※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活 第2部   作:エスカルゴ・スカーレット

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観光ツアー①

「────それで?このバスってのは、一体どこに向かってんのよ?」

 

「霊幻世界の中心都市でも人気の洋食店です!まだお昼ご飯は食べていないでしょう?実はそのお店、創造主様のお墨付きなんです!」

 

「ふーん……洋食店ねぇ」

 

「中でもカルボナーラが人気だとかっ!創造主様が大好きなメニューなのだそうですよ!是非とも、食べてみましょうっ!」

 

 カルボナーラと聞いて、やはり霊夢は旦那の顔を思い浮かべた。それしか思い付かなかった。

 やがて駐車場に到着するとそこにバスを停めて、下車する。霊夢はキョロキョロしながらも、セツの案内を聞きながら歩く。

 

「……ピンクの髪が多いわね」

 

「そうですねー、私もピンクの髪ですし。あ、私、お姉ちゃんが2人居るんですけど、長女の方も私と同じくピンク髪なんですよ」

 

「そうなの?次女の方は?」

 

「お父様と同じ黒髪です!お姉ちゃん達はそのままストレートヘアーなんですけど、3姉妹の中では、私だけツインテールにしてるんですっ♡」

 

「ふぅん……可愛らしいと思うわよ」

 

「あっ……りがとう、ござい、ますっ……///」

 

 にひひっと牙を見せて笑うセツに、娘達の面影を見る。そういえば彼女の種族が何なのか、聞くのを忘れてしまっていた。隠しているわけでもなさそうだからと、聞いてみることにした。

 

「そういえば、あなたの種族は?」

 

「私ですか?霊夢さんと同じ、吸血鬼ですよー」

 

「あ、やっぱりそうなんだ」

 

「お姉ちゃん達はそれぞれ、夢魔と悪魔ですけど」

 

「???……両親が吸血鬼だからこそ、吸血鬼の子が生まれるんじゃないの?」

 

「この世界では両親の種族なんて関係ないんです。さっきも申し上げた通り、血の繋がりは無く、魂を分けるのが子作りですから。だから種族も見た目も全てがランダムなんですよ」

 

 血の繋がりも関係無いという事で「家族」という概念すらも希薄なのだと、セツは言葉を続ける。

 家族らしい繋がりがあるとすれば創造主と3女神くらいだ、とも付け加えた。

 

「えぇ……」

 

「因みに私達3姉妹の両親はそれぞれ純血の吸血鬼ですよ。でも、子供の髪は青かもしれないし、眼も黒かもしれない。翼も無いかもしれないし、4枚や6枚かもしれない。ネコ耳もあるかもしれないし、角も生えてるかもしれない。そんな、個性豊かで、わちゃわちゃした世界なんです♡」

 

「ネコ耳まで!?」

 

「はいっ!……あ、お店、見えてきましたよ!大人気洋食チェーン店『Lecker(レカー)』!凄い行列ですね!」

 

 数もさることながら、客の個性が凄まじかった。ピンク髪が多いが、赤髪やら青髪やら黒髪やらと、まるで紅魔館のパーティのようにカラフルだった。しかも、大人気チェーン店というだけあって、客は入店が今から楽しみなのか、やたら翼をバッサバサ動かしているので、前方から自然の風ではない風が扇風機より強く吹き付けてくる。

 しかもその風の匂いがまあ凄まじい。女の匂い、メスの匂い。香水の匂いは微々たるものだが、甘い女の匂いがこれでもかと押し寄せてくる。

 そして客の多くが幼女から少女の為、やや高めの身長である霊夢より頭が随分と低い。まるで子供の世界に迷い込んだようにも感じられるくらいだ。

 そんな自分の前に並ぶ客達を見ていると、本当に角やら小さい翼やらケモノの耳やら、個性豊かな頭なんだなと思い知らされる。

 紅魔館に居る小悪魔のような、頭にも小さな翼が生えているタイプ────萃香のような真っ直ぐな角が生えていたり、饕餮のようにカールしている角だったり、はたまた鈴仙のようなウサ耳だったり、緋月のように垂れたウサ耳だったり、お燐のようなネコ耳だったり……。

 

「見てて飽きないわねー……個性豊か過ぎるわ」

 

「ですよねー!見た目はこれでも種族は3つだけ、細かく分けるとしても5つですから!」

 

「細かく分けると、どういう分類になるの?」

 

「夢魔、大悪魔、悪魔、小悪魔、吸血鬼、ですね!しかし、大悪魔は力が強い悪魔、小悪魔は力が弱い悪魔の総称ですから、やっぱり『種族』として見るならば、夢魔、悪魔、吸血鬼の3つが自然ですね。私の『悪魔』のお姉ちゃんは大悪魔の中の大悪魔!悪魔の中では最強、最高なんですっ!」

 

