「あれ、どうしたの?その髪留め?」
一人のクラスメートが話しかけてくる。
「ああ、これね。えへへ……、お兄ちゃんがくれたんだ。この間のテストのご褒美にって」
「優しいお兄ちゃんなんだね」
「うん、とっても優しい、自慢のお兄ちゃんなの」
……、昔は優しかったお兄ちゃん。
私はそんなお兄ちゃんに褒められたくて、勉強もスポーツも必死に頑張った。
最初、お兄ちゃんはそんな私を「自慢の妹」だと言ってたくさん褒めてくれた。
それが嬉しくて、私は更に努力した。
お兄ちゃんのためなら、どんなことでも頑張れる。
お兄ちゃんのためなら、限界だって超えられる。
お兄ちゃんのためなら、どんなに辛いことでも我慢できる。
―お兄ちゃんは私にとって生きる意味そのものだった
にもかかわらず、お兄ちゃんはある日を境に、私がどんなに結果を出しても、私を褒めてくれなくなった。
そしていつの間にか、家の中にいても、殆ど話さなくなっていった。
私は、お兄ちゃんが私に興味をなくしてしまったと思った。
だからもう一度、お兄ちゃんに興味を持ってもらうため、色々なことに全力で取り組んだ。
その過程で、色んな賞を貰い、沢山の人が私を褒めてくれた。
だけど、周りの人達がどんなに私を褒めても、私の心には、全く響いてこなかった。
私が欲しかったのは、お兄ちゃんからの言葉だけだった。
そのために、私はもっともっと努力した。
何時の日か、お兄ちゃんが私に興味を持ってくれると信じて。
そして、そんな日々が続いたある日。
お兄ちゃんは初めて私を殴った。
最初はなんでお兄ちゃんに殴られたのか、訳が分からず、ずっと泣いていた。
だけど、私を殴る時の辛そうなお兄ちゃんの顔を見て、直ぐに原因が分かった。
-結局は、ボタンの掛け違いだったんだと思う
きっとお兄ちゃんは、私の知らない所で、一人で苦しんでいた。
けど、私はそんなお兄ちゃんを助けるどころか、更に苦しませてしまっていた。
―だから、きっとこれは私への罰なんだ
あの時と同じようにお兄ちゃんが今にも泣きだしそうな顔で私の首を絞める。
必死に抵抗しようと力を振り絞るが、全身が酷く痛み、手すら満足に動かせなかった。
……私、このまま死んじゃうのか
けれど、お兄ちゃんに殺されるのなら悪くないかな。
迫り来る死を前に私は不思議なくらい満たされた気持ちで一杯だった。
……だけど、最後にもう一度だけ、お兄ちゃんに褒めてもらいたかったな。
薄れる意識の中、そう思った。
そんな時だった。
私の顔にお兄ちゃんの涙が落ちてきたのは。
……、やっぱりダメだなぁ私。最後までお兄ちゃんを悲しませちゃうなんて。
お兄ちゃんの顔にそっと手を伸ばす。
そして、
「ごめんね……、お兄ちゃん。でも、もう大丈夫だよ」
私はそう、心の中で呟いた。