「許せん、あの男ッ!妖夢、幽々子様のみならず!幽々子様のご遺体をも汚しただと!?ぬうううッ、少しでも認めた儂が馬鹿だった!今すぐにでも奴を斬り捨ててくれるわッ!!」
「待ってってばおじいちゃん!そりゃエスカルゴもやり過ぎだと思うけどさっ!」
「離せ妖夢ッ!斬り殺さねば、細切れにせねば儂の気が済まぬわァッ!!」
「斬り捨てるのはダメ!アレでも私の夫だから!」
「うぬぅ、しかしッ!」
「正直、私も引いたけど……それでもダメだよ!」
「ぐぬぬぬっっ……」
「エスカルゴのヤツ、死体まで犯すだなんて、一体何を考えてやがる!?こんなのドン引きどころの話じゃないぜ、全く……。付き合い方を見直すとこまで来てるぞ、私の中じゃ。理由によっては、『友達』どころか『知り合い』までランクダウンさせそうに思える。……こんな所、霊魔には聞かせられないな。寝かせておいて正解だったぜ……」
やいのやいのと、エスカルゴへの批判を口にする3人。妖夢も、復活してきてからは妖忌や魔理沙に混ざって批判を口にしたり、または妖忌を止めたりあくせくしている。目覚めたばかりなのに、大したものだと魔理沙は内心妖夢に感心していた。
そんな3人を余所目に、幽々子は無表情のまま、西行妖を見つめている。何を考えているのか誰にも分からない。しかしそんなとき、風も吹いていないというのに、西行妖に咲いた花が、散った。
「え」
「なんじゃと……西行妖が……」
「散った……のか?」
次の瞬間、西行妖は枯れ枝のような枝を伸ばし、振るい、妖忌、妖夢、魔理沙への攻撃を開始する。妖忌と妖夢は反応が遅れつつも、枝を斬らぬように跳んで回避。魔理沙は反応が遅れ、鞭のような枝を腹に受けて吹っ飛ばされる。
「ぐぇッ……!!」
「────魔理沙さんッ!!」
縁側から飛び出してくる、小さな影が1つ。霊魔だった。彼は吹っ飛ばされ体勢を整えられていない魔理沙を空中で受け止め、砂利の地面に着地する。
「大丈夫ですか魔理沙さんっ!」
「お、おう……助かったぜ、ありがとな。…………いやお前、傷は?」
「とうに治ってますよ。……吸血鬼ですから。ただ、妖舞お兄ちゃんと小春と喋ってたんです。そしたら悲鳴みたいなの聞こえたから……」
「そうか……。だけど霊魔、せっかく休めるんだからゆっくり休んでてくれて良かったんだぜ?」
「……僕だけです」
「え?」
「アレを封印できるのは、今この場にいる者だと、僕だけです」
「封印だと?西行妖にか?」
「あの枯れ木、西行妖って言うんですね。西行妖……見た所、封印が解けかかってますよ」
「!?」
「解け切ってない今なら、僕でも再封印できます」
そう、妖怪退治の依頼こそ性格故に行きはしない霊魔だが、そんな彼も「博麗の巫女・博麗霊夢」の息子で、エスカルゴの息子なのだ。幼く見えても、並大抵の強さじゃない。
そして、巫女の技術もある程度は使える。決して驕り高ぶるタイプでない彼がこう言うのだからと、魔理沙は彼の言う事を信じる事にした。
「……前に戦った時よりも暴れてるな。エスカルゴも霊夢も居ないのにどう対応したものか」
「魔理沙さんは、前と比べて弱くなってますか?」
「は?」
「強くなってるんでしょ。じゃあ、大丈夫ですよ。魔理沙さんは、お母さんも認める実力者なんです。魔理沙さん、僕、妖夢さん、妖忌さん、それから、幽々子さんにも協力してもらって、押さえ込んで、最後に僕が封印します。手を貸してください」
「!……言ってくれるじゃないか。分かったぜ霊魔!お前がトドメを刺せ!!」
遠くに飛ばされていた2人は、妖夢と妖忌の元へ合流。しかし先程と違って何やら様子がおかしい。妖夢が妖忌と幽々子を守るようにして剣を振るい、妖忌は幽々子に何か言い聞かされているようだ。
「妖忌。私、西行妖の意思が分かったわ」
「西行妖の意思?────それは一体?」
「あなた達がいけないのよ。私と彼の恋路を、今更阻もうとするから……」
「は……?いやしかし彼奴とは既に結ばれて……」
「結ばれてなんかないわッ!今まさに、あなた達が邪魔しようとした!引き離そうとした!それがまだ分からないと言うの!?」
らしくない程に、声を荒らげる。妖忌も妖夢も、こんな剣幕の幽々子は、初めて見た。頓悟していた時期はあるものの、千年以上も幽々子に仕えていた妖忌ですら、怒る幽々子など見た試しが無かった。
「…………申し訳ございませぬ。儂にはとんと見当がつきませぬ」
「……彼の死姦を批判した、止めようとした、そして彼を殺そうとした。この西行妖の怒りは生身の私、いえ、私達の怒りよ妖忌。死してなお彼に愛されて喜んだのはこの私。彼による私の死体への死姦を、受け入れなさい。さもなくば私を白楼剣で斬り殺し輪廻から永遠に消し去りなさい」
「な、何を仰っているのか分かりませぬ……!何故、奴の死姦を認めねば幽々子様と奴を引き離すことに相成るのですかッ!?」
「分からない?今ここであなたと話している私は、一体どこの誰なの?何者なの?どういう存在なの?西行寺幽々子、千年以上も
