「イズク! イズクッ! お手紙、お手紙ー!」
「……? 手紙?」
それを受け取ったのは。
雄英高校の受験表、合格通知。
それを受け取った──その、さらに数日後だった。
「……? なんだ、これ……」
どうやら、郵便ポストに直接投函されたらしい。
切手も貼られていない茶封筒。
中に、「何も入ってない」、「封筒だけ」──
「……? ……イタズラ、かな……?」
開けもせずに、捨ててしまおうとして──
「……ん?」
そのまま、なんの気なしに。封筒を裏返し──
「……っ!
お、お母さん! ち、ちょっと出かける!」
「え、えぇッ!? い、出久!?お昼ご飯どうするの!?」
「ご、ごめん! 先に食べてて!」
裏側には──宛名と──とある日付が、ボールペンで書かれていた。
それを見た瞬間に、僕は。
スニーカーを慌ただしく履き、つんのめるように玄関のドアを開け。
……そして、駆け出す。
僕──緑谷出久は、慌ただしく家を出た。
★☆★☆★
「はっ……、はぁ、っ……!」
季節は──冬。
風が吹く。冷たく吹きすさぶ風。
「はぁ……! はぁ……っ!!」
枯れた道草や、道に積もった落ち葉が、かさかさからからと音を立て。
時折……ぶわ、と。
風に煽られ舞い上がり、地に降りる。
(「あのとき」は──たしか、春だったっけ)
吐く息は白く、頬に当たる風は冷たい。
その中を、走った。
(手を引かれて──たどり着いたんだ、)
今、僕は、走って。
(──君に、出会った……日付)
走って──駆けて──息を、切らす。
………そして。
「は──っ、はぁっ──」
────そして、たどり着く。……忘れたことはなかった。
ぐるりと囲う、無機質な金属の工事用の足場。
建物の前、塀の内側に杭打たれた──
「工事中」の看板の──廃工場。
「……っ、ふー……っ ……よし」
それを──あの日のように、壊れた塀を乗り越えて、中へ、入っ──
──パシュッ!!
瞬間、突如──
視界の外から飛んでくる、速度の乗った水球──それを。
「っ!!」
──バシャッ!
僕は──窓枠から中へ飛び込んで、避けて。
──パシュッ! ──パヒュッ! ──ビュッ!
「ふっ、は……っ! ……っ!」
──ステップを踏む。 ──首で避ける。
それは……あの時と。あの春の日と同じ。
──そう、あの日──。
『……いくよ?』
──声が、聞こえた気がした。
──ド、ヒュッ!!
空を切り裂き──飛び出した球体。
そう──これまで、あの日と、比べ物にならない。
一段と凄まじいスピードの──『水球』。
「……っ!」
それを僕は──反射的に。
(──「あの時」よりも、速い)
「ふ……っ、……っ!」
──バヒュ! ──ゴオッ!
……一発、二発。 球速130km/h、140km/h。
それを避けた先に──2発。
(──その場で、細かいステップ──)
ドヒュッ──
避ける。
ドド、ドドド──!!!
更に避ける、避ける、避ける──!
「(──あの時よりも、ずっと速い──狙いも正確だ……でも、うん)
……
ここ、数ヶ月。
緑谷出久が尊敬して止まないヒーロー、オールマイト。
彼から受けた特訓の成果が。
確実に、彼の身体に息づいているのだから──
「
……なぁ、緑谷少年。つかないことを聞くが……。キミ、もしかしてスポーツ経験者だったりするかい?」
「へ? あ、いや……ええと、と、特には……。
ああ、でも、毎日ランニングはしてました。──あと、筋トレもしてます、軽くですけど……」
「……ふんふん、なるほど……
OK! なら、それも考慮して!トレーニングプランのグレードをワンランク上げようか!
10ヶ月集中トレーニングプラン『改』!そう、名付けて──」
「(『目指せ合格、アメリカン合格プラン──
凄い!! やっぱり凄いやオールマイトは! 身体が軽い、それに何より──段違いに速く動ける──!!)」
球速、150km/h、160km/h──
その荒行は、如実かつ飛躍的に彼の身体を鍛え上げていた。
事実。──正史──『本来の成長を遂げた緑谷出久』なら。この時期に、ここまでトレーニングの成果を挙げることはできなかっただろう。
──ドド ドド ドドドド──ッ!!
「よ、っ!はッ──ふっ!!」
「あぁ──あああああああッ!!!」
少年──緑谷出久は、虚空に向かい、吠えた。
身体的疲労と、達成感。アドレナリン迸る、雄叫び──
「(おいおいおい!!!……マジかよ…… 指定した区画以外まで……!!チリ一つない……なくなってやがる!!!マジかよ!!)」
彼の成した、成果。それは──
「(まだ……
「(このプランは、正直カツカツだった!
緑谷少年、君の成長を考えて──入試ギリギリ、10ヶ月を
それを……それを!!緑谷少年!!君は……ッ!!)」
「オーマイ……オーマイ……オーマイ……
グッネス!!」
「あ……!ぉ、オール、マイト……!
や、った……僕、やりましたよ……!こ、これで……これなら……ぼ、僕──」
──ドサッ!
──ガシッ
「ッと、我ながらナイスキャッチ……!
ハハ──精魂尽きて気絶、そして倒れた、か。無理もない……
しかし、ッたく……マジに冗談じゃないぜ……!!驚かされたよ、このエンターテイナーめ!!若さ故の急成長かい!?
──ああいや、違うかな……?」
「君の今まで……ここまでの努力と……憧れ。それが報われたんだ──緑谷少年。
いやいや全く、大したヤツだぜキミは……」
「(それから。それから、僕は……残りの5ヶ月。オールマイトの指導、更に強度を増した追加トレーニングを積んできたんだ──)」
球速は──既に、180km/h。
その速度──最早プロの野球選手、メジャーリーガーの打球速度。その中でも上澄み──
「ッ、はッ──ふっ!!」
──変わらず。避けてみせる。
──ゴ、ギュンッ!!
──水球が、回避した方向へ。曲がり、こめかみに肉薄する──
「ッ、ずあぁっ!!」
──直前一発、
そして
『これは受け売りだが……
最初から運良く授かったものと、
認められ譲渡されたものでは……
その
(オールマイトに、憧れのヒーローに!! ここまでしてもらえたんだ……!! 僕なんかの為に……!!)
