調査2日目。残念ながら1日目は特に何も結果が得られずじまいだった。なので今日からは気合いを入れて、少し違う角度で調査しようと思う。
「よォ小兎姫。今、暇かい?」
「どうもエスカルゴさん。暇ではないですが、何か用ですか?絡みに来た────だけではないように見えますけど」
「うん。ちょっとさ、自警団の中でも小兎姫にしか頼めない事があってね。付き合ってくれる?」
「構いませんよ。妖怪でありながら里の治安に力を貸してくれる、あなたの頼みですから」
「そりゃ助かるね。『雅猛リエ』って女について、調べてほしい。秘密裏にね。『ガモウ』の字は
「雅猛リエ……ふむ、戸籍からでいいですか?」
「頼む」
結果。何と、雅猛リエ含む、霊愛が出会ったその3人は幻想郷に「住んでいる」という結果だった。しかし小兎姫は受理した覚えも無いし、初めて見る名前、聞く名前だと言う。
紙面上の事とはいっても、記録を改竄されている可能性が出てきた。怪しさは増すばかり。小兎姫に頼み、自警団としても警戒を強める方向で行こうと合意した。
そして戸籍によると、雅猛リエはその2人と同居している設定になっているようだ。場所は、人里のおよそ中央辺り……河川のそばだ。
◆
「とても良い景色ですわね。嫌な記憶を忘れさせてくれるような……そんな気がしますわ」
(殺す……殺す……)
「はぁ、ダメですわねぇ。殺気が止めどなく溢れてきますわ」
「ミカってばこれだからダメだよね。心にゆとりが無さすぎるっていうか」
「────何か捜し物かな?お嬢さん方」
「「「!?」」」
気配を極限まで殺して背後に接近。面白いくらい気付かれなかったので、つい顔がニヤける。そして上記の言葉を掛けてやると、真っ先に動いたのは、ロングヘアーの少女。
ダンッと地面を踏み込んで、指を力強くまとめた手刀を俺の喉へ突き刺そうと手を伸ばす。
「おやめなさいッ!!ミカ!」
「────ッ!」
指が今にも喉に届きそうになったとき、真ん中に立っているお嬢様風の女が声を張り上げる。すると俺に立ち向かってきた女────「ミカ」は黙って手を引っ込め、渋々ながらも引き下がる。
「全くあなたは……相手も分からずに敵対するような行動はお止めなさいと何度も……」
「まぁまぁ、リエ。そんなのは帰ってからでいいんじゃないの?
「……。大変申し訳ございませんでしたわ……、
「急に声を掛けた俺にも非はあるよ。お互い様ってコトで手を打とうじゃあないか」
「ふふ、ではそのように」
あの女────「ミカ」の殺気には、声を掛ける前から気付いていた。だから振り向いた瞬間に喉を貫かんばかりの勢いで手刀を繰り出されようとも、全く焦らなかった。だって、あれが俺に当たっても当たらなくても、どっちでもいいからだ。
「雅猛リエ────ってのは、あなたかな」
「!……あなた、どこで私の名を?」
「つい一昨日の夕方、俺の娘に名刺を渡してくれたそうじゃないか。俺はあの子の父親さ」
「おや、そうでしたか。とすると、見た目からでは確実な判断ができかねましたが、やはりあなたは、吸血鬼なのですね」
「おう」
「……それで?わざわざ私を尋ねてくるだなんて……どういった内容でしょう?」
「いや、なに。何かを探してるようだったからね、時間がある時にでも手伝おうと思っただけさ。俺、こう見えて顔は広いんだ。幻想郷のみならず幻想郷周辺の世界にも顔が利く。俺と仲良くしときゃあ、割と好き勝手できるぜ。悪い話じゃないだろ?」
「────……」
口元に手を当て、何やら考え込む。しかしものの1分も経たぬうちに、ニコリと微笑むと、透き通るような声で、返答をしてくれる。
「────お言葉に甘えさせて頂きますわ♡」
「ッ!!」
「わっ!?み、ミカ、ストップストップ!」
リエが好意的な返事をした瞬間、ミカは凄まじい勢いでリエの胸倉を掴む。今にもグッと引き寄せて頭突きをしそうな、先程の手刀なんかよりもずっと鋭い動きだった。
「なんです、この手。手を離しなさい。ミカさん」
「……何故」
「
「〜〜〜〜〜ッ……!!」
「あなたが今すぐ解決してくれるのなら、今ここで私を殴りなさい。出来ないのなら手を離しなさい」
そう言われミカは突き飛ばすようにリエを離す。あの速度や手刀のキレなどを見るに、恐らくミカは結構なパワーの持ち主。殴れと言い切るだなんて、その胆力には少し恐ろしいものがある。あんまり、敵に回したくはないタイプの女かもしれない。
「……お見苦しい所をお見せしてしまいましたね」
「気にしないでくれ」
「自己紹介が遅れてしまい、申し訳ありませんわ。私、エデン異世界調査隊長、
「勿論偽名」
問い詰めるまでもなく自分から白状した。いや、白状という気すら無いかもしれない。俺を協力者にしようと決めたからこそ、明かしたのだろう。
「ええ。『異世界調査隊』の名の通り我々は様々な世界を渡り歩いておりますの。その世界に応じて、その世界に殉じ、且つ、自分らしい名前をその都度考えているのですよ」
「はぁ〜、徹底してるんだな」
「ええ。
「ッ!?……何の、事だ?」
「あなたは昨日、人に成りすましてこの里に来た。そして突然、悪魔としての姿を明かしましたよね。人としての名も、あるのでは?」
「……どうして、それが俺だと?悪魔としての気配は極限まで
「ええ、悪魔としての気配は、そうですわ。ですがあなた……悪魔でありながら、神の力を
「!!」
「2つ……3つ…………いえ、4つ。
2つは、武甕槌命とへカーティアという、俺の、主な守護神の力だ。3つ目は妊娠に関する俺固有の神徳だろう。そして
「……」
「その沈黙は、肯定ですわね。私が感知したのは、悪魔としての気配ではなくて、神としてのあなたの気配なのです。だから昨日、私、驚いたのですよ?