「心得ておりますじゃ」
「亡霊の私と死体の私、どちらも
「ッ……肉体と魂では違……」
「そんなの詭弁よ。どちらも死者。どちらも浄土の住人。どちらも死人でしかない。私と彼の行為は、無理矢理などではなく愛ある行為です。それなのにあなたは愛し合う2人を引き離すと?」
「そ、そんなつもりは────」
「……私からなのよ。元はと言えば、私が彼を勝手に好いただけなのに、彼は受け入れてくれたの。なら私に出来る事は1つ……彼を受け入れる事だけよ」
「な……」
「それに私……嬉しいのよ。彼は『死んでる私』を、見てくれているんだって。……嬉しいの……♡」
幽々子の言葉を聞き、霊魔は背中にゾクリとした悪寒を感じる。父から迫ったものと思っていたが、実際はそれというよりも、共依存────お互いに深く入り込んでいる。
幼いながらも、霊魔はこれまで、父や姉達の恋愛模様を目にしてきた。だから、何となく分かった。幽々子の想い、恋心は決して「普通じゃない」と。
何かが違う。何かがおかしい。霊魔はこの感じた感覚を上手く言語化できる程度の語彙力も無いし、人生経験も無い。それでも「歪んでいる」事だけは彼にも痛い程に伝わっているのである。
「枝を打ち払うぜ!霊魔、離れろ!恋符『マスタースパーク』ッ!!」
「西行妖よ!私達を引き離す者を痛めつけなさい!私達の想いを!怒りを!見せてあげましょう!」
幽々子の声、想いに答えるように、西行妖からの攻撃はより一層激しさを増す。深く深く俯いていた妖忌は、わざとらしいまでに深いお辞儀をすると、幽々子の前から立ち去り、白玉楼へ戻ってしまう。
「なっ……おじいちゃん!?」
「妖忌、お前ェ!何してやがる!敵前逃亡か!?」
「────儂は、幽々子様の邪魔をしてまで、己の考えを押し付けたくはない」
「お、押し付けてなんかない!何を言って……」
「儂らの考えと幽々子様のお考えは根本から違う。だがそれでいい。儂らと幽々子様では歩んだ人生が違うんじゃ。考えも想いも、その何もかもが違って当たり前。ましてや、儂のような従者如きが、何を以て主人に逆らえようか。妖夢も、満足したらよく頭を冷やすように」
「そんな……おじいちゃん!おじいちゃんッ!!」
「クソッ、根っからの従者かよアイツ!」
「数が多すぎる、3人でどうやって……!」
幽々子は根元に立っているだけ。それだけなのに西行妖の攻撃は強まり、速まるばかり。魔理沙は、マスパをこまめに放ち、妖夢は楼観剣を振るう。
「魔理沙さんマスパやめて!妖夢さん離れて!」
「「!!」」
「厚壁『
八角形のオレンジの半透明のバリアを出す。枝はバリアを貫くことなく、グサグサと刺さり続ける。怒りはあれど自我は無いのか、迂回して3人を襲うことはなく、真っ直ぐに刺さり続ける。
すると幽々子はギリリと歯を食いしばり……。
「邪魔をしないで!大人しく、寝ていなさい!亡郷
『亡我郷 ‐自尽‐』ッ!!」
「うわっ、レーザーの束……」
「気を付けて!この弾幕は曲がりまくるわ!!」
「はああああああぁっ……!!」
「耐えろ霊魔ッ!力を溜めて……溜めて溜めて、私が全力でブッ飛ばす!!それまで耐えろ!!」
「はいっ!!」
バサと悪魔のような翼が生える。アレは魔理沙の2段階目の変身だ。1段階目なんかで様子見などができないくらいには、かなり追い込まれている。
「ダメだ間に合わないッ……僕のA.T.フィールドが破られるッ!」
「これならどう?亡舞『生者必滅の理 ‐魔境‐』!」
自機狙いの大弾幕は霊魔のバリアに隠れる3人を容赦なく狙う。3人を狙う弾幕が一気に襲ってくるお陰で、霊魔の耐久にも限界が来てしまった。
「も……だめぇっ……!」
「十分だ!よく耐えてくれた霊魔、あとは任せな!魔心『ダブルファイナルマスタースパーク』ッ!」
バキバキとヒビの走るバリアごと、2本の巨大なレーザーが幽々子の弾幕を掻き消していく。遂には幽々子にも多大なるダメージを与え、西行妖へ強く叩きつけてしまう。
「わ……わぁ…………西行妖の動きも止まった……?」
「すご……じゃなくて、幽々子様ぁっ!」
「っと、忘れてた。霊魔、封印封印!」
「へぁっ!?あっ、忘れてた……えっと御札御札……霊符『夢想封印』ッ!!」
全霊力を尽くす勢いで弾幕を放ち更に弱らせる。そこで封印の御札を貼り付け、幽々子の激しすぎる怒りによって解けかけた封印を、より強固なものにしたのであった。
その後、打ちのめされて冷静になった幽々子と、冷静になった妖忌、妖夢、魔理沙の4人はまたあのエスカルゴの死姦に関する話を再開。どうしても、幽々子は認めると言って聞かないのは戦闘前と何も変わらず、仕方なく、この死姦の件についてはもう何も話題に上げない、この場限りの話題にしようと魔理沙が提案。他の者もそれに乗って、今回の件は知らなかった、聞こえなかった事にしようという、暗黙の了解が出回る事になった。
幽々子もまた初期エスカルゴの