「────殺しアリ、か」
「わーお。妖舞が悪い顔してる〜」
「あ、姉上ッ!?」
初撃から敵を屠った妖舞は、納刀後も兄弟姉妹の戦いを眺めていた。
なにぶん、人数差が凄まじい。まるでセコンドのように前線に出ている兄弟姉妹の後に控えている。尤も、妖舞には治癒魔法などは使えないので、後に控えているとは言っても交代要員としてであるが。
そして、あくびを漏らす程に退屈していた妖舞の傍に、まるで天使の如くふわりと舞い降りたのが、幻想チルドレン不動の最強、長女の巫月であった。
「だぁってぇ……もし私が本気なんて出したら一瞬で終わっちゃうよ?つまんなくない?」
「いやまぁその……そうなんだろうけど」
「ま、でも──向こうの長女も、
「え?けど霊幻チルドレン?の最強はレイチェルが棄権に追い込んだ……霊麗みたいなヤツじゃ?」
「強さでは、ね。ぶっちゃけ、この戦いは別に強さなんて大して関係ないんだ。要は、相手の心をどうへし折るか──が争点なんだし。心を折るレベルの圧倒的レベル差があるかって言うと、別にそういうワケでもないからね。となると別な方法で心を折る必要が出てくるよね」
「……?」
「まぁ、その辺の事は気にしても無駄だよ。
「???」
「妖舞はもう少し、考えるって事を覚えようね」
「かっ、考えてるよ!」
「えー?そぉかなぁ?」
「ちっ……」
舌打ちしつつ姉から視線を逸らして上を見れば、金髪ロングの巫女服の少女と、駆翔&姫のコンビが戦っているのが目に入った。
巫女らしく投げ針を使っている。その攻撃は酷く凄まじいもので、姫の重力弾幕*1やら、駆翔の重力踏み付け*2なんかも上手く機能しない程だ。
「ほーん。駆翔も姫も、精密さはねェのか。だから投げ針みてぇなちっちぇーヤツだと、上手く能力を掛けられねー。でもって能力を掛ける対象を範囲に切り替えたとて──」
ミコは双子の姉であるマコ譲りの空気操作魔法を有している。2人の能力に伴う急激な重力の変化によって体勢が崩される、しかしそれを自動で補える補助系の魔法を有しているのがミコである。
「『
妖舞はその様子を見て、駆翔と姫では分が悪いと判断した。姫は能力の成長も未熟で、殴る蹴るなど身体能力を活かした攻撃もできない。
駆翔はと言うと、殴る蹴るなどの格闘戦は可能、しかし問題は
今の戦況は、将棋の千日手に近い状態と言える。ミコも駆翔も下手に動けば状況が悪化しかねない。だから、この間合いを保ったままで動くべき──と判断している。
しかし、それでは勝負に終わりは無い。そこで、妖舞は自らが動く事にした。
「お。妖舞、動くの?大丈夫?」
「おう」
「勝てる見込み、あるの?妖舞が動くってことは、下手したら幽々子さんを差し出す事になる──って意味なんだよ?」
「心の折り方とか、そんなモンよく分かんねーよ。けど、1つ、分かった事がある。俺は絶対諦めず、相手が諦めるまでひたすら斬りゃいい……ってな」
「うーん。やっぱ妖舞って、妖夢さんに似たねぇ」
「姉上は、鈴仙さんみてーな見た目に反して中身が無駄に父上に似すぎなだけだぜ」
「え〜?エスカルゴに似てるなんて、そんなぁ♡」
「……
父親譲りの筋肉質な翼を広げて、駆翔達とミコの間に割り込むようにして入る。今の妖舞は手ぶら、模造刀やら木刀すらも持っていない。
「兄貴っ!?」
「おにーちゃん!」
「見てらんねぇ。俺がやるから、お前らは見てな」
「どーゆー風の吹き回しだ兄貴ィ?俺の戦いだぜ?姫も楽しんでたしよー」
「遊びじゃねんだよ。お前ら、てか駆翔は、負けた時の事とか、考えてねーの?」
「負けた時の事を考えて戦う若頭なんか居ねぇさ。兄貴、まさかとは思うけど、ビビってんのかー?」
「………………そーなのかもな。別に、失うものが無いワケじゃねぇし」
「!」
「けど、だからこそ俺は戦うんだよ。何も失わず、奪われず──ただただ、くだらねー日常を過ごす、その為だけにな。何かを奪われたんじゃあ、それは俺の『日常』じゃねぇし」
駆翔は姫の手を引いて、戦場から離れる。ミコはそんな2人と妖舞を交互に観察しつつ──奇襲すら警戒しながら、次の針を
勿論、触れると即死級の猛毒を付与して。
「────なぁんかゴチャゴチャ言ってるけどー、もう攻め込んでイイ感じ?」
「おう。待たせたな妹」
「やめてよ気色悪い、あんたみたいな雑魚を兄とか思いたくないし」
「『あんたみたいな』?ハッ、まるで見てきた様に言うんだな」
「そりゃ、どー見てもあんたよかさっきのウマ耳の男の方が強いからでしょ」
「……そーかもな。もはや長男の俺より次男、三男、四男の方が強いのかもしれねー。……けどよォ。俺がそいつらより弱いからって、オメーよりも弱いとは言ってねぇよ」
「────ッ!!」
能力《全身から刃を出す程度の能力》──発動。妖力を消費する事で、自分の肉体の好きな場所から刃を生やすことができる妖舞は、両手の平から刃を生やしてミコへと斬り掛かる。
「オ゙アアァッ!!」
(速い──ッ!!)
