最初に言っておきますが、今回は全年齢版となっております。
つまり、ムフフなシーンは存在しませんので期待しないで下さい。
後、いつもながらアンケートにご協力いただきありがとうございます。
やはり和式が人気なんですね。ドレス姿も素敵だとは思ったのですが。
※注意。
こちらは私の勝手な妄想を形にしたものです。個人の主観が多分に含まれていますので、「この人はこんなことを言わない!」や「口調がおかしい」など感じる方が居られるかもしれません。
ですので、そうした方はブラウザバックを推奨します。
では、本編をどうぞ。
旅行二日目。
昨日はビーチで遊んだが、今日は観光に行くということで朝から旅館のロビーに来ていた。ただ何処に向かうのかは聞かされていないので、とりあえず誰かが来るまでロビーにあるソファに腰掛けて時間を潰すことにした。暫くスマホを弄りながら待っていると、駆け足気味で誰かが近付いてくるのが視界の端に映る。
「すみません。お待たせしました!」
顔を上げれば、そこにいたのはリゼさんだった。
彼女は青色のフリルが付いた、白を基調としたロングのワンピースに身を包んでいる。そして頭に被った麦わら帽子も相まって、まさに夏の避暑地に遊びに来たお嬢様のような雰囲気だ。
「今日はワンピースなんですね。とても可愛いですよ」
「あ、ありがとうございます……えへへ♪」
はにかみながら笑う彼女を見て、自然と頬が緩む。
何だか俺も気恥ずかしくなり、頬を掻きながら話題を逸らす。
「そ、それにしても、他の人たちはどうしたんですかね?」
「あれ? とこちゃんから聞いてませんか?」
「えっ、何をですか?」
「今日は交代でお出かけしようって、とこちゃんから提案されたんです。私からスタートで、次にフレンときて最後にとこちゃんです。アンジュは体調不良ってことで今回は参加しないって」
聞いてないですよ、とこさん。
どうやら昨夜、三人でくじ引きをして誰から俺とデートするか話し合ったようだ。ただとこさんは彼女権限ということで最初に選ぶ権利が与えられ、最後を選択したらしい。
「という訳で今から三時間、よろしくお願いします」
「あっ、はい。それで、行先なんかは……」
「それは着いてからのお楽しみですっ!」
そう言ったリゼさんに連れられ、俺は旅館を出た。
宿の前には彼女が用意したと思われる黒塗りの最上級セダンが停まっており、車の横では昨日ビーチで会ったセバスチャンさんが待っていた。昨日と打って変わって執事服に身を包んでおり、俺たちの姿を確認するなり彼は深々と頭を下げてくる。そしてドアを開けてくれたので後部座席に乗り込めば、セバスチャンさんは扉を閉めてから運転席へと座った。
こんな高級車に乗れる機会など滅多に無いだろうと思いながらも、仮にも一国の皇女殿下が隣にいる事実に別の意味で緊張する。チラッとリゼさんの方を見れば、彼女はこれからのデートを楽しみにしている様子で嬉しそうに微笑んでいる。
俺は何とか緊張を落ち着かせようと、彼女に話を振る。
「あの、リゼさん……カトリーナさんは、あれからどうですか?」
「アンジュですか? 一応、落ち着いてはいます。今朝も元気にご飯も食べていましたけど、まだ少しだけ不安みたいです。ただ今日のデートには参加せず、大人しくしていると言っていました」
あの後、みんなと合流する頃にはカトリーナさんも意識を取り戻した。
本来なら夜は旅館で用意された豪勢な食事を摂る予定だったのだが、急遽予定を変更して食事会はなしになって俺は一人部屋で夕餉を取ることとなった。リゼさんからも謝られたが、友人が気落ちしているのを尻目に食事を楽しむ気になれそうになかったので別に問題はなかった。
因みにカトリーナさんに暴行を働いた二人と、その仲間である二人の計四人組は地元の警察へと引き渡された。どうやら彼らは地元でも有名な不良らしく、以前から警察も目を付けてはいたらしい。ただ中々尻尾を出さない為、警察も迂闊に動けずにいたらしい。今回、現行犯ということで逮捕できると、警察から感謝されたぐらいだ。
そんな感じで話していると、車は目的地へと到着したのかゆっくりと停車する。
セバスチャンさんに開けて貰った扉からリゼさんに続いて車から降りると、どうやら停まっているのは何処かの小高い丘の上にある駐車場のようだった。リゼさんの後について進んでいくと、入場ゲートのようなものが目の前に現れる。その上にある看板には大きく『アニマルキングダム』と書かれていた。
