「いいなぁ、今年のニチアサ」
俺がみはりを殺そうとしてから1週間、俺はだらけながら、テレビを見ていた。
みはりが復活した直後は、みはりと目を合わせることも出来ず、険悪なムードが続いたが、数日も経てば、俺たちの関係は元通りになっていた。
何時と変わらない、何気ない日常。
ただ、そんな中で変わってしまったものが1つだけあった。
「四人になった時は不安だったけど、これはこれで悪くない」
テレビを見終えた俺は、天井を眺めながら呟いた。
「必殺技も、ネットではダサいとか言われてたけど、全然悪くないしなぁ」
その時、棚の上にあったカレンダーに目が向いた。
カレンダーには、先月の暦が記されている。
「……よっと、確かこんな感じだったような」
俺はカレンダーをビリビリと破き、筒状に丸めた。
そして、
「スマイルハリケーーン」
鑑の前に立ち、ヒロインの真似をする。
……可愛い。
鑑に写る自分の姿に思わず見とれていると、
「朝ご飯も食べないで何やってるの、お兄ちゃん」
いつの間にか俺の真横に立っていたみはりが話しかけてきた。
「え……、いや」
これは違う、そんな言葉を口にしようとした時、
ドカッッ
鈍い音が脳内に響く。
「うっ、ぁあぐっ……」
同時に、頭が割れるほどの激痛に襲われ俺はその場に倒れ込んだ。
一体何が……
そう思い、みはりの方に視線を向けると、みはりの手に、さっきまで俺が握っていた、テレビのリモコンが握られていた。
「朝ご飯は一緒に食べようって私、言ったよね」
みはりは語気を荒らげながら俺に近づいてくる。
「や、ご、ごめ」
俺が謝罪の言葉を言い切る前にみはりの足が俺の腹に突き刺さる。
「アガッ……ゲホッ、ゲホッ」
情けない声を上げながら俺は腹を抱え、小さくなる。
しかし、みはりは俺の様子などお構いなしに、俺の顔に蹴りを入れる。
「ガハッ……」
俺は力なく吹き飛ばされ、机にゴンッと頭をぶつける。
……、頭から失血しているのか、血がドクドクと流れ出る感覚がする。
にもかかわらず、みはりは俺を気遣うどころか、更に蹴りを入れてくる。
段々と視野が狭くなっていき、少しずつ意識が遠くなる。
そんな俺を見て、みはりは微笑みを浮かべている。
……、あの日以来、みはりは変わってしまった。
それまで、みはりが与える「罰」は俺を数発殴る程度の軽いものが殆どだった。
しかし、あの日、俺がみはりの首を絞め殺そうとした日から、みはりの罰は、重く残虐なものへと変わってしまった。
具体的には、今のように俺に致命傷を与え、意識が無くなるまで殴る、蹴ると言った仕打ちを与えることが多くなった。
―みはりは俺を恨んでいるんだろうか
だからこそ、俺を簡単には殺さず、苦しませ抜いてから殺そうと考えているんだろうか。
分からない。
俺には、天才の考えなど分かるはずも無い。
薄れる意識の中、絶望だけを抱え、静かに目を閉じた。
―俺が意識を取り戻すと既に昼の12時を過ぎていた
暗い部屋の中には誰もおらず、体にはみはりが俺を治療した跡が残っていた。
ふと、机の上に視線を移すと、メモが置かれている。
俺は未だに痛む体を無理矢理起こし、メモに目を通した。
「お兄ちゃんへ 大学の研究が山場を迎えているので今日は遅くなります。お金は置いておくので、夜ご飯はそれで済ませてください。 追記 もし、時間があれば買い出しに行って貰えると助かります みはり」
……、つまり今日一日、みはりは居ないってことか。
「自由だ~!!」
俺は嬉しさの余り、跳ね上がりそうになる。
「思う存分だらけるぞー」
そう言って寝転がり、目の前に置いてあるゲーム機を手にする。
「まずは、ゲームだ!!」
そして、ダラダラと過ごすこと30分
「どうも身が入らない」
みはりに蹴られた部分が痛むというのもあるが、それにしても集中力が続かない。
そのせいで、普段はしないミスばかりしている。
気分転換に漫画も読んで見たが、イマイチ憂鬱な気分から抜け出せない。
……、気分転換に外でも歩いてくるか。
「確かメモがここに……」
みはりのメモを再び手に取る。
すると、裏側に何かの料理に使うであろう数種類の具材と駅前にあるスーパーの名前が書かれていた。