接近、空中ながらも足払い、そしてミコの身体を倒した所への斬首の一撃────その全てが迅速、全てが流麗だった。
しかし刃が首に滑り込まんとしたその瞬間、刃の横側から打突するように針をぶつける。
振り下ろされる刃とは、横からの力に弱いもの。ましてや針という超一点集中型の圧力に負け、彼の刃は呆気なく折られてしまった。
「ッ……!」
「やっぱり。手から生えてきた時はビビったけど、あんたのその刀?みたいなの……。あんたの妖力から作られてるわね。私みたいに、金属を創造して運用しているワケじゃあないようね。簡単に壊せるわ」
「だったらどーしたよ?」
「アハッ!今の見て分かんない?あんたの攻撃とか完封できるって言ってんの。マコの空気魔法もある私に接近戦とかバカみたいだしね。近付いた瞬間、酸欠でお陀仏よ?」
「……」
「まぁでも?マコの戦いを見るに幻想郷のヤツらは酸欠とか関係ないのかもしれないから、あんた相手だろうとそれ前提で動くんだけどね」
「っ!!」
「ふふっ。あんたの作戦、潰しちゃったかしらね?私が『なんで酸欠しないのよ!』って驚いた瞬間に攻撃ぶち込もうとしてたなら、ごめんなさいねぇ?そんなの、さっきマコで見てんのよ」
「……俺の攻撃が完封できるってんなら」
「?」
「──完封してみろよ」
手の中に納刀。そして居合の構えをとる。
妖舞の速度はミコも既に見ている。彼の居合は、霊幻世界には存在しないとも言えるレベルの速度。まさに神速の居合だ、勘で受け止めるしかない。
しかしそのような勘に頼る戦いはバカのする事と考えているミコは、先程堂々と宣言したように己の適正魔法ではない空気魔法を行使する事にした。
「────!!」
「あっれェ?おかしいねぇ、止まっちゃった♡」
「どう、なって……ッ!?」
居合発動、しかし妖舞の手はまるで見えない壁に阻まれているように止まっている。──否、完全に停止しているワケではない、けれどそう見紛う程に超低速になっている。
それを見た霊魔は叫ぶ。
「無下限呪術だ!お兄ちゃんッ!!」
「はぁ……?」
「無限バリアで相手に触れなくなってるんだ!領域展延で無限バリア突破しないと!それか魔虚羅式で適応して突破しないと攻撃は永遠に当たらないよ!お兄ちゃんはまだ次元斬が使えないでしょ!」
「すまんお前が何を言ってるかサッパリ分からん」
「あぁもうっ、香霖堂でエロ漫画ばっかり読んでるからそうなるんだよ……ジャンプ漫画も読まないと!オススメはBLEACHなんだけど、やっぱり──」
「いやごめん……むかげん?って、何……?」
「え、無下限呪術を真似した無限バリアじゃ……?」
「違うけど……。絶え間なく空気を創造して、分厚い空気の壁を作ってるだけなんだけど……」
「……………………………………………………」
「霊魔ぁ、もういいか?」
「……ごめんなさい……邪魔して……///」
「いやまぁそれはいいんだが。彼女とかエロい事について早口で語るときの父上に、無駄にそっくりになってきてんぞ」
霊魔のオタク特有の早口語りに、父である俺まで顔が赤くなってしまった。漫画を与えたのはいいが少しドップリ漬け過ぎたのかもしれない。これも、子育てをする上での今後の課題と言えるだろう。
霊夢は──苦笑いか。まぁ霊夢も霊夢で三日三晩推理小説を読み耽って体調を崩すようなヤツだし。やはり、そこは親子だ。こうして、何かにドップリ浸かる事が出来るのも一種の才能なのだろう。
勘違いからのあの早口語りは、同じオタクとして共感性羞恥がエグいのだが。
「そんじゃ、気を取り直して。オメーの
「ふふっ、やれるもんならやってみなさいよ!」
更に出力を上げるミコ、しかし今度は
如何に分厚い空気の層であろうとも、空間や時間などの概念すらも斬る師匠から剣術を教わっている妖舞なら、この見えない壁も突破は容易────のハズだった。
「はぁっ、はぁっ……くっ、そ……!!」
「た、確かに速いわね!初速なら目で全く追えないくらいには!……だけど、ダメダメね♪」
「ッ……!」
