「はぁっ……はぁっ…………流石に……ヘカーティア2人相手すんのは……骨が折れるわ……ッ」
大紅蓮地獄の某所にて、分身の霊夢が「地球」のヘカーティアに敗北を認めさせた頃、ほぼ同時に、本物の霊夢はヘカーティア2人を戦闘不能状態まで追い込んだ。
防護服こそ、ヘカーティアによって無傷の状態を保たれていたものの、ちょくちょく被弾やグレイズなどで破れたりするので、中の巫女服もそれなりに傷付いていた。
「エスカルゴは────すぐ近くよね?」
ヘカーティア2人はエスカルゴへ向かう道を封鎖していた。だから先に進めば自ずと見つかるハズ。そう考え、再度気配を探知しながら進もうとするが彼女が探知したエスカルゴの「気配」は自分のすぐ頭上にあって────。
「キャッ!?」
なんとエスカルゴの方から霊夢の近くに現れると頭を潰さん勢いで真上から奇襲を仕掛けてきた。
奇襲、文字通り突然現れたエスカルゴだったが、すんでの所で霊夢も回避が叶い、回避した先で更に飛び退く事である程度の距離を取った。
「グルルルルルゥ……」
「アンタ……眼が血走ってるどころじゃないわね」
彼の「暴走」が眼にも現れているのか、白目部分までもが瞳と同じ紅色に染まり、彼の眼球は全てが血のような紅に染まっていた。
「……まぁいいわ。さっさと殺して、暴走してる力を魂に適合?……させてやりますか、と」
ヘカーティアは神なので効果は酷く薄かったが、悪魔、つまり魔の者に対し特効を持つ霊力でなら、悪魔であるエスカルゴに大ダメージを与えられる。故に、霊夢はお祓い棒に霊力を込めて、戦闘用意を整えるのだが────。
「ギャァアウッ!!」
「……えっ。逃げた?」
霊力を出力してお祓い棒に込めたその直後、酷く顔を顰めたエスカルゴは霊夢に背を向け、凄まじい速度で飛び出した。
「アンタねえ……!!私の旦那のクセに、この私から逃げてんじゃないわよッ!!」
「!?」
「『夢想天生』ッッ!!!」
空間を割るあのスキマを使い、彼の目の前に移動してやると、彼は方向転換も叶わず、急ブレーキを余儀なくされる。そして夢想天生を発動し、強力な霊力を込めたお祓い棒を使い、エスカルゴを殴る、殴る、殴る────。
都合7回程彼を殴ると、彼に向けて御札の弾幕が発生。頭も顔も胸も腹も手足も、全身余すこと無く夢想天生の弾幕が彼に深刻な、致命的なダメージを与えていく。
ただの妖怪なら消し炭にさえなったであろうその過剰なまでの火力の夢想天生、それはまさに霊夢の彼を想う心があってのものであった。……しかし。
「ゲギャギャギャギャッ、ギィイイイヤァ゙ッ!!」
「────!?」
もがき苦しむように叫んだかと思うと彼の背後に真紅の魔法陣が展開。理性を失いつつも、霊夢から逃げてもスキマで追い付かれるという事を、本能で理解したのだろう。
文字通りの「凶獣」と化したエスカルゴは逃走を諦め、戦闘に移行した。
「ガルァッ!!」
「速いッ……けど、これは……」
引っ掻き攻撃のような、腕を振り回す攻撃をするエスカルゴ。まさに獣、普段の理知的な、若しくは普段の脳筋以上の「本能」に任せた戦いだった。
そして霊夢は何度も回避に徹して、速度、軌道を検証。そして遂に……。
「イィィィ、ガァッ!!」
「────バカね。ワンパターンは『飽き』の原因なのよ。……宝具『陰陽鬼神玉』」
「ッ!?ギャァァアアアアアッッ!!」
直線軌道故に、霊夢が目の前に出したその巨大な霊力で造られた陰陽玉に全身で突進する事になったエスカルゴは、まるで全身を焼かれる痛みに、悶え苦しめられる。しかしそれだけで終わらせないのが博麗霊夢という女だ。
「神霊『夢想封印』ッ!」
