※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活 第2部   作:エスカルゴ・スカーレット

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博麗神社、再び

 

(それにしても────)

 

 霊夢は億劫になっていた。別世界の子供とはいえ目の前のリリスは自分もよく知る旦那の子。言わば霊夢から見れば義理の子供に等しい存在。

 そんな子供が、野望を以て暴れている。ならば、止めるべきだ。それは分かる。けれどもその方法がよりにもよって「殺し続ける」しかないという。

 そんなの間違ってる。声を大にしてそう言いたい霊夢ではあったが、そんな事で勝てる相手ではない事実もまたよく認識できていた。

 

「*くるぜ」

 

 子供にも近い、3、4頭身くらいしかないような低身長のスケルトンのサンズは、相変わらず不敵な笑みを浮かべたまま、敵の攻撃が来る事を告げる。

 エスカルゴの骨を元に生成された骨に、彼の魂がコピーされた伊弉諾物質を使用されているという、式神でありながらもエスカルゴ本人のような境遇の式神・サンズ。彼の底力は過去に一度見せられたと思われたが、エスカルゴによれば、それもまだ彼の本気ではないと言うので、霊夢は舌を巻いていた。

 

「Sans。アンタ、本気出しなさいよ」

 

「*リリスは それにあたいする あいてなのか?オイラには とてもそうは おもえないが」

 

「あっそう。別にいいけどそれで神社が壊されたらアンタのせいにするから」

 

「*ハハハ…… それも わるくはないかもな」

 

「ペラペラと喋っていられるのも今のうちですよ!これでも喰らいなさい!……血戦『貫血染』ッ!」

 

「*!」

 

「夢符『二重結界』!……今、あいつ、何したの!?手首をイジったようにしか見えない……。奴の手首にトリガーがあるの!?」

 

「*てくびを きりおとしてるな」

 

「はぁ!?」

 

「*しかもこのレーザー さっきの こうげきより ち が おおいから どくせいも つよいはずだ」

 

「……ッ!」

 

「*れいこの ようには いかないだろう。やはり ホネである オイラが うごくしかない」

 

 ポケットに手を突っ込んだまま、サンズは飛ぶ。そして左眼を再び水色に光らせ、どこからともなく骨を出し、様々な方向からリリスを串刺しにする。

 

「ぐはっ……!?」

 

「*わるいが オイラは げんさく(・・・・)の Sansとは かけはなれたそんざい なのでね。オマエさんを けすことにも ためらいは ないぜ」

 

「げんさく(・・・・)?一体何を言────ッ!?」

 

 境内に骨を生やしたサンズは、リリスへの重力を強めて、地面に叩きつけた。全身が骨に貫かれて、リリスは瞳の光を失う。

 しかし鳥居の上に立って復活すると、再び手首を切り落とす素振りを見せるが……。

 

「「!?」」

 

「*おいおい…… とんだ イレギュラーだな」

 

 鳥居の上で堂々と復活した直後、リリスは全身が針山状態になって、ドチャッと墜落してしまった。太陽光に照らされキラキラと光を反射するソレは、よく見るとナイフだった。

 

「フーッ……フゥーッ……どーですか、これはァ……!まさに瞬殺でしょう!リスキルだ、リスキルだッ!アッハッハッハッハァ゙ッ!!ザマァ見なさい……!次もリスキルしてやる゙ァ゙……!!」

 

 目をギラつかせて、血走らせながら、見るからに様子のおかしい虔魔が、リリスの死体を踏みつけにしながら現れた。ご丁寧に時を停止させてつぶさにナイフを刺していったらしい。

 

「虔魔くん!?何をっ……」

 

「あァ、霊夢さんん……これはお騒がせしましたァ。コイツはァ僕と姉様……お姉様を串刺しにしやがったクソ女ですので……ゼェ……ブッ殺して差し上げようと思いまして……ねぇ……ゼェ……ハァ……」

 

「紅魔館にも行ってたの!?」

 

「ええそうですよ……紅魔館に来たはいいが、そこで美鈴さんやお母様にヤラれ、博麗神社に逃げ延び、改めて襲撃を仕掛けて来ているんですよォ……!」

 

 恨みの籠った暗い目でリリスの死体を踏み付け、はらはらと消えていくのを見届ける。

 リリスは暫く出現しなかった。魂の状態で脱出ができないかと探っているのだろう。しかしサンズの能力により「タマシイ」を捕らえられているので、博麗神社から逃げる事は不可能であった。そして、焦った顔をしながら、遂に鳥居の下にリスポーン。

