「……やはり、そうだったのですね」
ルビーの思惑通りシエルの身体の崩壊はピタリと止まった。崩壊が広がりつつあるヘソより下を全て切り捨てる事でノーダメージのヘソより上を残す。
そうする事で崩壊を食い止める事ができるのだ。そしてシエルは今や吸血天使。吸血鬼の眷属である彼女の回復力は吸血鬼そのもの。
血は大量に失ってしまったがヘソから上の無傷の部分から肉体を再構築したのである。
「────ハッ!?な、なんで下半身裸なのよ!?ぎゃああっ、私の足ィ!?ちょっとルビー、何なのこの状況はァ!?」
「落ち着いてください、シエルさん。敵の攻撃への対処法を思い付きました」
「え……」
「
「う、そ……じゃあ幻月はどうするっての!?」
「エリーさんに回復薬を持ってきてもらってます。それの効能によりますね……。何にせよ、幻月さんを助けるには両翼、下半身、右肩から首付け根まで、それに加えて胸元まで、切除する必要があります」
「それはもう惨殺だよ!!左腕以外はダルマ状態にするんじゃん!!」
「そうなります。しかし瞬間的に回復させるような治癒魔法を使うエスカルゴさんの回復薬でしたら、即死攻撃すら回復させられると思います。そんな、ハンパな効能の薬なんか、彼は作らないでしょう」
「……本気でやるっての?」
「はい。その為にもシエルさんはリサさんの援護をお願いします」
「ッ……はいよっ、りょーかい!まさか副隊長の私に指示するなんてね!!」
「エデン異世界調査隊は解散しましたので、序列は無視しています」
「ハッ、あんたらしいや!」
シエルは真っ直ぐ飛び出して行く。この後の事を考え、玄関の扉を閉める事だけは決して忘れずに。
そして幻月の翼から切り落とそうとチェンソーを構えたルビーは、幻月の肉体に起こっている1つの変化に気付き、思わず手を止めてしまった。
◆
シエル参戦前から、リサとリリスの戦闘は、実に激しいものとなっていた。
リサのナイフは何度もリリスの急所を捉えつつ、リリスはそこから血弾を飛ばしてカウンターする。しかしリサはそれに一度も被弾せず回避していた。
(攻撃が読まれてるようなこの速さ……おかしい!)
(傷口の延長線上に居なきゃあの攻撃は喰らわないみたいね。指から出してばっかりなのは、単純に、指の方が狙いを定めやすいから……か)
幻想郷のエスカルゴチルドレンと鎬を削る戦いを繰り広げてきた猛者の1人であるデビリサエルは、初参戦のトーナメントでも、それなりに健闘した。最後こそ長男の妖舞に負けはしたが、これは相手が悪かった戦いと言える。
そう、リサの強さは並外れているのだ。センスも戦いの勘もリリスを上回っていた。リサがリリスに負けている点と言えば魔法関連くらい。悪魔として見るなら、格はリリスが上でも、強さは────。
「これでもッ!喰らいな、さい!延髄斬りィッ!」
「ぎッ……ぐぁあっ……!?」
斬るどころか、後頭部にナイフを突き刺し、更に蹴りによって押し込む。リリスは目を白黒させて、その場にうつ伏せで倒れ込む。
(無詠唱で治癒魔法……。やっぱコイツ、魔法だけは私より上か……でもまぁ頭をヤッてるから治りは悪いみたいね)
「く……そォ…………血が……足りない…………」
「治癒魔法はあくまで傷を癒す魔法ってだけ。血は増えないんだよねぇ〜?」
「……!」
「あんたは血を使いすぎたね。ザ〜コ、ザ〜コ♡」
「クソ……ッ……子供の、クセに……ィ!!」
「ママを半殺しにしたのに何言ってんの?あーあ、こんな雑魚にやられるなんて、ママったらエッチにハマり過ぎじゃないの?幾らなんでも弱りすぎ〜。もう、ママじゃ私に勝てなさそうね」
「……ふ、ふふ……調子に乗って……!!」
「あんたこそ調子に乗ってんじゃん。家主のママを倒して天狗にでもなったのかなぁ〜?子供に負けるなんて想定外だったでしょ♡」
リリスは言葉を返せなかった。事実、夢幻姉妹が夢幻館最強だと踏んでいたし、ここまでボロボロの血まみれにされても、リリスにとってはリサよりも幻月と夢月の方が強いように思えていた。
実際そうだ。実際問題、夢幻姉妹の方がリサより強い存在である。悪魔としても、女としても、全てリサより勝っている。
それならば何故、今、リリスはリサによって地を這うような目に遭っているのか?ここに至るまでにリリスは血を使い過ぎたからだ。
「ね、あんたさァ。私と契約しようよ」
「契約……?」
「そっ。私はあんたの命を取らない。その代わり、あんたは皆の傷を治すか────進行を止めて?」
「!!」
「ね?構わないでしょう?」
ナイフを逆手に持ち、ギラつかせる。断ればまたナイフを頭に刺すぞ、とでも言わんばかりの強気の目だった。
けれどもリリスは内心、大笑いしていた。自分の本体は肉体と魂の両方。肉体は滅びても魂さえ無事ならば新しい肉体を再構築できるからだ。そして、リサはそれを知らない。ならば油断させて、隙さえ作れれば、素手でも勝てる────そう思った。
「……
「ホント?言ったわね!?じゃ、ナイフ抜くね!」
「────とでも言うと思いました?」
「!!」
ブチッと指を2本、骨ごと噛みちぎる。今回は、さっきまでの攻撃と違う。指先をちょっと傷付けただけの血弾とは違う、太いレーザーのような攻撃をリサに浴びせ────!!
