「ここからは本気出すよぉ〜っ!」
「ったく、遊んでてヤラれてちゃ世話無いわよ」
「うるさいうるさーいっ!」
「いいじゃない。ルールを利用してやる私達の頭の回転の早さなんかも、パフォーマンスの1つとして見せ付けてあげられたんだから」
「……マコのそういうとこ、ホントやーね」
「ねー!実際、頭悪くないからムカつくけどね!」
「……褒め言葉として受け取っておきましょう」
魔理沙は、そんな軽口を叩いている3人を一定の距離を保ちながら観察していた。
ハナの有する属性は炎、得意な魔法は身体強化。しかも生身で刃物を防げる聖白蓮と同レベルという極めて高次元での強化。
ミコの有する属性は毒。得意な魔法は、重金属に関するモノ。主に投げ針に使用される魔法であるがそもそも重金属自体が毒性を帯びていると言える。ある意味、毒×毒の同一属性であるとも言える。
マコの有する属性は空気。魔理沙の見立てでは、
《風を操る程度の能力》を有する射命丸文よりかは自由度が高い。魔力の残穢などを霧散させて気配の探知を撹乱してくるという使い方も可能。ただし、射命丸文とは違い、風の刃は高精度では使えそうになく、補助がメインに思えた。
「……悪いが、調子に乗っている子供をブチ倒すのは初めてじゃあないのでね。加減はするが、痛いぞ。仲間に手を出す事の罪深さを教えてやるぜ」
「罪深きは弱さ。己を知らぬこと。弱き者が、何故強き者と肩を並べられると思うのです……?」
「実力主義だもんっ!強さは正義!ってワケで〜、特攻隊長ハナ!イッきまーーーーすっっ!!」
「ッ……!!」
空中を蹴りハナが魔理沙の懐へ飛び込んでいく。慌てて後退する魔理沙だが、思わぬ逆風が魔理沙の背中に吹き付ける。
ホースで風を発射しているかのような、あまりに的確に吹き付ける強風は魔理沙の行動を阻害する。回避ができなくなった彼女は咄嗟に箒を振り上げてハナを殴打しようとするが。
「とりゃーっ!」
「……なっ……!?」
「ッ!?……あれぇ?切れないや。むぅ、もしかしてこれ、
ハナは伸ばした爪に炎を纏わせ炎の爪に形成し、魔理沙の箒を受け止めてしまった。ハナとしては、箒なんか細切れにするつもりで爪を振るっている。それでも箒は切れず、ましてや燃え移りもしない。
そこからハナは、魔理沙は己の魔力で箒をガードしている事と、箒ごときがハナの攻撃に耐えられるだけの魔力による防御力、更には、魔理沙の魔力の出力を感じ取り、一瞬だが怯んでしまった。
(
(成程。魔力の出力は
ハナは、自他共に認める「本能任せ」の悪魔だ。獣の要素が強い事に起因してるのだろうか、それは誰も知らない。しかしハナはそれで良かった。別に興味など無いし、好き放題に生きる「口実」にすらなってくれるから。
今まで、その「本能」で危機を乗り越えた事すらあるくらいだ。ハナ本人のみならず、総合魔法科の誰もが────ベルやエスカルゴも含めて、ハナに対してはそういう認識だった。
だから、そのハナが恐れた魔理沙の魔力出力は、極めて異常なレベルであると、ミコとマコには強く印象付けられた。
────が、ハナは「理性ある獣」だ。本能には頼る、しかし
「だったらもっともっと、もーーーっと強い力で、攻めるだけだよぉっ!がぁあああああっっ!!!」
「!!」
相変わらず、強風のせいで後方には下がれない。ならばどうするのか?
────霧雨魔理沙は転送魔法の使い手である。転送魔法、つまりは瞬間移動が可能だ。ハナが炎を吐いたその瞬間、転送魔法を発動し……!
