冥界にやってきた4人は、隠岐奈の扉が白玉楼の門前に繋がっていなかった事に対し文句を垂れつつ白玉楼を目指して走り、または飛んでいた。
やがて、紅魔館とは違う、大きな木製の門の前に到着。しかしそこには────。
「今は通さないぜ、姉上」
「臨時の門番、ですっ!」
「妖舞……小春……ッ!」
白玉楼門前では、無銘の刀を持った妖舞、そして薙刀を持った小春が4人を待ち構えていた。まるで来るのが分かっていたかのように。
以前、博麗神社の子供達が紅魔館に襲撃した際、紅魔館の主戦力が門前で待ち構えていたという事があった。霊愛達は、まさにその時の事を鮮明に想起させられていた。
「あんたら、退きな!」
「通さねーって。今はお客人が来てるんだ」
「
「それって────誰?お父さん、じゃないよね」
「ちげーな。そもそも父上、来てねーし」
「エスカルゴさん……いえ、お父さんだったら、そう言いますし、無理に通せんぼしません」
「幽々子様は紫様と大事な話をしてンだ。姉上さ、紫様に用事があるワケじゃねーだろ?だったらもう帰ってくんないかな。俺ら、交代で寝てるんだよ。気配を感じたから起きちまったけど」
「……紫、か……」
沈黙が6人の子供達を包み込む。交代で寝ているというだけあって、これまで戦ってきた誰より目が冴えているようで、相手の眠気を突いての攻防など出来そうに無かった。
いよいよ、ここからが本番だ────そう構える霊愛だったが、後ろから霊麗が声を飛ばす。
「……お父さんが居ないんなら、白玉楼に用は無いんじゃない?紫に話を聞こうにも、隠岐奈が扉を4つ用意したアレみたいに適当に流されるだけでしょ」
「僕もそんな気がする……。実際、近くにお父さんの気配はしないし、お兄ちゃん達も何も隠してないと思うけど……」
「白玉楼は違ったか……。ここから幻想郷に帰って、リスタート?だっるぅ……ホントどこに行ったのさ、お父さん……」
霊麗達は既に白玉楼を離れる前提で話している。しかし霊愛だけはどうもキナ臭い物を感じていて、解決に繋がるような、何かヒントのようなモノを、もうすぐ探し当てられそうな気がしていた。
「あれ……?もしかしてお姉ちゃん達は、お父さんを探してるんですか?」
「そうだよ」
「そうだよ」
「うん」
「そだよー」
「妖舞お兄ちゃん……やっぱりお姉ちゃん達のこと、通した方がいいのではないでしょうか?お母さん、紫様とはお父さんについて話してたはずです……」
「けど『通すな』って
「うぅ……そうでした、妖忌さんの指示でした……。すみません、霊愛お姉ちゃん……」
「いいよ小春、私達に負けたって事ならあんたらの修行不足で叱られるだけだろうしね。てなワケで、勝負、してみよっか?」
「霊愛お姉ちゃんは、ちょっと……。実戦は初なので私には荷が重すぎです……」
「ふぅん。じゃあ、霊麗。私の代わりに小春のこと倒してくれない?」
「白玉楼はもう無視しても良くない……?帰ろ帰ろ、幻想郷に帰ろ?」
「ダメ。そろそろ『答え』が目の前に来る……何か、そんな気がするの」
「────それは『推理』?それとも『勘』?」
「あ。それお父さんとお母さんの掛け合いじゃん」
「答えて」
「……無論、『勘』だよ」
したり顔でそう答える霊愛。すると霊麗は大きな溜め息をつき、後ろ向きになりかけていた踵を返し前に出る。が、霊麗の前に妖舞が立ちはだかる。
「通さねーっつったろ?小春は実戦がまだなんだ。小春の代わりに俺が相手するぜ」
