次の日。幻想郷西部の、妖怪すら近寄らない荒廃してしまっている土地に、奴ら3人を呼び出した。まずは奴らの目的の1つ「俺の殺害」を達成させ、強引に2つ目の目的へ進めさせる為に。
幻想郷にとっては、この「2つ目」が厄介なモノなのかもしれない。だから早くそれを知りたいのに奴らはそれを話さない。
それならどうするか。1つ目の目的を、強制的に片付けさせることだ。
「いや〜、まさか私のテシフォンに掛けてくるとは思わなかったよ〜。そぉ〜んなに私のロリボイス、聞きたかったのかなぁ?♡」
「それはある」
「アハッ、否定しなよ!……ていうかここさぁ……」
「……荒野、ですわね。こんな所へ呼び出して、一体何の用でしょう?」
「決まってんだろ。戦いに来たんだよ」
「「「!!」」」
三者三様、しかしその理由は分かっているのか、特に頭ごなしに否定したりする様子は無い。しかしリエだけは、わなわなと口元を震わせ、声、肩まで震わせながら、懇願するように言う。
「何故ですかっ!?せめて今だけは仲良くしようとお話したばかりではありませんかっ!」
「そうだね。それには賛成したいとも思ってるよ」
「でしたら何故っ……」
「ミカ。お前は俺を恨んでるんだろ?だけど、その理由も教えてくれないようだから────俺なりに少し考えてみた。そうしたら、自然とお前ら3人の正体が分かったぜ。月の頭脳とも呼ばれる賢者や、俺の長女、三女と、十九女は、少しヒント与えたら推理できてたよ。幻想郷に存在する賢者達もなぁ」
「「「!?」」」
デートなど諸々の用事を終えた俺は、俺が「頭が良い」または「色々知ってる」と判断する子供達へ賢者達に伝えた情報と同じ情報を与えた。すると、巫月、穹、神愛の3人は当ててしまった。魅玖は、頑張って考えてはいたようだが、神話や聖書などの知識に明るくないので、当てられなかったようだ。
それでも魅玖、ここあ、シガレットは、頑張って考え抜いた。そこには素直に敬意を表したい。
「ミカ。お前の名は────ミカエルだな?またはそれに近い名前だろう?大天使ミカエルよ」
「う……、ウソでしょ……!?ホントに私達の正体に気付いたっての!?」
「おうよ、シエル。いや、
「……マジで気付いてんじゃん……。じゃ、じゃあ、リエは!?」
「ガブリエル、ウリエルで悩んだが、『ガモウ』と
『神のお告げ』っつーワードで、何となく察せた。なぁ、
「────ええ。私はガブリエル。ガヴリエルでもガブリエールでも、呼びやすい方でどうぞ」
溜め息をついて白状する、リエ改めガブリエル。シエルの焦り様はただ事じゃなさそうだが、ミカはそこまで焦る様子は見せない。
リエは諦めた様子、ミカは察してた様子。しかしシエルは焦りに焦っている。とても怪しいが、今はそれはどうでもいい。
「じゃあ、リエかガブリエルで呼ばせてもらうね。それはそれとして、ミカのこと少し借りるぜ」
「何をするつもりです?」
「言ったろ、戦うんだよ。今、ここでな」
「何故ですか……どうして、
「だってさ、協力者にした割には全然そんな雰囲気出さねーんだもん。目的もロクに言わねーしミカは殺気を出しまくる。ほら、協力もクソも無いよな?これのどこが『協力』ってんだ?言ってみなよ」
「そっ……そんな事はっ……!」
「俺としてもね、常に殺気を向けられるのって気に食わねぇんだ。イラついてイラついてしゃーない。一緒に居る誰を、そしていつ殺すか分からないね。それはミカかもしれないし、リエかもしれないし、シエルかもしれない。神は気まぐれだけど、悪魔も気まぐれなんだぜ。天使は知らないかもだけどな、素人の召喚に応じるのだって、結局のところ悪魔の気まぐれってヤツのせいなのさ」
「「「…………」」」
「だからよォ、ミカ。スッキリさせようぜ。お前は俺を殺したい。俺はお前に殺されたくない。だから終わらせよう。これでどっちが勝っても、そして、どんな結果になっても、恨みっこ無し。どうだ?」
「……構わない。私が悪魔なぞに負けるものか!」
「バカだな。そいつは負ける側のセリフだよ。てかお前、天使なんだろ?悪魔だが神の力を持つ俺に、逆らっていいのかよ?オイ?」
「この……出来損ないの悪魔がッ!畏れ多くも貴様が神を騙るだと……!?」
「いいだろう────俺に歯向かった事、神の力でブチのめして、心底分からせてやるよ。天使如きにこの俺は倒せやしねえ……ってな」
「ほざけッ!!」
ミカは拳を振り上げて襲いかかってきた。リエは飛び出すミカへ手を伸ばしたものの、諦めたようにその手を引っ込めてしまう。
シエルはというと、頭の後ろで手を組み、小さく溜め息をついて口元だけの笑みを浮かべる。