「ふぅん……。種族は少なくても見た目でこんなにも違いがあれば、人口は多くても中々そっくりさんは見つけられなさそうね」

 

「あははっ、そうかもしれないです!」

 

「……しかしまぁ、混んでるわね。中々進まないし」

 

「第7駐車場まであるくらいですからねー。あっ、さっき私達のバスを停めたのは第6駐車場なので、これでもまだ『ちょっと混んでる』程度ですよっ!駐車場は、第1から埋めていく決まりですので!」

 

「嘘でしょ!?軽く5、600人は並んでるわよ……」

 

「ですね……!ここの店員さんも美人揃いですから、エッチしたいお客さんが多いのかも?それならまだ昼前なのに混んじゃう理由も分かりますよね〜」

 

 さも当たり前かのようにそんなことを言うセツ。霊夢は、普通の会話の流れだったので「成程ね」と素直に受け止めたが、今の言葉を脳内で反芻して、ワケの分からない言葉がサラッと入っていた事に、遅れて気付いた。

 

「は?……ちょっ……ちょっと待ってくれる?私達、今、飲食店の列に並んでるのよね?」

 

「そうですよ?」

 

「何で、飲食店で『エッチしたい』なんてワードが出るのよ?」

 

「んーと……説明難しいなぁ……まぁいいや、実際に見てみましょう!列なんか飛ばして、ゴーゴー!」

 

「えっちょっと!?」

 

「はいはーいっ、観光大使セツのお通りですよー!皆さん、失礼しまーっす!」

 

「あっ!セツちゃーん!」

「初仕事?頑張ってねー!」

「すっ、末っ子様!?」

「あ、お母さんだ」

「何あの紅白の服、エッロ♡ 腋丸出しじゃんっ♡」

「ごせんぞしゃまー!」

「アレが噂の、幻想郷の巫女?」

「すんごいエッチな格好してる〜♡」

「誰よ、列抜かさな……って、女神様ぁッ!?」

「メスの匂いプンプン漂わせて、えっちだわ〜♡」

「サラシ隠す気無し!?」

「健康的なおヘソね、あの巫女様♡」

「あぁセツ様、本日も見目麗しゅうございますわ♡」

 

 スタタタッと駆けていく2人。霊夢の手を引いて走るセツだったが列を抜かす事に怒る者はいない。一体どういうモノの考え方をしているのかと周囲の声に耳を傾ける霊夢だったが、聞こえてくるのは、霊夢の服をエロい目で見る者、セツに対して反応を見せる者ばかりだった。

 

「ねぇ、あんた……いや、セツ」

 

「はい?」

 

「セツってもしかして、霊幻世界ではお偉いさん?だから列を抜かしても誰も何も咎めないの?」

 

「……」

 

「もしそうだったら、もう、やめなさい。偉い事を振りかざしても、良い事は無いわよ」

 

「……それは誤解ですよ、霊夢さん。この世界には、偉い、偉くないなんて概念はありませんよ。世界の創造主様でさえ、我々平民(・・・・)と同じなんです」

 

「え?」

 

「意外と私達のすぐそばに居るかもしれませんよ。この世界の創造主様が……」

 

「でもあんた、ずっと『あの方』とか『創造主様』なんて呼んでる。目上の存在に対する呼び方よ?」

 

「私が勝手にこう呼んでるだけなんです。だから、深い意味はありません。他の方に『あの方』なんて言っても、特定の個人を思い浮かべる人は、あまり居ないんです。通じるとしたら、お姉ちゃん達2人くらいかな?……もう、しばらく会ってませんけど」

 

「……喧嘩したの?」

 

「え?何でです?」

 

「いや……『しばらく会ってない』なんて言うから。もしそうなら仲直りした方が────」

 

 足を止める。何かまずい事を言ったのか。やはり家庭という個人のプライバシーに踏み込むような事なんか言わない方が良かったのか、と霊夢は思考を巡らせるが、そんな心配と逆に、セツは、プッ!と噴き出し、ケラケラと笑い出した。

 

「あっはははははっ!誤解ですよぉ、霊夢さんっ!お姉ちゃん達は忙しいんです!仕事ありまくりで、私とは違って時間が取りにくいんですよぉ!」

 

「あ……そういうこと?」

 

「はい!生まれた時から一緒なんですから、仲悪いなんてことはありませんっ!」

 

「……」

 

「それに、その気になったら会えますからっ!後でお姉ちゃんに会ってみますか?」

 

「そう……ね。会ってみたいかも」

 

「分かりましたっ!じゃ、早く食べちゃいましょ!話はそれからです!」

 

 再び駆け出した2人。だから抜かすんじゃない、並び直そう、と霊夢はセツを咎めるが、セツは笑いながら「私だけは抜かしていいんです」と続ける。

 

「────私の仕事は『観光客を案内すること』!その為なら、仕事中になら何でもしていいのが私の特権ですっ!偉いのではなく、仕事柄です!」

 

