「お待たせ。返すぜ、
「……はい……」
すっかり気力を失い、廃人状態となってしまったミカエルの首元を引っ張り、リエの方へ放り出す。常に殺気を飛ばしてきていたあの頃とは大違いで、今のミカエルは泣きながら「ごめん……ごめんね」
「ごめんなさい」、「私のせいで」、「助けて」、
「ルシファーに会いたい」、「嫌だ」など、まるでお菓子を買ってもらえずにゴネている子供のようにひたすら口にしている。
「さっ、これで目的は達成したはずだよな。お前らエデン異世界調査隊の真の目的を話してもらおう」
「その必要はありません」
「……ほう」
「協力関係を解消しましょう。やはり他者に協力を頼むのが間違いだったのです。ミカエルの復讐は、未来永劫叶わないと確定しました。ですので目的は既に達せられています」
「2つの内の1つは、な。もう1つあんだろ」
「……言えません」
「だから何でだよ」
「身内の汚点だからです」
「汚点……だと?」
「……」
口をキュッと結び、それ以上は口にすまいと固く決意しているようだった。けれども、そんなリエを見かねたのか、シエルが溜め息をついて口を開く。
「────私達『エデン異世界調査隊』は、実は、とある失踪した天使を探す為に組織されたんだ」
「シエルッ!!」
「もういいじゃんリエ。全部終わらせて、さっさと帰ろうよ。それにミカがここまで徹底的に手も足も出せないような悪魔が相手なんだよ?ミカより弱い私達で勝てるハズがないのにさ、なんで逆らおうとするかなぁ?……リエって、冷静に見えて割と感情で動くよね。そんなんじゃ、長生きできずに死ぬよ」
「ッ……」
「……続けるよ。どうやらエスカルゴは
「ザラキエル?……あー。『神の命令』……」
「やっぱ知ってたんだね。良かったよ。それなら、ザラキエルの別名……知ってる?」
ザラキエルの別名と言えば、有名どころで言えば
サラカエル、スリエルか。あと────最も有名な別名と言えばやはり……。
「……
「うん。ザラキエルは、最初はザラキエルと普通に名乗ってた。でももう1人のザラキエル……ううん、
『サリエル』と出会ってから、ザラキエルは自身の名を改名、『サリエル』と名乗るようになった 」
「……」
「そして、後から現れた『サリエル』と融合して、消えた。この日本には『名は体を表す』って言葉があるでしょ。サリエルは『死を司る天使』だけど、後から現れたサリエルもまた『死を司る天使』で……しかもそっちのサリエルの方が力がずっと強かったせいで、融合吸収しちゃったみたいでね」
「……マジか」
「私達の目的は、この『サリエル』を連れ帰る事。こっちの『サリエル』を連れ帰り、神に正式に追放してもらう。今のままじゃあ、ただ『逃げられた』だけで天界の所属から脱退した事になってないの」
「待てッ、そっちのサリエルはこっちのサリエルが融合吸収しちまったんだろ?なら脱退も何も無いと思うんだが」
「ただ
「────ッ!!」
「サリエルを連れ帰る。そして追放してもらって、
『大天使』の地位を剥奪する。サリエルは堕天使になり、果ては悪魔に身を落とすことになるの☆」
「!」
「そのサリエルを見付けたのはつい数日前。なんと宇宙で見掛けたんだよ?びっくりしちゃうよねぇ。そんなとこにいたんじゃ、見つかんないワケだよ。
────ねぇ、エスカルゴ……。あなたの指揮の下にサリエル……居たよね?」
「……」
「
◆
「なぁ紫。もしサリエルが原因だとしたら、お前はどう動くつもりだ?」
「サリエルは魔界の天使。ハッキリ言って幻想郷と関係の無い存在です。だから、サリエルが原因なら私はもう手を引くしかないわね。……でもサリエルが原因で幻想郷に明確に被害が及ぶとしたなら、話は別なんだけれど」
「現状、幻想郷に被害が及ぶとは考えにくいわね。となると紫だけじゃなく私も手出しはできないわ」
「結局、またエスカルゴ任せ……ってことか」
「そうするしかないでしょう」
その時、雷が落ちた。ミカエルへのトドメの雷。その音を聞き博麗神社に居た者達は瞬時に察した。先程丁度話題にしていた「天使」が、敗北したと。
「────エスカルゴの勝ちね」
「大天使ミカエル如きに負ける、我々のエスカルゴではないわ」
「アレはエスカルゴがよくトドメやストレス発散に使用している『一閃「Mishap of Thunder」』だな。アレ、威力調整が凄く簡単らしいな」
「あの威力だと、地面にちょっとした凹みができる程度かしらね。魔理沙はどう思う?」
「だな、間違いないぜ。暫くはミカエルってヤツも動けないだろうな」
「エスカルゴ相手に復讐だなんて、バカなヤツね。そもそもが、ルシファーが幻想郷に攻めてきたのが事の発端だってのに……逆恨みもいい所だわ」
「けれど、そうでもしないと、己の心を保てないのでしょう。復讐心を抱くのは、怒りもあるけれど、自分の心を守る為でもある場合が多いのよ」
「……私にはよく分からないな」
「そうね。そんなものなのかしら……?」
「そんなものよ」
◆
「────この俺に、サリエルを差し出せと?」
「そーそー。そうすれば、私達はもう幻想郷からはおさらばできるの。幻想郷側としても、余所者にはさっさと出て行ってほしいでしょ?ならサリエルを差し出すのをオススメするよ〜☆」
サリエルは神綺母さんの創造物。母さんは彼女を娘とカウントはしていないものの、実質的に彼女は俺の義姉にも当たるような存在だ。分かってる。
サリエルを差し出せば、3人は幻想郷から出る。ミカエルの復讐心も嬲ってやったから、これから、ミカエルの復讐心を考慮して備えたり、ビビる必要なんか無い。分かってる。
ここで俺が拒否すればそれこそ幻想郷が何らかの被害に遭うかもしれない。コイツら以外の刺客が、幻想郷に侵入してくるかもしれない。分かってる。
────分かってる、分かってる、分かってる。そんなの、全部、把握しているんだ。理解してる。
だけど。俺は幼女にも手を出すようなクズだし、娘にも息子にも手を出すようなクズだ。それでも、幻想郷を救うのを手伝ってくれたあのサリエルを、おめおめと差し出していいのか。
クズな俺にもそれくらいの事は分かるつもりだ。
絶対に引き渡してはならない。サリエルの立場が追われると分かっているのであれば、尚更だ。
「……断る」
「……へぇ。理由は?」
「アイツは俺にとって
「「…………」」
リエもシエルも、今の俺とミカエルの戦いを見てよく分かったハズだ。俺のこの発言が、ブラフでも何でもなく、本気なのだと。
神の力を全く使わず、天使を率いることのできる実力者であるミカエルすら圧倒し、倒せるのだと。
そしてここで表立って逆らえば────自分達がどういう目に遭うのか。
2人の答えは、もはや、たったの1つにまで限定されていた。しかし、既に決まっていたその答えを言葉という形で出力するのに、2人は────特にリエは、それはもう多大な時間を要し、思っていた通りの言葉を紡いだのであった。