「あぁ……どうしてこんな事にッ……私は……私は……」
(あーあ。だから言ったじゃん。あんたはいっつも保守的過ぎるんだよ、リエ。これはあんたが招いた結果。知ーらないっと。それよりも、エスカルゴのお手並み拝見といこうか……。『4つ目』が何なのか聞いてなかったし────ミカがアイツのお眼鏡にかなえば、真の力を見せてくれるかもだしね)
◆
「
「それ本気で言ってんのか、紫?」
「エスカルゴの推理でしかないけれど、十中八九、いや九分九厘、間違いないでしょう。そう考えると辻褄が合うような事が幾つもあるしね」
その頃の博麗神社では、異変解決で常連の2人が妖怪の賢者・八雲紫により詳細を説明されていた。まずは結論からだ。そして、そこから導き出される答え合わせをしていく。
「まずは、霊愛ちゃんに接触した『雅猛リエ』……、コイツは『ガブリエル』でしょう。一般には、神のお告げを伝える────というのが彼女の役目とも言われているけれど、詳細は不明なのよね」
「不明なのかよっ!」
「でも気配もまるで人間……なのよね?」
「そこは、気配を誤魔化したのでしょうね。これは別に不思議でも何でもない。高等な存在なら容易く擬態できてしまうわ。永く生きれば化け狸だろうと姿を見るまで気付けないなんて事……霊夢、あなたは既にマミゾウで経験済みなのではなくて?」
「うっ……」
「かの大神ゼウスも黄金の雨に化けたという逸話があるのよ。白鳥、牡牛、雲、はたまた
「あの変態ジジイがか!?」
(エスカルゴも女の鴉天狗に変身するみたいだし、変態ってヤツは肉体ごと異性に変身したがる傾向にあるのかしら……?)
「そう、あのゼウスが。そして我々の身近な所ではあなた達もよく知るあのエスカルゴが、それを多用している。エスカルゴに出来て、天使に出来ない。そう考える方が無理があると言わざるを得ないわ」
「はぁ〜、言われてみればそうかもしれんがなぁ。だとしてもだ、どうやって侵入した?それに目的は何なんだ……?」
「それを今、エスカルゴが探ってるわ」
「ふむ……」
魔理沙も、先日のあの宴会で名刺の件から始まる一連の話を聞いていたが、外来人か何かだろうと、酒に酔っていたからかそのように軽く考えていた。
しかし事態は思っていたより不確定要素が多く、危険に晒されている可能性が高いようだった。酒に酔っていたとはいえ、話半分で聞いていたことを、少し後悔しつつあった魔理沙は、今更ながらに話を整理し、持ち前の推理力であれこれ思案し始めた。
そして幾つもの疑問が壊れた水道管から出る水のように頭の中で噴き出すが、その中で大きい疑問と感じた事を、目の前の賢者にぶつける事にした。
「────ふと、思ったんだが、紫よ。この一連の騒動、どうして博麗の巫女である霊夢じゃなくて、エスカルゴに任せた?」
「そりゃ私が動く案件じゃないからよ。今のところ被害が出てるワケじゃないし、退治してくれと依頼されたワケでもない」
「……霊夢の言い分は分かるがな。エスカルゴに依頼したのは紫だろ。その紫としてはどうなんだ?」
「そうね。エスカルゴに頼んだのは、彼が適任だと判断せざるを得ないから、選んだまでよ」
「それはどうして?」
「天使と言えば、魔理沙もイメージとして何となく分かると思うけど、神に仕える者よね?」
「ああ」
「天使に歯向かうというのは、神に歯向かうという事だからね。もし幻想郷を代表する霊夢が表立ってそんな事をすれば────『幻想郷vs天界』という構図が成立してしまうわ」
「「……ッ!!」」
「ここでの『天界』は比那名居天子が紅魔館で働き始める前に暮らしてた方の『天界』じゃないわよ?異国、または異界の方ね」
「「それは知ってる
「そうした事を踏まえると、もう分かるでしょう?エスカルゴだけに任せれば、『これは彼の独断での行動です、我々は何も知りません』って、対外的に言い張る事が出来るの♡」
「……おい待てよッ、それじゃあ────」
「紫ィッ!!」
魔理沙が紫を咎めようとした瞬間、霊夢は本能を剥き出しにし、獰猛に紫に掴みかかる。今の彼女は吸血鬼────さしもの紫とて、掴まれてしまえば抜け出すのは困難を極める。
胸倉を掴まれた紫は、大慌てという程でもないが明らかに狼狽していた。
「ちょっ、ちょっと霊夢、そんなに怒らないで?」
「ふざけないで!!それじゃあんたは、アイツを、もし天界と、神とやらと戦争になった時に差し出す為の生贄にしたってことなんじゃないのッ!?」
「私は幻想郷の為にのみ行動してる。エスカルゴもそれをよく承知の上で動いてくれて……」
「だからふざけないでってのッ!あんたが幻想郷の賢者だってのは百も承知よ!幻想郷の為にってのも百も千も承知よッ!でもね!
