「ここでみすみすあなたを逃がす事はッ!紅魔館の子供達全員を、見殺しにする事に等しいッ!門番である前に、母として!許す訳にはいきません!!」
美鈴は血を吐きながらも、怒鳴り、足でガッシリ地面を捉えて構える。胸の穴の広がりは、遅延こそされてはいるが、本来なら致命傷である。
それでもまだ美鈴が生きているというのはまさに溢れるような生命エネルギー、そして気力からくる奇跡のようなものだろう。
現に、美鈴自身の生気と呼べるようなものは既に失われつつあり、生ける屍にも近い存在であった。
リリスは、心臓を破壊されたにも関わらず平気で動く目の前の門番が恐ろしく、つい引き摺っていた虔魔を手放し、自分だけ、ズッ、ズッ、と
理解不能だった。心臓の破壊、それは死である。肉体と魂の両方が本体であるリリスでさえ、一度は死に至り、そこから再度肉体を構築しなくては復活できないような、即死級の攻撃だ。
なのに。悪魔でもないのに。ましてデフォルトで超再生力が備わっている吸血鬼ですらないのにこの目の前の女は立ち上がり、今も尚、敵対している。
美鈴の存在は、完全にリリスの理解の外だった。
(生命エネルギーを確保したお陰で、傷の広がりは抑えつつある。というより再生しつつある。私って意外と、再生力は高めですよね。咲夜さんにナイフ刺されまくって再生力が鍛えられたからですかね。もう少し心臓が回復したら、トドメの波紋を流して戦闘不能に……。その後、咲夜さんか弦月姫ちゃんに連絡してアイツを地下牢に拘束してもらうのが最善ですかね。そして私は数日間の休養、と。よしっ、流れはできた……これでいきましょう……!!)
ジリジリと詰め寄る。しかしその分だけリリスは恐怖に顔を歪め後退る。目の前で起こっている事が理解できない。理解できないし、許容もできない。
自分の強さには自信があった。それなのにそれが崩されつつあった。プライドも、ズタズタに近い。
「なんで、私の攻撃を喰らって動けるの……!なんでそんな平気な顔をしていられるのよぉーーっ!!」
金切り声で怒鳴り、リリスは更に血弾を飛ばす。相変わらず速度は凄まじい。死にかけの美鈴では、回避なんかできるはずもない。しかし弾はバリアに弾かれたかのように、美鈴の顔の前で、ぱちゅんと弾けて消えてしまった。
「は?……消え……」
「何を飛ばしているのかと思っていましたが、成程これは────血液、ですね」
「!」
「あなたは、自分の血を弾丸のように放っている。そしてあなたの血には、被弾した箇所の傷を広げ、肉体を崩壊させる効果がある。……違いますか?」
「だったら何だって言うのよっ!!」
「────私は中国拳法の使い手です。それと共に波紋の使い手。どちらも『自己の肉体の深層』との親和性は極めて高く、それでいて『液体』の扱いも得意となります」
「!?」
「この程度の量の液体なら、私が触れるまでもなく爆散させられますね」
「……は?」
「もっと早く気付くべきでした、そうすればこんな痛い思いをしなくて済んだのに。……いやまぁこれを喰らったからこそ気付けたんですけど……」
ゼェゼェしたり、ゲフッと血を吐きながら言葉を続ける。しかしそんな弱った美鈴を見て、リリスはやはりこのまま勝てると認識を改めて、後退るのをやめ、正面から向き直る。
飛び道具が通じないなら、直接手を下せばいい。胸の穴に手を突っ込んで内臓を掻き回してやれば、再生なんか関係なく殺せるんだから。────そう考えたリリスは、治癒魔法で自分の怪我を治して、すぐさま突撃。フラフラの相手になど隙を伺う必要なんか無いと思ったのだ。
「はッ!!」
(流石に、飛び道具は通じないと判断しましたか。そうなれば近接か魔法かの二択になるだろう、とは予測していましたが、まさか拳法家相手に近接戦を挑むとは……)
「これで終わりィィイイイ!!」
「────愚か也」
引っ掻くようにして美鈴の胸元の穴に手を伸ばすリリス。しかし美鈴は足に装着してある咲夜譲りのナイフホルダーからナイフを取り出し、グサリと、容赦なくリリスの首に突き立てた。
「っ……ぁ……え?」
「もし、あなたが本当にチルドレンの1人ならば、エスカルゴさんは、あなたを蘇生させるでしょう。彼は優しいですからね。だから、たとえ私が彼から咎められようとも、私は、あなたを殺します」
「待っ……」
「過剰な太陽のエネルギーで燃え尽きるがいいッ!トドメの……
最後の攻撃だと言わんばかりに、全ての力を拳に乗せてラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。しかし無謀過ぎた。美鈴は吸収したはずの生命エネルギーすら込めていた。
「ふぎっ……ぎゃっ、ぎぃいいっ……ぎゃああっ……!ゴボッ、おげっ……」
過剰なまでの太陽エネルギーをぶつけられ、拳が当たった箇所が溶け始める。それを受けて遂に敵にトドメを刺す時が来たのだと、より一層強く呼吸し拳にエネルギーを乗せた。
「例え私が死んでも!子供達を守り抜くのが母たる私の役目ッ!あなたを決して先には行かせない!」
「やっ……」
「波紋&……華符『彩光蓮華掌』ォオオオオッ!!」
悪魔やアンデッド系の敵に特大ダメージを与えるスペカ。かつてはガセネタとされていたが、今は、もう違う。正真正銘、本当に悪魔やアンデッド系の敵に特大ダメージを与える、「気」を流し込む技。
美鈴はこの技を最後に、死ぬ気である。
波紋で最後の生命エネルギー、このスペカで残る彼女の「気」を全てリリスに流し込むつもりだからである。
被弾箇所が溶けつつあるリリスはまるでくるみ、夢幻姉妹、そして目の前の美鈴のように、肉体が、被弾箇所から溶けていた。そんな所に気を流され、それをスパークさせられたら────!!
