最弱で最強なエスカルゴの式神
これは数ヶ月前、紫さんのスキマの中で、剣術や魔法、弾幕などのあらゆる技術の特訓していた時のことである。
ふと、俺は紫さんのある言葉を思い出していた。
「式神とは、コンピューターで言うとプログラムのようなものよ。常に決まった動作をするプログラムより、まるで自我を持つかのような、条件に応じて挙動の変わるプログラムの方が、『処理』としては極めて複雑であって、式神として実装する難易度も当然上がる」────。
俺は理系男子、プログラムは俺の領分じゃない。情報科出身じゃないし機械系男子でもない。だから今の俺のこの試みは、畑違いの事だと言える。
「……聞こえてるか?ミスが無きゃ、これで話せると思うんだが」
「*よう。オマエが オイラの しゅじん か?」
「や……やっと喋ってくれた……」
「*つかれた かおだな。ダラしないぜ」
「うっせ」
ヘラヘラと笑っているようなその顔をデコピンで軽く弾き飛ばしてやった。表情を変えられないのかそれとも変える気がないのか、あんまり変わらないように見える。────いや、変えられないのか。
「*そのかおは…… オマエ 12かい れんぞくで ミスしたな」
「お前が喋らないからだろが。期間で言えば4ヶ月以上掛かったっつーの……」
「*ごくろうなこった。だが ザンネンだったな。やっとくちをひらいた オイラも しゃべるだけのにんぎょう みたいな もんだぜ」
「!?」
「*リセットしな。そのほうが しゅじんの ためだとおもうぜ」
◆
「*よう。どうしたんだ?そんなに イラついた かおして。そのかお オマエ 13かいは オイラのせいせいに しっぱいしたな?」
「うっせ。お前こそは成功作だな?」
「*こんなカタコトで よければ……そうといえる」
「……うーむ」
「*リセット するも しないも オマエしだい。すべて おまかせに するぜ」
「とりあえずこれでやっとテストができる。指示の通りに動け。リセットするかはテスト結果次第だ」
「*へいへい。アンタは オイラの しゅじんだ。いうとおりに してやるさ」
性格のプログラムを、少しミスしたのだろうか。どこか違和感があるにはあるが────どこがとは言えないが、どこかに違和感がある。
いつかは慣れるのだろうが、少し悩んでしまう。
やがてテストを終え、俺はレポートを作成する。この為にどれだけ考えてテストを用意したことか。
「……結果を点数化すると、言語能力B、運動性S、能力使用性B、学習能力A、強度Sか……言語能力は良いとして能力Aは欲しいな。Bは『弾幕ごっこが不慣れな子供』レベルだ」
因みにこのクラス分けとしては「S:理想的」、
「A:殆ど不自由しない」、「B:子供レベル」、
「C:赤子レベル」である。
試行錯誤を重ねた結果がコイツだ、これくらいの結果が出てくれないと心が折れるところだった。
「*そいつは アンタの ぎりょうぶそく だな」
「分かってるわい」
「*そもそも オイラは ホンキだして ないぜ。あんな テストごときで オイラを はかれたとはおもわないほうが しゅじんの みのためだ」
「あん?」
「*そのきになれば もっと するどく ふかく きょうれつに あやつれると いっているのさ」
「……いいだろう。じゃ、
「*オイオイ。きびしいな。しゅじんの りそうにたっしていると オイラは おもってるんだがな」
「俺は、自分にもある程度はストイックなんでね。実際に『本気』を目にするまでは評価はB+までが限度だと思ってくれ」
「*りょうかい したよ。ところで しゅじんよ」
「うん?」
「*しきがみは よりしろが ひつようなんだろ。ならば このにくたいは なんなんだ?」
「あ、それ?創造魔法で創ったよ。元となる何かを使用した方が、能力も正当に2つ持たせられるからその方が便利なんだが、その辺の妖獣なんぞに俺の式神をブチ込みたくはないからな」
「*そのセリフ けんじゃの やくもゆかりには きかせられないな?」
「藍には尚更な。聞かれたら殺されちまうぜ。ま、元になる妖獣を捕まえるのがダルいだけなんだ」
「*そのへんは オイラに にてるかもな」
「俺がお前に似てるんじゃあない。お前がこの俺に似てるんだよ」
「*そうだったな」
「言語能力はとりあえず保留でいいか。随時アプデするかもしれないから、その時はよろしくな」
「*リセットは しないのか?」
「そこまでする必要性を感じない。お前に賭ける」
「*へへへ……そうかい。ならば オイラは それにむくいるだけ だろうな。ところで しゅじんよ。オイラの ナンバーは 『13』かい?」
「おう。よろしくな────ver.1.13.0」
◆
そして数ヶ月後。とある任務を任せていた式神の様子を見に、人里に向かった。当然、人里の便利屋
「坂田ヴァルゴ」として、モシャスを使って完璧な変装をして。
見た目が見た目なだけに問題を起こしていないと助かるが────と思い、里を闊歩する。
少し前にあった神々の襲来以降、人里の人間達、特に素直な奴は妖怪に対して寛容になっていたのもあって、見た目がアレでも問題は特に起きていないらしかった。
一先ず、式神と合流する前に腹拵えとして彼女……赤蛮奇の働く飲食店へ向かう事にした。
「よぅ」
「……!また変装してきたんだ。てことはまた何かの調査?」
「いや。今日は少し違う。式神の様子を見に来た」
「式神って言うと……八雲紫が使う、アレ?」
「そ。少し前に開発したんだよ。今、とある任務を与えて里に放ってるんだけど、今日はその回収さ」