「星符『ドラゴンメテ────」
「『
「ッ────!?」
転送魔法でハナの頭上に移動。が、ハナが叫ぶと同時に空気が破裂し──ジュッと肉が焼けるような感触がした魔理沙は続けざまの転送魔法で退避するものの、服が所々焦げているのがわかる。
「何が起きたっ!?」
「ハナの異常なまでの膂力、そしてそれを高める身体強化の魔法、炎属性の魔法。一定の条件下にてこれら全てが合わさると、ハナの身を触媒として、ある化学反応が起きるのです」
「……!?」
「強化された筋肉は熱を帯び、空気を震わせて──空気そのものを爆弾に
「そうはならんだろ」
「なる世界なんですよ」
「……そういうもんか」
「そういうもんです」
どこが化学反応だ、いやそれは物の例えかな、と魔理沙は心の中でマコにツッコミを入れまくった。けれどもこれで、更にハナが厄介な敵になったのは言うまでもない。
空気爆弾の射程距離は短いようだが、魔理沙のドラゴンメテオの射程とあまり変わらないせいで、撃墜向けのドラゴンメテオは使えそうにない。
「『
多数の針を創造したミコは弾幕のようにそれらを魔理沙へ放つ。ヒラヒラと回避していくもその中の1本を魔力で構成した翼に受ける。
もちろん、魔力で構成しただけなので魔理沙には何のダメージも無い────それなのに。
「うぇっ?翼が……崩れてく……!?」
「魔力の流れを阻害してやったわ。片翼とはいえ、魔力の流れをほんの少しでも狂わせてしまえば──改めて魔法を成立させるのは至難の業なのよ!!」
「な……にィ……ッ!?」
攻撃力ではハナに劣るミコがクラス最強なのは、まさに、それが理由であった。
霊幻世界は魔法が主な世界。そんな中で、魔法や魔力の操作を狂わせてしまうミコの魔法や技術は、まさに禁断の魔法レベルの、無法で、無類の強さを誇っている。
そのお陰で、このミコという少女は、本人すらも知らぬ間に、創造主であるエスカルゴとモルモー、三女神、バグのような存在であるリリスを除いて、霊幻世界で最強の地位に立っているのであった。
無論、リリスとミコの間には越えられぬ壁があるというのは、言うまでもないが……。
「ハナ!敵にトドメを!『
「『
「────ッ!?」
先程の炸裂技とマコの空気操作が合わさった事で切り刻まれた火山の欠片が吹き飛ぶほどの大爆発が起きた。
衝撃波にて教室のガラスは割れ、近隣の建物にもヒビが入ってしまう。ある種、核爆弾に似た威力のこの爆発を、多少操作されたとはいえ、ハナ個人が引き起こすとは魔理沙も予想すらしていなかった。
そして──殆ど爆心地に居た魔理沙はというと。
「……消えた?魔力の気配が消えてるわよ」
「ちょっとハナ……本気出しすぎたのではなくて?」
「え〜?そんな事ないよ?だって
「「あの方はチートだから例外よ」」
「それもそっか!でも……外部講師?の人、なんか、弱かったねっ!」
「そんな事は無いわよ。私達に劣るとはいえクラスメイトを一網打尽にしてたんだし」
「そうよハナ、私達が強過ぎるだけ。ま、最後は、ミコはあまり活躍しなかったけれど?」
「っさいわね……火力はハナがトップ────」
瞬間──背後から立ち上る濃密な魔力の気配。
シュワシュワと白い煙を上げて気体に戻っていくドライアイスが目の前にあるかのように、3人は、酷く息が詰まるような感覚に襲われていた。
「あんまり調子に乗るなよ、ガキンチョめ……」
「…………え……?」
「そんな……」
「ケホッ……あー、しんど。熱風に炙られるのは正直キツかったぜ、二度とごめんだな」
埃を払い、破れたエプロンを投げ捨てる。帽子に手を突っ込み、爆発から守る為だけにしまっていたお馴染みのミニ八卦炉を取り出す。
「魔力の痕跡も残さずに消えたはず……!」
「バカを言うな。たとえ私が死んでも暫くは魔力の残穢は残るぜ。──あァ、そうか。死んだ所で復活するような連中には、分からんだろうな」