 

「来たァ……!」

 

「待ちなさい虔魔くん!」

 

「待ちませんよ?コイツを殺す事でしかこの怒りは払拭できない……!!」

 

 しかし虔魔もかなり消耗しているのだろう、時を止めず、ナイフを投擲したり、直接刺したりして、リリスにダメージを与えていく。

 当然だがリリスもただやられるばかりではなく、回避したり、叩き落としたりして対応もしている。それでもただの悪魔と吸血鬼では、その身体能力にどうしても大きな隔たりはあり、疲れていても尚、まだ虔魔がリリスを上回っていた。

 

「ハァッ……だァッ!」

 

「ぐっ……あぐぁっ……!!」

 

「*なぁレイム…… オイラたち ひつようか?」

 

「……」

 

 サンズがそう霊夢に問うてしまうのも仕方ない。虔魔のナイフ捌きは、咲夜のように優雅で美しくはなかったものの、殺意に溢れていて、リリスの事を的確に捉え、ダメージを与えているからだ。

 

「どうですかァ?命懸けの『黒ひげ危機一髪』は。少しでも僕が間違えたら、飛び出すのは、あなたのその『命』ですよォ……!!」

 

「ッ……ぁ……う…………」

 

 白がよく映えるセーラー服は見るも無惨な姿に。紅色に染まった全身からは大量の血が溢れており、既に出血性ショックでフラフラになりつつあった。

 

「ろくに戦う覚悟も、無いクセに……俺(・)ら幻想郷の、者を、殺せると……思う……なよ…………ッ!!」

 

 ニィッと最後に笑った虔魔はそのまま、口元から血を流して顔面から倒れてしまった。

 

「虔魔く……」

 

「*まて レイムッ!!」

 

「ッ……!?」

 

 リリスに覆い被さるように倒れた虔魔の救助へと向かう霊夢、しかしそんな彼女をサンズは骨だとは思えない力強さで引き止める。

 すると直後、虔魔に惨殺されたはずのリリスは、境内に流れた血、飛び散った血も含め、その全てが一気に爆発四散してしまった。

 

「キャッ!?」

 

「*くっ…… とっさにまもれたのは オイラたち ふたり だけだった……!」

 

 サンズは何重もの骨の壁を局所的に生成する事でリリスの爆発から霊夢と自分を保護する。しかし、爆心地に居た虔魔や、骨の壁で守りきれない範囲の神社部分は……。

 

「あ……あぁっ!?」

 

「*さすがに…… まもりきれなかったか……」

 

 博麗神社は、恐らく本堂まで届くくらい、散弾で撃ち抜かれたかのように、穴だらけの、ボロボロになってしまっていた。場所によっては、壁を何枚も隔てた向こう側まで見えてしまうくらいに。

 

「子供達は!?霊愛!霊麗っ!霊魔ぁ!霊子っ!!返事しなさい!!」

 

 霊夢は血相を変えて、土足のままで神社の中へと飛び込むが、そんな背中を見届けたからか、霊夢が神社に入るか入らないかのタイミングで、リリスが復活を遂げる。虔魔は鳥居の下まで吹っ飛ばされて未だに動く気配は全く無し。霊夢がリリスの復活に気付いた様子も無し。

 警戒していたサンズだけが、復活に気が付けた。リリスは音も無く指を数本ブチブチと噛みちぎり、それら全てを霊夢に向け、血の弾を全身に放とうと手を構える……。

 

「*コイツ……ッ!! とべッ レイムッ!!」

 

「え」

 

「死になさい、博麗の巫女ッ!!」

 

 魔力で更に強化された血弾が霊夢の全身に向けて放たれるまさにその瞬間。サンズは霊夢に警告し、地面に骨を生やしてリリスを串刺しにするが彼女はそれでも狙いはブラさない。するとその時、屋根を勢い良く突き破って、博麗4姉弟妹(きょうだい)が飛び出す。

 

「「「「博麗四奥義『夢想封印 極』ッ!」」」」

 

 幼少より博麗の巫女によるスパルタ教育を受け、トコトン鍛え抜かれた夢想封印︎︎。その4発分を全てリリス1人目掛けて放つ4人は、聞く者によっては鬼畜だとドン引きするであろう。

 しかし間違いなく、その評価は間違っていない。

 リリスを殺しまくる事で大人しくさせようとしたサンズですらも目を覆ってしまうくらい、あまりにオーバーキルだったからだ。

 いや、もはやオーバーキルという言葉ですらまだ足りないくらいだ。普通の妖怪ならそれこそ4回は消し飛んでいるであろう超強力無比な夢想封印を、リリスは死ぬ事すら許されずに、撃たれまくった。

