「……あ。煎餅、切らしちゃった」
子供達が紅魔館に宿泊していて、お使いに出せる者が居ないと気付いた霊夢は、仕方なく久しぶりに自分の足で人里に赴く事にした。
博麗の巫女として働く上で、かつてはよく人里に通っていた。しかし仙人を経て今のように吸血鬼となってからは、両手で数えられる程度しか里に足を踏み入れていなかったりする。
人間の味方、人間の代表とも言える存在のはずの博麗の巫女が、仕方なかったとはいえ、魔の者達の象徴とも言える「悪魔」に身を堕としたのだから、霊夢が自ら里に足を踏み入れる頻度を落とすのも、仕方ないというものだ。
勿論、人里の人間達の大多数は、夫が悪魔だしと個人で解釈の仕方が違う部分はあるものの、霊夢が悪魔になった現実を受け入れてくれる者達の方が、ずっと多かった。
負い目を感じて当然の立場である霊夢だったが、人間からは快く受け入れられていたのだ。
────しかし、今日の人里は、どうにも様子がおかしかった。
「おい、見たかいさっきのアレ」
「もちろん!まさか博麗の巫女殿がなぁ……」
「ま……どれだけ取り繕っても妖怪は妖怪なんだよな」
「そうなのかもなぁ」
「……?」
何やら鋭い視線を感じる。そればかりか、いつもよりも多い言葉の矢が、全方位から霊夢に深く鋭くグサグサと突き刺さる。こんな感覚は全く初めてに等しかった。
陰口を叩かれているようで気持ち悪い上、どこか薄ら寒い気持ちになってくる。
「あっ。ほら見て、霊夢さんよ」
「あらほんと。噂をすれば何とやらね。何もこんな時に……」
「間が悪いったらありゃしないわね……何しに来たのかしら」
「いっそ、教えてあげた方がいいんじゃないの?」
「どうせ誰かが言うでしょ?私は関わり合いになるのはごめんよ」
「私もよ。『触らぬ神に祟りなし』って言うし」
「神といえば、これは絶対にエスカルゴさんの耳には入れちゃダメね!」
「そりゃそうよ!もし知られたら……あぁもう考えるだけで恐ろしいったらありゃしない!」
気味の悪い事だ、純粋に気持ちが悪いと、霊夢は感じていた。しかもどうやら、噂されているのは、霊夢が「吸血鬼化したこと」ではないらしかった。
変な噂を聞きたくはないと思いながらも、自分に関する噂は一応知っておきたいと思ってしまうのが自然である。霊夢の足は、自然と貸本屋、鈴奈庵へ向かっていた。
「こんにちは〜。小鈴ちゃん、いるー?」
「ひゃわっ!?れ、霊夢さん……ですか!?」
「久しぶり。何年ぶりかしら?」
「あはっ、あははは……そ、そうですねー……!」
小鈴は、店の中の整理か何かをしていたようで、手に何かを持っていた。しかし霊夢が来店した瞬間それを後ろ手に持ち替え、隠したのだ。
タイミングが悪かったからか吸血鬼の優れた動体視力でもよく見えなかったが、どうやら新聞らしい物体だった。少し気になった霊夢は、小鈴に探りを入れる事に。
「今、何を後ろに隠したの?」
「へっ!?あ、あぁ、新聞ですよ、新聞っ!ただのそ、じゃなくて天狗さんからの新聞です!」
「ふぅん?……あぁ、そういえば文の新聞、鈴奈庵に置いてもらってるんだっけ」
「あ、いえ、これは文さんのではなく……」
「え?そうなの?」
「うぇっ!?あ、いえいえ、違うんです!文さんの新聞です、文々。新聞です!」
「そういえば、今日のはまだ読んでなかったわね。ちょっと読ませてくれない?」
「だだっ、ダメです!ダメダメ!」
「え?」
霊夢が手を伸ばすと、ガタガタガタンッと本棚にぶつかりながら、霊夢の方を向きながら後退する。小鈴のそのあまりに不審な行動に眉をひそめるが、彼女は霊夢が追求をする前に言い訳を並べ立てる。
「じっ、実はこれ、昨日のなんですよっ!」
「昨日?それでもいいわ、読ませ────」
「ダメダメダメッ!これはっその……あれなんです!接客を生業とする者として恥ずかしい事なんです!貸本ならともかくとして、売り物は常に最新の物を用意する!そんなの常識なのに、私ったら、昨日の新聞をそのまま店内に置きっぱにしちゃってて……!だから、ごめんなさい!幾ら霊夢さんでも、お店の恥になってしまう所は見せられませんっ!」
