「文に知恵を借りに行きますか〜」
「しかないよねぇ。でも文さんの家ってどこ?」
「それについては私が把握してるから大丈夫だよ。皆、ついてきて!」
霊愛の先導で、子供達は文の仕事場へと向かう。一介の鴉天狗でありながら個人の家、というよりは仕事場を与えられているのはかなり特殊な事例だ。だからなのか、霊愛は、過去に一度や二度程度来ただけで、すっかり覚えてしまっていた。
夜も更けてきた。射命丸親子は遅寝早起きなのでまだ起きているはずだと踏んだ霊愛だったが、その読みはまさにピッタリ的中。文の仕事場は、未だに明かりが灯っていた。
「文ぁ、穹ぁ、居るんでしょー?ちょっといいー?もしもーし、出てきてよー」
今にも扉を壊さん勢いでドンドン叩く。すると、入口付近の明かりがパッと灯り、眠そうに目を擦りながら穹が寝間着姿で出てきた。
「はい〜……?なんれすかぁ、姉上ぇ……」
「あれ、寝てた?」
「今まさに……ふぁぁ……」
「明かり
「んえぇ……?あぁ……母上、寝落ちしてまふね……」
「えぇ……じゃあいいや、ごめんね。おやすみ」
「はぁい、おやしゅぃらはい……ふあ〜……はふ……」
穹の大きな欠伸と共に扉が閉められる。夜更かししている証だと思っていた明かり。しかしそれは、まさかの寝落ちの印だった。
あの憔悴っぷりを見るに、恐らく前日はまた徹夜していたんだろうな、と4人は密かに苦笑いした。
しかし次の瞬間、文の仕事場の中で強大な妖気が立ち上る。踵を返して、離れかけていた4人は再び入口へ向き直ると、中から扉が蹴破られ寝間着姿の文がいつもの天狗の団扇を持って現れた。
「……っさいですねぇ〜、こんな夜更けにィ……!」
「あー……ごめん文、寝てると思わなくて……」
「もう丑三つ時です、日付も変わってますよ?普通寝てると思いません?電気が点いてたとしても普通声掛けようと思わないでしょう、普通だったら中で寝落ちしてるんだなと思うでしょう。思いません?あぁ失礼しました、そうは思わないからあんな風に非常識にもドンドン扉を叩いてきたのですよねぇ、ええ、ええ、すみませんね点けっぱで寝落ちして」
「ご、ごめんって……流石に今のは私が悪かったよ」
「いーえ許しませんよぉ、4日ぶりの睡眠を邪魔してくれた罪は食べべべ物のののののののォ……」
「文、目の焦点が合ってないよ……」
「とにかくゥ!睡眠の邪魔をした罪は!食べののの恨みよりも霊愛さんんんっ!!」
「れ、霊子っ、お父さんがたまに使う『ラリホー』使えないの?文のこと眠らせないとヤバイよ……」
「知ーらない。てか私、月魔法しか鍛えてないよ」
「霊魔、痺れさせて!」
「電撃って形で雷を扱うの苦手だから、加減が……」
「〜〜〜〜〜ッッ……よし、弾幕ごっこだよ、文!」
「おっイイですねぇ!コテンパンにしてあげますよ霊愛さんんん!大人の邪魔をした罪ィ!よぉくその幼い脳に刻みつけなさい!!」
目を血走らせて、天狗の団扇を霊愛に向ける文。しかし団扇を向けられているのは────。
「あの……私、霊麗です……」
「あぇ?あぁすみませんねぇ、眠くて頭が……。何せ霊愛さんと霊麗さんはソックリでぇ……。霊魔くんもそう思いませんかぁ?」
「……私、霊愛だけど?わざとやってない?」
「あれぇ?どちらも可愛らしいお顔だから、区別がつかなくなってきましたぁ?あひゃひゃひゃひゃ!美しい月夜ですねぇ!こんな日には、弾幕ごっこをするのが相応しいでしょうッ!!」