「……えっ」
「はぁ。そんな事だろーと思った」
「は……はぁ?」
リサは、目に見えないバリアによってその攻撃を防いでいた。この世界で夢幻姉妹とリサだけが持つ生まれつきの特性。「その戦いが終わるまで指定の技を1つだけ無効化する」特性────!
「なっ、ななっ、なっ……なんで、どうして!!」
「どーやらママも夢月も、パニクってコレ使うの、すっかり忘れてたんだろーね。あわてんぼうだと、損しかしないって……私だって学習したのに」
「……!?」
「あんたさー。
「!!」
「なんかそんな感じしたんだよねー。勘だったけど図星っぽいね。やったぁ〜♪」
「……」
ぶりっ子のようにキャピキャピとはしゃぐリサを見て、思わず顔を顰める。しかしリサは、スン、とすぐに冷たい目になると、リリスの後頭部に刺したナイフを無造作にズボッと抜いた。
「げひゃっ!?」
「あーあ、オキニのナイフが脳ミソくさ〜い。もうあんた私に勝ち目ないから、ママが復活する前に、さっさと退散した方がイイと思うよ〜?」
「は?……勝ち目が……無い……ですって?」
「そ。だってもう、契約しちゃってるもんねぇ♪」
「?」
「私と契約したら……あなた、負けるのにねぇ?」
くふふふ、うふふふふ、と腹の底から可笑しいと言わんばかりにクスクス笑う。それを見上げながら治癒魔法で頭や指を治癒させつつ、牙を剥き出して反抗する。
「ふふっ、面白い事を宣いますね。私はすぐに否定した。つまり契約は結ばれていない。無効ですよ」
「ハンッ。これだからバカは困るわね」
「なっ……バカですって?この私が?」
「私の能力は私の
「!?」
「お分かりかしらァ?私の言葉に、たった一言でも許可と取れる言葉を返せば────後はもう、私の独壇場なのよッ!!」
「……ハッ!」
先程、自分が何と発言したのか?リリスはそれが走馬灯のように、脳裏に鮮明に、まるで映像記憶のように流れてきていた。
────わかりました、皆さんの傷を────。
────わかりました。「わかりました」。
「ま……さ…………か…………ッ」
「ふふ……大丈夫?貧血かなぁ?顔が真っ青だよ?」
「まさか、あの、たったの一言でッ!?あれだけであなたとの契約は締結されたとでも!?」
「そーだよ?それが、私の能力。悪魔としての能力なんかじゃないよ。私の、固有の能力なワケ♡」
「そ……そんなチートでこの私に────がっ!?」
「自分が勝てないから『チートだ』って騒ぐのは、赤ちゃんまでにしておこうねぇ♡」
「ぎゃああぁっっごほっげほっ、おげぇぇっ!?」
ドスン、ドスン、と2本連続でナイフを首に刺すリサ。母を殺されかけた恨みは、深い。言葉で到底言い表せないくらい、深いものである。
「……あんた、死んで復活しないタイプの不老不死?普通、首なんてやられたら死ぬんだけどね。まぁ、何でもいいや。流石に斬首してあげれば勝てるか」
「〜〜〜〜〜ッ……」
しかしリサは、幻月と夢月に比べて非力だった。彼女の力では、首の骨を断つことができなかった。ナイフの刃渡りは十分。もう1本を上から押し込み首の骨を断とうとするが、それでも足りない。
どうやって斬首してやろうかと、カチャカチャとナイフをぶつけながら考えていると。
「リサーーーーーッッ!!!」
「……シエル!?」
扉を破るような勢いでシエルが飛び出してきた。それを見てリサは気が付いた。
「シエルッ!コイツの首、思いっきり踏みつけて!ナイフを押し込んで!!」
「りょーっ!かいっ!いっくよおぉおおおっ!!」
まるで隕石のような勢いのライダーキックばりの踏みつけ。身体はビクンと跳ね、ブツッと断たれたリリスの首は胴体と泣き別れになると、ゴロゴロと転がる。
再生するかもしれないと身構えていると、彼女の肉体は、日光が弱点の吸血鬼が日光に当たったかのように、ヂリヂリと煙と化して消えていった。
