※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活 第2部   作:エスカルゴ・スカーレット

45 / 104
6面道中:地獄旅行〜The coldest world.

 

「うへ〜、地獄ってやっぱ暑いんだね。てか、ここどこなの?何の地獄?」

 

「ようこそ。ここはまだ地獄のほんの入口────あなた方はまだ『地獄』を目にしてなどいません」

 

「うわぁっ!?」

 

「「「!?」」」

 

 スキマが閉じられ、キョロキョロと周囲を見渡す子供達の背後に現れたのは、地獄の最高裁判長こと四季映姫であった。

 突然の登場に4人は驚き、霊魔なんかはピョコリ飛び跳ねて霊愛の背後に逃げ隠れてしまった。その速度たるや、ポカポカとしている日向で眠っていたところを人間に邪魔され、逃げ惑う野良猫のよう。

 

「あなた方が来るのは、八雲紫より聞きましたよ。私としては許したくない事ですが、私は忙しいので早く済ませたいのです。八熱地獄と八寒地獄、このどちらかにエスカルゴさんは居ると思われます」

 

「……つまり地獄側も、お父さんが何処にいるのかは把握してない……ってコトだね?」

 

「その通りです。エスカルゴさんは例外ですがね。へカーティア様の第一の配下ことクラウンピースはともかく第三の配下の吉弔八千慧ですら、地獄への出入りは禁じられていますが……彼は英雄ですから、例外です。そんなエスカルゴさんの子供達である、あなた方もと言ってあげられれば、私の仕事も些か減るのですが」

 

「じゃあさっさと終わらせるよ。────聞いて、皆。多分お父さんは八熱地獄か八寒地獄のどこかに居る。だけどそれぞれ八層に別れてて探すのに骨が折れると思う。……二手に別れよう」

 

「私は八熱地獄かな〜……暑くて目が覚めそうだし」

 

「僕も」

 

「じゃあ私と霊愛お姉ちゃんは八寒地獄かな?」

 

「……人数的にも、2人と2人で別れた方がいいね。映姫、それでいい?」

 

「『さん』をつけなさい」

 

「え、やだ」

 

「……。全く。では、少し待っていなさい。どちらの地獄に行くにせよ、案内役が必要です。片方は私が務めますが、もう片方は────。少しだけ時間が掛かりますので休憩室、いえ仮眠室を提供します。4人共、少し寝なさい」

 

「「「「────!!」」」」

 

 

 ◆

 

 

 数時間後。仮眠室から出た4人は案内役を務める映姫と、もう1人の案内役こと庭渡久侘歌と合流。久侘歌もエスカルゴの彼女の1人という事もあり、子供達の案内を喜んで引き受けたのであった。

 

「では4人共、まずは私の説明を聞いて下さいね。どの地獄に行くにしても大事な事です。地獄とは、本来は罪人が落ちる場所です。死者が来る事が前提ですので、生身で立ち入れば、当然、即死します」

 

「「「「!!」」」」

 

「そこで、まず4人には防護服を着てもらいます。地獄における技術部とでも言いましょうか、彼らが開発したモノでしてね。私のような管理者などが、地獄間の移動に利用する昇降装置があるのですが、それの設置、及びメンテナンスの為に作られたのが始まりです。────今回は特別に、あなた方に、その防護服をお貸しします。破れた程度であれば、ダメージは受けますが、即死はしません。その辺はご安心ください」

 

「生身で入ると死ぬんだ……」

 

「普通は、ですがね。鬼のように頑強なら話は別。まぁそれはまた置いといて、地獄の女神と、彼女に許された『器』以外の話ですけれど」

 

「器……って……!」

 

「そう、エスカルゴさんの事です。今のあの人は、へカーティア様から許された力に対応する地獄には生身で立ち入りが可能らしくて。へカーティア様に聞いただけですので、私や久侘歌もその辺の詳細は分かりませんけれど……」

 

「許された力に対応する地獄……って何?」

 

「だから、私も詳しくはないと────」

 

「ついさっき紫が言ってた、アレじゃないのかな?お父さんって、八寒地獄だと『鉢特摩』までの力は許されてるんだよね?でもその下はダメって事だし八寒地獄の最下層にはお父さんも生身では無理って話じゃないかな」

 

「あ、そっか。確かに紫、言ってたね。寝てたのによく覚えてるね、霊麗?」

 

「その時はギリ起きてたの」

 

「あはっ、ギリギリかい!」

 

 霊麗のその言葉を聞き、映姫と久侘歌は、揃って目を見開いた。流石の「地獄の英雄」も、許されぬ力があるのだとは、映姫達も知り得ない事だった。

 

