※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活 第2部   作:エスカルゴ・スカーレット

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6面:地獄顕現〜The chaotic power.

 

「はあぁ〜〜〜〜〜……失言しちゃったわぁ……」

 

「やっぱり……へカーティアッ!」

 

「ええ、そう。そうよ。あなた達の思っている通りエスカルゴくんの失踪の原因は私よ」

 

「あんた……!あんたのせいで幻想郷の宿泊ローテが滅茶苦茶になってんのよ!」

 

「……そこ?もっとこう……『お父さんを返せ』とかそんな感じのセリフを期待していたんだけど……」

 

「……何をバカな事を言ってんのか分かんないけど、そんなの内包してるに決まってんでしょ!」

 

「そーそー」

 

「う、うーん、そうなのね。でも、ごめんなさい。あなた達には悪いけれど、エスカルゴくんは、もう幻想郷に帰せないわ」

 

「は?何を言って────」

 

「「お姉ちゃ〜〜〜んっ!!」」

 

「「「!?」」」

 

 その時。背後、かなり後ろの方から、霊愛を呼ぶ声が聞こえてきた。それは、八熱地獄に居るはずの霊麗、霊魔の声。

 すかさず、霊子は合図代わりに夢想封印のような弾幕を自分達の頭上に放ち、花火のように使って、2人の為の合図とした。程なくして、霊麗と霊魔は霊愛と霊子に合流を果たした。

 

「あんたら、どうして……」

 

「映姫さんが無間地獄に来たんだ。『霊愛さん達が摩訶鉢特摩へと向かった』って。危険だからせめて4人を合流させようって事で久侘歌さんと合意して私達だけでここまで来たの」

 

「そう、だったんだ……映姫が呼びに……」

 

「それより……なんでへカーティアが?」

 

「へ、へカーティアさんが……お父さんを、どこかに連れて行ったんですかっ……?」

 

「……ごめんなさいね霊魔くん。今、霊愛ちゃん達に言いかけたんだけれど……もう、エスカルゴくんには会わせられないわ。幻想郷に帰せない」

 

「え……?」

 

「……とか言ってんの。さっさと説明して!」

 

「言われなくてもするわよ。私には説明する義務があるからね。急かさないでちょうだいな」

 

 霊愛に急かされながら、へカーティアは子供達を宥めつつ、そのような発言をした理由を、そして、その意図を子供達に伝える。

 

「────実は、ゼウスの騒動を鎮めてくれたお礼という意味で、エスカルゴくんに、力を授けようとしたんだけれどね。それが上手くいかなくて、彼、暴走しちゃったの。だから今は────この大紅蓮地獄に彼を放ってるの。彼をこの大紅蓮地獄の中で封印する為にね」

 

 4人な言葉を失った。確かにゼウスの騒動では、へカーティアの代わりに父・エスカルゴが、かなり尽力しただろう。へカーティアがそれに対して礼をしようとするのも分かる。お礼として力を授ける、というのは、正直4人の誰も理解できなかったが、お礼をしたいという気持ちは理解できた。

 しかしそれにより彼が暴走した、しかも暴走してマズイから封印する、という言葉には、微塵も理解なんて及ばなかった。

 単なる思考停止とも、また違う。理解不能、脳が理解を拒んでいる。思考しつつ思考が停止しているような、奇妙な感覚に襲われていた。

 妙に現実味の無い、嘘のような、本当の話。

 普段なら笑い飛ばすような言葉だが、この状況にへカーティアの様子から、どう考えても本当の事と信じざるを得なかった……。

 

「封印って……え?どういう……嘘、でしょ?」

 

「本当よ。大紅蓮地獄に放ってるわ」

 

「やめて。『放ってる』だなんて、私のお父さんを獣みたいに言うのはやめてっ!!」

 

「獣……そう、今のエスカルゴくんはまさに獣。私が誰なのかも判別できないような────狂気とも、心を闇に堕とすとも違う。完全に『力』に思考を、肉体を、精神を呑まれてしまった……」

 

「ふざけ────」

 

「待って、お姉ちゃん。……へカーティア、教えて。お父さんに、何の力を、どういう力を、授けたの?少なくともその『力を授けた』のは幻想郷での行為じゃないよね。お父さん程の大妖怪がそこまで暴走したなら、幻想郷の何処に居ても察知できるよ」