「周りはそれで納得してるの?」

 

「納得していないなら襲ってきますよ、悪魔は獰猛ですから!」

 

「っ!」

 

 悪魔は獰猛────確かにそうだと霊夢は思う。自分の旦那は勿論のこと、娘や息子を見ても悪魔は獰猛な種族だと嫌でも分かる。自分だってそうだ。人間だった頃よりも、遥かに戦闘に特化している。強さも、そして、メンタルも。

 やがて2人は列の最前へ。

 

「「「いらっしゃいませー!!」」」

 

 これまた個性豊かな店員だ。見える限り、店員は3名程度。しかし奥への入口のようなものだとか、勘定する為の台なんかも見当たらない。

 店員に空いている席まで案内され、2人は着席。メニューが人数分、ポンという空気が抜けるような音と共に現れた。

 メニューが決まって店員を呼びたい時なんかは、呼ぶ為のボタンなどは無く、挙手制らしい。

 

「……ねぇセツ、台所は?」

 

「台所?……あぁ、お料理する所ですね?そんなのはありませんよ、料理は全て創造魔法ですからっ!」

 

「え!?魔力の塊……ってコト!?こんなにイイ匂いしてるのに?」

 

「そうですよ?そもそも私達には、食事なんて必要ありません。魔力体と違い魔力を補給する必要すらありません。じゃあ私達にとっての『食事』とは、一体何なのか?────ズバリ『オヤツ』です!!楽しく魔力を補給するのが『食事』なのです!!」

 

「あ、あー……なる、ほど……?」

 

「ご理解頂けましたかっ!?」

 

「あ、うん……何とか……?」

 

「よかったーっ!」

 

 補給する必要の無いモノを、楽しむ為に、敢えて補給する────確かに、幻想郷やその他の世界で例えるなら「オヤツ」が近いのだろう。

 煎餅なんか、生きる上で食べる必要は無い。ただ食べたいから食べるのだ。お茶だって同じことだ。生きるだけなら、飲み物なんか水だけで事足りる。ならばどうしてお茶を飲むのか。飲みたいからだ。無味の水という飲み物に味の変化が欲しいからだ。

 

「────でもこの世界の住人は多くが創造魔法を使えるんでしょ?この『お金』は、それが不自由な人へのサポートの為のモノ、なんでしょ?」

 

「ええ、確かに創造魔法は標準装備です。私だって人並み以上に扱えますよ。お店だって開けちゃう。でも『味』の再現だけは、とっても難しいんです。魔法は全てを解決しますが────個人によって、どう足掻いても不自由な事はあるんです。だから、こうして専門学校を出た者はお店を開けるんです」

 

「専門学校?」

 

「各分野毎に学校があるんです。幻想郷だと寺子屋という呼び方が一般的でしょうか。創造魔法とは、あらゆるモノを創造できますが、その中でも料理に関する創造魔法を極めたい子は、料理の創造魔法の専門学校に行くんですよ」

 

「へぇ……魔法って思ったより複雑なのね」

 

「はい!見た目は良くても味がダメとか、見た目がダメでも味は良いとか、そういうギャップを楽しむ為のお店もあるくらいですから……」

 

「あぁ、漫画でよくあるヤツね」

 

「そうそう、まさにそういうのです!後でそういうお店も行きます!?」

 

「いや、いいわ。まだ勇気が……」

 

「ふふっ、分かりました!」

 

 それにしても豊富なメニューだ。メニューだけで軽く20ページはある。しかも洋食以外も普通にあるようで、和食も3ページ分だがあるようだった。

 

「ねぇ、ここって洋食専門店じゃないの?」

 

「洋食店(・・・)とは言いましたが専門(・・)とは言ってません。ここは、目玉が洋食なんです。和食も中華も、あとイタリアンなんてのもありますね。海鮮もオススメできますよっ!」

 

「海鮮……海?海なんてあるの?」

 

「はい!海水浴場もありますよ!少し遠いですが、どうですか?」

 

「う、うーん……。実はマトモな海って行ったことがないのよね……」

 

「じゃあどうですか!?」

 

「────でもそうすると帰るの夜になるわよね」

 

「大丈夫ですよ、幻想郷とは時間の流れが違いますから。この世界での10分は、幻想郷での1分です。10倍も流れが違うんです!それに、もし霊夢さんが望むのなら、特定の時間に帰しますから!」

 

「え」

 

「……ここだけの話、私とお姉ちゃん達だけは、時間魔法が使えるんです。お父様に許されているので。だから、時間なんか忘れちゃいましょう♡」

 

「っ……と、とにかく!私が満足するか、最後まで、このツアーに付き合わなきゃいけないんでしょっ!ならしょうがないから、付き合ってあげるわよ!」

 

「ふふっ、ありがとうございます♡……霊幻世界での観光、ぜひ、楽しんでくださいね♡」

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