『肝に銘じておきな──
これは──君自身が、勝ち取った力だ』
……静寂。
──ぴちょん。
「……………。……ふぅ……。」
(──あの時よりも)
──ぴちょん。
……響く水音。静寂と──吐き、吸う、息の音。
あの日との対比。過去の、ぐしょ濡れになった自分と。
「ふぅ……っ」
短く、息を吐いて。濡れた地面の上に立つ、自分を想う。
──そして。
タッタッタ……ッ──!
「──イズクくん……っ!!!」
「──わ、ぷっ!?」
『あの』触手、彼女の『スライム』が。
「えへへっ、素敵、最高……!
……かっこよかったよ、イズクくん……っ!」
半透明で、ピンク色の髪……
ぷにぷに肌の、スキンシップ過剰気味な彼女。
そんな──そんな、スライムの個性の、彼女。
「──イズクくんっ、会いたかったよぉ……!!」
おおよそ、十年ぶりだろうか。彼女を、抱きしめて。
「あ、あはは……。
…………うん、らいちゃん。久しぶり。」
僕達は──お互い、ついに再会する。
★☆★☆★
「……どうして」
「どうして、あんなのに」
「────どうして、ですか」
「──ライム」
★☆★☆★
「あの……らいちゃん?」
「んー? ……すんすんっ…… あは、いー匂いぃ……♥️️」
「そ、その、……ち──
ちっ……近っ……近くない!?!?」
ぴたり……いや。ぴっとり、という擬音が似合うだろうか。
彼女の──スライム質の髪が、しっとりとした肌が。僕の肩に寄り掛かり、
「………や、そんなことないよ?ふっ──……っ♡、これくらいふつー、ふつー……♡」
……その、えっ……と。
まあ、僕達が会って、しばらくの間。
僕たち2人は、久しぶりの再会を懐かしみ、ひとしきり喜んで。
会わなかったこれまでの時間を埋めるように、会話をしていた。
僕に個性が発現し、それを活用して受験した話(オールマイトのことは正直悩んだけど……結局ナイショにした)、
雄英高校の実技試験(僕は……その、正直あんまり上手く動けなかったけど。救助ポイントで合格できたらしい)の話とか。
そして逆に、僕の方からも。らいちゃんの方の実技試験の話を聞いたり、簡単な近況報告など──
ずっと会わずにいた、お互いのこれまで。
会えずに居た、僕らの十年程の時間を埋めるような話を。
それらを……懐かしみつつも、話していた。
話していた、はず……なんだけどな……?
「……んー……♡」
──えと、その。
らいちゃんは、今。
「……♡」
胸元に顔をうずめてきて、甘えるみたいに擦り寄って。
な、なんというか……う、うう……。
(か、髪からいい匂いがして、熱いほっぺと、その、当然らいちゃんも、その……成長してて、大きめの、柔らか……
……む、胸が、当たっ……)
「〜〜っ……!!
ら、らら、らいちゃん……!?……その、そのっ!
そろそろ離れ──」
そう、あのとき。 ──
僕は。強烈な毛恥ずかしさから。
なんとかかんとか、彼女と一度離れようとするも。
「……好き、すきだよイズクくん……♡久しぶりー……、嬉しいよー……♡」
「……………っ……う、うう……っ」
その声が、とてもとても──嬉しそうで。
目の端に、目に。
うるうると滲む涙と、うれしさが見て取れて──
(──しょ、正直。は、恥ずかしい……けど……。
……ふ、振りほどけない……こんなに嬉しそうだと……!!)
ただひたすらに、悶々と、むにむにふにゅふにゅと。
──彼女のなすがままにされていたのだった。
☆★☆★☆★
しあわせ。
「あー、しゅわしゅわのーみそ……♡」
ああ、しあわせ。
「もー炭酸すらいむになりそー……♡きひっ、新発見、新種、わたしー……スライムー……♡」
──そう。
やっぱりイズクくんはすごいなあ、と私は思いました。
ああ。
ああ。
こんなにこんなにこんなにも、わたしをどきどきさせてくれて、あなたのそばにいるだけでわたしはきみのことがどんどんだいすきになれて、ああもうすきすきすきわたしのもってるチートをかわいいわたしをえっちをわたしのからだイズクくんのためならぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶどろどろとろとろ──
「ら、らいちゃん? その、えっと? し、新種……?」
「──!?
っと、やば……
──ふうっ……」
──ひとつ。息を吐いて。
とろりどろどろ、蕩ける思考を冷静に。
くつくつ煮立つ思考を冷やし固めて。
そして──彼に向き直り真面目な顔で。
「えっと。……イズクくん。
で、早速なんだけど。これは別件で──紹介したい人がいるんだ。」
「し、紹介……?」
……面食らったような顔のイズクくん……うん、まあ、さっきまで私ってばとろっとろに溶けてたもんね……急なギャップで驚かせちゃったかもなぁ、うん。
……でもさ、少し考えてみて下さいよ。
イズクくんのカラダ、すっごい筋肉質になってるんです。ええ、カチカチ。──正直、想像よりもずっとずーっと立派でカッコいいイズクくん、生イズクくんですよ。
……ソレを前に、すぐさま理性を緊急復活。
流石スライムかわいい。 流石かわいいスライム娘な私。
「ん。紹介。……きっと、イズクくんの役に立つ……そんな子だよ。」
──それはさておき。
そう、紹介。
今日という日にイズクくんを呼んだのは──ま、そりゃね?
私が会いたかったし、いい加減我慢できない──ってのも、7割…いや8割程はあるんだけども、さ。
ま、その理由は。ぜーんぶ、このイベントの為ですので。
「──いいよ、きて。」
背後、工場の奥まった階段。
──カツン、カツン──
そこから響く、硬い靴音。
それはどんどんと近づいて──
「……わざわざ呼び出して、何かと思えば……
私達二人の目の前で、歩みを止めた一人の女の子。
ニットのブレザーに、セーラー服。
少し無造作にぱさつく、纏めたお団子が2つ。
私が連れ出した、「彼女」。
私の『幼馴染』──そして『原作キャラ』。
──『
……私は。
本来なら、ある筈のない、
彼女を、いま。
ここに呼んだのだった。
☆★☆★☆★
「もー、いいじゃん別にー……。
だって十年ぶりの再会なんだよー……?