「動物園、ですか?」
「正しくは動物園と遊園地を合わせた複合型レジャーランドです」
確かによく見れば、敷地内に観覧車のような物が見える。
そう言えばとこさんともこういった場所はまだ来たことがなかったな、と思っているとリゼさんが肩から掛けていたポシェットからチケットを取り出して渡してきた。どうやら事前に購入していたようで、俺たちは係員にチケットを見せて園内へと入っていった。
俺は入り口で貰った園の案内図を見ながらリゼさんに問う。
「それで、どちらに向かう予定なんですか?」
「私たちはアニマルゾーンを回ります」
何か含みのある言い方だとは思ったが、敢えて指摘せず彼女の後に続く。
どうやらこの園には今俺たちが向かっているアニマルゾーンを始め、ゴルフ体験の出来るスポーツゾーン、メリーゴーランドや観覧車のあるプレイゾーンと三つのエリアがあるようで、それらを反時計回りに進むよう順路が決められているようだ。
なので最初のアニマルゾーンへと近付くにつれ、様々な動物の鳴き声が聞こえてきた。
「へぇ、結構色んな動物がいるな」
アニマルゾーンには本当に多種多様な動物たちがいた。
最初に出迎えてくれたのはシマウマやカモシカ、ダチョウといった草食系の動物たちだ。続いては迫力満点なライオンやホワイトタイガーといった肉食系の生き物もおり、飼育員の監視の下でなら餌やりも体験できるらしい。俺はこういったものは見ているだけで十分な人間だが、リゼさんは目を輝かせながら動物たちに餌をやっていた。
中でも、彼女が気に入ったのはホワイトタイガーのようだった。
「わぁー! 凄いですよ、立実さん!」
「おぉ、本当ですね」
まるで子供のように無邪気にはしゃいでいる。
女性はこういった大型肉食獣を怖がると思っていたのだが、どうやらリゼさんに関しては違っていたようだ。
そうして満足するまで餌やりを堪能した後は、次は動物と直接触れ合うことの出来るエリアだ。ここには大型ながらも性格の温厚な草食動物や小型の小動物がおり、中でも珍しいと思ったのはサイに触れることだった。
「うわっ、何かザラザラとしてる!」
「本当ですね。てっきり、こうツルツルしているのかと思っていました」
「サイの角って、頭蓋骨から飛び出た骨じゃないらしいですよ。えーっと、何だっけ……ゼラチン? みたいなタンパク質で構成されているから、人間で例えるなら髪の毛や爪ですね」
「へぇ、そうなんですね」
おそらくケラチンのことだろう。
間違っていることは分かったが、それを訂正できるほどの知識はないので黙る。
「向こうで小動物に触れるみたいですよ!」
「あっ、待ってくださいよ!」
今度は俺が彼女に引っ張られる形で、次の動物エリアへと向かう。
リゼさんの柔らかく小さな、とこさんとまた違った手の感触にドギマギしながら、俺は彼女とのデートを楽しんだ。
◆
そして楽しい時間はあっという間に過ぎ、気が付けば指定されたに時間が終わろうとしていた。
俺たちは今、アニマルゾーンを抜けた先、売店のある場所まで来ていた。
「立実さん、今日は私とデートしてくれてありがとうございます」
そう言って、リゼさんはペコリと頭を下げてくる。
そんな彼女に、俺は慌てて顔を上げさせた。
「い、いえ、こちらこそ楽しかったですし……」
「ふふっ、それなら良かったです」
「それで、俺はこれからどうすれば……」
「あっ」
俺がそう訊ねようとした矢先、リゼさんが俺の後方を指さした。
何かあったかと思って振り返ったが、特に変わった様子はない。どういうことだろうと思ってリゼさんの方を向き直った瞬間――。
「んっ」
ちゅっ、と唇に柔らかいものが当たった感覚があった。
突然の出来事に唖然としていると、ゆっくりとリゼさんの顔が離れていく。彼女は頬を赤らめながらも悪戯っぽい笑みを浮かべており、そんな彼女を見てようやくキスされたのだということを自覚する。
「えっ……り、リゼさん?」
「立実さん、大好きです」
突然の告白に、俺は言葉を失った。
何か言わなければと思うのに、何と声を掛ければいいのか分からず口籠もる。
そんな俺の様子に少し悲し気な表情を浮かべながら、リゼさんは売店の方に手を振って誰かに合図を送る。そっちの方へと視線を向ければ、見覚えのある女性がこちらに向かって歩いてくる。
それは次のデートの相手であるフレンだった。