博麗の巫女も、人間から依頼を受けてお祓いだの除霊だの祈祷だのとする事がある。だから霊夢も、ある意味では接客業の一種をしていると言える。
しかし貸本や新聞などの物を介する小鈴と違い、霊夢の場合は霊や妖怪などそちらへの対処がメインなので、接客業という大枠は似ていても、内容は、大きく異なっていた。
だから霊夢にはその小鈴の拘りがよく理解できず首を傾げていた。それでも「貸本屋を営む者として恥ずかしい事だ」という事だけはどうにか理解し、小鈴に伸ばしかけた手を下ろした。
「……悪かったわね。まさかそんな恥ずかしい事だと思わなくって」
「えへへ……ごめんなさい。最近あんまりお客さんが来なくて、つい、うっかりしちゃってました……」
「フフッ、そういう所は大人になっても相変わらずなんだから。そういう妖怪が書いた新聞もだけど、妖魔本の扱いには特に気を付けてね?これはもう、ウッカリじゃ済まされないんだから」
「それは勿論ですっ!じゃ、コレ置いてきます!!ちょっと待っててくださいね!」
どこか焦りながら店の奥へ引っ込んでしまった。
数年前に両親を亡くした小鈴は今やたった1人で実家の店を切り盛りしている。三十路となった今も浮ついた話は特に聞かず、更には、彼女の幼い頃のノリは未だに健在であった。
早くどうにかしないと小鈴の代で鈴奈庵が終わる事になるのでは、と内心心配しているが、その辺は小鈴の人生に関わる事なのであまり深く突っ込みはしないようにしよう、と霊夢は考えていた。
ついさっきまで、他の人間達のヒソヒソ話に心を荒ませていたが、昔とあまり変わらぬ小鈴を見て、どこか癒されたような気持ちになっていた。しかし小鈴を見送って少ししてから、本棚の前に1部だけ新聞が落ちているのを見付けた。
「小鈴ちゃーん!新聞、落としてるわよー!!」
返事は無い。一体、どこまで遠くに新聞を置きに行っているのやら。
仕方ないので、とりあえず声は掛けたからねと、霊夢はその新聞を読みつつ暇潰しする事に。小鈴にとって恥ずかしい事なら、とりあえず彼女が戻って来る前に新聞を閉じて、彼女が会計などに使用する机の上にでも置いておけばいいだけの話。
霊夢も吸血鬼で、人間では考えられないくらいのかなりの地獄耳だ。小鈴が店の奥から戻って来る音くらい遠くからでも聞こえるのだし、新聞を閉じるくらいの余裕は十分にある。
「────え?」
一面を見た霊夢は目を丸くした。記事のタイトルだけでも驚愕モノだったが、恐るべきはその写真。内容を読もうと文に目を走らせるが、運の悪い事に小鈴が戻ってきたようだった。
ここは、たとえ非難されようとも、新聞について小鈴に問い詰めるべきだと思い、前以て考えていた
「小鈴が帰ってくる前に新聞を閉じて机上に放置」という作戦を捨てる事にした。
「すみません、教えてくれてありが────あっ」
「小鈴ちゃん……この新聞……どういう事?」
「ッッ…………見ました?」
「見たから聞いてんのよ」
「………………」
新聞の一面にはデカデカと
……という、如何にもな文字が並べてあった。
当然、霊夢は浮気などしていない。だが新聞にはデカデカと写真が掲載されている。翼を生やして、相手の男に身体を預けるようにして唇を重ねている霊夢の写真が。
そして相手の男は、モザイクが掛かっているが、ごく普通の和服のようで、良くも悪くもごく普通の人里の男性といった風貌であった。
「嘘よ……何なのよ、これはっ!?」
「あ、あはは……エスカルゴさんが浮気性だから……霊夢さんも、エスカルゴさんへの当て付けに、浮気しちゃったんですよね……?」
「ちがっ……私は浮気なんかっ……」
「いえ、良いんですよ霊夢さん!エスカルゴさんが悪いんですよ!霊夢さんは悪くないんですからっ!霊夢さんのような美女をずっと放置して、いっつも女遊びに耽っているんですから!」
「放置してなんか……だから違うって……!」
「もうこの際エスカルゴさんみたいに浮気キャラで通してみては!?エスカルゴさんの浮気がこうしていちいち報道されないのは、彼が浮気キャラだからなんですし……霊夢さんもキャラの路線変更した方が気も楽になると思いますよ?」
「違うのよっ!話を聞いてよ小鈴ちゃん!!」
「はい……?」
