「……戦え」
震える拳を握り締め、彼にそう命じた。まだまだ本気は出せまいと思った俺の式神だが、折角本人がやる気になっているのだ。本当なら、咲夜さんだのパチュリーだのと戦ってもらって、ほんの少しずつ敵のレベルアップをしていくつもりだったのだが、ここは霊夢でもいいかもしれない。
ラスボス級の強さの、霊夢でいいかもしれない。
「*りょうかいだ」
キラリと左眼が青と黄に点滅する。まるで
「
「霊夢。コイツと戦った後で、式神としての評価を聞かせてくれよ」
「勿論。アンタは霊魔と戦わせる事で判断しようとしてたみたいだけど、それだと、足りないでしょ。データも判断材料も、何もかも」
「……まぁな。だから次は弦月姫や美鈴、それから、咲夜さんとかと戦わせる予定だったんだ」
「美鈴?最近の美鈴、弾幕よりも前にも増して格闘メインだって聞くけど?」
「だからこそさ」
「……ふぅん。じゃあ、戦闘開始といこうかしら」
「*おてやわらかに たのむぜ?」
「保証はしないわ。────じゃ、まずは手始めに霊符『夢想封印』」
「*さんどめだぞ」
合図も無しに突如戦闘を開始する霊夢、けれどもそれに完璧に対応したSans。が、霊夢の狙いはこの弾幕でダメージを与える事などではない。
「ハッ!」
「*ぐっ」
その瞬間が最も彼が無防備になるのだと、先程の霊愛とSansの戦いを見てすらいなかったのに初見で判断した霊夢は、骨を出し切った時ではなく、骨を出し始めた瞬間に、彼の背後へと瞬間移動。
瞬間移動は、なにも瞬間移動魔法の使い手だけの専売特許ではない。《空を飛ぶ程度の能力》を持つ霊夢にだって、瞬間移動はできる。
Sansは、生まれて初めて攻撃を食らった。
とはいえ、攻撃を受ける直前に振り向いたあたり反応はできていたようだ。だからか、背中に喰らうはずだったお祓い棒での打撃攻撃は腹で受け止め、Sansはほんのちょっとだけ後方に飛ばされ、自身が出していた骨の壁に受け止められた。
「*ハァ…… ハァ…… まさか しゅんかんいどうなんて つかってくるとはな…… オイラも よそうしていなかったよ」
「さっきのルールで言うなら、あと2回であんたの負けになるわね。さっさと立ちなさい」
「*……しかたない。コイツは まだ こんなとこでつかうつもりは なかったんだがな」
「?」
「*かまわないよな? しゅじんよ」
「構わない。寧ろ使おう。その方がデータが集まるハズだよ」
「*そういうと おもったぜ」
「……何をするつもり?」
「*じどう アップデート かんりょう」
「なッ!?」
中途半端だったアップデートがやっと完了した。実はSansのアップデートは少し前から少しずつだが始まっていたのだ。
さっき、攻撃を「見て」回避した時点でアプデはもう既に99%は完了していた。それがやっとだ。
「*スケルトン・モデルSans ver.2.13.1 きどう」
「────ッ!」
距離を取り、構える。
霊夢のその判断は正しい。何故なら、こうなったSansは、幾つかの形態を持つ俺のSansの中で唯一、近距離戦を得意とする形態だからである。
「*『
手元に骨を出したSansは両眼をギラつかせながら地面を蹴り、距離を取ったはずの霊夢に肉薄。
その素早さたるや、吸血鬼に勝るとも劣らない。いや流石に吸血鬼には劣るだろうか。しかし確かにそれくらいの超スピードの領域に迫っている。
霊夢も予想がつかなかったからか、骨での殴打を回避できず、お祓い棒で受け止めるしかなかった。
「ハァッ!!」
「*きかない」
頭蓋骨を割り砕かん勢いでお祓い棒を振り下ろす霊夢だったが、Sansはそれを手に持った骨で受け、カウンターとばかりに地面から骨を生やし、霊夢を空中に跳ね上げた。
これによって互いに被弾数は1となり、どちらもあと2回被弾すれば負けという段階になる。敗北のカウントダウンが始まった。
「*くらえ」
「がッ……こ、れは……重力操作……!!」
