「どうもこんにちは吸血鬼のお嬢さん。こんなにも晴れているのに堂々と野外でお昼寝とは……まさか、デイウォーカーに進化されているのですか?」
「……ッ!?」
血のような真っ赤な湖のほとりで昼寝をしていた吸血少女・くるみは、パンツが見えるのすら厭わず顔のそばにしゃがみ込むリリスに話し掛けられて、目を覚ますと同時に飛び退く。
「どこから湧いてきたッ!?」
「湧いてきたって、そんな虫みたいな……。まぁ別に構いませんけど」
(気付かなかった!コイツ程の気配なら寝てたって気付かないハズがないのに……!)
「フフフ……悪魔の気配漂う、素晴らしい館ですね」
「なっ……なによ、あんた……悪魔なの!?」
「あなたもあの館の住人の1人ですか?」
「だったら何よ!というか質問に答えなっ!」
「……どうやら、お父様の因子を持つのは1人だけのようですが……ま、なんでもいいですわ。とっとと、攻め滅ぼしてあげましょうか」
「────ッ!!」
ブチッと再び人差し指の先を噛みちぎると、その指を夢幻館へ向ける。リリスの魔力が、指先に集中していくのがくるみにも分かった。
血を媒介に何か攻撃が出る、そう読んだくるみは夢幻館を保護しようと自らの前面にバリアを展開。しかしリリスの攻撃は彼女のバリアすら貫通した。
「Bang♡」
「ぐぁっ!!」
バリアと共に右肩を貫かれるがその血の弾は更に距離を伸ばして夢幻館の一角を吹き飛ばした。その音を聞いてエリーも緊急事態に気が付いたようで、屋内のメンバーに連絡に走った。
「な、に……再生、しない……っ!?」
「ついでに機動力も奪っておきますかね」
「ぐっ……ぎゃあっ……ッッ!」
両足、両翼を更に撃ち抜かれたくるみは力が抜けその場に仰向けに倒れてしまった。リリスによって撃ち抜かれた穴からは血がドクドクと溢れている。
「私の血は言わば毒なんです。『身体が徐々に崩壊する毒』────死ぬまでの僅かな時間を、どうぞお楽しみください♡」
「毒ですって……?ひっ……ウソウソウソッ私の足に穴がッ……いやあああっ!足が動か、動かないっ!」
「あぁっ……イイ声♡ もっと聞かせてぇ♡」
「コイツッ……狂ってる……!」
リリスは、泣き叫ぶくるみを見下ろしながらも、股を大きく開いて座り込み、その場で陰部を触り、グッチュグチュと水音と体液を撒き散らす。
「狂ってる?褒め言葉でしかありませんわねっ♡ うふふふっ……ふふ……臓物なんか見ずともあなたの声だけでイケそうですっ♡」
「なんッ……なのよ、コイツ……ッ!」
「あっ♡ その目、ゾクゾクするっ……イクッ♡」
パンツ越しにクリをイジって、イッたリリスは、微妙に濡れたその手をスカートで拭くと、くるみを放置して夢幻館の方へ歩みを進める。
「待って……行かせ、ない……!!」
「いえいえ。行かせてもらいますよ」
「動けなくたって……」
「弾幕くらいなら────と?それなら、バリアで囲めばいいだけの話ですので」
「……!?」
冷たい目でバリアを展開し、四方を囲む。敢えて上部だけを囲んでいないのは、動けないくるみへのリリスなりの舐めプなのだろう。
「ふざっけんじゃないわよ、あんた……!何なのよっ本当に!!どこの誰よ!?」
「雑魚に名乗る名はありませんわ♪」
くるみが弾幕で必死にバリアを破壊しようとする姿すらも見ず、リリスはスカートを揺らし、優雅に夢幻館へ進む。すると次に現れたるは館の主、夢幻姉妹……。
「あれ、くるみやられてない?一応、弾幕使ってるみたいだから、生きてるっぽいけど」
「放っておいても大丈夫でしょ。吸血鬼なんだし、私達より素の再生力高いもん」
「それもそーだね。さっさとアイツ、
「幽香よりは雑魚そうだしね」
「ハッ、違いないわね」
門番のエリーは同じく屋内に居るデビリサエル、シエル、ルビーへと伝令に向かっている。しかし、ここで家主の2人が出てくるというのは、襲撃者のリリスにとっては意外な光景に映っていた。
「うちのくるみが世話になったわねェ」
「どこの悪魔?あんた……」
(ッ……薄らと感じるこの気配は何……?この魔力の密度、強さ……
距離としては10m程度だろうか。この3人程度の実力者なら一瞬で詰められるこの距離を保ちつつ、リリスは歩みを止める。指を鳴らす幻月と、後ろで手を組み手元を隠している夢月に対して、ある種のヤバさを感じたからだ。
