「フーッ……フーッ……あぁクソッ、イライラする!ふざけんじゃねぇ穹のヤロォ……何考えてやがる!!新聞書けねえようにされてえのか……!?」
(妖気の解放だけで紅魔館を破壊した……!?しかも綺麗に上半分だけ吹き飛ぶとは……)
「あっぶな、結界間に合ってよかった」
「ありがとうございます、お姉様……助かりました」
「虔魔はとりあえず兄弟姉妹の安否確認しな、私はお父さんを鎮める」
「かしこま……あれ、お父様が消えましたよ」
「え」
ダンッと床を踏み締め、紅魔館の上空に飛び出し外出することに。青空教室の如く屋根の無い紅魔館ならばわざわざ窓や扉から出る必要も無い。
遅れて、レミリアが現場にやってきたようだが、霊愛に相手をさせる事にしよう。
「ちょっと、一体これは何の騒ぎ!?」
「あ、レミリア。ちょっとお父さんがブチギレて、紅魔館吹っ飛ばしちゃった」
「はぁ!?何にキレたらこうなるってのよ!?」
「この……記事を見てさ。穹のなんだけど」
「?……霊夢が浮気ですって?無い無い、絶対無い!あの霊夢が?エスカルゴじゃあるまいし!」
「だよねぇ」
「……霊夢が浮気したから怒ってる……ってコト?」
「いや、こんな記事を書いた穹にキレてる。こりゃ親子喧嘩勃発だねぇ。とりあえず瓦礫の撤去くらいしときますか……」
「あぁ、それなら隅に寄せといて。廃棄するより、破片がある方が錬金魔法の効率が良くなるって前に言ってたわ」
「へー。だったらさっさと、チルドレン総動員して片付けしますか〜。ここあ達に直させる?」
「いいえ、エスカルゴにやらせるわ」
◆
霊夢は博麗神社に居なかった。とりあえず霊夢の保護をしようと思ったが、まさか出掛けているとは思いもしなかった。何ともまぁタイミングの悪い。
穹の気配は紅魔館に無かったのだから、穹もまた記事を配る為に外出しているという事だろう。
まずは霊夢だ。穹より霊夢だ。霊夢に話を聞く、なんて事はしない。する意味も無い。こんなモン、フェイクニュースもいい所だ。
確かに、霊夢は人間の男とキスしている。しかしそれは、
一先ず、無人の博麗神社を守る為に風のバリアで山全体を保護しておく。人間は通れやしない。仮に人間の如きゴミが近付けば細切れにされるはずさ。俺の風魔法も、ほんの少しは板についたろう。
「何処に行ったのかも見当がつかんとなると、もうお手上げだな」
だから俺は《異世界へ行く程度の能力》を使う。これは何年も前に母さんこと魔界神である神綺から授けられた能力で、知らない異世界は勿論のこと、知ってる異世界、更には、この能力を使用する際に必要となる「定義」の仕方によっては、何処にでも移動できるようになるというちぃと能力だ。
俺や巫月、武甕槌命が使う「スキマ」は紫さんのスキマとは原理も理屈も何もかも違うので、名前が同じなだけの別物である。そして俺達の場合、このスキマでの移動は「知ってる場所、見た事ある場所でないと移動できない」というデメリットがある。
その欠点を、この能力なら補えるというワケだ。
霊夢の半径1m以内を「異世界」と定義────俺は能力を行使。
「よっと」
「!?」
「キャッ!?」
「うおっ……」
移動先は、何度も来た自警団の本部らしかった。
霊夢は何故か妹紅の胸で泣いているし、赤蛮奇も赤蛮奇で泣いているし、妹紅は女性らしく驚くし、慧音や小兎姫の反応は薄い……もう少しくらい驚いてくれてもいいだろうに。
「うぇっ……エス、カルゴ……なんで……」
「新聞見た。だから霊夢に会わないとって思った」
「ッ……私……浮気なんかっ……」
またもや泣きそうになった霊夢を見て、これ以上話を聞くのはキツイなと感じた俺は、咄嗟に彼女を引き寄せ、妹紅や小兎姫などなども見ていることも気にせず、黙って霊夢を抱き締めた。
「分かってる。言うな。霊夢は浮気なんかしない。浮気するようなヤロウは俺だけで十分だ────。俺の嫁は……霊夢はそんな事しないよ」
「信じて……くれるの……?」
「当たり前のこと聞いてんじゃねーよ。俺が人間に戻っちまった時だってさ、嘘としか思えねーのに、俺を信じてこうして抱き締めてくれたよな。だから今度は……俺がそうする番。それだけだからよ」
「エスカルゴ……」
震えている。どれだけ嫌な思いをしたんだろう。何故だか本部の外はうるさいし、滅茶苦茶に強気なハズの霊夢が泣いているし、意味が分からないな。出産のときですら殆ど泣かなかったはずなのに。