「おや、そうなのですね。ならばエスカルゴさんは摩訶鉢特摩(マカハドマ)────大紅蓮地獄の力は使えないと。それならば話は早いです。八熱地獄は八層の全て、八寒地獄は七層までが捜索の対象という事ですね。彼が生身で入れるのは鉢特摩、つまり紅蓮地獄までという話ですから……」

 

「先程確認した所、防護服は現在1着も貸出記録はありませんでした。持ち出ししていないという事はエスカルゴさんも生身という事ですから、映姫様のそのお考えで間違いないと思われます。また、昇降装置も本日は稼働履歴がありませんでした。つまり装置の中に備え付けてある防護服も手付かずかと」

 

「そこまで絞れれば、少しは気が楽になりますね。地獄とは、下層になれば下層になる程、広さが指数関数的に広くなるのです。────彼を探すのは、相当、骨が折れますよ。覚悟はいいですか?」

 

「映姫こそ。仕事を休む覚悟はいい?ろくに裁判も出来なくなるよ?」

 

「幻想郷の閻魔は二交代制です。先日、愉于奈達に殺された閻魔の代わりに、もう1人、新しい閻魔を立てましたし。あなた方が眠っている間に、彼女に話を通しておきましたし、今はあなた方を地獄へと案内するのが仕事ですから、問題はありませんよ」

 

「あ、そう」

 

 子供達はそれぞれ予定通り2人と2人に別れる。八熱地獄は久侘歌が案内役で、霊麗と霊魔が従う。八寒地獄は映姫が案内役で、霊愛と霊子が従う。

 2組はそれぞれ地獄の昇降装置へ向かうと、殆ど同時刻に地獄へと装置を発進させた。

 

「……これ、エスカレーターみたい」

 

「えすかれーたー?何それ?」

 

「外の世界のね……ゲーセンにあるの」

 

「あー、霊魔ってお父さんと外に行ってるもんね。私はよく分かんないけど……これに似たようなのが、外にもあるんだ」

 

「これより静かだよ」

 

「ふーん……。ところでどこに行く?」

 

「最下層に行く毎に広くなるんだよね。だったら、最下層に向かおう」

 

「……だよねぇ〜。広い方がお父さんが居る可能性もあるよね……。久侘歌さん、最下層にお願いします」

 

「はいっ!お任せ下さい!」

 

 実際はゲームセンター以外にも、というか大抵の大きい施設に備え付けられている装置だが、霊魔はまだゲームセンターにしか行った事がない。なので彼はエスカレーターをゲームセンター特有の装置と勘違いしてしまっている事だけはご承知願いたい。

 そもそもだが、霊魔が言っているのもこの装置に似ているのも、エレベーターである。

 そしてそんな会話をしつつ八熱地獄組は最下層の無間地獄へと向かう事にした。

 一方、八寒地獄組は────。

 

「わ……装置、触ると少しヒンヤリするね」

 

「防寒仕様を貫通する寒さって……凄いね。ホントに死にそう」

 

「生身で降りたら即座に凍死しますからね。さて、このまま下層に向かうと10数分後には最下層に到達しますが、何処に向かいますか?」

 

「お父さんが居る可能性が高いのは『広い場所』。だから、最下層から2番目の鉢特摩(ハドマ)に行きたい」

 

「分かりました。それでは行き先を鉢特摩に設定、このまま下降を続けましょう」

 

 2組はそれぞれ無間地獄、鉢特摩へ到着し、父の捜索を開始する。案内役である映姫と久侘歌も幼い子供達と一緒になって捜索を進めていく。

 東西南北すら分からなくなる代わり映えのしないこの景色。時間経過も何も分からず、罪人が獄卒に殺される景色を近くで見させられる世界で、6人は歩き続ける。

 身も心も摩耗してくる捜索、それでも気配すらも感じられない。地獄に居ると信じて探してもなお、見付けられない。

 腹が減れば昇降装置で上に戻って、是非曲直庁の職員と同じように食堂で食事をし、仮眠室で睡眠、そして地獄へ降りて捜索する。そんな地獄のような地獄での生活が続いて、遂に、13日目────。

 幻想郷では、八雲紫により子供達の事情が霊夢に伝えられていたので、霊夢は慌てる事なく普段通り過ごしていた。

 しかし子供達はそうもいかない。気配すら無く、本当に地獄に居るのかと疑いたくなるようなそんな日々が続く。だがまだ探し切れていないからという理由だけで探し続けるのだ。

