夢想封印「絶」。全ての霊力、妖力を弾幕に変換し、絶殺の威力にて敵を穿つ。普段は殺し合いではないが故に、威力を抑えて放っている。しかし今回は「殺し解禁」だ。
肉体が頑強な人外連中における「殺し解禁」ではどのようにして決着とするか。それは「相手の心を如何に早くへし折るか」だ。
故に──霊麗は今、初めて、父親以外に向けて、本気の「夢想封印 絶」を放った。
「────ッ!?…… ……ッ、……!?っ、っ!」
「……ふゥん。首が無くても動くんだ」
弾丸のように鋭く放たれた弾は──ハナの首を、四肢を消し飛ばす。あまりにも過剰な霊力は、悪魔という「不浄な存在」を
「ふふ。再生する時の断面って、こうなるんだね。血は……まぁ……不味くは無い、かな?お父さんなら、美味しいって言いそうだけど」
「っ……」
「……あっ、ぶな……もう少し、中断遅かったら……。ホントに、
泣きそうな顔になっているハナの頭部をどこかに放り投げ、地上に降り立つなり、再生が済んだ翼を動かし動作の確認。……特に、不調は無さそうだ。
「……お、おい、霊麗」
「あ、魔理沙さん。来てたんだ」
「こんな魔力がどっぷりと溢れてたらな……」
「あはは……確かに。すっかり慣れちゃってたけど、よく考えたらエグイよね、この魔力の密度」
「お前……殺し合いとか、大丈夫なのか?」
「……?普段の妖怪退治と、何が違うの?」
「────ッ!!」
本気で疑問に思った様子で、首を傾げる。それを見た魔理沙は、自分と霊麗や霊夢とではそもそもの視点が違うのだと気付かされた。
「……姉妹、だろ?」
「らしいね。でも、幻想郷の姉妹と違って、一緒に育ったワケじゃないし……。魂の繋がり?なんてのもよくわかんないし。実質的に他人と変わらないし」
「……そうか」
「それに、殺し合いは嫌だの言ってられる状況でもないからね。……この戦いのルール、知ってる?」
「いや……。殺し合い解禁、じゃないのか?」
「違うよ。負けたら、あっちの姉妹に犯されるの。私もお母さんも、ね」
「は!?」
「まあ……その、私だって、お父さんやお姉ちゃんは好きだけど……誰にだって身体を許す訳じゃないし。だからこれは、幻想郷の子供達にとっては正当防衛だと思うけどね。よく知りもせず、好きでもない、家族を名乗る不審者──と、セックスしたいなんて思わないでしょ」
「そ、それはそうだ……!」
「向こうは殺す気で来てる。なら、こっちも相応の力で戦うしかないよね。──となると、必然的に、殺し合いレベルのやり取りになるんだ」
魔理沙は黙ってしまった。そんなルール霊夢から聞いていないし、無理もなかった。
とはいえ、だ。とはいえ、魔理沙は、殺し合いは行きすぎだろうと胸の中はモヤモヤしている。だが言えるはずもない。参加者でもないのに、なんにも言えるはずがない。
結果、魔理沙は考える事をやめて──勝負の行く末を黙って見届ける事を選んだ。
◆
「ふぅむ……。マコ、と言いましたか。悪魔なのに、神に仕えるシスターの格好だなんて……。一体、何を考えているんです?僕は悪魔に仕える悪魔ですが、あなたは?」
「お父様はこういう清楚系がお好きなんだもの」
「ふむ、確かに。人間時代に童貞拗らせた、だとか何とか言ってた記憶があります。清楚系じゃないと抜けない時期もあったとか。難儀なことですよね」
「ふふっ、そんなお父様も可愛らしいわ……」
「しかし、マコ。あなた……お父様とセックスなんかできていないんでしょう?」
「ッ!!!」
「『拗らせた処女臭』が漏れ出ていますよ。どうせオモチャで遊ぶ程度なのでしょう?」
「…………」
「滲み出る『清楚系ビッチ』の雰囲気も隠し通せていません。お父様とセックスできないのも、きっとそれが理由なのでは?
