パピルスは敵を前に、怒りと悲しみを綯い交ぜにしたような、簡単には言葉で言い表せない、複雑な気持ちを抱いていた。兄を殺された怒りと悲しみ。家を吹き飛ばされた怒りと悲しみ────他にも、多くの「気持ち」を抱いていたが何より大きいのはやはり兄を殺された事だった。
「*『Disbelief_phase1』」
「?」
「*……お前はオレ様を怒らせたッ!うおおおっ!」
「!?」
右眼が黄色に発光。左眼からは涙を流しており、どこからか取り出した長く太い骨を、棍棒のように扱っている。
「*主人に謝れ……!Sansに謝れッ!!さもなくば、お前を痛め付けるッ!!」
「はァ?誰が誰に対して謝るですって?バカ言うんじゃないわよ。魔界は私のテリトリーよ?なのに、そんな所に許可なく家を建てるなんてバカなの?」
「*うるさいッ!オレ様は生まれたばかりだぞッ!兄ちゃんにカプセルから出してもらったばかりで!その兄ちゃんも殺されて!主人も居ない!オレ様にどうしろって言うんだ!喰らえ『青攻撃』ッ!!」
「だぁかぁらぁ……青くて細っこい骨なんか出して、どうなるってのよッ!!……きゃあっ!?」
青攻撃の骨は「動くと被弾」である。エリスは、骨を木っ端微塵に砕いてやろうと拳をぶつけたので面白いくらいに馬鹿正直に真っ向から青攻撃に被弾してしまったのである。
「何なのよコレは、うざったいわね!ハァッ!!」
動くと被弾する、つまり弾幕ならば青い骨を破壊できる。「動くと被弾」とは気が付かずとも、弾幕でなら破壊が可能と気付いたエリスは、パピルスの青い骨を次々に破壊していく。
「*なにッ!ならば!」
「……ッ!?」
「*これでも喰らえええええええーーーっ!!」
「オレンジのレーザー??フン……そんなモン、私のレーザーで消してやるッ!トドメにしてやるわッ!ぜ〜んぶ纏めて喰らうがいい!轟炎『
────オレンジ、つまり「動かねば被弾」だ。エリスのレーザーはパピルスのレーザーに当たらず真っ直ぐに突き進む。対して、術者であるエリスは動かず立っている。
パピルスは当然、レーザー同士がぶつからない事など理解しているので、100本に及ぶレーザー群すら回避してしまう。
「*吹っ飛べえええええええっっ!!!」
「きゃあああああああぁぁぁっっ……」
性格が戦闘に向かないパピルス。威力はトコトン抑えられているレーザーは、エリスを貫きはせず、それでいて遙か彼方へと吹き飛ばした。どこまでも直線に、恐らくは魔界の入口がある洞窟付近にまで数キロ、十数キロ────或いはもっと遠くまで。
「*……仇は取ったよ……Sans兄ちゃん……ッ!」
「*よくやったよ オマエは…… Papyrus……」
骨の肉体を再生し、パピルスの背後に現れる兄。パピルスは、死んだと思った兄が唐突に現れたので骨をガタガタ言わせて、関節が外れる程の勢いで、ビクッと跳ね上がった。
「*わぁ!オバケになって会いに来てくれたのッ!それでも嬉しいよ兄ちゃんッ……!」
「*バカ いうんじゃない。オイラ ほんにんだ。さわってみろ コツコツ おとがなるだろ?」
「*ホネだけにっ?」
「*そう ホネだけにな」
「*あはっ……あははは!そっか!兄ちゃん、あの時逃げられたんだねッ!良かったぁ……!」
「*……まいど しんぱいされちゃ かなわないから いまのうちに せつめい しておくがな……」
「*?」
「*オイラも Papyrusも ふじみだぞ」
「*……へ?」
「*ふ・じ・み。しんでも ふっかつするのさ」
「*ええぇぇっ!?どういう事なの!?」
「*しゅじんの しきがみ だからさ。あのかたは じしんの しょゆうぶつを うしなうのを ひどく おそれている」
「*ええ〜……。復活するんならあんなに焦る必要も無かったね!エリスに悪い事しちゃったな」
「*いいや。わるいことを したのなら いつかは しっぺがえしが くる。それだけのことだ」
「*……だねッ!ところでおうち、どうしよう?」
