「ふふ、ビックリした?」
俺の目の前には、アザだらけのもみじの体があった。
アザだけじゃない、体の節々にやけどの跡や、何かで切りつけられたような生々しい傷跡が残っている。
「もみじ、その傷……」
「全部ね、私が悪いの」
もみじは俯きながら、話始める。
「うちはちょっと古くさい家系でね、お母さんはずっと、跡取りを産めってせがまれてたの。けど……」
もみじはそっと、自分の胸に手を当てた。
「生まれてきたのは、私達姉妹だった」
「まさか……」
「うん、それでね。お母さんは親族全員から疎まれることになっちゃって。ある日を境におかしくなっちゃったの。その時からかな、お母さんが私達に暴力を振るようになったのは」
「……、誰も助けてくれなかったの?」
「最初はね、お姉ちゃんが私を庇ってくれてたんだけど、耐えきれなくなっちゃって。お姉ちゃんも私を殴るようになっちゃった」
そう言って、もみじは悲しそうな笑みを浮かべた。
「……っ」
もみじの口から出た、壮絶な経験に思わず絶句してしまう。
そんな俺の様子を見て、もみじはそっと俺の顔に手を添え、
「そんな悲しそうな顔しないで。全部、女の子に生まれてきた私が悪いんだから」
そう呟いた。
「でも……、そんなのあんまりだよ……」
「まひろちゃん……、心配してくれるの?」
「あ、当たり前だろ……」
もみじは俺なんかが受けていた仕打ちより、よっぽど酷い仕打ちを受けていたに違いない。
実際、体についたアザの数は、俺の倍以上ある。
こんな小さな子が一人でそんな辛い思いをしていたなんて……。
考えただけでも、涙が出そうになった。
「ありがとう、まひろちゃん……。私のこと、可愛そうだって思ってくれたんだね。でも、私はもう大丈夫だから」
「え……、それってどうゆう?」
俺の言葉を遮るように、もみじが俺の体をペロッと舐める。
「うひゃぁ、な、何?」
突然の出来事に驚き、叫び声を上げてしまう。
「だって、私と同じくらい酷い目にあってる子に出会えたんだから。初めて見たとき、直ぐに分かったよ。この子は私の仲間なんだって。それに……」
そう言って、もみじは布団の下から一冊の本を取り出す。
「まひろちゃんは私と一緒だからね。こんな本も読んでるし」
「ちがっ、それは……」
もみじが手にとっていたのは、俺がいつも寝る前に使っていたお気に入りの一冊だった。
「ふふ、恥ずかしがることないよ、まひろちゃんも男の子になりたいんだよね」
「え、いや……」
「何も隠すこと無いよ。私達はもう、友達なんだから」
……、どうやら変な勘違いをされたようだ。
きっと、この子の中で俺は、自分と同じような境遇に置かれている仲間だと認識されているんだろう。
本当は全然違うのに……。
そんなことを考えていると、もみじがひっそりと俺の下着に手を伸ばしていた。
「え、ちょ、やめっ」
俺はもみじの手を押さえ、必死に抵抗した。
するともみじは不満そうな顔をしながら、
「なんで、まひろちゃんは私のこと嫌いなの?」
と語気を強めた。
「い、いやそうじゃないけど。友達ならなおさら、こんなことしちゃ……」
「だって!!」
もみじが興奮した様子で声をあげる。
そして、
「だって……、私、こうゆうやり方しか知らないんだもん……。お母さんもお姉ちゃんも、皆、こうやってたんだもん……」
もみじは俯きながらそう呟き、ぽろぽろと泣き始めた。
「もみじ……」
俺は、もみじに同情してしまった。
きっと、この子は本当に、こんなやり方しか知らないんだと思う。
いや、この子だけじゃない。
かえでちゃんだってそうだ。
だから、以前遊びに来た時、俺を襲おうとしたんじゃないか。
そう考えると、2人が不憫で仕方なかった。
なら、せめて……、俺だけでもこの子を……。
「もみじ、良いよ」
俺はもみじの耳元でそっと呟く。
「まひろちゃん……」
もみじの顔が明るくなる。
「ありがとう……。でも、時間切れかな」
「え……?」
ドタドタと誰かが階段を上がってくる音が聞こえる。
すると、もみじは俺に布団をかけ、直ぐに制服に着替え始めた。
「どうしたの、さっきから凄い音がしてるけど!!」
もみじが制服を着終わった直後、みはりが勢いよく、部屋のドアを開けた。
すると、もみじはみはりの前に立ち、
「何でもありません。安心してください」
そう微笑んだ。
それからしばらくして、
「今日はありがとう、おかげで良い点とれそう」
「またね、まひろちゃん」
そんな言葉を残して、2人は帰っていった。
そして、玄関で2人を見送った俺は、
「いやぁ、今日は大変だったなぁ」
感傷に浸りながら、部屋を片づけていた。
それにしても、もみじがあそこまで壊れていたなんて……。
あれは、更生するのに時間が掛かりそうだ。
あるいは、
「一生、あのままかもな……」
「何が?」
「えっ?」
声の方を振り返ると、そこにはみはりが立っていた。
「み、みはり、そうしたんだ?」
みはりは黙って俺に近づいてくる。
そして、
「ねぇ、お兄ちゃん。今日、もみじって子に何かされなかった?」
冷たい声でそう言った。
「え、いや、何も……」
俺は、みはりに気圧され、挙動不審になりながらもそう答える。
「ふーーん」
みはりは、俺の答えに納得したのか、俺の側を離れる。
た、助かったのか……。
そう思った瞬間、
「お兄ちゃん」
みはりが低い声で俺を呼ぶ。
「な、何だ?みはり??」
「もし、何かされたら私に言ってね。あの子くらい、直ぐに殺せるから」
そう言ってみはりはキッチンから持ってきたであろう包丁を俺に見せた。
「え、じょ、冗談だよな……」
「……私、本気だよ」
俺は足がすくんでしまい、その場にしゃがみ込んだ。
そんな俺を見てみはりは、
「だから、お兄ちゃんは何も心配しなくて良いんだよ」
そう言って俺に笑いかけた。
リアルの都合で次回の更新が少し遅れる可能性があります。
楽しみにして下さっている方、大変申し訳ございません。