──そう!! こんなに離れていた、男女の再会だなんて!!
もはやそれは織姫と彦星、アダムとイヴ、なんとも甘美かつ蠱惑的、情熱に燃える恋の始ま──
「初めまして。
私は
ライムとは──……腐れ縁で。
──えー……不服ながらも、友達……なのです。」
「え、あ、う、うん。よろしくね、と……トガさん?」
──いや聞いてよぉ!?」
うわーん! と。嘆くらいちゃん。
それを一瞥し、「はぁ……」と特大のため息を吐きつつも、
「……イヤです」
「うぐ」
バッサリ切り捨てて見せて。……それから。
「この際だし言うのです、ライム──
そのノリで1日話し続けられる身にもなって下さい。
ライムの話は、長すぎて飽きます。耳タコなのです」
返す刀、言葉で。バサリと斬って捨てて見せる。
「う、うぐぐ……そりゃあ長くなるかもだけどさ……でも、でもぉ……」
「ハァ……ライム。でももなにもアナタは──」
「……ぷっ、あはは……」
そんな、2人の様子に──僕は。
どこか笑いが込み上げてきて。
「……よかった」
──ぽつり、と。口元から。
思わずこぼれた言葉が。
「んに?」「……え?」
想像よりも大きく、空虚な工場の空間に反響し、響いてみせた──僕の声。
ばっ、つん──と。
二人の会話、その流れをぶった切ったのが。
ぽかーん、と呆けさせた彼女たちの表情から──ハッキリと解った、ので。
「──……あ、ご、ごめんね! 二人が話してるのに!
僕は気にせず、会話を続けて貰っていいからさ!」
単なる呟き、捨て置く筈の。
何気なしの僕の独白──それが。
「……いえ。続けて下さい。緑谷くん。
「え、で、でも、僕は後でいいよ……? 二人の話に割り込む気は──」
──いえ。
何故か、その呟きを境に──
彼女──トガさんから向けられる。
覗き込み、見据える瞳。
吸い込まれそうな、薄茶色の瞳孔、覗く双眸。
その……圧力、とでもいえばいいだろうか。
それが強くなって。
こちらを覗き込んでいる、彼女──
「聞かせて、ほしいです。
……なんで、そう思ったのか、を──
なにが、
彼女にとって、なにか。
「……え、と……」
「…………」
僕は……考えた。
「…………」
彼女が、見つめる中。
焦りつつも、狼狽しつつも。
そう、なんとか。
なんとか彼女に答えようと、言葉を考えて──
「……う、う……うう……!」
──僕は、自宅の机に座って、泣いていた。
なぜって、そりゃあ。
僕を好きで居てくれる人と、離れ離れになってしまったんだから。
「らいちゃん、らいちゃん……!」
……瞬間、ふと。
一番強く、鮮明に思い起こされた過去の記憶。
「──。」
──そう、思い起こした別れ。
らいちゃんにも──
(──あ、そうか。)
すとん、と。腑に落ちる。
「……その、さ」
口を開く。
──あの日。
──泣いて、落ち込むしかできなかった僕に。
「君は──らいちゃんの、『友達』……なんだよね」
──居て、くれたんだ。
──僕の前に現れた、一人の女の子が。僕を連れ出して。
「キミみたいな友達が居てくれて、良かったな、って」
僕を──泣き続けるしかできなかった僕を。
励まして、救けてくれた彼女。
好きで居てくれた彼女に。
僕が辛かったその時、一緒にいてくれた、そんな子に。
──らいちゃんにも。
素敵で、優しい──らいちゃん。
僕なんかを好きでいてくれる……そんなひとに──
「トガさん、キミみたいな──
らいちゃんを幸せにしてくれる人が。友達がいてくれて、良かったって」
だって、僕は、あの後。そう、結局。
僕はらいちゃんのそばに居てあげられなかったんだ。
泣いて、泣いて。泣くことしかできない。
それしかできなかったんだ。
弱虫だった。駆け付けてあげられなかった。
……僕は……なにもできなかったから。
だから、君のそばに、君を助けてくれる人が。
僕じゃない人が、一緒にいてくれたのなら。
「……らいちゃんのそばに居てくれて、ありがとう」
……『それ』が、僕は嬉しいんだ。
「──────」
「……あれ? えっと、その?
……トガ、さん?」
──僕の言葉を聞いて、俯いた、彼女。
その表情は、うつむき下がった前髪で伺えない──
「……ライム。」
「んー?」
「──こいつ、殺します。」
「────…………
えっ」
……その時に、僕の喉から漏れたのは。
そんな、間の抜けた──声だけ。
次の瞬間には、
──ダンッ
「────……!」
猛ダッシュ──突きつけられたナイフ──
それが、僕の──喉、元を、狙っ──
──ぷ、つ──っ
当た……痛っ、──刺さ……る……、っ!!
「うッ、ぁ──、──あ゛ああぁっ!!」
──ダン!!
「綺麗に避けますね。血も出なかったのです。
……不意、つけたと思ったのに……」
「──な、なに……っ!?トガさん、何を──」
僕は。彼女の──踏み込んだナイフ、その刺突を。
スウェーバック、遮二無二後ろに跳ぶ──ゴロゴロ転がりながらも、なんとか避けることに成功した。
そして、驚愕と困惑──それらをもって。
彼女の顔を見るべく、顔を上げ、視線を合わせると──
「──避けないでほしいです。」
「ッ──は、ぐっ──!?」
──またも。眼前に迫る
今度は、余裕をもって避け──
(ッ、
──ぐ、痛ッ!?)
今度は──投げナイフ。
しかも、ナイフの柄に、ワイヤーがくくりつけられて居て──
(返し──、引き戻したナイフが、頬を掠めた──!)