「妖舞お兄ちゃんじゃ相手として足りないかなぁ。演出もロクに盛り上がらないよ」
「────なら僕がお兄ちゃんの相手するよ」
「「霊魔……!」」
「この前の戦いで、僕と妖舞お兄ちゃんは引き分けだったよね。しかも虔魔が混ざって力関係がまるで有耶無耶になっちゃった。決着をつけよう」
「ヘッ。イイぜ、霊魔……相手してやんよ。真に兄に勝る弟なんぞ居ねえ。虔魔の事も次はブチ倒すぜ」
「見せてあげるよお兄ちゃん。弟も兄に勝てるって現実を……!」
「ねェな。父上だって弟に負けた事はねェんだぜ」
「そうだね。でもそれは弟……ヒビキ叔父さんが弱いだけ。僕は博麗霊夢、エスカルゴ・スカーレットの息子だよ。いつまでもお兄ちゃんに負けっぱなしの僕じゃない……ッ!!」
そこまで言い切ると、懐に手を入れて、けん玉を取り出す。それを見た妖舞は即座に構える。互いに気付いているのだ。「居合で決着をつけよう」と。
「────卍解『安穏遊戯』」
刹那、妖舞以外の全員の目から霊魔が消え去る。続けてコンマ0.000……の差で妖舞の姿も消え去り、何も無い空中に火花が散ると、白玉楼門前に甲高い金属音が響く。
鼓膜を震わす耳障りな金属音は、数秒掛けて暗い景色の中に溶けていく。奇しくも2人は、互いに、相手の立っていた位置に姿を現した。それはまるで瞬間移動で場所を交換したかのような速度だった。
「…………鍛え直し、だな……こりゃ……ハハッ…………」
その場に倒れ込むのは妖舞。男同士、正面からのぶつかり合いで、霊魔は健在、妖舞は気絶。勝者は誰の目から見ても明らかだった。
「……僕の勝ちだよ。────今回はね」
「おー凄い。会話シーンの方が数百倍は長かった」
「会話シーンとか言うのやめて霊子」
薙刀を持つ小春の手は、フルフルと震えている。こんな状態でどう戦うと言うのか。誰から見ても、こんな状態の小春が戦うのは無理だと思われた。
「……さて小春、次は私達だね」
「う……っ」
敢えてそう声を掛ける事で自分の置かれた状況を理解させようとする霊麗。意図に気付いた小春は、押し負けてなるものかと自らを奮い立たせ、両頬をパチンと叩き、目を覚まさせる。
「いざ、尋常に勝負!ですっ!」
「……本気?」
「それが私の、今の役割だからです!だから絶対にタダでは通しません!」
そう言って霊麗に薙刀を向ける彼女は手どころか全身が震えている。亡霊とはいえ、ベースが人間の小春と半人半霊と吸血鬼の混血の妖舞では、恐らく小春が思っている以上に大きな隔たりがある。故に同じような修行をしていても、効果には大きな差が出てしまう。
────しかし、今、彼女はそれを無視してでも霊麗を倒そうと刃を向けている。それならば彼女の覚悟に答えるのがせめてもの礼儀、姉としての礼儀なのだろうと、霊麗もお祓い棒を小春に向ける。
「……加減はしないよ」
「望むところ、です……!たあぁあああっ!!」
着物だからなのか、小春なりに頑張ってはいるのだろうが走りは極めて遅く、薙刀の振りは早くともその刃は霊麗に届きもしない。
難なく回避して見せると、そのまま、サッカーのドリブルの技の1つ「ルーレット」のように回転、小春の背後に回り込むと後ろから首を絞め……。
「かひゅっ……かっ、こっ……お゙っ…………」
「落とすよ。ごめんね。痛くはしないよ」
「ッ…………っ……」
ガクリと項垂れて、呆気なく気絶してしまった。霊魔は妖舞、そして霊愛が小春をおぶり、それぞれ白玉楼の門をくぐる。しかしその目の前には妖夢の祖父、妖舞の曽祖父の、魂魄妖忌が居た────!