夢想系の基本最終形態の1つの夢想封印を発動。普段の夢想封印よりホーミング弾の数は割り増しで的確に敵にダメージを与えられる事に定評がある。
彼女がまだ人間だった頃は、威力が控えめだった事だけが唯一の弱点であったが、霊力も増えて継戦能力が格段に成長した今、そんな弱点などは無いに等しい。
「セックスは飽きないのに、戦闘はすぐ飽きるわ。つまらないから、さっさと理性、取り戻しなさい」
「ギギャァ……グゥゥッ…………」
「……何よ、まだダメなの?初めて倒した時みたいに弾幕より素手で倒されるのがお好みなのかしら」
弾幕か、それとも彼なりに荒れ狂う力に抗おうとしているのか、頭を抱え苦しむ様子を見せる。更に追撃を加えトドメを刺そうとする辺りやはり霊夢は徹底しているらしい。それなのに────。
「……殲滅『
「はっ!?」
手元にスキマを開いたかと思うとそこからいつも使っている漆黒の折り畳みナイフを取り出す。更に即座に開いたかと思うと、縦横無尽に振り回して、小型、しかし高密度な斬撃を飛ばしまくる。それはまるで斬撃の嵐のよう。
雨を回避するのは無理だと誰もが分かるだろう、しかし霊夢は、真に雨のような彼のその斬撃を尽く回避していく。
しかもこれは「斬撃」だ、被弾せずともグレイズしただけで容易に防護服は斬れてしまう。霊夢は、グレイズすらせず、完全に回避をして、素手で彼を殴る為に、ジリジリと接近していく。
「初めて会ったあの時は腹パンだったっけね。なら今度は、頭ァ、カチ割ってやるんだからッ!」
「ガァアッ!」
いつもの雷の鎧を纏う。しかし霊夢は怯まない。
「ンなモン、いつもみたいに粉々にしてやるわよ!覚悟なさいッ!ハァアアアアアッ!!」
「ガルアアッ!」
両者、激突。エスカルゴのナイフは霊夢の首筋を掠め、霊夢の拳は彼の顔面を的確に吹き飛ばした。ドパンッと、水風船が破裂するような音が、遅れて聞こえてきたような気がした。
力の抜けたエスカルゴの肉体は、支えを失って、大紅蓮地獄の地面に墜落。霊夢はそれを目ですらも追わず、ただただ、無事に彼を殺せた事に対して、安堵していた。────それなのに。
「ギィャオオオオオアアアアアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッッッ!!!!」
「────ッ!?」
喉を枯らして血を吐くような雄叫びが聞こえる。地面を見てみるとそこにはエスカルゴの姿は無く、顔を上げると目の前には、両手に黒い剣を装備した相変わらず眼が紅く狂っているエスカルゴが今にも霊夢を殺さん勢いで迫ってきていた。
「あぶっ…………どうしてよ!?殺したら治るって、ヘカーティアが言ってたのにっ────!!」
そこで言葉を切り、霊夢はある事に気が付いた。彼の首から下が血塗れであるという事に。霊夢は、間違いなく頭を吹き飛ばした。殺したはずだった。
しかしどうだろう。吹き飛ばしているはずの頭は綺麗に再生している。そして、死ねば服なども含め綺麗サッパリに再生するはずのエスカルゴが、今も血塗れだ。つまり、それの意味する所────。
「まさか頭を吹き飛ばしても殺せないの……!?」
これまで、エスカルゴを殺す方法は大きく分けて主に2つあった。
1つは、今の霊夢がやったように頭を吹き飛ばすという方法だ。流石のエスカルゴも頭は大事らしくここを吹き飛ばせば再生も叶わず死に至る。
2つ、これはエスカルゴが蓮子にやらせたようなやり方だ。即ち「心臓を斬る」というもの。心臓にナイフや刀剣類などの武器を刺した程度では、彼は死なない。心臓を拳で抉り取るのも含めて、完全に心臓を壊さなくてはならない。