 エスカルゴの宿泊ローテーションが停止してから丁度2週間目である。エスカルゴ失踪事件を早々に解決したいと誰もが願っていた。幻想郷では、他のハーレムメンバーも、誰に何か言われるでもなく、幻想郷内で彼の捜索を始める者までもが出てきた。しかし、当然、それで彼が見つかるはずもない。

 そんな中で、彼の捜索中に霊愛はふと、ある事が頭に浮かんだ。

 

「────まさか……」

 

「……どうしましたか?」

 

「お父さん……紅蓮地獄(ここ)には居ないと思う」

 

「ッ……」

 

「こんだけ探してそんなオチはヤバイでしょ。ま、是非曲直庁の職員食堂のご飯は美味しいしまだまだ捜索続けてもいいんだけど……。で、お姉ちゃんは、何処に居ると思うの?」

 

「摩訶鉢特摩……つまり大紅蓮地獄だと思う」

 

「バカな!それは無いですッ!私や久侘歌が初日に言ったでしょう、エスカルゴさんは生身で地獄へと降り立っていると!彼は摩訶鉢特摩の力は使えないように制限されている!そんな中で摩訶鉢特摩など踏み込めば死ぬだけです!」

 

「死ぬんだろうね。で?だから何なの?お父さんは不死身なんだよ?死んだってその場で復活できる。そんなお父さんが今更『死』を恐れて大紅蓮地獄に足を踏み入れない────そんな保証も無いよね」

 

「……つまり、今から大紅蓮地獄を探しに行こうと?そう、言いたいのですか?」

 

「うん」

 

「これまでの13日間を無駄にしてでも?」

 

「嫌なら来なければいい。映姫の案内は要らない。裁判でも何でも勝手にしなよ。あの装置の扱い方は映姫の操作を見て覚えた。もう私1人で昇降装置は好きに扱える。霊子はどうする?」

 

「ん?私?トーゼン、大紅蓮地獄に行くよ」

 

「……助かる。霊子、霧にも成れるもんね。私よりも捜索範囲が倍以上に広い。来てくれるなら良いや」

 

「待ってください!」

 

「まだ……何か?」

 

「摩訶鉢特摩は────その凍結の力の強さ故に、地獄の時間すらも凍結していると言われています。時間が止まってしまっていてはエスカルゴさんでも活動は不可能なんです」

 

「でもお父さん、モルモーの時間魔法とか、咲夜や弦月姫、虔魔の時間停止も効かないらしいよ?」

 

「へカーティア様に聞いた事があります。『時間の停止にもパターンがある』と。即ち『能力、魔法、凍結の3種である』と。エスカルゴさんに通じないというのは前者2つのはず。後者の『凍結』は彼も影響を受けてしまうのです。これは本当です。彼の守護神の1柱でもあるへカーティア様がそう仰った事なのですから、嘘なはずがありません」

 

「ッ!」

 

「昇降装置を設置する時には、その能力者が地獄で存命でしたから、その者により摩訶鉢特摩にもあの装置が開通しました。ですが今はもう居ない。故に摩訶鉢特摩はここ数年、いや数百年以上、手付かずなのです。そんな世界に誰が足を踏み入れると?」

 

「お父さんなら有り得る!」

 

「有り得ませんッ!」

 

「有り得るったら有り得るの!あんたにお父さんの何が分かるっての!?私達のお父さんの何がっ!!あんたより近くでお父さんを見てきたのはこの私!お父さんの考え方もやりそうな事も、あんたよりも私の方が熟知してんの!反対するんなら来なくてもいいよ!捜索は私と霊子で継続するッ!!」

 

「っ……!私だって、エスカルゴさんと心を通わせた仲なんです!へカーティア様に聞いて知ってますし断言くらいでき────」

 

「あぁ!?親子の絆以上に!?愛し合う以上に!?生まれて何年もずっと、寝食を共にする以上に!?自分の全てを曝け出せるくらいに、お父さんと心を通わせたっての!?あんたみたいな堅物の閻魔が、お父さんみたいなどこまでも不埒な男と、娘以上に心を通わせたって言いたいワケ!?そう簡単に娘に向かって『あなたのお父さんと心を通わせた』

なんて言ってんじゃないよッ!バカチン!あんたは地獄で、浄玻璃の鏡でも懇切丁寧に磨いてなッ!!お父さんの捜索には私と霊子だけで行くッ!!」

 

「あっ……霊愛さんっ!!待って……きゃあっ!?」

 

「行くよ霊子ッ!お父さんは紅蓮地獄の下、大紅蓮地獄に居るッ!!」

 

「オッケー、ついてくよ、お姉ちゃんっ♡」

 

 映姫の足元の地面をお祓い棒で叩くと、そこにはスキマが開かれ、映姫を地獄の入口の方へとワープさせてしまった。異世界間は繋げられないが霊愛と霊麗も霊夢と同じようにスキマを扱う事ができる。それを、映姫に使用したのだ。

 続けて霊愛はまた別なスキマを開き、霊子の手を取ってスキマへ飛び込む。その出口は昇降装置で、映姫が上で昇降装置の操作を開始するよりもずっと早くの内に、霊愛は、大紅蓮地獄へと降下する為の一連の操作を終えていた────!

