霊夢が魔理沙から謎の少女を預かった、その晩。少女は、掃除や料理などの家事の面において、実によく働いてくれた。それはもう霊夢ですら警戒心を薄めるくらいだ。
「ん、ちょっと味薄いわね。塩取ってくれる?」
「はーい」
「ありがと。もう少しで終わるから、子供達のこと呼んできてくれる?」
「わかりました!」
霊夢に任され、夕飯の為に子供達を呼びに行く。まずは霊愛、縁側で針の手入れをしていたので声を掛けるのは容易かった。そして妹の霊麗は、そんな霊愛のすぐ隣で自分用の針の手入れをしていたので霊愛と同時に声を掛ける。
次に霊子。居間の隅にて読書中、もとい魔導書を読んでいたので、あまり邪魔はしないようにと少し小声気味で声を掛ける。霊子は目も合わさないが、小さく頷く事でそれに答える。
「あの……霊魔さんってどこに……?」
「……」
「あ、あのー……」
「……子供部屋にでも引き篭ってるんじゃないの」
「子供部屋ですね、ありがとうございます!」
「……」
そのまま霊子に場所を尋ねたかったが、そこまで話す気は無いとばかりに無言で壁を作る霊子。警戒されてるなぁ、とちょっぴりしょんぼりしながらも少女は霊夢の元に戻って、子供部屋の場所を教えてもらい、子供部屋へ。
「霊魔さーん。……居ますかー?」
返事は無い。当然だ、相手は霊魔である。相手は見知らぬ女。顔見知りでさえ最近になって「やっとまともに話せるようになってきた」ばかりなのだ、初対面なら昔に逆戻りなのも仕方がない事である。
「入りますよー?」
鍵など無い襖だ、その気になれば簡単に入れる。夕飯が遅れてしまうと考えた少女は、そう一言だけ断りを入れて、襖を開ける。
するとそこには、こんもりと丸く膨らんだ布団がぽつんとあるだけであった。
「助けてウルキオラ、ウルキオラ助けてぇっ……」
「……霊魔さーん?ご飯ですよー……?」
「一護、惣右介、助けてぇ……っ!」
「霊夢さん呼んでますよー?皆も待ってますから、霊魔さんも行きましょう?」
彼とて力があるとはいえ子供である。困った時は好きな漫画の好きなキャラクターに助けを乞うものであり、それは霊魔も例外ではなかった。
少女は盛り上がる布団の前にしゃがみツンツンと山を触る。
「開けますよー?」
「え」
「えいっ」
「あっ!?」
バサリと布団を剥ぎ取る。そこには、布団の中で彼の好きな漫画「BLEACH」の、第22巻と第40巻を抱き締め、身体を丸めている彼の姿があった。
布団という最後のバリアを剥ぎ取られた霊魔は、思わず亀のように顔をもたげるが、そんな彼の顔の目の前には、少女がしゃがんでいた為に、パンツが丸見え状態になっていた。
「ひゃっ!?」
「?……あ…………えっち♡」
「!!!???!!?」
スカートを押さえるどころか、逆に蹲踞のように脚を開くと、ピラリとスカートを捲り、その水色のパンティを彼に堂々と見せ付ける。
シガレットという彼女が居るにせよ、霊魔とて、1人の男の子。そんなものを見せ付けられて、直視しない方が無理だった。
「……はいっ、おしまい♡」
「え、ぁ……」
「霊夢さんが呼んでたよ、行こっ?」
「…………………………はい…………///」
彼女に手を差し伸べられ、素直にその手を取り、彼は少女と手を繋いで、布団に漫画を置いて、子供部屋を後にする。
初めて繋ぐ手はとっても柔らかくて、少女であるシガレットよりかは大人に近く、かといってもまだ大人に届かないような、そんな、彼にとって明確なまでの「お姉さん」であった。
「霊夢さーん、連れてきましたよー♪」
「あー、ありが……!?」
「「「────ッッ!?」」」
霊夢の表情は強ばり、博麗三姉妹も硬直。霊魔がシガレット以外の女性と手を繋いで登場したのだ、当然、そんな姿を目にしては固まるしかなかった。
「ど、どうしたのっ?手なんか繋いで……」
「霊魔
「そ……そぉ……べ、別にそこまでしなくても……」
「いえいえ!折角、血の繋がった家族ですからっ!皆で食べましょうっ!ね、霊魔くん!」
「……うん……///」
(……ヤッたのかな?それは無いか、霊魔だし)
(霊魔がシガレット以外とヤるとは思えないけど、ワンチャンあるのかな?)
(…………この女……)
(霊魔が初対面の女の子に心を開きかけてる?妙なこともあったものね……咲夜相手でさえ近くの誰かの後ろに隠れる癖が最近まで抜けていなかったのに、これは一体、どういう事……?)