当然、霊夢もそれを知っている。だから1つ目の方法を選択したのだ。それなのに、現実は非情で、今のエスカルゴは少し前までの自分すら遥かに凌駕する「頭部の破壊」からすら再生してしまうというある意味ではギリシャ神をも超越した再生力を会得していた。
「殲滅『
「ぐっ……夢境『二重大結界』ッ!!」
両手の二振りの剣を、これでもかと振り回して、大きさも数も増した斬撃を放つ。霊夢は堪らず二重大結界の結界バージョンを発動、すぐ防御するが、彼は、狂っていながらも冷静であった。
「ッ!……『霊力遷移』」
「な……っ、それ、は……ッ!!」
「ギヒャヒャヒャヒィャアーーーッッ!!!」
二振りのうちの片方、妖魔雷霊剣に込めた霊力を引き出し、霊夢の霊力に同期させる。こうなれば、結界の強度など関係の無い無類の強さを誇る斬撃となってしまう。
「きゃあっ!!」
結界を斬り裂かれた霊夢は飛び退いて緊急避難。しかし相手も同じ吸血鬼、すぐに追い付き二振りの剣で攻撃を乱発しまくる。
「────こうなれば、もう、これしか……ないッ!宝具『陰陽鬼神玉』ッ!!」
「ッ……!?」
前回使用した時より遥かに巨大な……数100mもの大きさの霊力で出来た陰陽玉が、嵐のような斬撃と一緒に彼を飲み込んでしまった。
────が、それで彼を殺せたと思えない霊夢は陰陽玉が消えると同時に彼の背後にスキマワープ。予想通り全身を焦がした程度だったので、高濃度の霊力で怯んでいる隙を突いて────。
「これで終わりよォッ!!!」
「ッ────」
お祓い棒の許容量のギリギリまで霊力を込める。それを背後から彼の心臓を貫き、彼の内部へと直接対魔の力……霊力を流し込んだ。
「ググギギギィイヤァアアア゙ア゙アアアッッグオオオアアアァァアア゙ア゙ア゙ア゙アアアア゙アッッ!!!」
どんな獣も発さないであろう断末魔。霊夢はつい攻撃の手を弛めてしまいそうになるが、ここで加減してしまっては元の木阿弥。より一層の霊力を彼に流し込み────。
「お願いエスカルゴ……死んで……ッ!!今だけよ……今だけ、死んでちょうだい……お願いっ……」
霊力を流し込みつつ、後ろから抱きつき、首筋に噛み付いた。吸血鬼なら誰もが知る、アレ。首には性感帯がある。吸血鬼に噛まれて血を吸われると、気持ちいい。それは例え暴走しようとエスカルゴも同じ事であった。
「……ゲッ。勃起してるじゃないの……こうなったらコレでトドメを刺してやるわ!!」
モミモミと玉揉みを始めたかと思うと、ズボンの上から、散々自分が舐めてきた睾丸を、ブチュリと握り潰してしまった。
玉を潰されたエスカルゴは声を上げる事も出来ず気を失って地面に墜落。霊夢も彼のそばに着地し、これからどうやって彼を殺そうかと戦闘が始まって初めてゆっくり考える事ができた。
頭を潰すのがダメだったら、次はどうするのか。どうするのが正解なのか。
「……頭と心臓、両方を同時に……かしら?」
霊夢は禍霊夢に変身し、本気中の本気、超本気の即死攻撃を同時にぶつけようと禍霊夢状態の分身を構築。この形態の霊夢は即死級必殺技が2つある。どちらも、威力を落とさねばスペルカードルールで使えないようなものだ。
「魔符『マジカルスパーク』」
「『夢想天生・狂』ッ!!」
本人はマジパを彼の顔面に、分身は紅、白、黒のホーミング弾と大量の御札を彼の胸元、いや胴体を目掛けて一斉に掃射。
動かず、しかも意識の無い標的を逃す道理は無くそもそも弱点だとか急所だとかそういう話ではなくその圧倒的な魔力・弾幕量に彼の肉体は耐えきれず木っ端微塵に消えてしまった。
「……サて。コレで……戻っタかしらネ……?」
分身を消し、しかし禍霊夢形態で警戒はしつつ、彼の復活を待つ。