「え。……勝っ、たの……?」
「勝った……!勝ったよ!やったっ、やったぁ〜!!ママ、ママ〜!勝ったよ私、勝ったよー!」
喜び勇んで夢幻館に飛び込んだリサは、ルビーが幻月の肉体を右肩から左脇腹までチェンソーを使い切断する姿を目撃してしまった。
「────え?」
「……あ。おかえりなさいリサさん、敵は……」
「うああああーーっ!!裏切り者っ、裏切り者ー!なんでママをっ……なんで、どうしてぇっ!!」
「ちょっと待っ……エリーさん、シエルさん!」
後ろからシエル、視界の死角からエリーがリサへ襲い掛かりリサを羽交い締めにして取り押さえる。幸い、リサは非力な方なので、どうにかこの2人で押さえきることができる。
「!?離してよシエル!エリー!ママをこんな……」
「落ち着いてください。これは手術です」
「はぁ!?何言ってんのよ!?」
「あの敵の攻撃を喰らうと、ほぼ確実に死にます」
「だから先にあんたが殺すっての!?」
「話を最後まで聞いてください。あの攻撃は、被弾してしまった部位から身体が崩壊するという特性があるのです。ですので、治癒魔法も回復薬なども、一切合切、全て通じません」
「────!」
「ですから、被弾し、崩壊が始まった部位を切断し新鮮な傷口を作り出す必要があるんです。そして、幻月さんには吸血鬼のような超再生力が無いので、このままでは死んでしまいます。しかしここには、エリーさんがエスカルゴさんから受け取っていた、即効性の回復薬があります」
「あ……それ、私も持ってる……!」
「これを、事前に幻月さんに掛けてあります。見てください。私が幻月さんの肉体を切断しても、血は流れていません。それどころか────」
「あ……」
袈裟懸けに斬られたはずの幻月の肉体は、既に、再生しつつあった。臓器すら殆ど零れ落ちて、床を深紅に汚しているのに、翼はメキメキと音を立てて生え、ミチミチと生肉を触ったような音を立てて、肉体は再生されていく。
「────待って、夢月とくるみっ!!」
「もうエリーさんが向かってます」
「え。……わっ、いつの間に……」
「リサさんを止めた直後にです。しかし幻月さん、どういうワケか、途中から肉体の崩壊が止まったんですよね。まぁ、お陰で切断するのも楽でしたが」
「!」
シエルとルビーは頭を悩ませる。唯一、娘であるリサだけは、あの「特性」を「崩壊を止める」のに使用しているんだと、そう察する事ができた。
そして幻月がそうしたのだから、双子の妹である夢月も、言われるまでもなく────。
エリーはその頃、回復薬をぶっかけた上で魔力で強化した包丁で、夢月の肉体を一刀両断。夢月も、幻月と同様に肉体の崩壊は止まっていたが、やはり虫の息なのは変わらなかった。
続けてバリアに囲まれたくるみの救助に向かう。何故かバリアは前後左右の4方向しか囲んでおらず上部はスカスカの青空教室状態だったのでエリーはそこから侵入するが、そこで目にしたのは、親友の死にかけた姿であった。
「くるみっ!」
「……え……りぃ……?」
「嘘っ……も、もう……首しか…………っ」
右肩、両足、両翼の、5ヶ所も撃ち抜かれていたくるみ。対処法の発見と対応があまりに遅かった。肉体の崩壊は両足の消失、胸部の消失にまで及び、かろうじて鎖骨から上が残っている程度だった。
寧ろ、どうして心臓さえ消えているのに意思疎通できるのか。再生力に優れた種族である吸血鬼が、更に進化したからこそなせる技なのだろう。
「もぉ……死ぬみたい……だね…………」
「そんな事ない!絶対、くるみも助かるから!!」
「……いいんだ、もう。おにーさんに、謝っといて。いつか、子供、欲しいねって……言ってたのにさ……ごめんねって……、言っといて…………がぼっ!?」