「夢月ゥ、アイツ怖気付いてんのかな?」
「そーかもねー。まぁいいや。夢幻館は悪魔の館。悪魔の純度は紅魔館を遥かに上回ってるってコト、見せ付けてやろうじゃん」
途端に地面を蹴り、肉薄してくる夢月。ようやく覗かせたその手には、ギラリと、鈍く光を反射するある物があった。リリスは、手元に小型のバリアを展開して、その武器を防ごうとするが。
「なっ」
「んん?なぁに?まさか私がナイフ使ってるとでも思ったのかな?」
「つ……め…………ッ!?」
ナイフのように光ったソレは、ただの爪だった。透明のネイルをされ保護されているだけの、ただの爪。バリアに突き刺さって、ギャリギャリと火花を散らすような爪を、リリスは他に知らない。
左手の手刀を止められた夢月は続けざまに右手でリリスの首を飛ばそうと指を強く固く束ねた手刀で攻撃を仕掛けるが、首元に展開した2つ目の小型のバリアでそれすら受け止め耐えるリリス。しかし。
「ナイフなんてモノ使うのは、非力な子供で十分。ねぇ……姉さん?」
「全くその通りよッ!ハァッ!」
「くっ!?」
夢月の爪をバリアで防ぎながら幻月の踵落としをバリアを展開してる方とは反対の手で受け止める。するとそのあまりの衝撃にリリスの足元はズガンと沈み、小さなクレーターが作られる。
(なんてデタラメなパワー!お姉様達を優に超える馬鹿力!こんな膂力の持ち主だとは……!受け止めた腕の角度からしても私の『血弾』を発射できない!ホーミング機能なんかありませんからね……ッ)
「夢月、さっさとバリア壊しなッ!」
「中々に硬いんだよねー。その辺の山より強いわ」
(山より強いってなんですか!?意味のわからない比較はやめなさい……!)
「バリアの多重展開かー。中々にやるわねぇ」
「……ってか、くるみの血の匂い、収まんないね」
「んね。寧ろ匂いが濃くなってるカンジ?」
腕や指の角度からして、血の弾が発射できない。発射しても、夢幻姉妹は延長線上に居ないからだ。
しかし本当にそうかとリリスは思考を巡らせる。そしてすぐに結論を叩き出し、実行に移す。
「……おっ?」
夢月の手刀を止めていた手元のバリアと、首元のバリア2つを同時に解除。その勢いのまま、夢月はリリスの右手と首を手刀で貫く。力が抜け、幻月の踵落としを止めていた左腕もダラリと垂れ下がり、踵落としは見事に頭にヒットする。
「何で急に解け────」
「まさか負けを認め────」
姉妹により打ち倒され、地面に倒れ伏すリリスを見下ろしていると、それは起こった。
「ぎゃっ!?」
「くっ……」
夢月によって貫かれた右手からは夢月の腹を貫く血の弾を。首元からは幻月の太ももを貫く血の弾を放ち、それぞれ姉妹は被弾してしまった。
新たな傷が作れない状況ならば、敵によって傷を作ってもらい、そこから攻撃すればいい────。
リリスはこれまで、その強さ故に敵からの攻撃を受けた経験が無かった。だからこうして明確な敵によって追い込まれた事で、彼女は初めてその思考に至ったのである。
「痛っ……何これ、貫通性の弾?」
「弾幕、じゃなさそう……だね…………ッ?」
「夢月ッ……あぁっ!?」
力が抜けたらしい夢月がその場に座り込む。当然咄嗟に助けに出ようとした幻月だったが、被弾した部分から足が崩れバランスを保てなくなった幻月はドチャリと崩れ落ちた。
「へ……えっ?あっあっ、足がっ……足がぁっ!?」
「……ね……姉さん……ど、うしよ……私の……お腹……」
「夢月ぅっ!!」
夢月の腹には穴が空いていた。そこからジワジワ肉体の崩壊が始まっていて、穴の縁が心の臓にまで達するまでは、時間の問題であるように見えた。
「貫かれたの……おヘソの真下、だったんだよね……なのにもう……おヘソの辺りまで……ゴフッ……」
「────いやああああぁっ!!夢月っ、夢月!!死なないで!治癒魔法でどうにか治せないのっ!?ねぇっ夢月!!」
「……ダメ……さっきからずっとやってる……姉さんの足……全然、治んない……や…………ごめ、ん……」
「私なんかいいから!自分に掛けなさいよ!!」
「……無理だよ……治んないもん…………魔法殺し……の攻撃……回復……阻害…………い……痛いなぁ、これ……」
「死なないで!夢月っ!あんたが死んだらっ私達の世界も終わるのに!