「────つーか、俺とのキスシーンだろ、アレ。信じるも信じねーも無いわ。俺だし。覚えてるよ。リエの調査の為に、人里に行く時のだろう?かなり高精度な擬態したからな、嫌でも記憶に残ってる」
「うん……ッ」
「んでその後は、確か、ばんきちゃんの店に行って昼飯食ったんだよな。あん時、ばんきちゃんに頭ァブッ叩かれて死んじゃったもんね?」
ケラケラと笑いが込み上げてくる。俺の話を聞く赤蛮奇も、涙を目に浮かべながらも笑ってくれた。つい数ヶ月前の事だ、幾ら俺でも覚えている。
「安心しろ霊夢。俺は霊夢を信じるし、穹のヤツがフェイクニュースを垂れ流してるって事もとっくに把握してる。赤蛮奇、慧音、妹紅、小兎姫も、迷惑掛けてスマン。こっからは、俺がどうにかするよ」
「大丈夫か?今、博麗神社に行ったら、野次馬共が霊夢を襲いに来るかもしれんぞ」
「あん?神社は俺の風魔法で防御済みだし、もしも突破されりゃ、そんときゃ俺の風魔法『天狗颪』で彼方へ吹き飛ばして、皆殺しにしてやるからさ」
「「「いやそれはマズイから」」」
「俺は正義の味方じゃないよ。癇癪で人を殺す事もあると……そろそろ里でぬくぬく生きてるクソ人間に分からせておく必要があるかもしれないね」
「それはダメ……!幾ら喧しくても、これまでずっと私が博麗の巫女として守ってきたのよ……!」
「殺しはしなくとも、分からせておく必要はある。この前、ゼウスが攻めてきた時の後始末に────河童や天狗なんかが後処理なんか手伝って妖怪への恐怖も酷く薄れている。ここらで1つ、妖怪達への恐怖心を強く思い出させる必要があるだろう」
俺は正義の味方じゃない。人間の味方はしない。何なら、リセットしたとはいえ一度里を壊した事もあるくらいだ。あの時は、流石にやりすぎたと後悔したが……あの時に後悔した事を後悔しそうだな。
「もし異変を起こしたら、霊夢。解決に来てくれ。いつ起こすかは、言わねーけどよ」
「……」
「情報に踊らされるクソ人間共が。殺されないだけ感謝しやがれってんだ。他人の嫁バカにして、命があるだけ俺に感謝しろ。どこまでも舐めやがって、俺らに殺されないと思って油断してやがるんだよ。温室育ちの養殖ヤローが……!」
「まぁまぁ、落ち着けエスカルゴ。霊夢の気はもう収まってるんだし……。人の噂も七十五日と言うし、じきに収まるだろうさ」
「妹紅は気が長いよね。流石は蓬莱の薬を服用した元人間。人生の大先輩なだけあるよ」
「皮肉たっぷりに聞こえるが、まぁいいや。少しは思い直してくれたか?」
「無理だ。俺は我慢できん。とりあえず雷落とす。無差別じゃあないぜ、
「ッ……殺すなよ」
「さぁ……どうかな。その辺は、運を天に任せるさ」
「お、お前な……!」
「おっと、来るなよ。これより、クソ人間共の処刑タイムだ。外に出るなよ。そして外を見るな。俺が戻るまでは、外を見ちゃあいけないぜ」
霊夢を妹紅に押し付けるようにして、外に出る。外で侵入を防いでいる自警団の連中の事は、暴れる子供にやるようにラリホーで眠らせ、ただし突破はされないように門前に結界を張ることで、里人達の侵入を防ぐ。
「人間共ォ!これを見ろ!!」
悪魔としての技能、催眠術を使用。確か、前にも外の世界で、カジノの場で使った事があったか……。
自警団の本部に押し寄せていた、自警団アンチの人間共は、自警団本部上空に居る俺が目に入った。その瞬間に催眠を使用し、全員の意識を
「さっさとお家に帰んな!!」
催眠をかけた状態で家に帰らせる。そうすると、自然と奴らの家が特定できるワケだ。人数にして、100人近くだろうか。まぁそんなに多くはない。
外の世界で稀に行われる「デモ」に比べればまだ可愛い方だろう。しかし俺は、それでも許さない。
俺の嫁を、そして彼女達を、嘘を吹聴する悪質な妖怪だと吹聴する貴様らの方が、悪質で、下劣で、下衆な存在だ。散々人間を殺してきた俺より下等な存在だろう。
「ククッ、ダイナミック住所特定もここまでくると芸術的だな。しかしこれで自警団連中を叩きに来たクソバエ共の巣が分かった。巣と共に死滅しろ!!災厄『
特定した全ての家屋に弱めの雷を落としていく。地鳴りもするし、実際、衝撃で地面が震えている。更にはあちこちで火の手が上がり始める。