 

「……お姉ちゃんの地雷、何となく分かったよ」

 

「地雷?」

 

「『第三者がお父さんを分かった気になる』のが、お姉ちゃんはダメなんだよ。そうでしょ?」

 

「そう、なのかなぁ。少しイラッとしただけだよ」

 

「少しイラッとしたくらいで閻魔に喧嘩を売るのはヤバイと思う。そこはせめて『地雷踏まれた』とか言えば、嘘ではない言い訳になるのに」

 

「フン……どうでもいいよ。お父さんさえ見付かれば後はどうでもいい」

 

「……ま、そーかもね」

 

 装置の外から冷やされるだけあって、装置の中も適温ではあるが涼しい方である。霊愛がいつもより早く冷静になれたのは、環境のお陰かもしれない。そして、最下層への移動中……。

 

「霊麗お姉ちゃんとお兄ちゃん、連れて来なくても良かったの?合流すればいいのに。お兄ちゃんも、私と同じく霧になれるじゃん」

 

「映姫を出し抜くには上に戻って八熱地獄に向かう暇なんて無かった。それだけだよ」

 

「……それもそっか。上に戻って、八熱地獄の入口に向かって、無間地獄まで時間を掛けて降りて、その無間地獄のどこかで合流して、また上に上がって、こうやって大紅蓮地獄にまで降りてくる────。思ったより凄い手間が掛かるね」

 

「うん。だから霊麗と霊魔は置いてきた。時間凍結だとか、そんなのは知らないけれど……お父さんは、大紅蓮地獄に居る。仮に私と霊子が時間凍結で行動できなくても、きっとお父さんが助けてくれるよ」

 

「ん……そだね」

 

 そうこうしている内に、2人の乗った昇降装置は大紅蓮地獄へと到着。装置の出口が広がる。強烈な冷風が吹き込んでくるが、防護服のお陰で、寒さは感じずにいられた。

 

「わー、風が……。雪とか氷?とか顔に引っ付く……これは探すのに骨が……折れ…………」

 

「え……ウソ……?」

 

 装置からそう遠くない位置に、この青白くて寒い景色には極めて不似合いな、半袖とミニスカートの女神が立っていた。頭上に赤い球体、手にそれぞれ月と地球を模したような鎖のついた球体を浮かべ、その女神自身も空中に立っていた。

 

「────へカーティアッ!?」

 

「何でこんな所に……」

 

「防護服で顔が見えないけれど……その気配、まさか霊愛ちゃんと霊子ちゃん……?ゼウス倒した後の宴会以来かしら?」

 

「へカーティア!何でへカーティアがここに!?」

 

「そりゃあなた、私は地獄の女神よ?大紅蓮地獄は私の庭。主人が自分の庭に居ちゃ悪いかしら?」

 

「悪いとは言ってないでしょ」

 

「あ、それもそうね、失礼したわ。……それで、何故2人は地獄なんかに居るのかしら。エスカルゴくん居ない間に、大罪を犯した上で死んじゃった?いやそれは無いわね、ご丁寧に防護服なんか着てるし。私の加護も無いのに2人で大紅蓮地獄に来るとは、霊夢以上に無鉄砲ね、あなた達は。凄いわぁ♡」

 

「お父さんが居ない(・・・・・・・・)?」

 

「?……あっ!やだ私ったら、何言ってるのかしら!今の発言は忘れて♡」

 

「何で、お父さんが居ないって分かんの?」

 

「いやー……何となくそんな気がしたのよぉ♡」

 

「嘘だッ!!」

 

「あーあ、へカーティアってば自白しちゃったね。お父さんの行方、絶対知ってるでしょ」

 

「……いいえ?」

 

「いいや、絶対に知ってる!霊子の言う通り、今、へカーティアは自白したんだ!お父さんは何処!?何の為にお父さんを!?白状しなッ!!」

 

「………………」

 

 へカーティアはこれまでに無いくらいに……神々と戦争する事になるだろうと判明した時より大きな、それはもう大きな大きな溜め息をついた────。




次回────博麗の子供たちvsへカーティア。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。