つぅ……、と。焼けるような痛み。頬を、緩やかに。ぬるりとぬめり、垂れ落ちる血を感じる。
そして……
「どくどく、どく、ぼたぼた、ぽた。
──流れる血が、好きなのです。」
そして、独白。
「きっときっと、うん、素敵なのです。
床に流れる
──傷です。
傷ついた、貴方の体が……がくがく、って、ふるえてく。
失血、青褪め喘ぐ吐息と、弱くなる心音、下がる体温、弱まる心拍──。
……とくん、とくん……とくん、とくん……とく。
あはっ。
……きっときっとカァイイ、ステキ、今すぐに、傷だらけにしたい、けど、でも──それはダメ。
私は、いなくならない──消えたくないのです──
ね、
一呼吸。──彼女の両手が、奔る。
「あなたが、キライです」
そして、ナイフを──今度は投げた。その2本は──。
「?! ──な、どこに向かって……!」
そう。まるっきり、見当違いの方向に投擲。
一本は彼女の真横、右の虚空。もう一本は──その反対側に。
「時折やる、ライムとの──個性アリの戦闘練習。
遊び、若干本気。その時の
──まあ、ライムには……目眩まし程度にしか効きませんケド──
──貴方には効きそうですので」
室内という閉鎖空間の地形有利、自身が事前に訪れていた事により生じる戦略的有利。
2つの有利、それらが──招く、窮地が。
「さっきも言ったので。キライなのです、貴方のこと。
──ので」
──ギィ、ン。
……撃鉄のような金属音。
「な、ッ」
……次の瞬間。
──ガガガガガガガガ、ッ!!!!
「用意したのは、ザッと見積もり……300本くらいの。」
ド、──ヒュガガガガガガガガ!!!!
「四方八方、ありとあらゆる方向から。
飛んでくるように仕掛けた、──連射ナイフトラップ。」
ズドド、ズド、ガドドドドッ──!!
「飛んでくるのは、非殺傷──ゴム製のダミーナイフです。死ねません、死なないと思うのです……まあ」
連なる、衝突音。
射出されたナイフが、彼の周囲、空間。
空間を塗りつぶすように飛来する……黒いゴムナイフの雨。
「──少し悪ければ、骨折。よくて全身打撲なのです」
それが生み出す衝撃は、連なって。
音は連なり、砂埃を生み、地面を揺らし。
舞う塵が視界を奪う程に、苛烈な連撃が──。
地面を、埋め尽くした。
☆★☆★☆★
──黒いゴムナイフ、それらが……まばらに散らかる。
その、
もじゃもじゃ癖っ毛の緑髪。
鍛え上げられた体。
頬に見えるそばかす……紛れもなく、緑谷出久。
(気絶──。
──非殺傷、硬質ゴムナイフとはいえ、打撲の痛みが堪えたのでしょうか)
うずくまり、荒い呼吸。──服もボロボロ。
(痛みに耐えていた姿は、多少は魅力的……それでも。)
──心は、変わらない。
「私の、私だけの場所なのです。隣は。
──諦めて下さい、緑谷出久。
──そこは、ダメ……
ぐりっ──
ガッ──
──踏み付ける。
ぐり、ぐり──ガッ──
更に足蹴にする──蹴落とすように。
蹴飛ばす──殊更に、尚更
「あなたは……。
『
邪魔、不必要──ブッ殺してしまいたいのです、正直。
──でも。殺してしまえば、私は犯罪者。
追われます、一生を。
それじゃ、
──チャキ、っ──
鞘から出したのは、鋭利な刃を持つ抜き身のナイフ。
「両手両足。
1年程度は動けなくなってもらうのです。
──あなたが居ない間に、私はライムと雄英高校で、一緒にヒーローになって──
「……ごめん、それはできないよ」
──フッ、と消える。
右足、その下。
踏み付けた
「──っ、な」
──ズダァン!!!
「──っあ、ぐっ……!」
──轟音。地面に押さえつけられ──飛ぶ意識。
流れるような足払い、それからナイフを持った片手をいなし、背中に回して抑え込んだ、一連の動き。
「は……ぐ、──ぅ……! う、動けな……っ!
──なん、で!!」
「──土煙に、ハァ……紛れて、ハァきみから、見え、てなかった、っぽかったから……」
「全部、全部──受け止めた、……防刃コートで……!
刃物ヒーロー、「スラッシュメイト」の動画でオススメされた……プレート入り、防刃ケブラー繊維コート……!!
それでも追いつかない分は──ハァ殴って、叩き落としたんだ……!
ハァ、ハァ……正直、かなり危なかったけど……。」
「っ……なんですか、それ! そんなのでイイ気に……!!」
「……、──ずっと、ずっと、僕は。」
憧れ、見続け、
あの日から……背中を押されたあの日から。
「──498、499! ──
──500っ!! ……よし、腕立て伏せ500回終わり!
次は全力ダッシュ10分……!!」
「このヒーローの鎮圧術、すごい、素早い……!
そうか、ここで右足をもう一歩分前に、体重移動を──」
「ハァ……ハァ……!
今日は、これくらいで──ッ! い、いいや、駄目だ…!足りない……!
──きっと、きっと足りない!!
きっと、いつか──」
救われたんだ。
彼女に──らいちゃんの言葉に。
あの日の君の言葉が、僕に……勇気をくれる。
止まらない、前に進む勇気をくれるんだ。
──だから。いつか。
「……僕だって。
──今ここにいる、『
──同じだ! 同じなんだよ! キミと!!
らいちゃんに、『
彼女の側で、ヒーローになりたい……いや、なるんだ!!
──だから……だから、諦めるなんて、僕にはできない!」
抑え込んだ、彼女の背中が。
「──────」
細く、華奢な彼女の背中が。
「────」
……なにか、発した小さな声で震えて。
──僕たちは。互いに喋るのをやめたんだ。
「──約束、だったのです。貴方と戦ったのは。」
抑え込んだ、その下で。ぽつりぽつりと、彼女は語る。
「ライムに、私が頼み込んだ、約束。
──私がアナタを倒せば……倒せたら。ライムは、アナタを諦めるって言いました。──負ければ、それ相応の罰ゲーム……っていう約束なのです。」
柔らか──じゃなくて、細い腕と上下する華奢な肩が、言葉を発して、振動する。
華奢な肩甲骨、ニット地のコートでも感じる、細い体。
──でも、それでも、それでいて。
確かに存在する、鍛えられた筋肉。
力よりも、速度に重点を置いた──そんな鍛え方は。
きっと、彼女なりの研鑽と努力、その成果の集大成であり、今まで磨いてきて、これから更に研磨する──結晶なのだろう。
──でも、僕も同じ。
ずっと、考えて、想って……鍛えてきた。
あの日の約束、
だから、わかるんだ。
このカラダは、あの機敏な体捌きを生み出す鍛え方は、らいちゃんの──
「──ねぇ。たぶん……だけど、さ。
その……トガさん。キミも……らいちゃんに──
「……ヤです」
……へ?」
「私が……知らない名前で……ライムのことを呼ばないでください。──ヤメて、欲しい。
イヤ、……とても、とても──すごく、いやです。」
…………。
………、………あっ。
「あ、ああいや! あの、えと! そ、そんなつもりは……!」
「………」
「う……」
あ、ヤバ。集中が切れて──その、ええと。
その、手の感触が、モロに、脳内に……!
