はたて、穹によって頭上の数字が「経験人数」と知らされた山の英雄・エスカルゴの実弟、ヒビキ。自身の数字は本人の認識通り「1」であると確認しほっと胸を撫で下ろすが、2人は言葉を続ける。
「────それでですね、ヒビキさん。この数字は先程も言った通りなのですが、そうすると1つだけ気になる事がありまして……」
「気になる事……?」
「さっき、椛を見掛けたんだけど、あの子の数字が
『2』……だったように見えたのよ」
「どういう事だ?椛の経験人数が『2』?って事になるって事?いやそれはねーだろ。だって、俺らは結婚してからの初夜が2人揃って初めて卒業した夜だったんだぜ」
「「…………」」
やっぱりそうかと顔を曇らせ、見合せるはたて、穹。結婚後に「初めて」を迎え、そのままならば、椛の経験人数は「1」のはず。それなのに現実は、
「2」なのである。果たして、真偽は……。
「2人が見間違えただけだろ。それか、この数字は
『経験人数』じゃないんだ。それしかねーよ。椛が誰とヤるってんだ?」
「……」
「………………そ、そうよね!椛、良い子だもんね!」
「そーだぜ。俺の嫁だし。んじゃそろそろいいか?俺も仕事に戻るからよ」
「あ、うん!余計な時間とらせて悪かったわねっ!行こ、穹ちゃん!」
「え!?あ、はい!」
はたては穹の手を引いて、2人揃ってその場から離れる事に。ヒビキは椛を当然ながら信じていた。しかし「彼女の浮気」とは違う、また別な可能性を彼は考え始めていた。
それは「誰かに無理矢理犯された」という可能性だった。椛は真面目だ、もし誰かに犯されてもその相手の立場などを考えて強気で告発できないとか、そういう事態になっている可能性があった。
寧ろ、浮気なぞ有り得ない、もし経験人数ならば椛の数字が「2」なのはこれが原因だろ、としか、夫のヒビキは考えられなかった。
「この数字の異変は今朝からだっけ。クソ、昨日の仕事をちゃんと終わらしときゃ、朝の内に椛に話を聞けたのに……。さて、椛の今日の仕事的に居るのはきっと────」
尤も、もし前日の仕事を終わらせていたとしても頭上の数字が分からないまま顔を合わせる事になるだけなので、数字の真実を知った後でもう一度椛と話す必要が出てくるだけである。
そして仕事の内容から椛の居場所を突き止める。彼女の頭上には確かに「2」があった。ヒビキは、どこか嫌な予感を覚えつつ椛の仕事を手伝うように装いながら、自然に椛と合流する。
「おはよう椛」
「おはよ、ヒビキ!昨日の仕事、終わったの?」
「あぁ綺麗さっぱりさ。これでやっと今日の任務に手をつけられるぜ」
「それならいいんだけど。……ところでさ、ヒビキの数字は『1』なんだね。私は『2』なんだけどさ、これ、何なんだろう?」
「っ!」
やはり椛も気になっているのか、ヒビキが真相を尋ねる前に椛から話を出してくれた。これはもう、勢いに任せて言ってしまうしかない。
「……さっきはたてさんと穹に会ってさ。この数字の意味、聞いてきたよ」
「おっ!そーなんだ!それで、2人はなんて?」
「『経験人数』……だってさ」
「────えっ?け……けいけん?」
「セックスした人数って事だ。……俺の『1』は勿論相手は椛だ。……なぁ椛、その『2』ってのは…………もう1人の相手って誰だ?……って、オイ……?」
見るからに、椛の様子がおかしくなった。顔面を青ざめさせ、ガチガチと奥歯が鳴っている音が目の前に立っているだけのヒビキにまで聞こえてくる。
その震え方は、寒さに震える動物のようであり、隠し事がバレて両親から怒られると気付いた子供のようでもあった。
ズキリと胸の辺りが痛むヒビキ。何か悪いものを予感した彼は椛の肩を掴み、懇願するように言う。
「……誰だっ!?誰が椛に手を出したッ!!」