 悪魔としての力は封印され、死ぬ事も許されず、行動すら許されず。弾幕が止んだ頃には、虫の息で境内に転がるしかできないくらいになっていた。

 

「う……うぅっ……痛い……再生しない……」

 

「魔力も使えないでしょ。封印してやったからね」

 

「そんな……そん……」

 

「いや〜、よくもまぁこんな派手な自爆したねぇ。イヤな予感がしたとはいえ、見もしないのに適当に張った結界が間に合って良かった」

 

「でも一部とはいえ半壊しちゃったしね」

 

「虔魔お兄ちゃんも虫の息でもう笑うしかないね。とりあえず治癒魔法、掛けといたけど」

 

 霊子は月属性の魔法の使い手。父の手によって、月属性の魔法の基礎を叩き込まれ、後は自己研鑽によって、死と再生、つまり破壊や治癒などを操れるレベルで使いこなせるようになっていた。

 勿論まだエスカルゴと同レベルとはいかないが、それでもただの子供に許される範囲の力を、とうに超えている。これもまた、ゼウスとの戦いの際に、サリエルの力の使い方を本当の間近で見て、覚えたからこその成果でもある。

 

「さ、全て吐いてもらうよ。あんたの目的。全部。少しでも隠し事をしたら……分かってるよね?」

 

「……逃げる、と言ったら?」

 

「逃げるとかダメダメダメダメェ〜。逃がさないし逃げられない。10分与えても逃げられないよ〜」

 

「Sansの能力でタマシイを捕らえてあるからね」

 

「もし逃げたらタマシイごと破壊するからいいよ、逃げても。ほら逃げなよ、ほらほら♪」

 

 霊麗はわざとらしい笑顔で止めるし、霊子はあの黒い霧をモヤッと手に纏わせて「破壊する」と暗に脅す。本当は、魂なんか破壊できない。物理的な物だけを破壊可能だ。それでも、心身共に弱りきった今のリリスには、そんな根拠の無い脅しも、容易く通じてしまうのである。

 

「……分かりました。全てを、お話します」

 

 それからリリスは、全てを語った。

 霊幻世界を脱出し幻想郷にまで来たのは、自分を封じ込めたエスカルゴへの恨みが故に。

 しかしそのエスカルゴに封じられたのは、世界の秩序を乱し大きな混乱と、住民への多大なる苦痛を齎したが為。つまりは、自業自得である事も、重々承知であると。

 そして恨みだけでなく、純粋に恋慕する気持ちも決して嘘ではなく、今は、愛憎入り交じった複雑な心境だと言葉少なに語る。

 元の計画では、チルドレンを襲い尽くして、彼の因子を集め切ってから本人を襲う算段だったそう。その最終目的は、彼と同レベルに血が濃い子供を、この世に産み落とすこと。侵略とか世界を作るとか大層な目的は無い。ただのそれだけ。本当にただの自己満足の為に。

 それを聞いてサンズは混乱のあまり機能を停止。霊夢はリリスの厄介オタクぶりに困惑しつつ理解を示してやろうと、表情は取り繕うが、内心は「何を言っているんだコイツは」という気持ちしかない。

 

「……虔魔がまだ寝ててよかったね。もし聞いてたらブチギレ必至でしょ」

 

「ええ、本当にキレそうですよ。そんな事の為に、美鈴さんはお腹の子諸共殺されそうになったとは」

 

「「!!」」

 

 その場の全員が声のした方を向いた。そこには、霊麗に手当をされ、包帯を巻かれた虔魔が、足元が覚束無い様子で隣からこちらに移動してきていた。

 暗殺者として鍛えられたからか、気配の消し方はチルドレンの中でも随一らしく、霊夢ですら、声がするまで襖が開かれている事に気付かなかった。

 

「お父様の因子がどうとか、そういった詳しい事は知りませんがね。僕からすれば、下らない野望だと言わざるを得ませんね。血を濃くして、何の意味があるのですか?」

 

「何も。さっきも言ったけど、ただの自己満です」

 

「下らない。そんな事の為によくもそこまで他人を振り回せますね。命令を拡大解釈し、止められても無視して館に侵入した妖精を殺した僕以下、いや、僕未満の愚か者ですね」

 

「……お兄様もそんな経験があったんですね」

 

「やめてください。あなたのような下衆を妹だとは思いたくありません」

 