 

「…………鋭いわね……霊麗ちゃん。エスカルゴくんに力を授けたのは、ここ。この大紅蓮地獄での事よ。彼に……ずっと渋っていた『大紅蓮地獄』を扱う力を授けようと思ったのよ。エスカルゴくんは、それを目標に己を高めていた部分もあった。彼の努力を、その『ご褒美』って形で、認めてあげたかったの。だけど────私の目はもう、曇っていたの。彼を恋慕するあまり、つい、甘やかしてしまった。まだ本来の『基準』を満たしていなかったのに、私は、彼に『大紅蓮地獄』の力を持たせてしまった……」

 

「そしてそれは14日前の朝から昼前に掛けての事、なんだよね?」

 

「そうよ。あの時、エスカルゴくんから『この後、チルノと特訓する予定があるから、その前に、軽く相手してほしい』────って連絡をもらってね」

 

「「「「!」」」」

 

「これは良い機会だって思ったの。私もギリシャの再統一とか、会議とかで忙しくしていて……あんまり幻想郷に顔を出せる状況じゃなくてね。久しぶりに帰ってくる事ができたから、会うついでにあの時のお礼をしたいな……って思って、彼に、大紅蓮地獄(ここ)に来るよう連絡して────ここで、力を授けたの」

 

「……でも、それは上手くいかず……?」

 

「……暴走した。…………あなた達は知ってるかしら?力っていうのは本来、魂に宿るものでね?だから、伊弉諾物質(イザナギオブジェクト)は魂をコピーして能力を込められるの」

 

「「えっ」」

 

 霊愛と霊魔は同時に声を上げた。2人も、伊弉諾物質が使われている武器を使用するからだ。霊愛は陰陽玉を、霊魔はけん玉を。

 伊弉諾物質には魂が込められている事も、そこに能力が宿る事も知っていた。しかし「能力と魂」が何故同時に込められているかまでは考えなかった。

 

「不死者も伊弉諾物質のメカニズムと同じなのよ。彼、いえ、魂を本体とする不老不死者は、死ぬ度に力に適合する。だから私は彼を殺そうとしたのよ。死から復活して、無理矢理にでも大紅蓮地獄の力と彼を適合させようと考えたから……」

 

「……えっ、待って。てことは、へカーティアですらお父さんを殺せなかったってコトなの!?」

 

「殺せるわ。その気になればね。だけど、その前に逃げられてしまった。彼を探しているのは、実は、私も同じなのよ……っ」

 

 悲痛な顔で零したへカーティアだったが、それに同情する子供は、ここには居ない。

 へカーティアの勝手で、父が狂い、暴走し、今も果てのない大紅蓮地獄の中を彷徨っている。そして殺せないならそのまま封印し、幻想郷には帰さないなどというそんなへカーティアの考えを許容できる者はこの場に誰1人として存在などしていない。

 

「ふざけないでッ!あんたの勝手でお父さんをっ……お父さんを私達から奪うなんて!許さないから!」

 

「……お姉ちゃんを泣かせた。私も許さない……!」

 

「僕も……へカーティアさん…………僕らのお父さんを返してくださいッ……!」

 

「殺すのなんて楽勝だよ?私が破壊魔法を使えば、誰だろうと死ぬよ。だからさっさとお父さんの所に案内しなッ!ダメとか言うならブチのめすッ!!」

 

「ダメよ。あなた達が今のエスカルゴくんに会えばエスカルゴくんに殺される事になる……!それだけは避けなくてはならないのよ……ッ!!」

 

「うるさいうるさいうるさいうるさいッ!!黙れ!もう怒った!許さない!絶対にッ!ボコるからッ!霊符『夢想……封印』んんんんッッ!!!」

 

「霊符『夢想封印』!!」

 

「卍解『安穏遊戯(あんのんゆうぎ)・曇電兌死(どんでんがえし)』ッッ!!!」

 

「滅却『消散の霧』ッッ!!!」

 

 霊愛の夢想封印を合図に戦闘が開始する。続けて霊麗が夢想封印を、霊魔が連続での居合を、霊子は破壊魔法を使用し、触れた物を朽ちさせる黒い霧をへカーティアへ向けて放つ────!

