「────てなワケで里のはずれに俺の祠を作ってみたぜ。だからさ、霊夢。里の人間のフリして依頼するから、祈祷と、
「どういうワケよ」
「いやぁ、建御雷が幻想郷にも祠を作ってけっこー経つだろ? 俺も、少し自分の祠が欲しくなった。祭神は、雷神としての俺な。妊娠と魔法の神の俺はまぁまたいつかって事で。御札に、ここは雷神様を祀ってる〜みたいな感じで、ヘニャヘニャした字で書いてくれない?」
「ヘニャヘニャした字とか言うな。……ったく……」
「いいだろ? 雷神様の嫁だぜ、霊夢?」
「超新人の雷神ね。今更言う必要無いだろうけど、土地も限られてるんだから、祠程度だろうとあまり作るんじゃないわよ?」
「え〜? 神徳増える度に祠も増えるかもなぁ?」
「……無限増殖祠……」
「無限増殖はしねぇよ」
「そりゃそう。……で?
「人間をやめてから気付いた事なんだけど。どうも人間ってのは──学習能力は高ぇが、それと同時に忘却能力も高ぇようでね。せっかく学習した事柄を十数年、下手したら数年で忘れちまうらしいんだ。何年か前に、諏訪子達と組んで人里に災害を齎した異変──覚えてるだろ?」
「……ええ」
「あれから信仰心が高まったよ、かなりね。だけどダメだった。どうも、一時的だったらしいな。もう薄まってきたらしい」
「そんな……」
「諏訪子達に言われるまでもなく、俺自身が神徳を持つようになったから気付けるようになったんだ」
「アンタの神徳が弱まってきてる、ってこと?」
「まーね。どの神徳が弱まってるのかは──今更、改めて言うまでもねえだろう?」
「『雷神』としての、よね? だから、こんな祠を作ったんでしょ」
「あぁ。俺は、自前の能力で雷を扱える。だから、ぶっちゃけ雷神としての神徳なんて無くてもいい。だけど、能力と神徳を併せ持つ事によって、普通の強さが100%なところ通常運転で『200%』、つまり倍の強さで能力を扱える。──でも、それが無くなってきてるみたいなんだ」
「……ぶっちゃけ、アンタなら100%で事足りると思うけど? 雷の能力以外にも、能力あるクセに」
「事足りるさ。だけど、有事の際に備えられない。常に本気で、フルパワーで戦えるようにしておく。その為には、人間共の信仰心が必要なんだな」
人間だった頃は、「人間が神に依存している」と考えていた。全く、愚かな事だ。依存しているのはどっちだ。本来「共依存」になるべきだというのに実際は「神が人間(の信仰心)に依存している」が正しいじゃないか。
「……また、異変を起こす?」
「いや。異変の方が手っ取り早いかもしれないが、それは前に試した。だから今回はやり方を変える。まぁ……日本人らしく
「そこで
「ああ。『丁重に扱え、さもなくば厄災が来る』と意識に根付かせるように、時間を掛けて、信仰心を育成する。祠なんてのはその第1歩に過ぎないさ」
「分かった。準備が整い次第、この近辺の人間達を集めてちょっとした祈祷をするわ。でもこれ、少し綺麗すぎるわね……いかにも新築よ? いいの?」
「んじゃあ、あとで時間魔法でイイ感じに自然劣化させとくわ。それでいいだろ?」
(時間ってそう簡単に操れて良いものなのかしら……甚だ疑問ね……)
そして霊夢の祈祷から数ヶ月が経った……。
霊夢の祈祷が行われて以降、その祠は博麗神社の管轄ということで地域住民が交代で掃除をする事に決まった。誰が言い出した事でもない、至極自然にいつの間にかそういう風潮になっていったのだ。
しかし掃除も、慣れてくるとダレるものである。特に、信心深くない、幼い子供などは────。
◆
「「たっだいま〜!!」」
「おぉ、早かったの。掃除も板についたか」
「えー? 掃除すんの、メンドーになっちったから壊しちった!」
「でも壊したって誰も困んないっしょ! みんな、掃除が面倒だって思ってるだろーしな! へへっ」
「……!?」
「お前達、あの祠を壊したんか……!?」
「オレたちは神様なんて怖くねーから! なっ!」
「おう!!」
「あぁぁぁ……何という愚かな事を……!」
「ばーちゃんビビり過ぎだって! 何もなんねーよあんなの壊したって!」
「そーそー! 元からボロかったし解体してやっただけだしな!」
「バカモンがッ! 今すぐ博麗神社に行きなさい、祈祷してもらいなさいッ!! それも間に合わないかもしれないが、何もしないよりはいい! 今すぐ博麗神社に行きなさいッッ!!!」
「なんでそんな焦っ……」
「いいから行けぇッ、バカモノ共!! 里に厄災をもたらすつもりか!!!」
「じーちゃんまで……」
「可愛い孫だからと甘やかしすぎた──! よもやここまで愚か者だとは思わなんだ! 儂らのせいで里が……あぁあ、里が焼け落ちる……!!」