「っ……ちが……違うのっ、これは……これはっ!!」
「親衛隊の同僚か?偉ぶってる大天狗のジジイか?野良妖怪とか野良神とかか?それとも────」
次々と候補を上げていくヒビキだったが、椛は、黙って俯いたまま。ヒビキは敢えて「本命」の名を口にしなかった。それをしてしまえば、何か大事なモノを失う気がしたから。
「じゃあ誰なんだよ!俺の椛に手ェ出したヤツは!クソッ!!」
「…………」
「どうして言わなかった!?」
「……………………」
「庇ってんのかよ、そいつの事をよ!!」
「……そんな……事は、ない……けど……」
「じゃあッ!言えよッ!誰なんだそいつはよッ!?俺がブッ殺してやるッ!!」
「……………………言えない…………ごめんなさい……!」
「あっ、オイ!椛ぃっ!!」
涙を覗かせると、そのまま踵を返して、凄まじい速さでヒビキの前から逃げ去ってしまった。当然、彼も椛を追い掛ける。しかし出遅れた為にすっかり見失ってしまった時────椛の叫ぶような声が、彼の耳に入ってきた。
「私の不貞がヒビキにバレましたっ!こんなのっ、もう、どうすればいいんですかっ……私は……!」
不貞────その言葉が耳に入った時、ヒビキは凄まじい衝撃を受けた。誰かに襲われたが黙ってただけだという希望的観測は、椛自らの告白によって打ち砕かれたのだ。椛は浮気していた。……誰と?
「……誰と話してんだ?…………いや、アレは人や妖怪じゃないな……『物』だと?」
椛は、黒い箱型の何かを手に持っており、それに向かって、涙ながらに話していた。その箱には細い棒のようなモノも取り付けられている。
「……トランシーバーかよ、ありゃ。幻想郷なのに、トランシーバーなんて………………いや、河童製か」
河童製のトランシーバーを、椛が自ら購入した?夫である自分とすらトランシーバーでの通話なんてしないというのに。なら、あの通話相手は?河童と繋がりがあり、且つ、椛が想いを寄せるような男。
ヒビキの中ではもう、嫌という程にくっきりと、犯人像が浮かび上がっていた。
「見付けたぞ椛ィッ!!」
「きゃっヒビキっ……」
「そいつを寄越せ!!」
「ダメぇ!!」
木陰から飛び出し、椛を急襲。トランシーバーをひったくると、それに向かって怒鳴り散らす。
「テメェ、クソ兄貴ッ!ブチ殺してやるッ!今すぐ俺ん所に来やがれッッ!!!」
それだけ言うと、相手の反応すら待たずに近くの木に向かってトランシーバーを投げつけ破壊する。涙を流してへたり込む椛を無理矢理に立たせ、顔を両手でグッと固定して真正面から見つめる。
「椛。兄貴に襲われたのか?それとも椛からか?」
「っ……う…………」
無論、初めは「襲われた」。椛は悪くなかった。それだけが事実だ。だから、椛は「エスカルゴから無理矢理に犯された」とだけ言えば良かった。だが生真面目な椛に、そんな事が言えるはずもない。
そもそも最近だと、エスカルゴが迫るより椛から彼を誘惑し、行為に及ぶ事が殆どだった。これではますます、エスカルゴのせいには出来ないだろう。
「……私、から…………です……ごめんなさい……ごめんなさいッ……夫であるあなたを裏切って……私は……」
「……俺の、何が不満だったんだ?」
「よ…………夜の生活が…………アッサリで………………」
「だっ……だってそりゃあ……そりゃあよ、結婚した時に椛が言ったんだろ?『セックスは子作りの為の行為であって快楽を得る行為じゃない』って……」
「…………そう……だっけ」
「え」
「ごめん……覚えて…………ないや………………」
2人の約束事すらも、浮気相手に塗り潰された。ヒビキにはもう、怒りも、悲しみも無い。ただただ凄まじい虚無感に苛まれていた。
「……そ、そんならさっ!これからは、椛がヤリたくなったら毎回、ずっと俺が相手するからっ!なっ!だからもう、ソイツには会わないでくれよ!」