 

「ダメったらダメよ。今の彼は本当に危険なのよ。この私でさえ殺されかねないくらいに、ねッ!!」

 

「ぐぅっ……」

 

 霊魔の神速での連続居合を身体を少し捻るだけで回避していたへカーティアは、ある瞬間、軽く身を捻りつつその回転を利用しての蹴りを加えた事で、霊魔の身体を吹き飛ばす。

 

「霧なんて一息よッ!」

 

「……!?ヤバッ……皆、逃げて!」

 

 防護服を着てないのを良い事に、へカーティアは霊子の破壊魔法に向けて思い切り息を吹き掛けて、霧を押し返してしまった。魔法など使うまでもなく完封できるぞ、という完璧なまでの脅し(パフォーマンス)だった。

 

「クソッ!私の魔法が跳ね返された!無効化の方がまだマシだったよッ!!」

 

「防護服は無事よね?あなた方を殺す事じゃなく、軽く痛めつけて幻想郷に送り返す事が目的だから、防護服に傷がついちゃったら教えてね。その時は、すぐに修復したげるから」

 

「く、余裕たっぷりってかッ!?ハアァアッ!!」

 

 霊子は怒りを滲ませて拳を向けて突撃。しかし、へカーティアはそれに対して月の球体を振り回してぶつけ霊子の拳、否、霊子の身体ごと吹き飛ばす。

 そしてそれを見るや否や────。

 

「……妹を囮に使うなんて、中々に悪魔的ね」

 

「ッ!ハッ……ぎゃっ!!」

 

 霊子へ攻撃する為に月の球体の鎖が伸び切った、まさにその瞬間、攻撃の手を1つ失った好機と見た霊麗は、背後からへカーティアへ蹴りを仕掛ける。それなのにへカーティアは、まるで後ろに目があるような反応速度で、今度は地球の球体を霊麗の腹へ発射し、霊子と反対方向に吹っ飛ばした。

 

「『夢想天生』ッッッ!!!!」

 

「……ッ!!」

 

 霊麗も霊魔も霊子も、霊愛からは離れた所にまで飛ばされている。その機を逃す事無く、霊愛は殆ど確殺の、必殺の夢想天生を放つ────!!

 流石のへカーティアもグレイズすら叶わず全身に被弾する。地面にも攻撃は当たり、破壊された破片などもへカーティアを強かに打ち付け、もうもうと土煙が上がる。

 へカーティアからの反撃は無い。それどころか、目の前にへカーティアらしき気配も無い。

 

「っしゃあッ!!これでどうよッ!?」

 

「……残念。私は後ろ(ここ)よ」

 

「へ」

 

 手刀。霊愛は振り返る事もできずへカーティアの攻撃で気を失ってしまった。

 遅れて、霊麗ら3人も戻ってくるが、その全員が身体のどこかに、ダメージを負ってしまっていた。

 

「お……お姉ちゃん……お姉ちゃあんっ……!」

 

「霊愛お姉ちゃんがっ……く、そォ……」

 

「チクショウッ……私の魔法がもっと強ければ……」

 

「……私は神なんだし、魔の力に対抗する為の霊力が効くはずも無いのにね……。巫女というのはこうも、こと『vs神』にはトコトン弱いのよね」

 

「それでもおかしいっ……たとえ霊力は効かなくとも弾幕のダメージはあるはずなのに……っ!」

 

「……?弾幕のダメージなんて耐えればいいだけよ?誰でもやってる事でしょう?」

 

「な……っ」

 

「そうでしょう?天子が、勇儀が、エスカルゴが、妹紅が、輝夜が、白蓮が────。こと『耐える』という意味では、魔法を得意とする私なんだから、殆ど不可能は無いのよ」

 

 御札版の夢想天生が強い理由は、主に2つある。

 1つは、不可能弾幕と言える程に高密度な弾幕の密度である。この弾幕の密度はまさにグレイズすら許してくれないだろう。

 2つ、御札に霊力が込められているという事だ。妖怪、特に悪魔などに霊力という神聖な力は特効。加えて、前述した「弾幕の量」がある。

 弱点となる攻撃を(・・・・・・・・)超大量に浴びてしまう(・・・・・・・・・・)────そう考えれば何故、夢想天生が妖怪に対して必殺の攻撃となり得るのかが分かるというものだろう。