(抑え込んだ、その下。
少し……、いや、その……柔らか──。
男性にはないその体。うっすらと柔らかさを帯びた、脂肪を纏う、健康的な背すじが、今更に──人差し指から小指、抑え込む僕の右手の指先──その手前の、何か留め具のついた、
「……ぐす……っ」
「!?!? え、あ、その! ごめっ……!!」
そして、それに加え。
泣き出し、跳ねた──彼女の背中。
それらのせいか、僕は思わず手の力を──
「死 んで くだ さ いッ──」
──一瞬、だった。
ぱきゅ、と。
彼女の肩の辺りから響く、その音──乾いた音。
関節を、肩の骨を外す、鈍い音。
握力の弱まる、その──ほんの一瞬を狙って。
──ズガァン!!!
「──っ、
頭から伸びる、特徴的な──ウサギの耳。
その姿は──!!
「っ……!? な、《No.5ヒーロー──
「『ラビットヒーロー、ミルコ』……!
……その
一日数秒限り、奥の手──
……そして」
間髪入れず、跳躍した彼女。
個性による、ウサギの代名詞。 強靭な脚力で跳ねた一撃が──
「今から」
どろり濁った、煮詰めた──どす黒い殺気を纏う、一撃──
さらに「どろり」、と──殻を脱ぎ去るように、変身の残滓を脱ぎ捨てて。
跳躍のスピードだけを残した、その先は──胸骨の中心。
──拍動する、僕の
「──こんどこそ、殺す……!!」
「………んー」
ぐにゅり、ぐにゅぐにゅ。
手元のスライム、その色を変える。
『緑』から、『金混じり赤』──また、『緑』。
──私は、工場の外にいた。
「そろそろ……かなぁ……
……うん、そろそろだねー……?」
そして、その言葉と共に。
のっそり、腰を上げて。
てくてく、と。
歩く私……その口元は、早くも今から。
「ぃひ♡……たーのしみ……ぃ……♡」
にんまり、とろり、とろとろ。
今から笑み崩れ、
「……そ──、っ。
……その、えと、ごめん。
その、この結果は、他意があるわけじゃ──」
「──ヘンタイ」
「う、ぐっ!?」
────結果だけ、見るなら。
彼女の、ヒーローにおいて最高峰。
瞬間、神速とも呼べる速度を活かした、捨て身の刺突。
それに相対した僕の反撃は、右手の拳。
──結果。
──見事に、僕の拳は。
彼女の持つナイフの横っ腹を──ぼきり、と叩き折り。
『──は!?
なん──っ──ナイフ、折れッ──!?』
そして、刀身をそのまま弾き飛ばし。
──そして彼女はまた、地面に押さえつけられた。
そう、僕が──抑え込んだ。
白い柔肌──おっぱいを──あらわにして。
コンクリートに歪める形で──だが。
(というか、ああそうかちくしょう……!
も、もしかしてトガさんの個性は!使うと「服が脱げる」個性……なのか!?
空中で脱ぎ捨てたドロドロは、着ていた衣服の……!!)
「──っ、このチート、このヘンタイ……!あああ、な、なおさら、尚更ですッ!!
ライムの側に近寄るな、変態、最低男──!!
消えろ、消えろ消えろ消えろもう消えてッ──あああ殺しますッ!!」
「え、あ、うわわ! お、落ち着いて──!」
じたばた、じたばた……と。
暴れまわる彼女を、なんとか押さえつけ──
(うっ、うなじ、鎖骨……白い肌、は、肌、うわ胸、思ったよりデカ──ゃ、柔らかっ、目の毒──じゃ、ないだろ僕!!
ああもうクソなんとか抑え込むんだよしっかりしろ緑谷出久!!!)
「……はぁ。……もう、動け……ない、です……」
荒らげた息が、収まる頃に。
荒い呼吸と共に、彼女──トガヒミコ、さん──は吐き捨てる。
僕の両手は、彼女の手首を背中側に押さえ込み、うつ伏せ。
僕の臀部で彼女の太腿の辺りを押さえ付けていて、逃げられず。
膝は……怪我しないように、服で簡易的にクッションにした。
──そして、彼女もどうやら……現状。
これ以上暴れ出して、無理に拘束を解く気も失せてきたらしい。
「……あの、さ」
──ので。僕は話しかける。
「……なんなのですか、ヘンタイ」
──出鼻を挫かれた。
「う、うぐ……──えとその……キミも、多分さ。
らいちゃん……
「……」
あ、あっ、ごめん……その……
来夢……さん、に──なにか、助けてもらったんだよね?」
「……(こくり)」
「……! な、なら──」
──なら、僕と一緒……!
ほら、やっぱり、話せば、共通の話題があるじゃないか!
きっと、分かり合って、和解を……!!
☆★☆★☆★
垣根を横切り、ブロック塀の崩れた穴を通り過ぎ。
川沿いの細道を数分ほどゆくと。
そこにぽつんとある、誰も来ない空き地。
そこは、私たちの秘密基地。
……そこで。
「──でね、その時には……!」
あなたは、上機嫌な時に。
そういうときに──語るのです。
「──そういうときさ、凄くすっごーくカッコよくって!」
私を──私を縛る全てを。
振りほどき、引き千切り。
そうして救ってくれたあなたは、私に語るのです。
「そう、イズクくんが!