「何を言って……べ、別にそんな焦ること……」
「いいから言う通りにしろ! 博麗神社に行けぇ! 巫女様に祈祷をしてもらいなさい! お布施を渡し全霊で祈りを捧げよ! お前達も一緒にだ!!」
「で、でも……」
「いいから行かんかぁッ!!!」
「「ぎゃッ!?」」
祖父は、長らく大工として働いた力自慢である。激昂した祖父によって首根っこを掴まれた兄弟は、親猫に首根っこを噛まれぶら下がる子猫のように、軽く外に放り投げられてしまった。
彼らの悪戯ぶりは、祖父母の甘さによるものから育ってしまった。奔放に育てるのも考えものだ。
しかし彼らは、これまでずっと甘やかされてきたからこそ、祖父母の怒りようには涙すら浮かぶ程に困惑していた。
雲行きが怪しくなって暗くなりつつある空の下、野外に放り出されて始めて危機感を覚えていた。
懐に財布があることを確認した彼らは、すぐさま博麗神社へと走った。途中、ロープウェイを使って守矢神社に行こうとした。しかしあれだけ祖父母が口酸っぱく「博麗神社へ」と言ったことでどうにか思い留まり、足が棒になるまで、走り続けた。
博麗神社は小高い山の上である。里から走り続け少年らの足はボロボロ。それでも、走った。
「はーっ、はーっ……」
「げほっ、ゔぇほっ……」
「……参拝客? ……お姉ちゃん達ィ、なんか参拝客来たんだけどー? 参拝客が来た時って、どう対応すればイイの?」
長い白髪、しかも巫女服ですらない薄い布だけを身に纏った少女が、身の丈に合わない長い箒を使い境内の掃き掃除をしていた。少女は、彼らを見ると軽く舌打ちした上で神社の中に戻った。
すると、白い少女と入れ替わりで、巫女服を着た長い黒髪の少女が2人、ふりふりの白い紙のようなモノがついた木の棒を持って出てきた。
2人共、人と思えぬような真紅の目をしており、少し背の低い方の少女の背には筋肉質な蝙蝠の如き黒翼が備わっていた。
「参拝客……には見えないね」
「里に、妖怪でも出たのかな?」
比較的背の高い、前髪が横に揃った方の巫女は、怪しむように、目を細めて彼らを見る。翼の巫女は柔和な雰囲気で彼らに話しかける──が。
「ばーちゃんとじーちゃんに、博麗神社に行けって言われて……」
「お、オレたちが、里の祠を壊したから……」
「祠……? 何個かあると思うけど、どれかな?」
「少し前に、霊夢さんが祈祷したとこ……」
「「────!!」」
2人は顔を見合わせた。すると2人揃って、深い溜め息をついた。
「あの祠、壊しちゃったんだ……そっか……」
「そっか〜……」
「じゃあ……もうダメだね」
「祈祷もお祓いも無理だね」
「とんでもないバカやったね〜。祟られてサクッと死ぬよ?」
「踏み潰した蟻みたいに、呆気なく死ぬよ?」
「「ッッ!?」」
兄弟は畏れた。しかし同時に反抗もしたかった。そんな祟りなんてウソだと。デマカセだと。
それでも目の前の、歳も大して変わらなさそうな少女2人の「圧」が、兄弟の口を重く
兄弟は持てる小遣いの全てを姉妹に差し出した。しかし幼い巫女2人は、それを見ても溜め息をつくばかりである。
それを見て遂に絶望感に襲われた兄弟は産まれたばかりの小鹿のように足を震わせその場に座り込みわんわんと泣き始めた。
ほんの悪戯心だったのだ。それで唐突に「死ぬ」などと言われても、あまりしっくりこないだろう。それでも、祖父母に教えてもらった唯一の解決策と思っていた「巫女の祈祷」が無意味だと言われて、兄弟は八方塞がりになった。
その涙を見て、姉妹は仕方なく目を瞑り、何かをブツブツと唱えながら祈りを始めた。
兄弟は財布をそのまま賽銭箱の中へと投げ込み、手を合わせて、必死に、必死に祈りを始めた……。
「……やっと来た」
姉妹の祈りが通じたか、黒翼を背に備えた悪魔のような「神」が現れた。兄弟はその「神」を人里で何度か見た覚えがあった。話した事こそ無かったが視界に収めた程度ならあった。
その男は兄弟にゴツンと血が出る程の強さで拳をぶつけた。祖父母にも拳骨などされた事がなかった兄弟にとっては、新鮮な痛みであった。
そして「神」は涙を流す2人に散々説教して……。
「
「「ひっ……!?」」
「よぉーく、モノを考えてから動け、ガキンチョ。イケナイ事には意味があるんだぜ。神は人を守る、だが粗末にされれば、守るどころか滅ぼす。お前らだけじゃない。人間そのものをだ」
「「ッッッ」」
「身の振り方を考えろ。分を弁えろ。何故みんながそうしているのか、よく考えろ。……分かったな」
「「……はい……」」
「よしっ、じゃあ話はおしまい。帰っていいぞ!」
「「……っ!」」