 しかし、へカーティアは神である。神聖な存在に対しての神聖な力は、効果が極めて薄い。そして、その暴力的なまでの身体強化の魔法。

 回避する必要が無いくらいに身体を強化すれば、弾幕によるダメージも無効化同然にしてしまえる。へカーティアがやってのけたのは、まさにこれだ。

 

「お姉ちゃんを……離してッ!!」

 

「だ〜め。このまま地上に瞬間移動させるからね」

 

「やめ────」

 

 霊愛を取り戻そうと霊麗は迫る、しかし無慈悲な事に、へカーティアは瞬間移動魔法を使用し自分が気絶させた霊愛を博麗神社へワープさせた。

 

「────てえぇぇええええっっ!!!」

 

「遅いわよん」

 

「ゴフッ……うぐ……ッ」

 

 霊麗の拳を素手で受け止める。ガラ空きになった彼女の胴体をつま先で蹴り上げるとダブルスレッジハンマーで地面へと叩きつけてしまう。

 

「さて、次は霊麗ちゃんを────」

 

 霊魔の卍解は、未だ継続中である。瞬間移動にも迫る程の移動速度を見せた霊魔は、今の、目の前のへカーティアが「本体」ではない事を良いことに、容赦なく首を斬り飛ばそうと刀を振るう────!

 

「あら危ない。でも好きよ、そういう容赦の無い、本気の攻撃……♡」

 

「!!」

 

 月と地球の球体に繋がる2本の鎖をクロスさせ、霊魔の斬撃を防いでしまった。続けて、鎖を器用に扱い刀に絡めると、霊魔の手元から「安穏遊戯」を奪い取ってしまった!

 

「あっ……!?」

 

「Γεια*1♪」

 

 霊麗を瞬間移動魔法でワープさせた直後、それによって動きに一瞬の乱れを生んだ霊魔に思い切り、殆ど本気とも言える威力で拳骨。

 

「ぐぶっ……」

 

「────空間に広がってる(そこにいる)のは分かってるわよ、霊子ちゃん♡」

 

「!?」

 

「空間圧縮……か・ら・の……♡」

 

(グエッ!?……ぐっ、ぐぅ……あぐっ……!動けな……うぐぐぐぐぐぅぅううっっ……)

 

 霧となった吸血鬼は、どう捕まえるのが正解か?そもそも、当たり判定を完全に失っている吸血鬼をどう捕まえるのか?

 へカーティアはこの問題に1つの答えを出した。それは「囲めばいい」という身も蓋もないものだ。

 例えば、目に見えず触れもしない「空気」をどう捕まえるだろう?袋を広げて∞の字に動かしたり、風船に息を吹き込んだりするだろう。

 それと全く同じ事。「空気を遮断するモノで包囲する」だけで、霧と化した吸血鬼でさえ、呆気なく無力化させられるのだ。

 へカーティアはまず、時間魔法の応用で、霊子が霧として広がった空間を圧縮。続けて、魔力による強固なバリアにて「その空間」を包囲してしまう。

 それだけでいい。それだけで、霧となった霊子を完封してしまった。

 

「狸寝入りしてる悪い子は居ないかしらぁ?」

 

 霊麗はダブルスレッジハンマーで、霊魔は拳骨で既に気を失っている。霊子はバリアにて包囲され、抜け出せないと諦めたのか、とっくに霧から人型へ実体化していた。

 

「霊子ちゃぁん。そのバリア、あなたの魔法で破壊できるかしらぁ?」

 

「………………」

 

 不貞腐れた顔で黙って魔法を発動。しかし霊子の黒い霧はへカーティアのバリアに吸収されるばかりだった。魔法を完全に遮断、吸収してしまうというへカーティアの最強の防御の魔法。

 名前すらも無い、非スペカ以下の存在でしかないこのバリアは、霊子の自信と呼べるモノをポッキリへし折ってしまった。

 項垂れ、口をへの字に曲げて、くすん、くすんと静かに鼻を鳴らして目に涙を浮かべる霊子を見て、へカーティアはこれ以上は霊子からの反撃は無いと判断。霊麗、霊魔、霊子を一気に博麗神社へワープさせると────へカーティアもまたエスカルゴを探しに、大紅蓮地獄を彷徨い始めた。

*1:
Γεια(イア):元気でね

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