イズクくんがさ、かっこよくって──」
──そう。私の知らない、その名前を。
──私の知る「あなた」は、私の知らない「彼」を。
──とても──とても。
──
けれど、けれども、だけれども。
そうしているときの、あなたがいちばん。
とてもとても、しあわせそうで、きらきら輝いていて。
「そう、だから──だから!」
そう、だから──だから。
「私は──『イズクくん』が……大好きなんだよ!」
私は──『イズクくん』が……大嫌いなのです。
☆★☆★☆★
──先程受けた衝撃……
受けたダメージで……痺れる、
「……最低、です」
互いに。酷く単純、かつ──
「……どうして、ライムは──アナタを選んだんですか」
きっと、埋まらない。
──
「どうして、あなたを……あなたなんかを。
ライムは、好きになったんですか」
生まれた場所も、環境も、体のつくりも。
なにもかもが違うから──分かり合える訳がない。
なのに。
認めて、愛して、抱きしめて。
──それが出来る方が、「オカシイ」。
なのに、コイツは──あの子を──ライムを──
何も、何もなにも、なにもかも!
わかってない、分からない、こんな、こんな──
心のつくりも、考え方も、好きなことも、嫌いなことも!
全部全部全部──なにもかもが私と違うのに!
なんで、コイツが、ライムを──!!
「ッ、わかり合えません、緑谷出久、貴方とだけは!!
──
「らいちゃんが、言ってたんだ。僕は、ヒーローになれるって」
「────は?」
なに、急に喋り出したと思えば。
この、この人は。
一体何を、言ってるの──?
「──言って、もらった。
僕が一番尊敬する、オール……っ、あ、その…
す、凄いヒト!僕の尊敬する凄い人にも、らいちゃんにも、さ。
だから、僕は──「──黙って、ください……」
心が、急激に。
「黙って、もう黙って、喋らないでください、
もう、たくさんです、貴方の喋る事が、ぜんぶぜんぶ──
いちいち──
「と、トガさ──
「黙、れッ!!──ごほ、っ」
血の滲む──唾液が
──たらり、ぽとりと地面に落ちて。
コンクリートを、透明混じりの鮮血が濡らす──のに。
心と吐息が、カラカラに乾く。
寒空、寒風吹きすさぶ外の空気、冬の空気よりも。
もっと、もっと乾いて、そして……ささくれていく──
「楽しいですよね、そうですよねぇ」
──苛立ち、渇く。
「──自慢ですか、へらへらと。
楽しいですねぇ?……ねぇ、緑谷出久。」
渇く、かわく。──なのに、どろどろと。
「──ライムやいろんな
どろどろと、乾いていく、から。
「──ここで、
それで、言葉でまで
ねぇ、緑谷出久」
濁る汚泥のような言葉の数々。
それらが、口の端から──ぼと、ぼと、ぼとりと
喋る、語る、詰る──。
言葉を吐き捨てる度に。酷く
──酷く不快なソレが、体に纏わる光景を、幻視して。
「──ッ、トガさん!……ちっ、違うよ!
ぼ、僕はそんなつもりじゃ──!」
「喋らないでください、聞きたくない、イヤです!!」
私の一言……そして、彼の一言一句。
彼の一言が。彼の口が開くたびに、耳に入るたびに──私のナニカが、ぶちぶちつぶれて。
きしむ、割れる程──奥歯を噛みしめて、そのままに、割ってしまいたい位に噛みしめて。苛つき、苦しい、そして……。
(ああ、いやだ、イヤ──)
嫉妬と、怒気と、憎しみ──黒く濁った『ナニカ』が溜まって、やがて熱を持って、そして──
「ああ、あー、あはは……!
はぁ、……イヤです。
……キライ、やっぱり嫌い、大っキライ。
……ねぇ、緑谷出久──知ってます?」
ぞるりと、溢れ出し、そして
「ライム──
「──── え」
どろり、口から、八重歯を撫ぜて、舐める。
「……浮気です、セックスもしてます」
喉の奥から、腐り湧いて出る、濁った汚泥で、
「『
汚れて、そして──
「だってほら、そんなわけないのです
『ライムみたいなカワイイ女の子が』
『ずーっとずっと一途で』
『たった一回身体を重ねただけの男を』
『そのまま俺を想い続ける』
『俺を好きで居続ける』
……考えれば、考える程、おかしいです。
いなきゃ、おかしい……居ない方がおかしいですよね」
ねぇ、緑谷出久。知らないと、怖いですよね──
「くふ……ふふ、ふふ……アハ……
清廉潔白な
緑谷出久──狼狽えるといいです、無様に。
そうすれば、少しはライムも、幻滅して──
「よかった」
「………」
「………」
「………」
「は?」
「らいちゃんが、それで幸せなら、僕は嬉しいよ」
……なにを、いって
「──トガさん。さっきも言ったけどさ。
僕は──そう……、『
なんでらいちゃんが……らいちゃんみたいな子が。
……あの子に『
……だめ
「だから……うん、だから。
きっと、きっとこれは──夢みたいなものなのかもって、僕は思ってたんだ」
……だめだ
「だって、そう。
僕は──緑谷出久は。そんなに『大したヤツ』じゃないよ。
あんないい子が──『なんで』『僕のことを好きになったんだ』、って。
今まで、思わなかった日は──なかった」
だめだ、これ以上は。
「『本当なら』」
「『本当は、僕は』」
「『川澄来夢《らいちゃん》に愛されることなんてなかったんじゃないのかなって」
「黙れ!!!!」
──声が、出た。
大きな、大きな声。──大声が。
──心を無理やりに2つに割って、そこから出たような叫び。
身体の痛みを無視して、そこから更に、まっぷたつ。
喉が割れんばかりに、叫んだ声が。
「なんですか、あなた」
──ああ、なんなのです、これは。
私は、私は、私は。「
「ふざ、ける──な こんな、こんな『嘘』を……しんじ、ないで、ください」
2人を、引き裂いてしまおうとして。ライムを。
「な、ん、……っ──なんなの、です」
引き裂いて、引き裂いて、その、ライムの
「あなた、ああ、あ、あ゛──お、
ライムの、ライムのそば──
「わたしの、……すき…な──」
ライム。
「っ、──わたし、の──
「私の好きな
ばかにするなァっ、緑谷出久ッ!!!!」
目の先、視線の先に、居る。
ころす。
「ころす、コロす、こロす、殺す、殺します、
ぁあ、あ、ああぁあぁ──!!!!」
──ダンッ!!!ダンッ!!!ダンッ!!!