するとすぐにパリッ、パチパチ、バチィッと何も無いはずの空間からスパークを放たれる。すると、よく見慣れた雷の蝙蝠が出現。それが消えると何も知らないような、まるで寝起きのような間の抜けた顔のエスカルゴが現れた。
「ん?霊夢!?……いや、禍霊夢に変身してんのか?ていうか、何で
「……さぁーて、どーシテでしょウ?」
「夢中になってたからなのか何も覚えてないけど、霊夢に会いたすぎて召喚しちゃったとかかな?」
「……」
「冗談冗談、そんなジト目で見んな。可愛いけど。まぁいっか。多分もう大紅蓮地獄の力も扱えるし、これで特訓はおしまい!なっ、へカーティア!」
居るはずのへカーティアが居ないと気付き、彼は目に見えて狼狽し始める。それもそうだろう。彼の中では、へカーティアに特訓の相手をしてもらっていたはずなのに、死んで蘇ったら彼女の姿は無く、嫁である霊夢が居たのだから。
「んん……?へカーティアが居ねえ……?…………霊夢、何か知らない?」
「……何も知らないわ」
「あ、戻った」
彼が正気に戻っていると確信を得た霊夢は禍霊夢形態を解除。大きな溜め息と共に何も知らない彼に手を差し伸べる。
「ほら、特訓はもういいでしょ。帰るわよ」
「んー……少し相手してくれない?」
「はぁ?」
「ほら、本当に使いこなせるか不安でさ。もしまだ使いこなせてなくて、うっかり幻想郷でヤッたら、ヤバい事になっちゃうじゃん?」
確かにそれもそうだと霊夢は頷く。しかし霊夢が考え込む様子を見て、エスカルゴは、何かヤバイと気付いたらしく、慌てて訂正する。
「や!すまん、俺のワガママだった、忘れてくれ!帰ろう!」
「あー?」
「死ぬほど特訓したからもういいや!うん!だから霊夢も迎えに来てくれたんだろ?」
「……まー、そう思ってくれていいけどさ……」
「じゃあ帰ろう!」
それならそれでいいんだけど────とこれまた考え込む。しかし、力の制御が出来るようになったというのは確認できるなら確認しておきたい、とも考えていた。その方が幻想郷にとって安全だから。
「いや。やっぱりココで一発、戦っときましょ」
「マジ!?」
「ココなら幻想郷で戦うより互いに全力で戦える。そうでしょ?」
「────ッ!」
「この前の地底での大会で『全力』で戦ったけど、あんなのは所詮、『周囲の安全』に配慮した中での
『全力』でしょ。『実力』には程遠いわよね?」
「……分かっちゃうモンなの?」
「ま……アンタだし、子供達に父としての威厳とかを見せ付ける意味で『魅せる』戦いをしてるってのはよく分かったけどね」
「たはは……。でも別に今日じゃなくていいんだぜ?元はと言えば俺のワガママなんだから」
「そうね、夫のワガママね。────でも、私は、別にそれでもいいわよ」
「え?」
「古来より『妻は夫を立てるもの』とされてきた。私もアンタの妻だし、当然、そうするわよ」
「俺を……」
幻想郷は明治時代初期に閉ざされた世界である。エスカルゴと違い幻想郷生まれ幻想郷育ちの霊夢は人里などの風潮から昔の風習を感じ取り、自然と、そのように考えていた。
「アンタの望みは?」
「……俺の望みは────」
「ま、改めて言われなくたって分かるんだけどさ。だから私にとって『
「「
「ハハッ!最っ高だよ霊夢……!ああ!その通りだ!全力で
「言われなくても!死ぬまで
「俺を殺してみてくれっ!」
「安心なさい!妻である私がきっちりアンタを殺してあげるんだからっ!今度こそ、本気の本気を、アンタの『天井』を見せてみなさい!!」
「ああ……全部受け止めてくれ、霊夢!死ぬなよ!」
「誰に言ってんのよ、バ〜カ……♪」
その後、エスカルゴは残機を3減らされ、そしてその残機を代価に、新たな性癖を開拓したらしい。しかしその性癖を知るのは、この世でもあの世でもただ1人────博麗霊夢だけである。