「いやっ、いやあぁあああーーーーっっ!!」
形を保てなくなり、爆発四散してしまった。
それを見て美鈴は気が抜け、膝をついてその場に倒れそうになるが瞬間移動────否、時間停止で現れた咲夜により、美鈴の倒れそうになった身体は支えられる。
「『守り抜くのが役目』────それは違うわよ、美鈴。母たる者の役目、それは……」
「……さ……く…………」
「子供達を産み、育て……
美鈴の言葉を訂正しながらも、ふふっ、と優しく笑いかける。美鈴はそんな咲夜の言葉を聞いて軽く力が抜けたようで、波紋の呼吸をやめながらも肩で大きく息をする。
「助けに……来て、くれたんですね……」
「来た時には終わってたみたいだけどね」
「……ゲホッ、ゲホッ……」
「胸に穴が空いてるようね。心臓は無事?」
「あ゙ー……ダメですね、まだ脈が無い……」
「じゃあ何で生きてるのよ、吸血鬼以上ねあなた」
「えへへ……。昔から、咲夜さんにナイフであちこち刺されたから、頑丈になってるんですよ」
それは皮肉かしら?────咲夜が笑顔で言葉を返そうとしたその瞬間、2人の目の前で、何も無い空間から肉体を再構築したリリスが、怒りを露わにさせながら出現した。
「フーッ……フーッ…………よくも殺してくれたわね、この私をッ……!!」
「そんな……アイツ……不死身、なんですか……!?」
「────まぁ、いいわ。一先ず、あなたの肉体の時間を
「気を付けて下さい、敵の飛び道具は
「あ、ごめんなさい、途中で
時間を止め、美鈴を彼女の部屋まで運ぶと、再びエントランスに戻り、時間と共に停止している敵の脳天に、床に落ちていた美鈴の銀のナイフを刺すと同時に時間停止を解除する。
「がッッ……!?」
「あなた不死身なの?……それとも不老不死?どうも最近は、旦那様の影響から『不老不死』のバーゲンセールになっている気がしてならないのよね」
「ッ、そう、私は不老不死……耐久力が極めて高い、不老不死です……ッ!!」
「ふーん、そう。なら話は早いわ」
時を止めて、ロープでリリスの身体を緊縛する。しかも亀甲縛りというおまけ付き。時間停止が解除されると、リリスにとっては、自分が知らない間に床に転がされているのと同じだったので、リリスの混乱も一入である。
「??????」
「うーん。上手く左右対称にならないわね。練習が必要だわ」
「一体……何が……ッ」
リリスは極めて高等な魔法も扱える。なんなら、親の影響で「時間魔法」の存在自体すら知っているくらいだ。それなのに、「時間停止された」という発想に至らないのは、霊幻世界において時間停止は
「創造主にしか扱えない力」というのが常識だからなのである。
「早……すぎる…………対応も……何も、かも……ッ!」
「戦闘経験の浅いお子様には分からないかしらね。大きな破壊音がするよりも、静かなのに血の匂いがする方が、大概ロクでもない事が起きているのよ」
「!?」
「それなら、私の対応もそれなりに早くなるわよ。大した破壊音もしないのに美鈴の血の匂いがした。何か、まずい事が起きているのはすぐ分かったわ。仕事中だからそれを優先したけどね」
「……」
「じゃ、牢屋に入れるから」
「痛い痛い痛い、顔が床に!引きずらないでよ!」
「黙れ」
「かひゅっ」
グサリと再び頭にナイフを突き刺した。これで、リリスの身体には、首に1本、頭に2本のナイフが刺さっている事になる。流石のリリスもピクピクと反射のような反応しか返せず、ズリズリと血の跡を残しながら引き摺られていくばかりであった。
地下牢に続く階段に差し掛かるが咲夜は変わらずリリスを引き摺る。1段、また1段と下がる度に、段差の角が顔にゴチャッ、グチャッと突き刺さる。元の美少女顔が台無しだ。
しかしそれくらい美鈴が殺されかけた事に対するリリスへの恨みは深いのである。
とはいえ意識はあるリリス。魔法を無詠唱で発動させる事など、呼吸をするように簡単な事である。