「雨も降ってきそうだから、さっさと帰れよな〜!風邪とか引くんじゃねーぞ!」
「「はいっ! ありがとーございます!」」
兄弟が帰宅したときに目にしたのは、轟々と燃え盛る、家族が待っていたはずの我が家だった。そのあまりの温度に、
火消とて、神の子ではなく人の子である。普段の彼らの悪評のせいだろうか、火事の通報も普段より遅く、火消が腰を上げたのも火消にあるまじき遅さだった。
彼ら兄弟は、イタズラ小僧として有名であった。祠を壊した事も、彼らの一番の悪評として里の中で有名になった。
幸か不幸か──、彼ら兄弟が有名なイタズラ小僧だった事が起因して、彼らが不在の時に家が燃えたのは雷神の祟りであると、幻想郷の人里という名の狭き世に広まり……そして「彼」は力を取り戻した。
兄弟は生涯、孤独に生きたという。
◆
「──しかし、貴様も性格が悪いなぁ……
「んぁ? どーゆートコがよ?」
「あんなにもにこやかに接していたであろう」
「赦すとは言ってねえ」
「ハッ、確かにな。──それと、祠を壊した本人達ではなく家族を滅する所も性格が悪いな。わざわざ我が言わずとも分かるであろう?」
「なんか、割と最近になって気付いたんだよ。本人ではなく『大事な人』を殺すべきなんだ……って」
「……ほう? 何故、そう思った?」
「その方が生き地獄だろうしな。少なくとも俺は、不死身である事を抜きにしても大切な人を狙われた方が苦しむ」
一番最初は、お空の火球からフランを助ける為に死んだんだっけ。そうだ。復活できる
だって、フランが死んだ世界で俺だけ生きるのは無理だ。彼女や嫁や子供が増えた今でも、そうだと言える。俺は、俺が死ぬより、大切な人が死ぬ方が苦痛に感じるだろう。
「──なにより『歴史には証人が必要』だ。なら、他でもない本人達に『証人』になってもらった方がいいだろう?」
「証人なら家族でも良かったのではないか? 特にあの祖父母は、かなり、信心深いようだったぞ……? まるで、
「……へッ。やけに具体的な見立てじゃねーのよ」
「なァに、ただの勘さ。お前なぞより
「……証人、かぁ。あのガキ共は、どっちかっつーと俺側の人間に見えた。他責より自責の人間に、な」
「あァ……そういう事か。ククッ。つくづく貴様は、根性の悪い男だな」
「他責思考のクズを処す際、家族友人を殺すのは、他責思考を増長させちまう。だから、本人を殺す。あのガキ共みてーな、自責の方が強い人間は、家族友人とか、他の人間を殺す。『自分のせいで』と、苦しんでくれるからな」
「──お前を見ていると、昔を思い出すよ」
「お? 珍しいな。
「確か、藤原が世を支配していた頃だな。平安とか言ったか。あの頃は今よりも遥かに『
横行していてな。当然、大多数の人間は『本人』に呪いをかけた。だが、ある呪詛師が、依頼人に一言進言したのだ。『本人より、本人が大切にしている人を殺す方が、より苦しめられる』とな」
「死より生き地獄を、ってか。つーか、呪詛師って何だよ。漫画みてーだな」
「たわけ。祈祷師や陰陽師が
「まァ……それは、そうだな」
「……それで? 少しは力が戻ったのか?」
「雨が、雷が──それはもう酷いトラウマになったらしい。家が燃え尽きたから、親戚の家に拾われ、今は借りてきた猫のように大人しくなってるとよ。でもヤツらの《恐怖》はホンモノさ。周囲の人間もそれに伴ってより酷く畏れるようになった。力も、すっかり戻ったよ。良い見せしめになってくれた。そればかりか…………」
「今風に言うと『ぷらすあるふぁ』、か?」
「……へッ。ま、その辺は追々……ねっ♡」
「クハッ。貴様のそういう所は気に食わんな。我の力を借りるだけの器だった分際で、我に並ぶか」
「よく言うよ、科学世紀と謳われる現代になっても外の人間からも割と畏れられてるクセによ〜」
「貴様なんぞとは年季が違うのだよ、年季がな!! ガハハハ!」
「それ系のセリフ言うヤツでガチで年季が違うのはズルだろーがよ。何千、何万年単位だっつの……」
「クハハハハッ!! おいエスカルゴ、久しぶりに手合わせだ、舞台を整えろ! 雷神同士の衝突だ、お誂え向きに雷雨にしろッ!!」
「へいへい……。そんじゃ行きますか、
幻想郷において、妖怪などが人里の人間を悪戯に喰い殺すのは禁じられている。
────ただし。神や妖怪などが畏れを得る為の
何故なら、人里という存在そのものが、妖怪や、神を存在させる為の要だから。己の存在を維持する為、人里を、そしてそこに生きる人間を
それ自体が人里の存在意義である以上は、畏れを得る為の殺戮は、禁止しようがない。
──尤も、人間にとって一方的であるその虐殺を防ぐ為のスペルカードルールでもあるのだが……。
オ久シブリ。