実際、妖舞が宣言した通り、彼の刃は空気の壁を切り裂き、ミコを一刀両断、または千切りにできるだけの攻撃はできつつあった。
しかし空気の層で、ほんの少しだけ速度が緩んだその瞬間に、針による超一点集中型の打突を加える事で、自身に彼の刃が到達する前に、見事なまでに刃を折っていたのだった。
つまり妖舞とミコの戦いは、消耗戦だった。
妖舞の妖力が尽きるのが早いか──そしてミコの魔力が尽きるのが早いか。
結果を言うなら、ミコの魔力が尽きる方が早い。
彼の、刃による消費魔力などたかが知れている。寧ろ、あまりにも燃費が良すぎて、妖舞は通常弾幕でしか自身の妖力を消費しないとすら言える程だ。
対して、物体の侵入すら阻む圧力での空気の壁を生み出し続けるミコは、尋常じゃない量の魔力を、常に消費し続けている。
消耗戦で言うなら、勝負は明白だった。
ミコ本人も冷や汗が頬を伝うくらいには、自身が追い込まれている事に気付いている。というより、さっさと妖舞に殺されて復活する事で魔力の回復を画策し始めるくらいには、魔力残量が寂しかった。
────とはいえ。
そんな安直な結果を選ばないのが、妖舞である。
「……フーッ……フーッ……はぁ、疲れたな……」
「?……ふ、ふんっ、結局無理だったわねっ!無駄に刀パキポキ折られて、あーあ!
「無駄……か」
「無駄でしょう?どんだけ折られまくってんのよ?折られた残骸を見てみなさいよ、あんなに小さな山みたいになって。言っとくけど、無限回続けても折り続けるから。私ねぇ、こう見えても創造主様と三女神様を除いて霊幻世界最強なんだから。集中力だって折り紙付きなんだからね?」
「そーかい。そんなら……ラストワード発動だ」
「!?」
「────
すると地面に散っていた妖舞の刀の残骸が宙へと浮かび始めた。その数──もはや目測ではおよその数すら把握できない量だ。
「これならどうだ?」
「待っ……」
────繰り返しになるが、妖舞が能力によって生み出した刃は、妖舞の妖力で生成されている。
それはつまり、出力された形が違うだけで普通の弾幕と等しいという事だ。
弾幕をカーブさせたり、ホーミング弾にしたり、そういった
操作性を得た刃の残骸は、一旦ただの妖力へ還元されたかと思うと、再度、小さな刃として再構成。
「オマエ……知ってるか?水ってぇのは、金属すらも斬れちまうんだと」
「……?」
「だけど、フツーは研磨剤とか……まぁ小さいヤツが混ざってる。
「……何の話よ?」
「さぁな。俺はそれを知らん。今の俺の話がマジに正しいのかも確認できてねー。けど……少なくとも、俺のこの技は、そういう理屈で運用されてるんだ」
「?……はッ!?」
「粉微塵だ」
極めて抵抗の大きい空気の壁、それを全て貫き、ミコの防御を無視した彼の攻撃は壁の上からミコをズタズタに切り裂き、血の雨を降らせてしまった。
「せ、せせ『千本桜』だッ!!兄様の千本桜だ!!うわぁ!お兄ちゃんが千本桜を使ったッッ!!」
「うっせぇぞ霊魔!誰が朽木白哉だよ!!」
「……?僕、
「あん?千本桜っつったら白哉だろーがよ?」
「あれれ〜?おっかしーぞぉ?……お兄ちゃん、隠れBLEACHファンだったんだね!」
「…………あ゙ッ!?」
「ははっ!サイコーだね……!」
「違っ……おい!!おい霊魔ァ!!?」
結界やバリアに自信があまり無く、それでいて、それ以外の魔法の腕には自信があったミコ。しかしそれも妖舞には通じずたった一度目に試された技で呆気なく突破されてしまった。
魂の状態でふよふよと戦場を移動しつつ、次は、もっと弱そうなヤツから手を付けようとしたミコであった。
◆
「──さぁてと。ベルは棄権させられちゃったし、ハナちゃんもマコちゃんもズタボロ、ミコちゃんもかなり追い込まれてるし……。そろそろ私も本格的に動こうかしら……?」
「お供します、マリンお姉様っ!」
「ふふ、ありがとう。ならセツは同じ吸血鬼の子をお願いするわ。真に吸血鬼に追いつけるのは吸血鬼だけだものね」
「はい!では、お姉様は──」
「無論、
────控えめな三女神の2人、本格始動。