地面に固定された霊夢はその重さから彼の能力を把握。しかし霊夢とて吸血鬼。人間と違い肉体にもかなり無理が効くからか、無理矢理に立ち上がると構わずSansへ立ち向かっていく。
とはいえそこはSansである。無理に相手せずに、青いオーラで霊夢を包むようにして、重力の能力を掛ける。
フッと浮いたかと思うと骨弾幕が放たれ、またはブラスターによるレーザーが打たれるが、やはり、霊夢は歴戦の猛者。巧妙な重力の操作とレーザー、弾幕の合わせ技もスイスイ回避していき、被弾する様子、しそうな様子をまるで見せない。
「*こいつは どうだ」
骨で出来た白い枠組みで霊夢を包み込み、動きを制限した上で、地面から数多の骨を生やし、それら全てを一斉に放つ。
「へぇ、重力を真下に掛けつつこの骨の山を越えてあんたんとこに行け、と?足場まで用意してくれるなんて親切じゃない」
「*そいつが ないと
Sansの攻撃の1つ、2Dステージ。マリオに似たそのステージは、枠の上下からも生えてくる骨を、移動してくる足場に乗って回避していくというものである。足場間を移動する時に上の骨に当たりがちだと思うが、霊夢は初見にて回避していく。
「*さすがだな しゅじんが しつこいくらいに おしているだけの ことはあるな」
「これがエスカルゴの嫁、博麗霊夢よ────!」
一際長かった骨をお祓い棒を使ってへし折ると、宙を舞ったそれを更にお祓い棒で打突。缶蹴りでもするようにSansへ骨の欠片を飛ばして攻撃した。
彼はそれを骨の壁を出してガード。続けて自身の足の下にも骨を出し、骨を生やした勢いに乗って、空中に飛び出した。
それに釣られて霊夢が飛び出すと────。
「*ふんばって くれよな。コイツを こえたなら オイラの スペシャルこうげきが さくれつする。しぬなよ?」
右眼だけ器用に閉じてウインクして見せると次はオレンジ色のガスターブラスターを出現させ霊夢に向けてオレンジ色のレーザーを放つ────!
これは流石の霊夢も被弾したろうと口角を上げる俺だったが、霊夢はそのレーザーの中を突っ切ってSansの方へ飛んできていた。
「*オイオイ マジか きいてないぞ」
「オレンジ色の攻撃は『動いてりゃ当たらない』と霊魔との戦いで見て覚えたわ」
「*そうかい ならば これなら どうだ?」
「青……!?」
オレンジ色のブラスターの背後に、より太い青いガスターブラスターを構える。そして、オレンジのブラスターを破壊しながら青のレーザーを放った。初見のレーザーの切り替えだ、これならば霊夢でも被弾する。────そんな風に考えていた瞬間が、俺にもあった。
「*なんだと……?」
「やっぱりね。オレンジが『動いたら当たらない』なら、この青は『動いたら当たる』。なんとなく、そう思ったから私の残機1つ賭けてみたけど。私の賭けは大当たりだったみたいね」
「*くっ!」
これも「博麗の勘」の成せる技なのか。初見にてSansの「青攻撃」を攻略した霊夢は、青攻撃直後の骨弾幕にも動じる事無く、Sansに肉薄────。
疲労が蓄積したSansには、瞬間移動が使えない。だからもう、霊夢がお祓い棒を振るっても、回避が出来ないのである。
「*はやいな みこさんよ」
「な……っ」
「*かいひ できないのなら うけとめればいい。ただ それだけの ことだろ」
「くっ!!」
「*おっと」
お祓い棒を手で受け止められた霊夢は、懐かしのサマーソルトキックをSansの下顎を目掛けて放つがそれも容易く回避されてしまう。
人間霊夢の攻撃ならまだしも吸血鬼霊夢の速度は並ではない。それこそ身体能力が優れていないと、受ける事は愚か、回避すらできないのだ。
「*コイツは どうだ」
「!!」
また、足の下から骨を出したSansは、再度自分を空中に打ち上げると、背中を骨で強烈に押し出し、ロケットのように自分を発射した。