「*……。オイラたち まほうなんて つかえないし こんやは このままかな」
「*嘘でしょー!?主人を探しに行こう!!」
「*いまごろ かぞくと ワイワイしてるころさ。じゃまは よくない」
「*……わかったッ!」
「*ところでブラザー そのカッコウ どうした? オマエの 『じどうアプデ』した すがたか?」
「*うんッ!カッコイイでしょ!!」
「*────あぁ。にあってるぞ」
「*ニェッヘッヘッヘ!なら良かったッ!……あ」
「*きが ぬけると もとにもどるのか」
「*みたいだね! よくわからない きのうだ!」
「*そのへんは しゅじんの みょうなこだわり というヤツ なんだろうな」
骨兄弟は吹き飛ばされた家の瓦礫を簡単に集め、小ぢんまりとした小屋のようなものを建てた。が、風は吹き込むし雪は入ってくるし、しかもギシギシ音を立てて今にも崩れ落ちそうで危うい。
2人は、明日すぐ主人に助けを求めようと密かに決心していた。
◆
「ほ〜ん……そんで?Sansを殺した挙句、Papyrusに負けちゃったエリスちゃんは渋々幻想郷に退散し、時間かけて俺を探し出して泣きついてきた、と?」
「う……うん…………」
「ったく……俺と同じ気配だッて察してんなら、何で無闇に近付くのさ?タダモンじゃないって分かると思うけど。『触らぬ神に祟りなし』って言うだろ?迂闊だなぁ……」
「だ、だってさぁっ!アイツら、ダーリンじゃないクセにダーリンと同じ気配とかムカつくのよっ!」
「???」
エリスの沸点が未だに分からない。レミリアすらおちょくる大悪魔の胆力を見せ付けたかと思えば、子供の屁理屈や言い訳などより意味不明な謎理論をブチカマしてくる。
何にせよ、ヤリ小屋で愉于奈とヤろうとしている場面に突撃してくるのは本当にやめて頂きたい。
「アイツらは、俺であって俺ではない骨だからな。気にするなよな」
「気にするの!というか魔界は私のテリトリーなんですけど!?アイツらってば、なに勝手に家なんか建ててんのかしら!腹立っちゃう!」
「アレ建てたの俺な」
「え゙っ」
「そもそも俺は魔界神の息子だし、テリトリーとか言うなら、エリスっつーよりは俺のテリトリーだ。そもそも氷雪世界は街中より
「う……」
骨兄弟と俺との気配は極めて似通っているので、あの家を建てたのが骨兄弟だと思ってしまうのも、仕方ないのだろう。しかし現実は違う。
アレは俺が建てた家でエリスはそれを破壊した。エリスの焦りようも分かる。仕方ない。
「どうする?まだ言い訳したいならどうぞ。全部、綺麗に言い負かせられる自信があるよ」
「……ゴメンなさい……」
「昔と違って素直に謝れるようになったじゃない。よしよし。可愛いよエリス」
「えへへっ……♡」
「んじゃ、このままSansとPapyrusに謝ろうか」
「うぇっ!?わ、私1人で!?」
「そりゃそーだ。俺はこれから愉于奈とヤるんだ。ほら、愉于奈がシャワー浴びてるうちに、さっさと行きなさい。見付かったらメンドイから」
「やーだー!あんな風に負かされて、どんな顔してアイツらに謝りに行けばいいのよー!」
「知らねーよ……エリスが悪いんじゃんか」
「ダーリンも一緒に来てよー!」
「わっバカッそんな騒いだら……」
バスタオルを巻いた愉于奈が、その巨乳を揺らしシャワールームから出てきた。その笑顔に、漆黒の意志を宿して────。
「……私がセックスの準備してるって時に、あんたは他の女とイチャつくんだァ?ふぅ〜〜〜〜ん??」
「ちっ違うぞ愉于奈、これはエリスが勝手に……」
「ぽっと出のアンタよりも私の方がダーリンと親密だし、エッチも沢山シテますけどー?横取りされてムカつく〜みたいな顔すんのやめてもらえるゥ?」
「何ですってェ!?貧乳のクセに!!」
「あんたのが無駄にデカいだけでしょお!?所詮は脂肪の塊よ!脂肪の塊!脂肪の塊!脂肪の塊!!」