「嘘よ、有り得ない!気配を完全に断つだなんて、そんなの──それこそエスカルゴ様やベル様クラスじゃないと────ッ!!」
「……?あぁ……残念だったな。エスカルゴは確かに魔術の神に成っちまったし、昔に比べてかなり腕も上がってる。それは間違いないぜ、間近で見てきた私が認める。でもな──魔法の繊細な技術や火力、純粋な出力なら今でもこの私がアイツよりも上だ」
「「「ッッッ────!?!??!」」」
そして、マコは魔理沙の魔力の流れを感じ取る。それを感じ取るや否や、妹に声を荒らげる。
「ミコ!流れは阻害したのではなくて!?」
「した!っつーか今もしてるハズよ!!」
「じゃあどうしてあの小道具に魔力が集うのよ!?おかしいでしょうッ!?」
「これが本職の魔法使いってヤツだ、覚えておけ。普通の魔法使い霧雨魔理沙様の、パーフェクト魔法教室だ。恋符『マスタースパーク』ッッ!!!!」
「……せんせぇ……」
「そんな────……」
「次は……勝ってやるわ……ッ!!」
3人は、魔力の奔流に吹き飛ばされてしまった。
ミニ八卦炉は、魔理沙が幼い頃から使用しているマジックアイテム。ただ「魔法を使う為に」魔力を流すのではなく「魔力を放出する為に」魔力を流すこの場合は、精密な操作を必要としない分、ミコの阻害の適用外となってしまう。
ミコの使う魔力の流れを阻害する技術は「魔法を使う為の魔力の流れを妨害する」ものだと言える。簡単に言うなら「血液の流れを阻害する為に血管を塞ぐ」にも近いことなのである。
しかし、魔理沙のマスパは、この限りではない。
言わばマスパとは、ミニ八卦炉や魔法陣を媒介に
「魔力を放出」しているに過ぎない。
魔法陣を使う場合は「魔法の使用」になるので、ミコの妨害の対象になってしまうものの、マスパを使用することによる、精密な操作等を必要としない大雑把な魔力放出は、魔力の使用そのものを封じでもしない限りは決して阻害できない。
魔道具などを殆ど使わず、魔法ばかり使っている霊幻世界の住人だからこそそれに気付けなかった。
これは間違いなく、魔法への造詣が深い魔理沙の知識と経験の勝利であった。
「ふぅっ……こんなもんかね」
変身を解除。ミコを倒したからか、魔力の流れは正常に戻ったようだ。正常になった魔理沙は初春の早朝に綺麗な空気を吸ったかのような、素晴らしく晴れやかな気分になった。
「────中々のお点前でした」
「そりゃどうも……い゙っ!?」
フワリと舞い降りてきたベルを見て、魔理沙は、自分の顔がとてつもなく引き攣るのを感じた。
マイクロビキニを纏う霊麗似の少女、ベルは──股を濡らして指を挿入しては、グッチュグッチュと掻き回していたからだ。
「おっおまっ、何してんだこんな所で!?せせっ、せめて隠せよ!!バカ!!」
「あなたと
「アホか!?アホなのか!?」
「嗚呼、この興奮を治めるには、今すぐお父様とのセックスに至るか────誰かをボコらなくては♡」
「────え」
ヒュオッ──と風を切る音が魔理沙の耳に届く。
その瞬間ベルの姿は魔理沙の前から消えており、それに魔理沙が気付いた直後、彼女の声が後ろから聞こえてきた。
「身体強化の魔法は、苦手なのでしたっけ。まぁ、悪魔には及ばずともあなたも人間ではないのです、そう簡単には死にませんでしょう?」
「おま……え……ッ!?」
彼女の手には、魔理沙の帽子が握られていた。
今の一瞬で──すれ違いざまに、魔理沙の帽子を奪ってしまったのだ。魔理沙ですら気付けない程の速度と、優しい手つきで。
「子供達20人程度では魔理沙さんも不完全燃焼だと思います。ですからここからは、この私を相手に、第2ラウンドとイキましょう?」
「……既に満腹だっつーの……!」
「誰しもデザートは別腹ですよ」
「ちっ……やるしかない、のか……!!」
ミコとマコの「ベルはチートだから例外」という言葉がふと脳裏に蘇る。そして魔理沙はこのあと、その言葉の意味を思い知らされる事になる……。