「……ごめんなさい。もう、あなたとのセックスじゃ気持ち良くなれない。濡れないし……イケないの」
「ッ……な……んで…………」
「あの人の……お義兄さんとのエッチじゃないと……燃えないの…………♡」
やはり兄だった。椛の口から「お義兄さん」とのワードが出て、ヒビキは人生で初めて全力、本気の殺意を漲らせた。その相手は実の兄、エスカルゴ。
兄弟だから許せること、兄弟だから許せないことというものがあるだろう。今回は間違いなく後者。明らかに一線を超えていた。
それならば、無理矢理にでも分からせてやろうと強引に手を伸ばすヒビキ。きちんとした夫婦なのにその行為に至るのは、どう考えても悪手だった。
「やだっヤメてヒビキ!スカート捲んないで!」
「なんっでだよ!兄貴には自分から見せたり何だりしたんだろうが!?俺は旦那だぞ!!」
「だからってやめてよ!やめて!やめてぇっ!!」
「邪魔すんじゃねえッ!!」
「きゃあっ!!」
椛の手を払い除け、息を荒くさせながら、彼女のスカートを捲り上げる。しかしそこにあったのは、普段のパンツでも、ましてやドロワーズでもなく、革製の「何か」。陰部に当たる部位にはチャックが備え付けられているらしい。が、ヒビキがどれだけ力を込めようと、チャックは下ろせないし、まして妖怪の力でも引き裂くなんてのは以ての外だった。
「がッ、ぐッ、なんだよ、こりゃあ……ッ!クソッ!外れねえ!オイ椛、鍵か何かあんのかよコレ!?」
「……あるよ。鍵は、お義兄さんそのもの。コレは、あの人じゃないと開けられない貞操帯よ」
「貞操帯……って……浮気相手なんかの為に、そんなモンを付けてんのかよ!?」
「もう……身体だけじゃなくて、心も堕ちたみたい。ごめんね、ヒビキ。……出会った頃に戻りましょう」
「……
「うん……私は母親失格だから……ヒビキに任せる」
「あぁそうかよ、シングルファーザー上等だよッ!こちとらシングルマザー家庭育ちだ!だがその前に最後にヤラせろ!!」
「いやっやめて!何考えてるの!?」
「うるせえ!兄貴なんかと寝やがって……!クソッ、寝盗られた……寝盗られたってのかよ……!クソぉ、千切れねえ、これゼッテー革製じゃ────」
瞬間、ヒビキの側頭部に衝撃が走ったと思うと、彼は横に吹っ飛ばされる。すぐに体勢を整え、何が起きたのかと構える。そこに居たのは、ついさっき自分が呼び出した椛を寝盗った犯人、エスカルゴ。自分の実兄、本人だった。
「おい愚弟、誰の女に手ェ出そうとしてやがる」
「テメェが俺の女に手ェ出したんだろが!?」
「少なくとも椛はお前を『自分の男』だと思ってはいないみたいだが?」
「……ッ」
「お、お義兄さん、やめてくださいっ……喧嘩なんてそんなの……」
「喧嘩?いやいや喧嘩なんてしないよ。一方的に、俺がアイツを甚振ってやるだけさ」
「だったら尚更……」
「黙れ椛ィ!邪魔すんじゃねえッ!これは男と男の戦いなんだよ!!」
「……あ〜……ったくうっせぇなぁ、負け犬がキャンキャンとよぉ……この子犬野郎が……。なぁ椛?」
「…………」
「馬鹿がっ!椛は白狼である事に誇りを持ってる!犬扱いすりゃタダじゃ……」
「はい♡ ヒビキはまだまだお子様の子犬です♡」
「…………は……?」
「あ〜、お前は俺らのプレイ、知らないんだよな。ま、一部だけ見せてやるよ。いいだろ椛?」
「え、えぇ〜……ヒビキが見るのぉ……?♡」
「見せつける為だよ。ほら、ちんちんのポーズ」
「わふっ♡ へっ♡ へっ♡ へっ♡ へっ♡」
「……愛液ダダ漏れだね。じゃ……よし!」
「わぅん♡♡」