「アハ、そーだよね!昨日の昼ご飯中、急に机ごとズッコケたもんね!」
サイドポニーテールの幼女が、ケラケラと笑う。少女2人と幼女1人……バランスがいいのか悪いのか分からないが、可愛らしいのは間違いない。軽く、メスガキ臭がする。
「……ん、なぁに?私の顔に何かついてる?」
「あ、いや。すまん。俺、幼女趣味なもので」
「アハッ!初対面なのによく言えるねぇ!でも私、あなたより年上だよ?」
「だろうね。ハナから人間だとは思ってないよ」
「そう?だとしたら、物好き度が跳ね上がるねぇ?くふふっ、まぁここにいる間は仲良くしよ?」
「そうだな、仲良くしよう」
可愛らしく右手を差し出してくれたので、素直にその手を取り、握手。ふにふにと柔らかい手だが、その感触を堪能しようと指先に力を込めようとした瞬間、パッと手を離されてしまう。
「あっごめーん、自己紹介まだだったよね。これ、私の名刺ね。良かったら貰ってちょーだい♡」
| エデン異世界調査隊
副隊長 らぶり〜♡ AP No. -67200 |
|---|
「ありがとう。ごめんな、俺、名刺とか無くてさ」
「あー、いいよいいよ、大丈夫」
「なら良かった。それと、どうせなら名刺と一緒に君の事も貰いたいね」
「やだもー!幼女趣味のヘンタイさんだ〜♡……ほらミカ、自己紹介くらいはしときなよ」
「…………」
「無理にする事は無いさ。俺も、まだだったよな。俺ぁ、エスカルゴ・スカーレット。神の力はあるがそれ以外は割と普通の吸血鬼だ。人間としての名はヴァルゴ。
「「「!!」」」
3人は揃って驚いたような顔をする。何かまずい事でも言ったのかと思ったが、シエルは腹を抱えてケラケラ笑い出した。可笑しくて仕方ない、とでも言うようだ。
「あっははははっ!ははははっ!ホント!?偽名の名付けのセンス、私達と変わんないじゃん!」
「全くですわね。ふふっ、面白いですわ」
「……」
ミカは、驚いた顔を覗かせたもののやっぱりすぐ仏頂面に戻ってしまう。全く、何がそんなに彼女の気に食わないのやら。男嫌いなら申し訳ないが。
「────エスカルゴ・スカーレット」
「お」
やっとまともに口を利いてくれるのか、と思い、ミカに顔を向けた瞬間、左の眼球にトスッと細い、または平べったい何かが突き刺さった。
「イテッ……全く、手刀の次は目潰しか。って、コレ名刺じゃねーか。名刺で目潰しとかヤバすぎだろ。血の目潰しの方がまだ納得できるわ」
| エデン異世界調査隊
AP No. -0000 |
|---|
「……貴様を殺す者の名だ。覚えておけ」
「あの……初対面だろう?俺、君に何かしたか?」
「それに応える義理はない。私は貴様を殺す、ただそれだけだ」
「えぇ〜……」
ふとリエ、シエルに目を向けると、2人もどこか顔が暗い。シエルなんてさっきまでメスガキじみたニヤケ顔をしていたのに。
するとリエは少し寂しそうに微笑み、小さな声で囁くように言う。
「……私達は、相反する存在です。ですから、きっといつかは、あなた、そして私達が望んでも、そして望まなくても、敵対するときが必ず来ます」
「……そいつは予言か何かか?」
「いいえ。お告げ……のようなものですよ」
「……」
「それでも、今は……。せめて今だけは、仲良く手を取り合っていきましょうね、エスカルゴさん」
「……。あぁ。仲良くしよう」
「はい……!」
その言葉を聞き、俺はこの3人の正体を察した。ミカが俺に殺意を抱いている理由も、推察できた。問題はこの3人が探しているモノだ。これからは、そちらに焦点を当てて、探っていくことにしよう。
追記(2023/05/12 20:00:14)
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