今日の服装はリゼさんとは対照的な、お洒落な黒いワンピースだ。その上からは同じく黒のレースのカーディガンを羽織っている。腰の部分を二本の細い革ベルトで締められ、それが彼女のスタイルの良さを強調している。普段は下ろしている綺麗な髪も、今日はポニーテールにしていてどこか新鮮だった。
「お待たせ、フレン」
「いえ! そこで売ってるみかんソフトクリーム美味しいんですよ!」
「良かったね。じゃあ、私は戻るから立実さんとのデート、楽しんでね」
リゼさんは俺に頭を下げてから、一人で何処かへと歩いていく。
その背中を呆気に取られて眺めていると、フレンが俺の腕に抱き着いてきた。
「行きましょうか、ご主人様!」
「あ、ああ……フレン、一先ず人前ではその呼び方は止めてくれ」
「はい! セツナさん!」
俺とフレンは園内にある、プレイゾーンへとやってきた。
どうやら本当に小さな遊園地という感じらしく、それなりに大きな観覧車や短いながらもジェットコースターといったアトラクションがある。まるで東京にある日本最古の遊園地のようだと思いながらも、俺たちはアトラクションを楽しむことにした。
因みにこのレジャーランドは入園料とは別に利用料金が毎回発生するシステムなのだが、リゼさんが用意してくれたチケットには一日乗り放題の券が付いていたので、こうして並んでいてもお金の心配をする必要はない。
「セツナさん、あれに乗りましょう!」
そう言って彼女が指さしたのは、メリーゴーランドだった。
くるくると回る夢の国の定番アトラクションに俺は苦笑しながらも、フレンに引っ張られる形で列に並ぶ。しかし、やはりこの手のアトラクションに並んでいるのは子供が多く、女性もフレンを含めて三人ほどしかいない。つまり男で参加しているのは俺ぐらいなので、周囲から好奇の目で見られてしまうことになった。
乗らないという選択肢もあったが、嬉しそうにしているフレンを見れば、とてもじゃないが言い出せなかった。俺が割り切りさえすれば何ら問題はなかったので、俺は気にせずに順番を待つ。そうして暫くすると番が回ってきて、俺たちはメリーゴーランドに乗り込んだ。こうして木馬に跨るのは果たして何年ぶりだろうかと思いながらフレンの方を見れば、やはり現役の騎士だけあって馬に乗る姿は様になっていて背筋をピンと張って堂々としている。
「どうしましたか、セツナさん?」
「いや、何でもない」
フレンの問いに、首を横に振る。
そして係員が端末を操作すれば、陽気なメロディーに合わせてゆっくりとメリーゴーランドは回転し始めた。回転に合わせて木馬本体も上下に軽く動いており、子供たちはこれでも十分楽しいのか笑顔で回っている。
「わあーっ! わあーっ!」
目を輝かせながら、子供のように歓声を上げるフレン。
人によっては子供っぽいと言うかもしれないが、そんなフレンが可愛いと思えた。
数分ほどで音楽や止んでメリーゴーランドも止まり、俺たちは木馬から降りた。それからゴーカートに乗ってフレンと競争したり、一本のレールの上を走るエンジン式のマシンに一緒に乗ったりとアトラクションを楽しんだ。
「時間的に後一つぐらいだけど、フレンは何に乗りたい?」
「なら観覧車に乗りましょう!」
フレンが選んだのは、観覧車だった。
俺は彼女と一緒にゴンドラに乗り込み、扉が閉められるとゆっくりと空へと昇っていく。ある程度まで高度が上がるとレジャーランド全体を俯瞰することが出来るようになり、地上を歩いている人たちが小さく見える。更にゴンドラは上昇を続け、頂点に至った時には海の向こうに見える水平線まで見渡すことが出来た。
飛行機にも乗ったことがあるから、地上や海を飛ぶ鳥の姿を捉えたことも何度かある。しかし、それでもこうして違う視点から景色を眺めること感動を覚える。最初こそ戸惑ったが、こうして旅行に来れて良かったと改めて思った。
「ご主人様」
そうして窓の外を眺めていると、不意に隣に座っているフレンが話しかけてきた。
いつもより少しトーンを落とした真剣な声音に、俺は無意識に身体が強張るのを感じながらゆっくりと振り返った。フレンはいつの間にか席を立ち、まるで騎士が忠誠を誓うかのように俺の前に膝を付いた。
「ご主人様。奴隷の分際で烏滸がましいと承知の上で申し上げます。私、フレン・E・ルスタリオはご主人様――立実セツナ様を心から愛しています。ですが、ご主人様がとこ先輩を愛していることも理解しています。ですので、私の想いは受け入れられないことも分かっています。騎士としての誓いは祖国に捧げていますが、女としての操はご主人様に捧げて仕える所存です。身勝手な振る舞いをお許しください。それでも、私は――貴方を永遠にお慕いしております」