「この写真に写ってる男は、エスカルゴなのよっ!人里に潜入捜査するからって、人間に擬態したの!これはそのっ、見送りの時のキスなのよ!あれは、そう、えぇと……!そ、そう、少し前の、異国の神が攻めてきた事件があったでしょ!?」
「ありましたね。私のような人間達が神霊廟とかに避難した、あの事件ですよね?」
「そうそれ!で、それの数日後に、謎の女が3人、幻想郷に侵入してきて!エスカルゴは紫のお願いでその調査の為に里に来たのよ!」
「わざわざ人間に擬態して……?いつも妖怪の姿で、堂々と里に来てるエスカルゴさんがですか……?」
「そうよ!それくらい慎重にならなくちゃいけないような、デリケートな問題だったの!」
「うぅん……でも記事読んでみてくださいよ。気配も何もかも人間だった────って記載ありますよ」
「エスカルゴの擬態の技術が上がってるのよ!この新聞を書いたヤツがそれを感じ取れなかっただけ!この男はエスカルゴで、私は浮気なんかしてない!これまでもこれからもアイツ一筋なんだから!!」
「そ、そうなんですかー……アハハハ……」
小鈴にはもう、尤もらしい言葉で言い訳しているようにしか聞こえなかった。しかしそれも仕方ない事なのである。
天使が侵入してきたあの件は、あくまで秘密裏に処理された事件。異変のように大規模なモノでも、ましてやゼウスとヘラが侵入してきたあの事件ほど大きな事件でもないからだ。
あの事件を知る者は、今でも少数だ。ハーレムのメンバーでさえも全員は知らない事なのだ、人里の人間なんかがそれを知る由もない。
知っている者が居るとすれば、調査の一環で彼が訪れた自警団本部に勤めている人間くらいだろう。他には赤蛮奇、小兎姫などの人外くらいだ。
「……信じてくれないのね」
「い、いえいえ、信じますよぅ……あは、はは……」
どう見ても、信じてなどいない。もう小鈴には、醜く言い訳するただの浮気妻にしか見えていない。
いっその事、彼女が言ったように「浮気キャラ」というキャラ付けで堂々としてやろうか────とほんの一瞬だけ考えた霊夢は、バチィッと思い切り自分の頬に平手打ち。口元が切れて、赤黒い血液がツーッと流れ落ちてくる。
「ひゃあっ!?き、急にどうし────」
「……一瞬でも弱気になるなんて、私らしくないわ。情けない────博麗の巫女、失格ね」
「れ、霊夢さ……」
そう言うと、踵を返して鈴奈庵を出ようとする。しかし入口で踏み止まると、小鈴の方を振り返り、最後の忠告だと言わんばかりに、口元だけの笑みを作って、小鈴に言葉で釘を刺す。
「────小鈴ちゃん。目の前の情報に踊らされるなんてコトはね、自分で考える頭を持たない愚かな者がする事。小鈴ちゃんはどうか、目の前の情報に惑わされないで。何が真実か、何が嘘なのか。己の眼で、頭で、鼻で、区別できるようになりなさい。そうでないと────新聞なんてモンを扱う資格は無いわよ」
「……霊夢さん……」
「『ペンは剣よりも強し』────なぁんて言葉があったっけ。まさにそれを痛感してるわよ……ッ」
ギリッと歯を食いしばると、新聞を投げ捨てて、鈴奈庵を飛び出した。向かう先は自警団本部。が、そこは既に人がごった返していて、霊夢が割り込む余地は無いようだった。
「ちょっと……退きなさい!」
「おっ?おいおい、こりゃ、噂をすれば影ってヤツじゃあねぇか!噂の浮気妻さんの登場だぜ!?」
「あぁ!?誰が浮気妻だって!?」
「旦那に浮気されて寂しいんだろぉう?分かるぜ、なんなら話聞こうかァ?俺らが相手してやるぜ️♡」
「触るな!キモイ!浮気なんかしてないからッ!」
「なんだとぅ?黙って聞いてりゃ……!新聞にだって浮気してるって書いてあんだろうがよう!?」
「博麗の巫女だかなんだか知らんが、妖怪なんぞになりやがって!まともに働いてねぇんだろう!?」
「俺らの賽銭返しやがれ!」
「お高く止まりやがって、尻軽な浮気女がよ!」
「そういやあ1人目のガキは半妖だっけか?」
「コイツは吸血鬼なのに娘は半妖……妙だな……?」
「ひょっとして里の男が実の親なんじゃねぇ!?」
「ハハハハハハ!結構昔から浮気してたのか!?」
「カッコウの托卵かよ!やっべぇ〜!」
「うわマジで!?ひっでぇ女だなァ博麗霊夢ゥ!」