いい気味だ。催眠状態を解除しなければこのまま焼け死んでくれるが、殺す事自体は目的ではない。だから催眠は解除する。とりあえずは、今日の所はこれくらいで勘弁してやってもいいだろう。
しかし、これで「お仕置き」は終わらない。里については後で紫さんにこっぴどく叱られるだろうが今はそんな事はどうでもいい。
俺はそのままの足で妖怪の山へ向かうと、天魔に謁見。見せ合いオナニーした仲だし、天魔もすぐに出てきてくれるようだ。
「お待たせしたな。……して、何の用かな?嫌に気が立っておるようだが」
「今日、天魔様の屋敷を訪問したのは他でもない。少し天狗の戦闘員を貸してほしいと思いましてね」
「……ほ?……んん?それは、どういう意味じゃ?」
「とりあえず天魔様には、コレを見てもらいたい。そうすれば俺の意図は伝わるだろうと思われる」
ビタンと蒼穹新聞の号外を叩き付ける。お付きの天狗はビクリと飛び上がるが、天魔は、あまり焦る様子も無く、何食わぬ顔でそれを手に取りササッと目を走らせる。
「……穹め。英雄の怒りを買いおったか」
「鴉天狗、白狼天狗、山伏天狗、鼻高天狗、何でも構わないですよ。ええ。戦闘員だけ貸してほしい。強さは要らない。俺が自ら、陣頭指揮を執る。俺の指示に従える戦闘員だけを、出来るだけ多く。数で穹に『分からせ』る」
「『分からせ』る……とな……?」
「天魔様もお気付きでしょう。
「……うむ」
「なればこそ。穹の特別扱いを止めるのではない。ここは敢えて、
「……フン。構わん。好きにするがいい。儂とお主の仲だから了承するのだぞ。これは儂の私情であり、天魔としての判断ではない。
「有難い。では早急に」
「うむ」
◆
「……これで良いのか、紫?」
「ええ。
「……」
「エスカルゴは、勝手に里を痛め付けた事について私に処罰されると思っているでしょうけど────無闇に殺してはいないし、寧ろ、『妖怪への恐れが高まる』に留めている。十数年前と違ってやり方が上手くなっているわ。妖怪として、ね」
「普通、こう……神隠しを起こしたりして、間接的に人間を恐れさせるのがいいのではないのか?」
「そうね、それが従来のやり方。けどエスカルゴにそのやり方は壊滅的に合わないの。怒りに任せて、破壊的な力を奮う。それこそが彼よ。まさに神話に登場するような『神』のような、強引すぎるやり方だけどね」
「……彼奴は、一体何を目指しているのかの……」
「決まってるわ。『世界で二番目の強さ』よ。その目的の為なら、彼は『吸血鬼』という枠組みすらも自ら喜んで捨て去るのでしょうね」
「全く、やれやれじゃの」
◆
「総勢2000人?ヒュー、壮観だね」
「これもお義兄さんのお声掛けだからこそですよ」
「やめろ椛ィ、
「ヒビキ隊長は寝てます。昨日、酒盛りがあったんですよ。俺ら親衛隊の中で……」
「でも私と
「楓も将輝もありがとな。とりあえず指揮は俺が、細かい指揮は3人に任せるわ」
「「「はい!!」」」
そして此処に更に軍勢を追加する。即ちシエルとルビー、サンズとパピルス率いる「グリゴリ」だ。堕天使集団・グリゴリ────俺が頭首だが、実質リーダーはシエルとルビーの兼任で、副リーダーはサンズとパピルスに任せているようなモンで、俺は表向きみたいな扱いになりつつある。
「────よし、揃ったな。今回の相手は俺の娘。三女の穹だ」
「「「えっ」」」
「は?」
「……?」
「「*え?」」
天狗達、堕天使達、骨兄弟は、揃って似たような反応を見せてくれる。しかしそれも仕方ないというものである。俺は娘を溺愛している事で有名だし、ましてやこんな大軍勢で叩き潰すだなんて、一体、この場の誰が想像できるだろう。
「まっ、待って下さいお義兄さん!穹ちゃんを!?この人数で、ですか!?」
「演習か何かですよね……?」
「それしかねーだろ?……まさかね?」
「エスカルゴが娘を倒すつもりとは思えないしね。リサに対するゲロ甘さには、天使の私らですら砂糖吐きそうになるしィ?他の娘にも同じ事でしょ?」
「そうですね。エスカルゴさんらしからぬ行動で、しかも非現実的です」
「*そうだな。ごしゅじん らしくない」
「*オレさま がんばるよッ!!せんそうごっこ なんだよねッ!」