手に持った骨で、すれ違いざまに霊夢を叩いて、2回目の被弾とする為に。
「くっ、このッ……なんて力……まるでエスカルゴと戦ってる気分よ……!」
「無駄だ霊夢!フェーズ2のSansは強度を犠牲に、吸血鬼にも近い高水準な運動性能を得ているッ!」
「……の割に、力押しばかりで、さっきまであれだけ霊魔を苦しめていた瞬間移動を全く使わないわね」
「*!!」
「!!」
「見たところ、とても疲れてるようね。疲れると、瞬間移動が使えなくなると見て良さそうだけど」
「*それが どうした」
「────ッ!?」
白の、普通のガスターブラスターが円状に霊夢を囲むように現れた。これが本家とは違う式神Sansの
「スペシャル攻撃」。本家Sansの、連続壁ドン前の所謂「ブラスター回転」、「洗濯機」と呼ばれる、あの技のことだ。
「* く ら い や が れ」
ドドドドドドドドッ……と凄まじい轟音を上げて、ブラスターの群れが霊夢を襲う。追われるように、霊夢はレーザーから逃げ続けるが、一向にレーザー攻撃が終わる気配がない。
「*ついか…… だ」
「!?」
ブラスターの中にオレンジブラスターが混ざる。しかもそれは霊夢を直接狙うように放たれる。が、その色で「動きながらだから無視していい」などと判断した霊夢は変わらず動き続ける。
だからと言って、無駄に疲れるだけの、無意味な攻撃を続けるSansではない。
「*そらよ」
「うっ!!」
レーザーに追われる霊夢の目の前に、今度は青のレーザーを配置。被弾しないよう止まっている間にジワジワと背後に迫るレーザー群。……それに今にも巻き込まれそうになった瞬間、青レーザーが止まり活路が生まれる。
止まっては進み、止まっては進む。しかし霊夢は一度目こそ被弾寸前まで追い込まれたものの二度目以降は危なげな様子すらも見せない。
「*────これなら どうだ?」
「っ!」
青いオーラを纏わせ、前後左右、上下などなどに霊夢を振り回す。骨弾幕も用意するが、この技は、俺の「重符『ループするスケルトンボーイ』」にて体験済みであった霊夢は────。
「残念。これはもう
「*!!」
「コレで2回目の被弾としてあげる。私にこの技を使わせるんだから大したものよ。『夢想天生』!」
青いオーラを振り払い半透明状態となった霊夢はドギツイホーミング性の弾幕を放つ。これで2回、いや3回目も纏めて被弾させようという腹だろうがそうは問屋が卸さない。
地面から骨を生やし、また壁を作って夢想天生の弾幕をやり過ごそうとするが────。
「これで2回目よ」
「*な」
弾幕を囮に、普通に移動するより早く彼の背後に移動した霊夢は、頭蓋骨にズガンと、お祓い棒にて殴打。Sansは回避も叶わず攻撃を受けてしまうと、吹っ飛ばされた。
「Sans!!」
「さ……あと1回よ」
「*…………」
「エスカルゴ。もしかしてもう終わり?」
「……Sans」
「*……へ へ へ………… まいったな……」
「霊夢は強いだろ?」
「*ああ よそうより データより あっとうてき だとおもうぜ このつよさはな」
「それに対してSans、お前はどうする?どうやら、もう
「*らしいな。まぁ しかたのないことだ だが もうたいりょくも げんかいに ちかいんだよ」
「!」
「* だ か ら こ こ か ら さ き は」
キュインッとSansの眼が光り、ザワリと妖気まで立ち上ってきた。主人の俺に似た、悪魔的な妖気。その密度、濃さ。息が詰まりそうな圧倒的な妖気に霊夢も警戒を強める。
「「!!」」
ブラスターの方向を合わせる為か、ポケットから出していた手を、再びポケットの中に収納。そして右眼だけを閉じるウインクをして見せ……。
「*────ひとやすみ しようぜ」
「……はぁ?」
霊夢はガクリとズッコケたように肩を落として、素っ頓狂な声を漏らすが、そんなSansを見て俺は、
「もしかしたら霊夢を追い込めるかもしれない」といつになくドキドキしていた。