私は。一心不乱に暴れる。
身体の痛みも、ダメージも忘れ──ただ、愚直に、無理矢理。
この男は、この、この、この──こいつは、ここで殺して、刺し殺し
★☆★☆★
「はーい、そこまでだよー」
「──うわ、ぷっ!?」
──ぞりゅ、にゅろん……! と、粘液質の音と共に。
半透明なスライムの塊が、僕の視界を覆う。
「……もー、トガぁ……? ダメでしょー?
……殺しはナシって言ったのにぃー……」
「ら、らいちゃん!?」
この声、この「スライム」は!
「……! ……ライム。これ解いて下さい…!私はただ……!」
見やると、トガさんも。──らいちゃんのスライムに拘束されていた。
「『ただ』? なーぁにぃ……?」
「……ぅ……」
じろ、と睨むらいちゃん。そして、トガさんは──抵抗を辞めたらしく、少し項垂れた。
「ま、別にいいけどさー? 嘘もなにも、ね。
……でもさ?
これで『わかった』よね……? 条件、呑んでくれるっしょー……ね、トガ?」
「……む…………ぅ………はい、まぁ」
……は、は……
──話が見えない……! ついでに視界も真っ暗、見えない!
目を抑えてるこのスライム、真っ黒く色が付いてて覗けない……、うう、何も見えないよ……!
「あ、あの……? えと……らいちゃ……
「ッ!!」
あ、ご、ごめんトガさん……!
え、えっと……その。
僕、今……ら……来夢さんの『個性』……スライムの触手に縛られてるよね……?」
「ん? ……んー……、そうだね?
えっと……なんで名字? オマケにさん呼び……?」
「いやえとその、それは諸事情というか、なんというか……!
……と、とにかく!!
そのさ、できれば、スライム! 目を抑えてるヤツ! 解除して貰えるかな、ってのと──……っ、くっ……!
……そのさ、さっきから、僕の肌に?
……な、なんかこう……う、くぁっ!……ぐにんぐにん、って肌にぬめりつくスライムが!
うわぁ!? なんかこう! どんどん甘い香りを放ってきて!?
うひゃあ服の下に!?これも
「うんうんそうだねぇー」
「ね、ねぇ!ちょっとまってらいちゃん!この甘い匂い懐かしいけどさ!
でもこれらいちゃんが興奮してきてるときの匂いだって僕知って──
「はーいぱっくん、スライム全身丸呑み固めーっ♡」
──んがゴボーっ!?」
……っ──」
「ふぅ……んじゃ、約束は約束だよー……トガ、いいよね……ぇ?」
「…………ハア……
……わかりました。
きちんと
「ん、ありがとー、恩に着るよー……♪」
「そのかわり、ちゃんと。進めてて欲しいのです」
「うんうん、まーかせて……
なんせかわいいかわいいスライム娘には──」
「『──最強無敵、不可能なんてない』ですよね。
もういい加減耳にタコです。……聞き飽きました」
「えっへへー……マイフレンド、さっすがー……♡
──ね、ハグしていいー……?」
「……ヤです。
とにかく、頼むのです」
「はいはぁー……い♡」
「……馬鹿げてます」
「ほんと、ライムの考えてることは分からないのです」
「ふたりで、これからも」
「
──それでいいじゃないですか」
「なのに、なんでこんなこと、男と──ハァ……」
「…………? チャック、開かない……壊れてるのです?」
「………」
「………」
「はぁ……もう、いいです。ナイフで切っちゃうのです」
──さく、さく
「……? なんか、いいにおい……」
──じょり、さく
「……ニオイ、つよく、なって──きて、る」
──さくさく ──ぽと
「………ぁ、ぇ……」
「な、に……これ」
「おっ………、き、ぃ……♥️️」
──ぐちゅ、ぐちゅ
……水音。
にゅるりにゅるり。
──なにかを、擦りつける音。
くぷ、くぷ。くぽ──くぽっ。
──はぁ……っ──ん──む……っ──
混じりながら響く、甲高い声──
「……らい、ちゃん……?」
──声が。聞こえる。
──くっ──れ……ぇ……っ──
──今は遠い、春。あの日、二人で。
『ねぇ、イズクくん』
春の日に、君と二人で。
『イズクくん……イズクくん……っ♥️️』
あの時、求めて、繋がった──
「ぐ、──ぁ!
で──っ、│射精《で》るっ!!」
──瞬間。僕は、本能じみた動きで。
「──む……!?
ん、むぐ、っ──!?」
その、キモチの良いなにか──物体を──両手でもって掴み──押さえつけ。
……そして。
──ぶ、び……っ♡
射精をブチ撒けた。
……ぼっ!! びゅるるっ、どぴゅるるるっ♡♡!!!
ぼっびゅるる、ぶびっ! どびりゅりゅりゅ♡♡!!!
──破裂したような勢いの射精。
ぶー、っび♡ぼび、びぶりゅ♡ごぶっぼっぶぷっ♡
それと同時に全身を走る開放感、快楽──それが、僕の脳髄、全身を奔って、駆け抜け。
「ぐ、ふ……う、……はぁ……っ」
──射精した。
白濁を、濁り溜まった精液を吐き出す。
その開放感が、僕の背中を──ぞくぞく……っ♡と震わせる。
溜め込んだ欲望、その最たる証の濃泥を体外に放出した快楽は、得も言われぬ満足感を──
(……? あ、れ? 僕は、いつの間に寝て──)
……そう。いつの間に、眠っていたのだろうか。
起き抜けの射精は爽快だった。溜まっていた精液は吐き出した。
いつもの粘液質な──濃泥じみた射精。
それに伴う酷く濃い精臭。
それを引き起こした、自身の下半身──。
僕の……チンポへの──未だにぬめつく、あたたかな刺激。
それを確認するべく、首を巡らせた……
「ん……っ、ぐうぇ、ぷ……っ」
「……え」
その、眼前には。
僕の射精で──今、まさに
ぼたり、ぼたり、ぼとぼと……と。
僕のチンポを咥え、おまけに
淡く桜色の唇、
黄色みがかった白、精液を淫靡に零れ落とす──少女。
栗色の、特徴的なお団子ヘア。
カーディガンに、長い
涙目の、トガ、ヒミコさん……──って、え、ええ!?
「う、う……ぶ……っ む……ぐ………っ!」
と、トガさん、なん、な、なな──なんで!?