丸底フラスコのような回復薬の入れ物をくるみの口に突っ込み、強引に咥えさせるエリー。そして、涙を流しながら、超強化された包丁を両手で持ち、真上に振り上げ……。
「あんたは助かるのよ!!何故なら私がッ!そう、決めたからよッ!!」
「────ッ!?」
親友の首を泣きながら一刀両断。くるみの目にはさぞかし狂ったように見えていた事だろう。しかし崩壊が始まってしまった首の付け根を斬ったことでそれより上の保護が完了。
続けて、首の付け根から溢れる、くるみが飲んだ回復薬は傷口を浸し、くるみの生来の再生力までが合わさって、幻月と夢月よりも早く、速く、再生が完了した。
「ウソ……助かったの……?」
「くるみィッ!!」
「きゃっ!痛……くないけど!急に抱きつかないでよエリーってば!バカなの!?」
「バカでもいい!くるみが助かったんだもんっ……!うわぁぁああんっ……!!」
「ったく…………ありがと、エリー。助かったわ」
「くる゙みぃぃ……ううううっっ……」
エリーが泣き止むまで、くるみは、優しく彼女の肩や背中をトントンと叩き慰めていた。全裸なのは本人すら気にしておらず、エリーもまた、くるみが全裸なのを忘れていた。
「……っていうか、私より、幻月と夢月は?さっき、私と同じ攻撃を喰らってたはずなんだけど……ってか敵はどこよ?」
「リサとシエルが倒したよ……。それと、あの2人も大丈夫。ルビーが対処法に気付いて、それで何とか助かったの……」
「ルビーが……マジか〜……じゃぁもう、こりゃあ、私も認めるしかないね……」
「……?なにを?」
「いや……実は私、お兄さんから『ルビーとくるみと俺の3Pがシたい』って、いっつも誘われててさ」
「は?」
「『金髪ロリ吸血鬼丼』って。ルビーも乗り気で。でも私は何となく嫌だから断ってきたし、ルビーのことも避けてきたんだ。それなのに、そのルビーに助けられたんじゃあ……断れないよねぇ……」
「うん、それは断ってもいいわ」
「あはっ!それもそーなんだけどさっ!まっ、命の恩人だし、ちょっとくらい、お願い聞いてあげても別にいいかなって。夢幻館の先輩としてみたいな、そんな感じ!」
「はぁ……お兄さんの変態さには呆れるね……」
「今に始まった事じゃないからね!さてっ、全員の回復が終わったら、祝勝会でもやりましょ!どうせ幻月も夢月もまだ気ィ失ってるっしょ?今のうちに久しぶりに厨房使っちゃいましょ!」
「そーだねっ……そーしよっか!」
その後、リサとエリー、くるみが台所に立って、祝勝会の準備を開始。シエルとルビーは夢幻姉妹をそれぞれの部屋に寝かせてからその手伝いに参戦。
夢幻姉妹の再生が済み、目覚めた頃はまさに夜になっていたので、祝勝会という宴会は、そのまま、その日の夕飯になったのであった……。
「1つの技を無効化する特性」の元ネタについて、軽くおさらいついでに解説。
東方幻想郷において、夢月戦と幻月戦では、ボスに自機のボムが通じないのが元ネタです。幻想郷では各自機につきボムが1種類しかないシステムです。なので「1つの技」としています。
ただし、マスパ系列とか夢想封印系列なんかだと、1つのシリーズという判定になって、全部が無効化されます。ハッキリ言いますが、クソチートです。
しかも、夢幻姉妹は素で強いので、相手の決め技がどれなのかを見極め、無効化するかを決めるだけの余裕も割とあったりします。
(今回は通常技が致死性だったから判断が遅れた。リサは運が良かっただけに近い)
そんな夢幻姉妹(&リサ)のチートな特性にも一応弱点はあります。複数人を一気に相手してしまうとどの技を無効化するべきか判断が遅れます。
(夢月vsエスカルゴ&妹紅のように)
なので複数人でなくとも、多数の技を所有する者は天敵になりうると言えます。パチュリーとかです。
しかしその特性に胡座をかく事なく普通に強いのが夢幻姉妹なので、割とそんな対策も意味無かったりしちゃいますけど。