「……姉さんも分かってるんでしょ……?
まるで今際の際のような夢月の言葉に、幻月は、涙を堪えきれなくなった。瀕死のリリスをも放置し幻月は失った片足を放置し、ズリズリと這い寄って夢月の手を握る。
「夢月しっかりして……私の魔力あげるから!私より治癒魔法が上手い夢月なら治せるから!!」
「無理だってば……遅延させる事すら…………ガハッ!ゲホッ、ゲホッゲホッ……。あ゙ー……喋ってないと、意識飛びそうだわ……」
「こんな事ならッ……こんな事になるんなら、もっと真面目に……魔法の特訓……しとくんだった……っっ」
「……そーゆー……後悔とか……したく、ないから……。おにーさん…………特訓…………しまくってるんだね……やっぱ敵わないなぁ、あの人には…………あは……」
「…………夢月?」
「……」
「夢月っ!目ぇ開けて!夢月ッ!夢月ゥッ!!」
「……思ったんだ……ねぇ、さん……」
「!?」
「私より……くるみ…………ヤバイよ…………」
「────ッッ!!!」
先に敵の攻撃を受けていたのは、自分達ではなくくるみ。腹に手を突っ込めそうな程の大穴が空いた夢月は、そこまで傷が広がりながらようやくそこに思い至り、幻月は咄嗟に顔を上げて、くるみの方を見る。
バリアに囲まれたその中に、まだくるみはいる。しかし、ピクリとも動きやしない。もしかしたら、彼女は、既に……。
「……私が、死んだって…………夢月だけは助ける……!姉としての、せめてもの……意地よ……!!」
「ね……姉さん……!」
「ごめん夢月……絶対助けるから……待ってて!!」
撃ち抜かれた右足は徐々に消え失せつつあって、切断面は既に股下にまで迫ってきていた。幻月は、足に攻撃を受けた際、夢月のように一点に集中した攻撃ではなく、マシンガンのように連射されたので足が崩れ落ちるまでが早かったのだ。
幻月は、匍匐前進でもなく、ケンケンでもなく、翼を広げて夢幻館へ突っ込んでいく。もう、自分が長くない事は、誰より分かっていた。くるみすら、もう、下手したら死んでいるとも。
「リサ!リサァッ!!あんた、どこにいんのよ!?ダーリンを……パパを呼んできて!!」
「この声、ママ!?」
「え、幻月?あれ、なんか血の匂いしない?ヤバくない?」
「マズイですね。シエルさん、至急、向かいましょう。リサさんは待ってて」
「あんたらが待ってな!居候に任せられないから!」
「リサ!あんたが行っちゃ……」
「エリーはパパ呼んできて!テキトーな窓から外出て!」
「ええっ!?ちょっと、リサ!!」
相変わらず、リサはお転婆だ。自分が父親の方に行けばいいのに。いつも母と口喧嘩ばかりしているような、生意気で、反抗的な娘で。
「どーしてリサ……あんたって子は……こんな時すら私の言うこと、聞いてくんないのよ……!」
ドタバタ走ってくるリサの足音を聞いて、幻月は思わず、笑いながら涙を流した。
身体の崩壊は既に右足の付け根を飲み込み段々と上へ向かい、左足の感覚も既に失われつつあった。立ち上がれば、左足もグチャリと崩れ落ちてしまいそうな予感がした。
「そうよね、夢月────そもそも私達に『世界を作る』なんてのは無理に等しかった。でも私達は、生まれながらの悪魔だもんね。足りないのよ、何をどうしたって。満たされない。だから世界を作って何でも満たされようとした。……強欲だものね」
ブツブツと、しかしハッキリした口調で、先程の夢月の「半人前の理由」への言葉を呟く。すると、目線の先に愛娘、デビリサエルの姿が現れた。
「ママ後ろ────!!」
「え」
「その結果として半人前に堕ちてしまいあなた方は永遠に満たされなくなった……ふふ、滑稽ですね」
「あん……た……どー、して……」