「もしかして酒飲んでるんじゃないの?」
「ナイス推理、と言いたい所だけど……残念、霊子。全ッ然、お酒臭くない……」
「シラフでコレは狂人でしょ……怖くなってきた」
「これが四徹後の深夜テンション……」
「お父さんの悪酔いの方がマシに思えてきたなぁ」
「「「流石にそれは盛りすぎ」」」
霊愛以外の3人は距離を取り、霊魔は、恋夜から教わった創造魔法をどうにか応用し、蹴り壊された玄関の扉の修復を試みる。しかし霊力が邪魔して、やはり魔法は不発に終わってしまう。
「さぁッ!どっからでも掛かってきなさいィ!!」
「言われなくても!倒して、眠らせてやるっ!」
「あなたを倒して気持ち良く眠ってやりますよぉ!大人の力、舐めない事ですねェッ!岐符『サルタ……ふぁぁ……ねっむぃ……ねむいむい……むい〜……」
「せっ、宣言中に欠伸……!?とにかくスキありッ!霊符『夢想封印』ッ!!」
「んふふ、ノロいノロい〜、当たりませんよぉ?」
「……いや……バチボコに当たってんですけど……」
「当だっでま゙ぜん゙ッ!!」
弾幕を回避しようと空を飛ぶ文。が、その軌道はメチャクチャで、しかもホーミング弾に自ら近付くお陰で、文は自ら弾幕に突っ込んで行っている。
「ヤバイ!文、バーサーカーみたいになってる!」
「アハッ、おもしろ!当たってんのに怯まないとかまさに無敵じゃん!」
「霊子、あんたも手伝ってくんない!?」
「えー無理ィ、叔父さん殴って手ェ痛いからさ〜♡お姉ちゃん1人で頑張って♡」
「嘘つけぇ!!ていうか、なんで夢想封印がロクに効いてないのよ!?」
「お姉ちゃん手加減し過ぎじゃん?その気になれば一撃で倒せるっしょ」
「こんなとこで夢想天生を使うのもなぁ……」
妖怪は物理より精神的な面が強い。今の文は半分眠っている。言わば「動く肉塊」にも近い状態だ。精神攻撃に弱い妖怪が、半睡眠により意識を閉ざし精神的にもダメージを受けなくなったら……?
無意識で身体を動かし、戦闘しているに等しい。
「……絞め技とか使えないしなぁ。使えたとしても、超高速で飛び回る文をどう捕えれば……」
「あややややぁ!?れーあちゃんんん、いつの間に分身なんか使えるよーになったんれすぅ!?」
「は?」
「参りまひたねぇ……ふへっ……こりゃあ……わらひのかんぱいれふ……うぅ……」
「か……勝手に墜落してった……」
霊愛の周りを超速で飛び回った文は、目を回して墜落していった。質量爆弾のような墜落音と共に、木々がへし折れる音と土煙が舞い上がってくる。
「とりあえず寝かせなきゃ。霊魔ぁ、まだ入口の扉直せないの?」
「霊力がまだあるから、魔法が使えなくて……」
「『霊力を使い切らないと魔法が使えない』なんて不便過ぎでしょ……。霊子、なんとかしてくれる?」
「創造魔法なんて鍛えてないし無理だよー」
「うーん、この……。まぁいっか、適当に釘みたいな棘みたいな奴で適当に打ち付けておこ」
「そうしよそうしよ」
「えぇ……扉の意味……」
「そう言うなら霊魔お兄ちゃんが扉直しなよ。もう無駄に時間過ごしてんだしさっさと次に行かないと朝になるよ?」
「……むぅ……」
結局、壊れた扉は文の仕事場にあった適当な金具などを適当に、本当に適当に打ち込み、固定した。蝶番なんかは使用していないので扉は開閉できなくなってしまったが、起きた後で射命丸親子が適当に直してくれるだろう、という適当な願いを込めた。