「大丈夫なの?」
「大丈夫じゃね?多分。ま、どうにでもなるさ」
「ならいいけど……あ、いらっしゃいませー!」
また客の来店らしい。昼時に来るのはやはり少し判断ミスったかと思い、入口の方をチラリと見る。しかし、そこに居たのは人間の客なんかではなく、人里に放った俺の式神本人だった。
「*お」
「ゴブフゥッ!?」
「キャッ!?なに吹いてんの!?ちょっ……拭くもの拭くもの……」
驚きのあまりに、水を吹いてしまった。赤蛮奇がタオルを取りに慌てて引き下がると、その間に奴が相変わらずのニヤケ顔でやってくる。
「*まっぴるまから さとにくるなんて ヘンだとおもったが…… どうやら へんそう してるとは。どういう かぜのふきまわしだ? しゅじんよ」
「お前こそ……飯なんぞ食わなくていいだろうに」
「*『じょうほうしゅうしゅうは ひとのあつまるばしょで おこなうのが ベスト』……オイラにそうおしえたのは ほかでもない しゅじんのハズだ」
「そ、そうだったな……」
「*じつは オマエのケハイを かんじたので…… ついきになって きてみただけ なんだがな」
「ンだよそりゃ!テキトーかよ!」
「*オイラは いつもそうだと おもうぜ」
「……全く。話は後で聞かせな」
「*はいよ。じゃあオイラは しごとにもどるぜ。またあとで オイラのところに きてくれよな」
「りょ〜かいだ」
俺達がそんな会話をしている所にタオルを持った赤蛮奇がやってくる。さっき入店してきたお客こと俺の式神と俺が会話している場を目撃し、何らかの繋がりを感じたらしい。
「……もしかして、あんたが『式神』ってヤツ?」
「*そうさ。オイラはS────」
「そろそろ俺と赤蛮奇のカレカノの時間だぜ。もう仕事に戻りなさい」
「*やれやれだ。オイラには れんあいかんじょうなどないのに なにをしんぱい しているんだか。えぇと……ウェイトレスの おんなようかいさんよ。しゅじんが せわになってる みたいだな」
「え?あ、うん。でも、どちらかというと私の方が世話になってるかも」
「*まったく このエスカルゴというヤツは もうすくいようがない アクマヤロウだが。アンタは そんな しゅじんの ことを みすてないんだな。アンタは やさしいヤツだ。これからも オイラのしゅじんと なかよくしてくれると うれしいぜ」
「そりゃ……こんなんでも惚れた彼氏だしね。仲良くしてやりますよっと」
「こんなんって……」
「*へへ。じゃ おなじ『みまもるもの』として あくしゅでも しようじゃないか」
「ん。よろし……」
プゥ〜……プスッ……ピチチチッ……という情けないオナラの音が店内に響き渡る。客の視線が、一斉に赤蛮奇と式神の2人に集まる。一方の俺は顔を赤くさせて縮こまるばかりだった。
「*ハハ…… てに ブーブークッションをしかけておいたんだ。おやくそくの ギャグ だよ」
「あんたねえっ!!どんな式神を作ってんのよ!?どう教育したらこんな
「*そうだぜ エスカルゴさんよ」
「「お前の事だろ!!」」
式神のその発言に客の視線は今度は俺に集まる。どうしてだ、と一瞬だけ疑問に思った俺だったが、すぐその疑問は氷解した。
「……おい。俺は里では『坂田』と名乗ってるって、教えといたハズだが?それともこの俺のプログラムミスだとでも言いたいのか?」
「*おっと。そいつは すまなかったな。すっかりわすれていた ようだ。みんな いまのオイラと サカタのオッサンの かいわは わすれてくれるとたすかるんだが」
「オッサンは余計だ!お、お騒がせしましたっ!」
式神の手を取り、瞬間移動で店を出る。まだ入店したばかりで、注文していないのが幸いした。少しプログラムをイジる必要があるだろうか。それともたまたまのうっかりミスだろうか。
「お前よー。もう少しだけ危機管理能力っつーか、どうにかならんもんかね?」
「*さあ。しかしどうも オイラは トンでもないミスを してしまったようだ」
「……」
「*スケル
「さむっ!」
「*またまたぁ。かおが わらってるぜ?」
「知ってる。悔しいけど。……はぁ〜、どうして俺がまたこんな苦労を……。また里での『新しい身分』を作らなきゃいけないじゃあないか……正体がバレたらもう『坂田ヴァルゴ』は使えねえし」
「*ごくろうなこった」
「……お前、ちょっとオイタが過ぎたからお仕置き。今日はもうこのまま仕事に戻っていいから、明日の昼前、博麗神社に来い。うちの子と弾幕ごっこな。霊夢に頼んで式神の完成度を査定してもらおう」
「*オシオキと かこつけて オイラの データをさいしゅ するための ダンマクごっこ だろ?」
「分かってるじゃないか。期待してるよ」
「*オマエのこども なくぜ?」
「……そいつは、お前にインストールしておいた俺の子供達のデータを確認した上での発言だな?」
「*モチロンさ」
「期待してる。是非、泣かせてみてくれ。現状では難しいと思うが、お前がそこまで言うのなら賭けてみようじゃないか」
「*オイラが かったら しきがみを もうひとりよういしな。しゅじんに とっても しきがみの とっくんになる ハズだ」
「……奇遇だね。俺も『もし負けたら2人目の式神の面倒を見てやれ』って命令するところだったよ」
「*ハハ……めんどうを みるのは めんどうだな。こりゃ ゼッタイに かたなくてはな」
分身と違う性格の「式神」はコツコツとどこかの骨をぶつけて音を奏でて笑う。いつもと変わらないハズのニヤケ顔が、何故かとても勇ましく見えた。