「ご、ごめ──ッ!!」
急ぎ、チンポを引き抜く。
──ずっ、ろろろろろろ………ぉっ♥️️♥️️♥️️
精液と、唾液のミックス。
……ごってごての、どろっどろの……液。
もはやなにか解らない、ただただ粘液体、の、ナニカ。
そう呼ぶに相応しい、粘質に
ただ、ソレは──僕の快楽の末にそこに確かに存在するモノであって。
「ふ、っぐ──ぃっ♡んぐ、ぅううっ♡」
腰を……ぐい、と上げて。
自分でも、かなり、その──えっと。長くて太い……かもしれない。
僕のチンポ──それが。
「ご、べぉ…っ、ぐぇ……!」
──抜き出し、掻き出す、喉の奥。
彼女の華奢な、本来なら絶対に迎えることのない太さ、硬さの
その、甘美な感覚、肉竿の表面を、擽る、快楽……ッ♡♡♡
──ごびゅ、どぷ、どぷりょりゅりゅりゅ〜〜……♥️️♥️️♥️️
そう、味わい、尚、味わいつつ射精。射精。射精……っ♡♡
引き抜きながらも、そのまま、射精し続く。
射精が──腰の奥から、ぶっこ抜く、どろどろの精液。
……精液を、
隙間無く詰め込むように──出してしまう。
ずり、ごぶぴっ♥️️
「ぐ、っ……♥️️」
ずろ……どぷぽっ♥️️
「ほ、う、ぐっ……」
み゛っしぃ、どくどくっ……♥️️と詰めつつ。
──ずり、ごりゅ、ごり、ごり♥️️♥️️♥️️
「ふ、ぐ、おぉ……ほぉ、っ♡♡」
僕の喉から、漏れ出る吐息、漏れ出る声。
腰の下が蕩け、吸い込まれそうになり──
………ふっ、と。……下を、見た。
「む、ぉご、ぶぷ……っ!」
「────」
ぽろぽろ、涙を浮かべ。
「ふ──、っ」
「っ、はは……♡」
──そして、どろりとドス黒い、粘つく、沸騰する。
「っ、」
「む……ぐ、ぇ゙ぅ」
モノにしたい
モノにしたい
ほしい
ほしい
ほしいほしいほしいほしい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい
──ずりゅりゅ……っ……
──ごっ、ぽぉ……んっ♥️️♥️️♥️️
……遂に、塞いだ肉の栓は。
彼女の
破裂じみた、重く、低い、快音と共に──引き抜けた。
「う……っ、ぐ
……おぇ、げえぇえぇぇ──っ!!」
僕の精液を
僕は──、欲しくなった。
そして、彼女の、姿に、手を伸ばし、て──
「はーぁ……ちょっと嫉妬しちゃうかもだよー……」
「らっらららら、らいちゃん!?」
──ビビビビビックウ!?!?
わっわわわ忘れてたぁ!?い、いや! 意識の外になかったワケじゃあなかったけど、なかったけど!?
でも、そのあのその──
「……? どしたの、イズクくん」
「……っ」
……そう、そうだ。そうだよ。
「らいちゃん!! ご、ごめんッ!!!」
(そうだ、そうだよ……! こ、これ……!)
……その瞬間。頭の中はいっぱいになる。
──罪悪感。
──浮気。 ──不義。
「ごめん……っ!!」
僕のことを「好き」と言ってくれた女性の前で。
「ごめんっ、らいちゃん!!」
僕、緑谷出久は射精をした。
しかも……他の、彼女以外の女性に。
自己への嫌悪……そう、………罪悪感。
……故に。
「ごめん、ごめん! 本当に、なっ、なんて言ったら……いいか……、いやその、もう言い訳にしか聞こえないかもだけど、僕は、あのっ、らいちゃんを裏切るとか、傷つけるとか、ヘンな浮ついた気持ちじゃなくって、ほんとその、ホントに信じて欲しくってその────
「……………ぷ」
「…………? ぷ?」
……そう。
その時。僕は実際に……覚悟、していたんだ。
彼女から罵倒され、不誠実と詰られ──軽蔑され、蔑まれる。
好意を持たれても応じない、答えを留保した過去……その挙げ句に。
──他の女性、その上、彼女の友人を。
既に与えられた好意を踏みにじり、唾棄する。
そういった行為、劣情を吐き出し、汚す。
そんな、倫理に照らして、常識に則り。
許されない、許されるはずもない行為──の、結果。
「あは、はは、あはははは──っ!!」
──はず、なのに。彼女は……笑って。笑っていた。
「ら……らいちゃん……?」
「あは、は、はは! ひー! く、くは……くく、ぷっ。
ご、ごめ、とま、止まらな……くひ、あははは──」
笑い、笑い、笑い。ひとしきり笑い通して──
「はぁ、はあ……ほんとに……本当に。どこまで、どこまで。
イズクくんを好きになればいいの、わたし……♡」
「──えっ、なに──っ、がぼっ!?」
そんな、間の抜けた、さして意味を持たない。
疑問、困惑を載せただけで発した、僕の声。
そんな僕の口は──
「ねぇ、イズクくん?……──これなーんだ♡」
そして──差し出す、彼女。
「っ、はぁ、っ……♥️️らい、む…♥️️らいむ、ぅ……♥️️わた、ひ、わたし……♥️️
ふわふわ、するの、です……♥️️」
「ら、らいちゃん……!?これって──」
「フッフッフ……そう、これね、媚や──「らいちゃんの『栄養たっぷりの特別製スライム』じゃないか!?」
──……あ、うん、覚えててくれたんだ……
やば、嬉しいかも──じゃないじゃない!思い出せ、今やるべきこと……!
……こほん!──ね、イズクくん。
頼みがあるんだけど、いい?」
「え、あ、た、頼み?……いや、それよりも! それどころじゃないよ、らいちゃん!
確からいちゃんの媚薬って、すぐ解除しないと不味いんじゃ──」
「今から、トガとセックスして──そして。
キミの
────僕は、ただ。ただ間抜けに────
「えっ」
そう、一言だけ。
間の抜けた声を発することしか──できなかったんだ。
難産でした……
次回は十中八九トガちゃんのエロ回です
ゆっくりでも書いていきます、お待ちください