合図を出された椛は、彼の下半身に飛びつくと、カチャカチャとズボンのチャックをいじり出した。チャックなんてもの、天狗の衣装には無い。だから手間取るかと思いきや、ヤケに慣れた手つきでそのチャックを探し当て、ジィィと下げると、怒張した彼の肉棒を露出させた。
「スンスン……ふへぇ……♡♡」
「匂い嗅いで恍惚として……全く、とんだ雌犬だな。ほら、さっさと舐めなよ。
「はい♡」
「あっ……なっ、やめろおおおっ!!」
旦那の目の前で、義兄のイチモツを口いっぱいに頬張る。その表情は酷く幸せそうで、奉仕する悦びというものを顔で、身体で、態度で、全てを使って表現しているかのようだった。
「フェラなんてっ……俺には、舌で少し舐めるくらいだったのに……!なんで喉まで咥えてんだよ……!」
「夫チンポより義兄チンポの方がイイから、だろ?そんな事も分かんないから浮気されるんだ。最近は俺からじゃなくて、椛から襲われてんだぜ。俺が。考えられんだろ」
「っ!?」
「見てみろよ、椛の
「ゆ……許さねえッ……よくも俺の椛にィィッ!!」
「霊符『夢想封印』」
「ッ!?うおあぁああっ!!」
封印効果のある弾幕を喰らい、ヒビキは縛られたように動けなくなり、地面に転がる。目の前では、愛した妻が、兄のイチモツを喉いっぱいに咥えて、ジュポッ、ジュポッと激しい水音を立てながら頭を前後に揺らしている。
「お前さぁ。寝盗られた事に怒ってんの?それとも興奮してんの?勃起してんじゃん。なっさけねー。俺なら、どうあっても男を殺しにかかるけどねぇ」
「な、ん、だと……テメェ……」
「興奮してますって認めろよ。そしたら、椛とは、また普通に夫婦を続けさせてやるよ。俺から言えば椛は言うこと聞いてくれるからさ」
「んぇ……?だってお義兄さぁん、私もお義兄さんの女にしてくれるって……」
「あ、もう少しでイケそうだったのに……」
「あうっ、ごめんなさいっ♡ んっ、んぶっ……はふ、わふんっ……んちゅっ、ズルルルルッ♡」
「……話は戻すが、
「ッ……」
「どうなんだ、ハッキリしろよ。お前の目の前で、椛との生ハメ見せ付けてやってもいいんだが」
「……好きだっ!まだ椛が好きなんだよっ!なのに、兄貴のチンポ舐めてる椛がエロ過ぎてっ……我慢汁も止まんねえんだよ!自分でも分かんなくって……頭がメチャクチャになっちまった……!」
「可愛い弟よ、よく聞きな。そいつは『寝盗られに興奮してる』……って言うんだよ」
「ッ……!」
「結構守備範囲の広い俺にも、無い性癖だけどね。だけど、お前のその歪んだ性癖は、椛と夫婦関係を継続しなきゃ決して満たせないよ」
「!!」
「椛、一旦ストップ」
「んぇ?ろぉひたんれふか……?」
「ヒビキは、椛と夫婦生活を続けたいんだと。椛はどうしたい?」
「え〜…………『営み』の時、避妊してくれるなら……別にイイ、ですけど……」
「……だとよ。俺とはもうすっかり生ハメしてんのに夫とは避妊だと。永琳先生に頼んでコンドーム沢山精製してもらうかね。……どうする、ヒビキ?」
「俺は────」
こうして椛との不倫は旦那公認のものとなった。そして、この場で見事に、男らしく決断して見せた弟へ、褒美として、椛との濃厚な種付けセックスを見せ付けてやったエスカルゴは、別な子と交わる為どこかへ去った。
どういうワケか、彼の頭上の数字は「0」。その理由はヒビキにも椛にも、ついぞ理解できることは無かった。
きっと今晩、久しぶりに2人のセックスは大いに盛り上がるだろう。エスカルゴの精液をローション代わりにして、コンドームを使用する夫婦の営みはそれはもう盛り上がるに違いない。
Good End(?)
寝盗りに興奮していたエスカルゴは、ほんの少しはヤる気が落ちてしまったが、旦那公認となったので椛はヤる気がアップしたようだ。
ヒビキは目の前で脳が破壊されたので自分の判断がおかしい事にすら気付けていないらしい。