「…………あんたみたいなのを兄と思いたくないわ」
「おや、奇遇ですね。僕もあなたみたいなのを妹と思いたくないと思っていました。ふふっ、どうやら僕達、気が合いますね」
「……反吐が出るわッ!!」
十字架を短刀に変形させる。魔法ではない手段で攻撃する際は、自分の肉体ではなく、武器を介して攻撃するらしい。
「その拗らせた処女感──レイプでもシテやれば、無くなったりします?」
「ッ!?」
「僕の能力を使えば、時間を止めてのレイプなども可能ですよ。時姦、とか言うのでしたっけ。以前、漫画などで読んだ記憶があります。漫画特有の事が実際に再現できてしまう──最高に素敵な事だとは思いませんか?」
「何処がよ!!やろうとしてる事はレイプでしょ!サイテーだわ、あんた……!!」
「そうやって、無駄に理想を高く持つから、処女を腐らせるのですよ。人間界でもよくあることのようです。『ハジメテは彼氏・彼女と』と脳内お花畑で呑気な理想を宣いながら、そもそも彼氏や彼女など作れやしない。──フフッ、とても滑稽ですよね」
「……わ、私はそんな人間とは違う!お父様にだって積極的にアピールしてるもの!」
「清楚系は積極的にアピールしません。さりげなく男心を刺激するものです。ふとした瞬間、キュンと心臓を針でつつかれたような痛みが襲う。あなたは清楚系を名乗るには程遠い。モドキにすらなれない存在です。虚勢、見栄を張る人間レベルの愚者だと言わざるを得ません」
「い……言わせておけば、好き放題……ッ!!」
「……ね?自覚している、図星だからこそそうやってキレるんですよ。自分に当てはまっていなければ、僕の発言など『誰のこと言ってんのコイツ?』と、それこそ嘲笑ってスルーできるハズなのですから。つまりキレるという事は……はい。お疲れ様でした」
「ふざけ──あんたなんか窒息死よッ!!」
マコの魔法は空気操作。虔魔の周辺にある空気を奪う。──効果は無い。そもそも、幻想郷の大半の人外に、酸欠は効果が無い。
「なん……ですッて……ッ!?」
「ふふ。もしや霊幻世界の者は酸素が必須なので?まるで人間だ。あなた方は僕達が思っていた以上に脆弱で──ひ弱で──花のように慈しみ、花壇にて優しく見守るべき存在……なのかもしれませんね」
「ふざけないで!!お父様以外からの慈しみなんかこれっぽっちも要らないのよッ!!」
「……」
短刀を振り上げ、襲い掛かる。亀甲縛りで彼女を捕縛しようと、まずは時間を止める。懐からは縄を取り出そうとするが……。
「ハァアアッ!!」
「がッ!?」
不意に時間停止が解除され、思わぬタイミングでマコが動き出したことで、回避ができず腹から肩に掛けて切りつけられてしまう。
「ッ……お姉、様……!?勝手に解除するのはやめてくださいっ……!」
「え、私じゃないんだけど……。というか、人数差がありすぎて暇よ、交代でもする……?」
「!?じゃあッ、誰が…………!!」
まさか──と思い、マコに視線を戻した。しかしフッと鼻で笑ったマコは、ナイフについた血を払いドヤ顔で解説をしてくれる。
「あぁ違うわ、私じゃない。
「お姉様達……?」
「霊幻世界の三女神と言えば、こちらの世界では、知らぬ者は存在しないわ。生まれたての赤子ですら生後2分もすれば知る事になる。──お父様の血を引く、この幻想郷生まれの3人の姉妹。マリン様、ベル様、セツ様はそれぞれ時間魔法への耐性がありある程度の干渉が可能──そりゃお父様レベルでは無かったはずだけれど──あなた程度の時間停止を解除する事など、造作もないわ♡」
「……自分の能力でもない事を、よくもまぁそんなにドヤ顔で語れますね。僕の能力を解除できる──、そうですか、そうですか。……で?だから何です?」
「フッ……キレてる心が
「この程度で、しかも他人任せで僕の能力を無効化できると思い込んでいる愉快な思考回路の持ち主の存在を知ってしまってはイラつきもするというものですよ。ましてやそれが妹とは大変嘆かわしい……。あなたの身の回りの方々の苦労が偲ばれますね」
「……なんですって?」
「そもそも、僕の能力は時間停止だけじゃあない。僕の真骨頂は────ま、あなた程度に見せるには勿体ないですね。あなたは僕の本気を見れないのでとりあえず掛かってきてください。いつまでもお話していても、話が進みませんから」
「この、煽りカスが……ッ!」
「その反応が可笑しくて面白くて、分かっていても敢えて、無駄に煽りたくなるのですよ。あなたも、お兄様も────ね」
◆
「……『一蓮托生』、ですって?」
レイチェルの技の名を聞いたベルは、嫌な予感がしていた。夏も近いのに、冷や汗が頬を流れ、背にじっとりとした嫌な汗が浮く。
「そう。私は『確率』を操る。この世に無数に存在する確率を──好き放題にイジる事ができるのよ」
どう転ぼうと0%、100%のものは操作不可だ。
しかし、それをわざと言ってやる必要などない。
「それをあなたの『勝利』と『敗北』に紐付けた。あなたが勝とうとも、私が負けると同時にあなたも負ける。私が勝とうとも、私も何かしらの反動から負ける事になる。ここで私とあなたの戦いをやめて他の子と戦ったとしても、私達の勝敗は連動する」
「〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!」
ハッタリなどではない。これまでの戦闘経験からベルはレイチェルの言葉が本当だと感じ、同時に、抜け出せない迷宮に足を踏み入れたのだと感じた。
確率操作──そんなもの霊幻世界には存在しない能力だ。対抗策なんかあるはずもない。自分が勝ち相手を負けさせても、自分も反動を受け負ける──それなら、痛い目に遭っても遭わなくとも同じ事。
そこに気付いたベルは、声高らかに宣言した。
「『棄権』します」
「っ!」
「さぁ……『棄権』しました。これで私は敗北です。ふふ、残念でしたね。私が力いっぱい抵抗するとか思ったのでしょうが──あなたも『敗北』ですよ」
痛み無くレイチェルを道連れにしてやる──そう暗に伝える。しかしそれを聞いたレイチェルは逆にくすくすと静かに笑う。
「
「……えっ」
「運命は、目に見えない。解除したかどうかを把握できるのも──全世界で私とお母様の2人だけよ」
「そ……そん、な」
「霊幻世界最強……だっけ?『最強』って、そんなに安売りしていいワードじゃあないわよ」
「…………」
霊幻チルドレン最強、ベル────脱落。