「何回言うのよ貧乳!ツルペタ!まな板!洗濯板!紙っぺら!半紙みたいな薄っぺら〜い胸しちゃって可哀想にね!半紙悪魔娘!!」
「だッ、誰の胸がツルペタよ!?『慎ましやか』と言いなさい!!」
「はぁ〜ん?張る胸が無いからって現実逃避ィ!?私なんか肩が凝っちゃうくらいにおっきぃのでぇ?い〜っつも胸張って歩いてまぁ〜す♡ ザ〜コ♡」
「このクソ鬼娘ェェ!!ブッ殺すわよッ!!」
「妖怪の賢者と博麗の巫女すら幾重もの封印にしか追い込めなかったこの私を?どう殺すってのよぉ?おバカちゃ〜ん♡」
「あ、終わった……」
「「
「どっちも好きぃ!!」
「「『どっちも』は禁止ッ!!」」
「……どっちもハメて黙らせてやるよ!!」
◆
数時間後、ヘロヘロになった愉于奈をヤリ小屋に放置し、未だ腰の震えるエリスを連れて氷雪世界へやってきた。
骨兄弟の家は、瓦礫を積んだような掘っ立て小屋以下の建物になっていたので、即座に錬金魔法にて修復してやり、元通りの家が完成した。
「……というワケだ。謝らせてほしいんだとよ」
「い……家を壊して……ごめんなさい……」
「*うんうんッ! あやまりにくるとは やっぱり エラいぞッ! オレさま ゆるしちゃう!!」
「*Papyrusが こう いってくれていることだし オイラも ゆるすことにするぜ」
「……。良かったなエリス」
「うん……。ごめんね……?これからは余計な干渉はしないでおくから……」
「*しゅじんの カノジョだろ? ま…… いつでも あそびに こいとまでは いわないけど ここも しゅじんの きょてん だからさ」
「*しゅじんと あそぶつもりで またオレさまと たたかいごっこで あそぶのも イイかもねッ!」
「ノッポ……あんた、ちょっとは良い奴かもね」
「*いだいなる Papyrusさま だからねッ!」
「*さて だいあくまエリスよ」
「うん?」
「*なかなおりの あくしゅ しようじゃないか」
「……ホントは、ダーリン以外の男になんて、触れる事すら嫌なんだけどね。ま、手袋?か何かしてるしダーリンの骨だって言うんなら、今回だけは、握手くらいならしてやってもいいけど────」
ぷぅ〜ッとまた間抜けな音が響いた。パピルスは
「わぉ! オレさまは きにしないよッ!」などとエリスの神経を逆撫でしまくるような事を言うし、サンズはクスクス笑うし……。
「*てに ブーブークッションを しかけといた。おやくそくの ギャグだよ」
「あんたねええええええっっ!!」
「*おっと。おおぶりな こぶしは あたらんぜ」
「くっ、こ、このォッ!もう1回殺すわよ!?」
「*つぎは ころせないぜ」
全くやれやれだと溜め息が出てしまう。反省したエリスを煽るかのようなサンズとパピルス……。まぁ悪くない。悪いのは家を壊したエリスなんだし、と思っておく事にしよう。
レミリアさえエリスに勝てなかったのに、骨兄弟がエリスに勝っちゃうの?
それなら強さとしては、骨兄弟>エリス>レミリア
なの?
……と思った第一部からの読者のそこのあなた。
安心してください。
レミリアvsエリスと骨兄弟vsエリスでは、骨兄弟が実質エスカルゴだという事を抜きにしても、勝てる要素が幾つかあります。
レミリアvsエリスは、レミリアが攻める側でした。なのでエリスは勝ち逃げというか、「逃げ勝ち」が出来ました。
そもそもアレはレミリアをおちょくることがメインでしたし。
対して今回の骨兄弟vsエリスは、エリスが攻める側なので、レミリア戦のような「逃げることで勝つ」という手が使えないんですね。
攻めてしまった以上、逃げは負けです。エリス自ら
「戦略的撤退など言い訳でしかない」という状況にしてしまっています。
エリスには「受け」が合ってるんですね。
アプデSansが「Last breath」モチーフなのに対し、アプデPapyrusは「Disbelief_Papyrus」、俗に言う
「
「Phase1」だけで何とかなったみたいです。