「────ッ!!」
リリスが魔法を使用するのにあたって、リリスの魔力が高まるのを感じた咲夜は、彼女の足を掴んで振り回すと、思い切り壁、階段に、殺さんばかりの勢いで叩き付ける。
やがてリリスは振り回されながらも、折れた腕を緊縛された中から無理矢理抜いて、腕のみ治癒させ首に刺さったナイフを抜いた。
「血戦『貫血染』」
「っ!?」
咲夜を目掛けて、首の傷に相応した太さの、血のレーザーを発射。それは顔面を狙ってきていたが、天性の勘とも言えるもので見えないながらに咄嗟に回避した咲夜だったが、そのレーザーは魔法陣へと真っ直ぐ突っ込んでいく。
傷口が綺麗に開いていないからか、血は何股にも別れて飛ぶが、魔法陣は
「まさか……転送魔法、なの!?」
幻想郷では、普通の魔法使いこと霧雨魔理沙が、転送魔法の使い手として有名である。だからこそ、咲夜は見ただけで転送魔法であると見抜いた。
リリスと魔理沙では、住む世界が違うので、同じ転送魔法でも魔法陣の構成や術式が違っていたから魔法陣を見ただけでは気が付けなかった。しかし、その効果を見た事で、その魔法であると特定できた咲夜は、やはりただの天然なメイドではない。
「どこに転送したッ!?言えッ!!」
美鈴が死にかけながらも「危険だ」と忠告した、リリスの飛び道具。少なくとも転送魔法の魔法陣の出口は、この周辺に無いようだった。だからこそ、咲夜は余計に狼狽した。
するとリリスは血まみれの歯を覗かせ、咳と共に血を吐きながら、掠れた声で呟いた。
「……エン……トラン……ス…………は…………く………………」
「っ!あんた!ちょっと!気絶すんじゃないわよ!ちょっと!ねぇッ!!」
ゴツン、ゴシャンと脳髄を撒き散らす程に、頭をゴンゴンとぶつける。それによってリリスは死に、不敵な笑みと共に蘇生するが、時間を止めて、再度拘束。今度は亀甲縛りとかいう遊びは無しだった。
頭に血が上り、殺してしまった事を、咲夜は強く悔いた。単に余計な手間が増えるだけだし、実際、蘇生して意識が元気な状態に戻ってしまえば尋問にならなくなるからだ。
しかし同時に、妙な点もあった。普通は、殺せば魔法の効果なども切れるはず。なのに、転送魔法の魔法陣は消えても、魔法を未だ使われているようなリリスの「魔力の動き」は、健在だった。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ……何なのよお前は!!何が目的なのよッ!!」
「ふふ、そんな事を尋ねている暇があるのです?」
「質問しているのはこっちよ!!」
ナイフを腹に投げて、深々と突き刺す。リリスは血を吐きながらも不敵な笑みを崩さない。
「私の転送魔法は、少し不便でしてね。知っている場所にしか……転送させられないのです」
「……知っている場所……」
「早く、戻った方がいいのでは?
「────ッ!!」
気絶前、リリスは「エントランス」、「はく」と言った。紅魔館エントランス────そこにはまだ虔魔が横たわっている。咲夜が運んだのはあくまで瀕死の美鈴だけだ。虔魔の事など、運んでいない。
「虔魔ぁっ!!」
時を止めてエントランスへ向けて駆ける。普段の彼女なら、別時間の自分を呼び出して、リリスへの監視役に据えただろう。今は、冷静じゃなかった。
息子がエントランスで美鈴すら危険視する攻撃を受けているかもしれない────そう直感した瞬間咲夜は居ても立っても居られなかったのだ。
「虔、魔…………ゆ、弦月姫……?」
エントランスには、確かに、リリスの転送魔法の魔法陣の出口があった。そしてその直下には虔魔。しかし魔法陣と虔魔との間には、虔魔を庇うように覆い被さる副メイド長……弦月姫の姿があった。
リリスの血レーザーは2人の腹部を同時に貫き、まるで標本を固定させる虫ピンのように、姉弟を、床に縫い付けていた。
今年もありがとうございました。良いお年を。