2人への疑念が噴出する中、つついたら破裂する風船のような、張り詰めた空気で、夕食を迎えた。そんな空気の中でも平然としているのは、唯一その少女だけである。
◆
その晩。霊夢は少女にパジャマを貸して、2人で夫婦の寝室で寝ようとしていた。当然ながら監視の意味が強いが。
「ねぇ、あなた」
「はい?」
「さっき、霊魔に何したの?あの子、おかしい程に恥ずかしがり屋だから、知らない人と……ましてや、初対面のあなたと手を繋ぐワケはないのよ」
「何もしてませんよ?」
「嘘。何か、隠してるわね。母親の目を欺けるとは思わない方がいいわよ」
「……」
さて、どうしたものかと少女は考え込む。まさか母親に、霊魔にパンツを見せ付けただなんて言えるはずもなく、かと言って何か言い訳がすぐ思いつくはずもなかった。
そんな彼女がとった行動は、ただ1つ。
「────実はさっき、布団にくるまっている彼をどうにかしようとしたときに……」
「……」
「パンツ、見られちゃいまして♡」
「え?」
「ほら、私のセーラー服、少し改造してあるから、普通よりスカートの丈が短いんです。そしたら彼の布団を捲ったときに、うっかり見えちゃって……」
「……それ、だけ?」
「それだけですよぉ。照れて固まっちゃったので、ただ『皆が待ってるから行こう』って、霊魔くんを連れ出したんです」
「???」
「霊魔くんにも明日、聞いてみてください。多分、照れながら同じような事を答えると思いますよ?」
少女の説明を聞いて霊夢は納得がいった。確かにそんな理由なら、霊魔らしくないあの行動にも筋が通る。寧ろこの流れなら、あの行動は反対に「霊魔らしい」とすら言えるからだ。
パンツを見てしまったという確かな負い目があるならば、彼は抵抗などせず言われるがままになる。恥ずかしがり屋で、極度の照れ屋だからこそ、彼はそれ以上、この少女に逆らう事ができなかった。
「……悪かったわね、息子が……」
「いえいえ、元はと言えばスカートの丈が短いのが悪いので」
「あなたも気を付けてよ。あんなんでも『男』よ。もし変な事になったらあなたがどんな目に遭うか」
「ふふ、気を付けます♪」
◆
その頃、子供部屋では。
「はぁ?あの女が自分からパンツ見せてきたぁ?」
「う、うん……。だから、僕、ビックリして……」
「流石に、自分から見せてきたっていうのは無いんじゃないかなぁ。天然っぽい所はあるように見えたけど、自分から見せるような人には……」
「だよね。小悪魔でさえ、お父さん以外にはそんな痴女じみたことはしないでしょ?見えちゃっただけでしょ?」
「ちがっ……こう足開いて自分から見せてきたの!」
「エロ
「エロ漫画の読み過ぎだよ〜?」
「お姉ちゃん達にだけは死んでも言われたくない……ていうか本当なのに……」
「「絶対無いわ〜」」
霊愛と霊麗は揃って霊魔の言葉を笑い飛ばすが、唯一、霊子だけは静かな面持ちで兄・霊魔の言葉を聞いていた。
「んじゃ、あの女はショタコンで、霊魔に一目惚れしたからセックスに誘おうとしたとか!?」
「それが自然だよねぇ」
「……痴女説の方がまだ納得だよ。何で僕に一目惚れだなんて、そんな……」
「霊魔ってウジウジしてるから下向き眉毛だけど、それさえ無きゃ顔はイイもんね。里の人間達とかと比べると、私らの身の回りって顔が良い人ばっかりなんだよ。ま、霊魔は里に行ったことないからね、分からないのも無理は無いけど」
「まぁどっちかって言うと、顔がイイのは虔魔で、霊魔はカッコイイというよりカワイイだけどね〜」
「それは分かるかもー。霊魔はお姉ちゃんの目から見ても可愛いぞっ♪ エスカルゴチルドレン唯一の男の娘だもんね♡」
「えぇ……そんなこと言われても……」
ワッシワッシ、グリングリンと頭を撫でられて、顔を赤らめつつも困惑する霊魔。霊麗は苦笑しつつ姉に便乗して弟を撫で回すが、霊子は相変わらずの冷静な面持ちで、姉の提唱する「
有り得なくはないかもしれないが、廊下や数部屋挟んですぐ向こうに母親が居るのに、そんなことをするのか?いや、普通はしない。しかしそういったスリルを楽しむ性癖が存在するのもまた、霊子は、よく知っている。だから、その「性癖」が、考察のノイズになっている。
「────何にせよ明日お父さんが来るんだから、あの女も元いた所に帰るでしょ」
「分かんないよ?幻想郷に残る選択するかもね?」
「……お父さん、あの女の人のこと狙うのかな?」
「さー?私らロリとは対極の存在でしょ、あの人。胸は大きくって背は高いし、普通よりも露出が多い部分があるとするなら太ももくらい」
「でも鈴仙もそうじゃないの?」
「鈴仙はほら、ウサ耳あるし」
「あの女の人はそういう特徴とか何も無いもんね。そっかー、お父さんが惚れる要素は殆ど無いか」
「なに?霊麗ってばお父さんアイツに惚れてほしいとか思ってるの?」
「そこまでは思ってないよー」
そして次の日────事態は動き出す。
BLEACHの第22巻、第40巻の表紙と言えば……。