「落ち着きなさいな、これは私が任せたのではなく彼が自分から動いた結果なのよ?」
「だからって!」
「それにね、霊夢。よく聞いて。天界と戦争に至るというのは、あくまでも『最悪』の場合よ。当然、そうならないように細心の注意を払って行動する。私も、そうならないよう彼にアドバイスしてるわ。それも全て戦争を避ける為よ。それは、胸を張ってあなたに誓えるわ」
胡散臭い紫らしくない程に、真っ直ぐに、霊夢の目を見つめて、一言一言を大事に言って聞かせる。それによって少しは冷静になったのか、しかし軽く突き飛ばすようにして紫の胸倉を離した。
そして先程までと同じように縁側にドカッと腰を下ろし、一気に湯呑みに残っていた茶を飲み干す。
「……あのバカは、戦いが趣味よ。それも、美しさを競ったり単なる格闘戦じゃない、殺し合いのような戦いが……。もし天使だと分かった上で任せるなら、どう考えても、天界に喧嘩を売る結果に至るとしか思えないんだけど?」
「そうね。そこはもう仕方ないと割り切ってるわ。だけど、今回に限っては大丈夫なの。彼の戦闘欲を発散させてくれる、本物の『生贄』が────今、幻想郷に来ているんだもの」
今回は「戦争に至らない」というその言葉が紫の口から出て、一時は安心してしまう2人だったが、やはり「生贄」という言葉は心象が悪いものだ。
霊夢も魔理沙もそれに対し特に不快感を隠さず、誰から見ても分かる程に、露骨に嫌な顔をした。
「数年前に『七つの大罪』を冠する大悪魔の集団が幻想郷に攻めてきた事件、覚えてるわね?」
「あった……らしいわね」
「ああ。それについてはパチュリーから聞いたぜ。唯一和解ができたアスモデウスは、レミリアの娘、レイチェルの配下になったんだったよな。この前のゼウスの襲来の時も、手を貸してくれたんだろ?」
「そう。そして幻想郷に攻めてきた七つの大罪には
『強欲の悪魔・ルシファー』が居たのだけど……実はルシファーは堕天使でね」
「堕天使……大悪魔であるルシファーも、元々は天使だったって事か」
「そうなるわ。それでそのルシファーには、双子の姉妹が居たそうなの。それこそが大天使ミカエル。ルシファーが神に叛逆した際は、『悪魔の軍勢』と戦うのに、そのミカエルが最前線で指揮を執ったと言われてるわ。それで、エスカルゴの見立てでは、幻想郷に来ている3人のうちの1人が、この大天使ミカエル……って事になってるの」
「……待てよ?確かルシファーってのはエスカルゴに殺されたんだったよな?」
「じゃあまさか、エスカルゴの戦闘欲を発散させる
『生贄』ってのは……」
「復讐心に囚われたミカエル────ってことよ」
ミカエルはルシファーを撃退する戦いでは最前線に立っていた立場。それなのに「復讐」とは……?
紫とエスカルゴの思惑とは?
過去の因縁とミカエルの復讐心、エデン異世界調査隊員達の想いは思わぬ所で交錯する────。