「「「「────っっ!!?」」」」
「……やれやれじゃの。来なさい。案内しよう」
「案内?……白玉楼の案内なら不要だよ、こう見えて何回も来てるし」
「左様か。ならばそれぞれの部屋に2人を寝かせて来てくれると助かるのじゃが」
「そしたら紫んとこに行くよ」
「……勝手にするがよい」
師匠だからこそ、2人を、陰から見守っていたのだろう。しかし結果は奮わず。荘厳な雰囲気を纏う老人だが、霊愛にはどこか悲しげにも見えていた。
◆
「あら?霊愛ちゃんに……皆。どうしたの?」
「ごめんね幽々子、すぐ終わるから紫借りるよ」
「え、ええ、構わないけれど……」
「こんな朝方にわざわざ冥界まで来るとはね。一体何の用かしら?」
「紫……お父さんの行方、知らない?」
「知らないわ。そもそも彼が姿を消してる事自体、今のあなたのその発言で初めて知ったわよ」
「……そっか」
霊麗と霊魔は、ハナからそこまで深く問題だとは捉えていない。故にこの2人は、霊愛が紫に相談をしていても、欠伸したり、目を擦ったりしている。
時間は朝方。深夜を超えて、もうそろそろで朝になってしまう。昼型の生活をしている以上、吸血鬼だろうとも眠くなるのは仕方の無い事だった。
「お父さん……その、どこに居るんだろう?紫でも、予想も出来ない……?」
「今日は、確か────紅魔館に泊まる予定よね。なら、普通はその周辺に居ると思うけれど。例えば魔法の森にある彼所有の小屋……あるじゃない?」
「妖怪の山に行ったついでに、そっちの気配探知もしたよ。でもダメ。あの鬼娘の気配しかない」
「うぅん……なら彼、時間を忘れて特訓してるなんてことは無いかしらね。ほんのたま〜にあるのよね、時間を忘れて夢中になる事って」
「えぇ……」
「実は、それなら私にも心当たりがあるのよ」
「えッ!?」
「およそ3箇所ね。……どうする?聞くだけ聞く?」
「聞く!!」
霊子も今回は何も言わなかった。何だかんだで、正解に近付いているような────言葉にできない不思議な感覚だが、そんな気がしていたからだ。
「1箇所目は魔界。魔法の特訓をするのには最高の環境よね。……霊子ちゃんは、知ってるわよね?」
「っ!う……うん……」
「2箇所目は八熱地獄の最下層、無間地獄ね。彼は一度、無間地獄に落ちている。というより、落ちる前から何度も出入りしてはそこの獄卒を相手にして特訓しているからね」
「地獄の常連?」
「彼は『地獄の英雄』のネームバリューを最大限に活用してるのよ。────3箇所目は、八寒地獄の下から2層目、紅蓮地獄……またの名を
「何で
「エスカルゴが地獄の女神、ヘカーティアの加護を受けているのはあなた達も知ってるでしょう。でもそんな中で彼が許されているのは八寒地獄は下から2番目までなの。最下層は特別な力がある、恐らくそんな感じなんでしょうね」
「ふぅん……でも地獄なんてどう行けばぁ〜……」
「……何よ、その目。私のスキマを使いたいの?」
「ダメ?」
「…………そう、ね……面白そうだしいいわよ」
「だよね、やっぱ弾幕ごっこになるよね……え?」
「いいわよ?はいどうぞ、地獄の入口よ」
何食わぬ顔で縁側の先にスキマを開いた。しかしエスカルゴや巫月のスキマと違って向こう側は確認できない仕様となっている。まるで夏のように熱い空気と、生臭いとも違う奇妙な匂いのする風から、このスキマの向こうは未知の世界なのだと、強烈に確信させられた。
「ちょっと紫……いいの?子供達に地獄なんて」
「さぁ?霊夢に知られたら怒られるかもね。だけど
『賢者』の立場で言わせてもらうならエスカルゴは確実に『地獄』に居るわよ」
「「「えっ?」」」
幽々子、霊愛、霊子は同時に声を上げる。しかし紫のこの発言は無根拠なものではなく、確かな……、しかも先程の隠岐奈の発言より遥かに確かな根拠が存在していた。
「エスカルゴの大技は、一点集中のモノから規模がとにかく広いモノまで存在してるでしょう。そんな技を鍛えるなら、どんな場所で鍛えるのがいい?」
「そりゃあやっぱり……広い所、かしら?」
「うん。私もそう思う」
「そうね。魔界は限りなく広いけれど、集落なども点々と存在しているわ。ならば、地獄は?罪人達が殺され続ける、罰を受け続けるだけの地獄ならば、
『地獄の英雄』たるエスカルゴが遠慮する必要など存在しないのよ」
「!」
「地獄とは、エスカルゴにとって『無遠慮に使える広場』なのよ。もし特訓していると仮定するなら、地獄に滞在している可能性は限りなく高いわ」
「八熱地獄と八寒地獄、どっちだろう?」
「そこまでは私も分からない。でも、地獄へ通じるスキマなら開いてあげたでしょう?この先へ進むも進まないも、それは、あなた達次第よ」
霊愛と霊子は顔を見合わせる。既に霊麗と霊魔は立ったまま寝落ちしていた。霊愛達はそれぞれ腹や股間を蹴る事で無理矢理に目を覚ましてやり、遂に地獄に進む事に決めたのだった────。