「────いいや、違う。とりあえず穹にお仕置きしてやる。理由は後で、聞きたいヤツに聞かせる。ここでは言わない……が、全力で戦え」
「そんな!無謀です!」
「幾ら穹ちゃんが相手でも!」
「そいつは流石に従えません!」
などなど非難轟々。しかも帰り始める者もいる。だがそれでいい。従いたくないんなら帰ればいい。俺はそれすら許容しよう。しかし……。
「────お前ら如きに殺される俺の娘じゃねぇ。お前らが束になってやっとアイツと互角だろうよ。ここで逃げ出すヤツは────穹を痛め付けることじゃなく、穹に負けるのが怖いんじゃねぇのか?」
「「「「…………!?」」」」
「よく聞けよ。穹は強い。ポテンシャルだけなら、次代の巫女……霊愛に勝るとも劣らんだろう。だが、特別扱いし過ぎていつまでも放置してると、今日のようにフェイクニュースをバラ撒いても、何の罰も下らないんだと、穹を調子に乗らせる事になる!」
帰りかけていた天狗達がその翼を停め、こちらを振り返る。もう一押しだ。
「これは私情じゃない、いつか確実に起こる未来の話だ。穹はいつか、俺も含め、お前ら天狗のある事無い事を全て
────振り返った天狗達が戻ってきた。
「しかしそんな事は、断じて許しちゃあならない!これは罰だ!『大人』の威厳、尊厳を守る戦いだ!これは、断じて子供を『支配』するものではない!単なる『躾』!単なる『罰』でしかない!!我々の未来を、尊厳を守る戦いだ!俺についてこいッ!!大人の力を見せ!お仕置きタイムといこうッ!!」
「「「「おおおおおおおおおーーーっ!!」」」」
鬨の声が上がる。凄まじい音圧だ。椛なんかの、意思が強めの者は周りに押されるような感じだが、堕天使共は戦いに乗り気なので、いい感じに士気が上がっている。
こんなんで言いくるめられるのか、と少し不安に思ってしまう俺だったが、扇動したのは俺だ。一応責任を取って最後まで扇動しよう。
「……ですがお義兄さん、こんな軍勢を従えて素直に穹ちゃんが従うと思えません。見られた時点ですぐ逃げると思いますが……」
「────俺は最大で半径8キロの結界を張れる」
「え」
「昔は、紫さんと霊夢の助けが無ければそれを維持できなかった。だが今の俺は違う。昔より結界術も鍛えてあるし強度も申し分ない程だ。言いたい事、分かるね?」
「……まさか、結界の中で追いかけっこを……?」
「そう。もう結界は張ってある。だから後はここに穹を召喚するだけでいい……!」
「えっ?」
「
俺の言葉に、椛をはじめ白狼天狗達は目を凝らし前、後ろ、上、下など全方向を確認。すると、漸く分かったのだろう。奥歯をカチカチ鳴らしながら、おずおずと俺の方を見てきた。
「帰ろうとした天狗共。お前らも、もう俺の許しが無くては帰れねェってこった。黙って、俺の課したミッションをコンプリートしやがれ。その為だけに俺は天魔……様に頭ァ下げてまでお前ら天狗の軍勢を借りたんだからよ」
「ちょっ……お義兄さん!それは横暴では……!?」
「横暴で結構。俺は天狗の主人でも上司でもない、言わば外注業者の現場監督的な立場さ。嫌われても俺の人生には何の影響もねェ。それとも、なにか?俺に逆らってお前らに未来があるか?天魔様は俺に全てを一任した。俺に逆らうという事は天魔様にも逆らうという事だ。それを理解しているかな?」
「「「…………っ!」」」
「難しい事は考えるなよ。なにも殺せって言ってるワケじゃないんだからさー。『山の掟』に従って、不穏分子を痛め付ける。ただそれだけの事だろう?俺が言ってるのはそういう事だ」
「*……ごしゅじんよ。 それは めいれいか?」
「*めいれいなら オレさま ココロをオニにしてガンバるよッ!」
「あァそうだよ、Sans、Papyrus……命令だ。穹に、分からせてやれ。『他人には踏み込んじゃならねェエリアってモンが存在している』ってな……!!」
「*しょうちした」
「*わかったよッ!」
きっとPapyrusはあまり動けないんだろうなぁと苦笑はしつつ、とりあえず信じてみることにした。
そして俺は《異世界へ行く程度の能力》の応用、座標特定にて、穹を結界の内側へ強制的に召喚し、穹への「分からせ」が始まったのである。
(守るべき人間に対し)殺されないだけ感謝しろ
温室育ちの養殖ヤロー
皆殺しにしてやる
どう考えても主人公のセリフじゃないんだよなぁと思いながら書いた。