 言い過ぎではないか、と霊夢は虔魔を止めたいと思った。それでも、美鈴をお腹の子諸共殺しかけたという言葉を聞いてからでは、リリスを擁護できる言葉なんて、喉まで出てくる事すらも無かった。

 そしてそれは霊夢だけではなく、サンズも含めたまさに全員がそうだった。いつもは虔魔に反発する霊魔でさえ。リリスに絆されかけていた霊魔さえ、リリスを庇う事は不可能であった。

 

「美鈴さんは今も時間を止められています。下手に時間を動かすと死んでしまうからです。ですが技を使った本人であるあなたならあの技を解除する事ができるのではないですか?」

 

「……残念ですけどそれは無理です。あれはそういう技で……その……毒を体内に入れたようなもので……」

 

「一度、毒を飲まされてしまえば、飲ませた犯人であっても解毒は不可能だ……と?」

 

「……はい……」

 

「使えませんね」

 

「ぐッ……!?」

 

 正座していたリリスの太ももにナイフを投げる。これを見た霊夢は流石に声を大にして虔魔を叱る。

 

「コラッ虔魔くん!今のはダメでしょう!」

 

「ですね。ですが謝りませんよ。この女がお姉様や美鈴さん、名も無き赤子を殺しかけたのは事実……。僕は紅魔館の執事見習いであり、侵入者を排除する暗殺警備員でもありますので。これは業務の範囲内ですよ。霊夢さんには、紅魔館の業務を停止させる権利はありません」

 

「ッ」

 

 黙るしかなかった。霊魔は虔魔を殴り飛ばそうと拳を握るが、踏みとどまるしかなかった。それも、紅魔館の業務の範囲内と言われてしまえば、それに逆らうのは侵入幇助にも近い事。排除されかねない敵対行為にもなりうるからだ。

 そして、それ以上に、リリスにより美鈴の子が、つまり自分の弟妹が殺される可能性があった。いや今もその危険に晒されていると言ってもいい。

 だから、虔魔を嫌う霊魔でさえ、虔魔を正論だと認めるしかなかったし、その上で窘めることなど、できはしなかった。

 

「────お前はいつも度が過ぎるんだ、リリス」

 

 瞬間移動にてその場に現れたエスカルゴ。酷く、気が立っているようだ。額に浮かぶ青筋を、微塵も隠そうともしていない。

 

「エスカルゴ……アンタ……」

 

「ごめん、霊夢、遅くなった。神社は後で俺が修復させる。Sans、永遠亭に行ったPapyrusを連れて、撤退してくれ」

 

「*りょうかい」

 

 サンズが同じように瞬間移動で消える。すると、エスカルゴは冷たい目でリリスを見下ろし、彼女に手をかざす。

 

「奏音『波地獄鐘(パッヘルベル)』」

 

 リリスを中心に黒い円が現れる。そして、教会の鐘のような、重厚な音がどこからともなくリズムを奏でながら聞こえてくる。

 

「何、この音……」

 

「なんか胸がザワつくけど……」

 

「どこか、気持ち悪いような……」

 

(パッヘルベル……カノン、ですか)

 

 霊夢や子供達がそんな反応をする中、リリスは、観念したように、静かに目を閉じる。すると黒い円からジャラッと鎖が現れ、正座したままのリリスを何本もの鎖で拘束する。

 

「お前を送り出す音色(くさり)だ。リリス」

 

「……はい」

 

「地獄(ゲヘナ)に送ってやる。この世を『卒業』だ」

 

「ッ……はい……っ」

 

「最期に何か、言い残すことはあるか?」

 

 全員が見守る中で、リリスは静かに涙を流して、精一杯の笑顔を作り、エスカルゴに向ける。

 

「大好きです、お父様…………ご迷惑をおかけして……本当に……申し訳ありません、でした……ッ」

 

「その言葉が、心からのものだと……祈っているよ。じゃあな」

 

「……はい……」

 

 こうしてリリスは、父の手によって、霊幻世界の地獄、つまりは元いた監獄へ送られる事になった。どうにか事態は丸く収まったものの、美鈴は未だに停止状態のハズと虔魔に詰め寄られた彼は、領域を展開し治癒魔法を使用して強引に完治させた、今はもう元気だと、それだけを告げた。

 賢者達ですらエスカルゴ「以外」が終わらせると確信していた今回の事件。

 それすら彼が終わらせた事で、彼は賢者の予想を上回る成長を遂げつつあるのだと、暗に賢者の間で話題になるのであった……。

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