「エスカルゴもバカだなぁ〜!自分の子が半妖なら真っ先に他の男の種を疑うだろうによぉ!」
「違ぇねぇ!自分の嫁が他の男に股開いてんのに、自分は呑気に浮気三昧かぁ!」
「アレじゃね?女ばっか抱いてるからもうマトモにモノ考えられないんじゃねーの!?」
「女子供にチヤホヤされて調子乗ってるよなぁ!」
「つーか夫婦揃って終わってんなぁ!」
「「「「ギャハハハハハハハハハハハ!!」」」」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」
霊夢は生まれて初めて、自分が守ってきた人里の人間に対して、本気の殺意が湧くのを感じていた。しかし手は出さない。それをしてはもう博麗の巫女失格どころの話ではない。
霊愛が半妖なのは、彼女を妊娠した当時は霊夢が人間だったからに他ならない。
大きく深呼吸して、霊夢は、人混みを掻き分けて本部に駆け込んだ。本部への直接の門番は、里人を通すまいと押さえているようだったが霊夢はそれに目もくれず、ひょいと門を軽く飛び越えて、本部に侵入した。
するとそこには、自警団の者と話し込んでいる、霊夢もよく見知った面々が居た。
「妹紅……慧音……赤蛮奇まで!?」
「よっ。大変だったな。もう博麗神社にまで情報が行ったのか?」
「い、いや、来てないけど……」
「?」
「霊夢は里を避けていたはずだが、どうした?」
「お茶請けが切れちゃって、買い出しに来たのよ。子供達も留守にしてるからさ。そーしたらコレよ。一体何なのよ、私が浮気したってのは!?」
「それなんだが、
「蒼穹新聞って……穹ちゃん!?」
「なんだ、知らないでここまで来たのか?」
「え、ええ……エスカルゴのツテを借りてあの新聞は嘘だって自警団のヤツらに触れ回ってもらおうって思って、来てみたんだけど……」
これには妹紅達も苦笑するしかなかった。霊夢は少しパニックになっているようで、いつものような冷静さがまるで失われているようだ。
「────申し訳ありません。私も赤蛮奇さんから聞くまで霊夢さんが浮気したものと思ってました」
「あぁ!?……って、誰よアンタ?」
「私は小兎姫。人間っぽく見えるでしょうが、一応私も妖怪です。幻想郷唯一の警察、いえ、自警団の取締役のような役に就かせて頂いております。以後お見知り置きを」
「……エスカルゴクサイわね。あんたもアイツの?」
「ええ。里の中では3人目の彼女です」
「3人?……美宵ちゃん、赤蛮奇、あんたか」
「はい」
「……てかどうしてこんなに里の連中が自警団本部に押し掛けて来てるのよ?」
「それは〜……その……」
「……私が悪い。ごめん、霊夢」
「赤蛮奇?あんた、なに余計な事を────」
「待て霊夢、話を聞いてくれ!」
「落ち着け霊夢、落ち着いてくれ!!」
「そうです、冷静になって!混乱の渦中のあなたがまず落ち着かねば、どうやってこの事態を治めると言うのですか!」
赤蛮奇の首元に掴みかかる霊夢だったが、妹紅、慧音、小兎姫が霊夢の腕を掴み、強引に引き剥がすことでどうにか事なきを得た。
「ごめんなさい……ごめんなさい、霊夢……私じゃ……私じゃダメだった……!ううっ……う……」
「……ここからは私と妹紅が説明するよ。赤蛮奇は、仕事中にこの
「なにせ赤蛮奇ってば、霊夢のアドバイスのお陰でアイツと付き合えたって思っているからな。だから霊夢に恩義を感じてるのさ」
「しかし里の人間達は赤蛮奇の言葉を全く信じず、そればかりか、嘘を流布する悪質な妖怪だと、酷く責め立ててね」
「え」
「赤蛮奇は、この人間エスカルゴを目にしている、数少ない人物なんだよ。どうもエスカルゴは、博麗神社で霊夢に見送られた後、彼女の働いている店に立ち寄ったようでね。だから赤蛮奇や彼女の同僚、店長なんかは、人間エスカルゴを見ているから一応手伝ってくれているんだが……」
「新聞を信じる人間の方が多いってのが、現状さ。私と妹紅もどうにか頑張ったが、そうするともう、この自警団そのものが非難の嵐を浴びる事になってしまった」