咄嗟に振り向く。するとそこにはついさっきまで虫の息だったはずのリリスが五体満足で、しかも、完全な無傷の状態で立っていた。
「あなた方が扱える治癒魔法如き、私に扱えないと思ったのですか?半人前のクセに傲慢不遜ですね。ついでに、悪魔に不似合いな白い翼も、紅く汚して差し上げます」
「〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!」
カリッと指先を噛んだリリスは、彼女の両翼を、一度ずつ貫いた。しかも翼だけでなく胴体までもが貫かれていた。
幻月の翼は、腰から生えているタイプではない。もっと上、胸に近い辺りから生えているタイプだ。そんな所が貫かれた幻月の死期が早まったのは最早言うまでもない。
「お前えええええええええ〜〜〜〜っっっ!!!」
「ふふっ、元気なお嬢さん。初めから私の目的は、あなたなのですよ。お父様の因子を持つ、選ばれし悪魔の子よっ!」
ナイフを構えたリサは廊下の床を蹴り破り、母を飛び越えつつ、リリスを押し出し外に飛び出した。遅れてエリー、居候の堕天使の、シエル、ルビーが幻月の元に駆け付ける。
「大丈夫、幻月!?幻月ってば!!」
「コヒュー……カヒュー……」
「虫の息ですね。これは、まずい状況と言わざるを得ません。エリーさん、治癒魔法の使い手は?」
「げ、幻月と……夢月だけ……」
「ッ……激ヤバじゃん、どーすんのこれ……!?」
「私達は最近まで天使でしたからね。魔法の存在は知っていても、使えるワケは、無かった。吸血鬼になってからも鍛えてませんし……」
「あっ!テシフォーンでエスカルゴ呼ぼう!」
「それしかありませんね。シエルさん、頼みます。私は敵を排除────」
ルビーの鼻先を、リリスの血弾が掠める。咄嗟に回避できない、見えもしない速度だった。ルビーは被弾しなかった。しかしリリスの狙いは最初から、ルビーではなく、テシフォーンを取り出し、外部に連絡をしようとしていたシエルであった。
「あっ……」
「シエルさん!」
「シエル!?……きゃあああああっっ!!」
テシフォーンと一緒に腹部を貫かれたシエルは、生まれて初めての激痛のショックによって、たった一撃で気絶してしまう。
弾が飛んできたであろう外を見ると、リリスは、リサのナイフと素手でやりあっていて、リサはまだどうにか一撃も喰らっていないようだったが体力はかなり消耗しているように見えた。被弾も、時間の問題だろう。
「こんな、敵から見える所で連絡しようとしたのが間違ってました。……?シエルさん、失礼します」
吸血鬼は傷がすぐ治る。ルビーは前回の楽園での戦いから、吸血鬼の身体的特徴を見て知っていたし体験して知っているし、聞いて知っていた。だから傷が治らず、そればかりか血が溢れて止まらない、シエルの様子がおかしいと思い、服を捲る。
それを見てルビーとエリーは硬直した。
「な……なんですか、これは……!」
「傷が、目に見えて広がってる!!」
見ればテシフォーンの方は貫かれた穴だけのようだった。どうやらリリスのあの攻撃は有機物にのみスリップダメージのようなものを与えるらしい。
「『
「ちょちょちょっ、ルビー!ここ、室内!廊下!」
「エリーさん。薬草や、回復のポーションのような類の物は夢幻館にありますか?」
「え。えっと、確か……幻月達程強くもなく、くるみみたいな治癒力も無いから、お兄さんから、治癒のポーションを貰った事は……って、それが何よ!?」
「それ、今すぐ持ってきてください。複数あるなら全て。それを使えば幻月さん達を助けられます」
「ッ!?わ、分かった!!」
「さて、と。シエルさん、もし死んでも恨まないでくださいね」
エリーに回復薬を取りに行かせた彼女は、かつて神より賜ったチェンソーを唸らせ、シエルの胴体を腹から二分割してしまった────。