「最近、みはりに家事を任せっきりだったからなぁ」
こんな事でみはりの態度が軟化するとは思えないが、何もしないよりはましだろう。
俺はアザが見えないよう、服を着込み、外に出た。
しかし、
「やっぱ無理ぃ、近所のコンビニならまだしも、人が多すぎる」
スーパーの前まで来て、怖じ気づいてしまう。
最近は外出する機会が増えたとはいえ、何時もみはりが一緒だった。
だけど、今、みはりは側に居ない。
それが心配で仕方なかった。
「し、しかしここで怖じ気づいてどうする」
自分に言い聞かせるようそう呟き、1歩を踏み出そうとした瞬間、
「あ、あのー」
「ひゃ、ひゃい」
誰かに後ろから声をかけられる。
振り向くとそこには、
「大丈夫?体調悪いの?」
俺と同じように厚着をした男の子が立っていた。
「なんか、ごめんね」
「ううん、役に立てて良かったよ」
少年が、俺の代わりにカートを引っ張りながら気さくに答えてくれる。
一回りも歳が違う子に買い物を助けられるというのは、中々心に来るものがあったが、今は緊急事態、そこには目を瞑ることにしよう。
「確かに、人混みは嫌だよね。それで何を買うの?」
「えっと……、メモが」
俺はみはりから渡されたメモを取り出す。
メモを見た少年はうんうんと頷き、
「なるほど。じゃあ、野菜から見ていこっか」
そう言って、近くにあった生鮮売り場に向かった。
「どれも同じに見える」
みはりのために、少しでも良い野菜を、と思ったが、良い悪いの区別が付かない。
「人参は色が濃くて、芯が小さいのが美味しいんだって」
少年が野菜の入った袋を2つ手に取り、見比べ始める。
「たっのもしー、普段料理とかするの?」
俺は、少年に尋ねた。
すると、少年は野菜の入っている袋を置き、
「うん、うちはお姉ちゃんと私しか料理作らないから……」
今にも泣きそうな顔でそう答えた。
……やばい、地雷を踏んだかも
いわゆる、家庭の事情ってやつだろうか
「あ、えっと、ごめんね……、変なこと聞いちゃって」
「ううん、こっちこそ」
少年は、野菜をカゴに入れ、無言で次の売り場へ向かう。
俺はその後ろを黙って追いかけて行った。
こうして、微妙な雰囲気の中、買い物は終わった。
……、気まずい。
俺は帰りたいという思いで一杯だった。
「そ、それじゃあ、私はここで……」
そう言いかけた時、少年の携帯が鳴った。
「あ、ああ……」
同時に、少年がワナワナと震え出す。
その姿は、まるで何かに怯えているようだった。
「ちょ、大丈夫?」
俺は咄嗟に駆け寄った。
「お、お姉ちゃんが、お姉ちゃんが……」
少年がボソボソと何か喋りながら、しゃがみ込んだ。
お姉ちゃん?
お姉ちゃんがどうかしたんだろうか?
そんな事を考えていると、
「お、いたいた。もみじ~~」
聞き覚えのある声が遠くから迫ってくる。
「か、かえで……ちゃん」
「あれ、まひろちゃん。こんにちは。元気だった」
かえでちゃんは笑顔で俺に話しかけてくる。
「あ、えっと……」
俺は返す言葉が見つからず、たじろいでしまう。
かえでちゃんは、そんな俺には見向きもせず、少年の方に目をやり、
「あれ、うちの妹と知り合いだったんだ。どこで仲良くなったの?」
間髪入れず、そんなことを聞いてくる。
……ん?
今、妹って……
「え、お、女の子??」
「あはは、ぱっとみ男の子だよねぇ」
そんなことを言って、かえでちゃんはもみじちゃんの帽子を取る。
……、確かによく見てみると、顔の輪郭が女の子っぽいような
それに、出てる所も出てる?ような気がする
俺がボーッともみじちゃんを見ていると、
「ふーーん」
とかえでちゃんが不敵な笑みを浮かべ頷く。
そして、
「まひろちゃん、ごめん、今日はこれで失礼するね。またね」
そう言って、もみじちゃんの腕を無理矢理引っ張り、駅の方へ消えていった。
……、何だったんだ?
それにもみじちゃんの、あの怯えよう、本当に大丈夫なんだろうか
まさか、今頃かえでちゃんに殴られてるんじゃ……
そう考えると、もみじちゃんの事が心配になってきた。
だけど、今更俺が追いかけていった所で、どうにもならない。
……、帰ろう。
俺は胸にモヤモヤした気持ちを抱えながら、帰宅した。