「私も慧音も赤蛮奇も、この前の……『ぜうす』?が攻めてきたあの事件では、自警団として避難活動を進めていたからさ。その弊害が出ちまってるんだ。本当にすまない、霊夢……力が足りなくて。小兎姫もすまなかった、勝手に自警団を巻き込んじまって」
「モーマンタイですよ。あの時、あなた方が避難を推し進めてくれたからこそ、1人の死者も出さず、無事に命蓮寺や神霊廟などに避難できたんですよ?ここで、里の人間の命の恩人とも言えるあなた方を責めるのは……お門違いというもの。ですよね?」
そう言って小兎姫は自警団の面々を振り返ると、彼らは全員揃って力強く、そして真っ直ぐな瞳で、うんうんと何度も頷いて見せる。
それを見て赤蛮奇は更に嗚咽を漏らして泣き出し慧音は優しく彼女の背中をさする。
「……これからどうするんだ、霊夢。こんな状況じゃ外を出歩けないだろう」
「どうするも何もないわ……!エスカルゴに知られる前に、どうにかして穹ちゃんを見つけ出して訂正の記事を書かせるのよ……!文でもいいわ!なんなら、はたてでも構わない!」
「────いや。私は寧ろ、エスカルゴを探して、エスカルゴに事情を説明すべきだと思う」
妹紅の言葉に、霊夢は弾かれるように手を出し、今度は妹紅の胸ぐらを掴んだ。慧音達が止めようとするが、妹紅は手でそれを制止して、霊夢に優しく問い掛ける。
「安心しろよ。こんな事で、エスカルゴとの関係が壊れるワケがないじゃないか?」
「そんなのっ……分かんないでしょうが!」
「いいや、分かる。あいつは霊夢が浮気してないと信じてくれるよ。心から信じるはずだよ。だって、それがエスカルゴという男じゃないか」
「……でも!さっき、人間に言われたけど!もしも、エスカルゴが『俺が浮気してるから霊夢も』とか、そう考えない保証は無い!私はっ……エスカルゴからそう思われる事自体が嫌なのよ!!絶対にっ!!」
「いいや、それは無い。断言するよ。エスカルゴは筋金入りの霊夢バカなんだ、霊夢の言葉は無条件で信じるだろうよ」
「でもっ……」
「それにだ。キスしてるこの男はエスカルゴだろ?だったらエスカルゴ本人に見せて弁護してもらえばいいだけじゃないか」
「もし、ほんの少しだってエスカルゴに疑われたらどうするのよっ!!そんなの無理よ……私、絶対……耐えられない……っ!!」
「それは無いっての……。信じてやれよ、第一夫人。お前があいつを信じなきゃ、あいつもお前を信じてくれないかもしれないだろ」
「そんなの嫌!知られたくないし疑われたくない!私はっ……私はアイツの妻よ!浮気なんかしないの!しないんだからぁっ!うあああぁっ……あぁぁ……」
「……カオスだな」
「カオスだねぇ」
「
自身の非力さを嘆く赤蛮奇、疑われるのが怖くて泣き出してしまった霊夢。慧音も妹紅も小兎姫も、もはや、溜め息しか出なかった。
◆
そしてその頃、紅魔館で彼女との交わりを終えた俺は、霊愛から同じ報せを受け取った────。
「……あぁん?霊夢の記事だぁ?」
「そ、そうなのっ……でもその内容が……!」
その内容のあまりの稚拙さに俺は新聞を破り捨て床に叩きつける。
「するハズがねェだろうッ!?霊夢がァッ!!俺の霊夢が浮気なんかするハズねェだろうがッッ!!!テメェッ、ひとをバカにすんのもッ!舐め腐るのも大概にしろよコラァッ!!俺の事は嫌おうが馬鹿にしようが笑って見過ごしてやる!だが俺の嫁を貶すヤツぁ地獄の果てまで追い掛けて償わせるッッ!!ブチ殺されてえのかッ!!クソクソクソァァッ!!よくも、よくも俺の霊夢を貶すような記事をぉ〜!よほどこの世に存在したくないらしいなァッ!!」
「う、うんっ、分かってる、分かってるからっ!!とりあえず落ち着いて、メイド達も見てるよ!」
「誰だァ、そんな事を言い出したクソボケはッ!!必ず探し出して俺の手でブチ────」
「穹お姉様です」
「殺し…………あ゙ぁ!?」
「うわ、虔魔……窓の外から現れるのホラーすぎ」
「よく見て下さい。破られる前の記事になります。これが件の新聞です」
「なんで2部目があんのさ」
「掃除に使うのに10部は置いてってもらってます。コレはその1部です」
「あ、そう……」
「……蒼穹新聞……穹ぁぁぁあああああっっ!!!」
「「────ッ!?」」
その日、紅魔館の上半分が消し飛んだ。
爆発オチなんてサイテー!