そう言って、彼女は俺を見上げる。
その瞳には涙をため、憂いに満ちていた。けれど、どこか晴れ晴れとした表情であった。
フレンとの関係を言葉にすればセフレ、互いに気が向いた時にセックスするだけのものだった。おそらくフレンは好意程度の気持ちしか抱いてないだろうと思うが、今の言葉を聞く限り、彼女の中で俺への想いがLIKEからLOVEへと変わっていったのだろう。
俺自身、彼女のことは好ましいとは思っている。
こんなしがない社会人でしかない自分を好きになってくれるのは嬉しい。
「フレン、俺は……」
俺が口を開いた瞬間、ガタンとゴンドラが揺れた。
見ればいつの間にかゴンドラは一回転したらしく、もうじき地上に辿り着くところだった。
どうやら俺は数分間も黙り込んでいたと気付き、改めてフレンを見れば彼女は椅子に座りなおしていた。
「ふ、フレン…」
「ご主人様、またデートに行きましょうね!」
フレンは屈託のない笑みを浮かべてそう言う。
さっきまでの告白などなかったかのような態度で、俺は何とも言えない気持ちになった。
◆
あれから観覧車から降りた後、俺は黒服――おそらくセバスチャンさんの部下の人たちの手により車に乗せられ、何処かへと連れていかれた。フレンとまだきちんと話せていなかったが、どんな顔をして話せばいいのか分からなかったから都合は良かったのかもしれない。
そんなことを考えながら、運転手に何処に向かうのかと問えば。
「戌亥様がお待ちでございます」
「いや、ではなく行先を……」
「それは私の口からは申し上げられません」
そう言って、運転手は口を閉ざしてしまった。
俺は大人しく目的地に着くのを待つことにし、後ろの席に用意されていた軽食を口にして腹を満たしておいた。そうして小一時間ほど車に揺られれば、やがて車は停車してゆっくりとドアが開かれた。降り立って目の前に見えたのはお洒落な平屋の建物、観光地によくある土産店のように見える。
その建物の前では、白いシャツに黒のサロペットに身を包み、頭には麦わら帽子を被ったとこさんがドリンクを片手に立っていた。とこさんは俺の姿を認めると、小さく手を振って出迎えてくれた。少し駆け足で彼女の前まで行くと、とこさんは優しく微笑んでくれた。
「遅かったね。ずっと待っててん」
「あっ、すみません」
「冗談やで。ほな、行こか」
とこさんは俺の手を取ると、建物には入らずに何処かへと歩き出した。
俺は彼女に引っ張られる形で脇にある小道を、海の方角に向かって森の中を進んでいく。小道は簡素ながら整備がされており、多くはないながらも人通りもあった。行き交う人はカップルが多く、俺たちと同じように仲睦まじく歩いている気がする。
恋人との穏やかな瞬間に幸福を噛み締めながら、俺はあえて口を開いた。
「ねぇ、とこさん」
「ん? なんや?」
「……どうして、今日の交代デートを提案したんですか?」
どうして恋人を、他の女性とデートさせるのか。
とこさんのことだから何らかの考えが合ってのことだろうとは思うけど、意味が分からない。
「セツナはん……わたし、こう見えて我儘やねん」
「そうですか?」
「ぇん。わたしは天文学的な確率の番を見付けて、運よく恋人になることがでけた。これまで生きてきた長い人生の中で、今この瞬間が一番幸せや。いずれはセツナはんと所帯を持って、子供作って幸せな家庭を築くつもりや。せやけど、そう考えた時に一抹の不安を覚えた」
「不安?」
「わたしが孕んだら、一体誰がセツナはんの性処理をしてくれるんやってなぁ」
とこさんは立ち止まり、くるりと振り返る。
そして悪戯っぽい笑みを浮かべると、俺の顔を下からのぞき込んできた。
「セツナはんは性豪やから、何か月も我慢なんて出来るわけあれへんやろ?」
「うっ、それは……」
確かに保証は出来ない。
とこさんとセックスするようになってから、俺の性欲は確実に強くなった。今までは多忙な日々を送っていたこともあって自慰行為すらしない日もあったが、今では週末にとこさんを貪るようにセックスするようになった。おそらく自慰程度じゃ満足できないだろう。
「そうなった時、セツナはんは他所の女と浮気するかもしらん。そんなん許せるわけがあれへん! せやけど、セツナはんの行動を縛ることは出来ひん。だから、
「え…?」
雌というのは、まさか。
とこさんは何処か狂気じみた目をしながら、俺に説明してくれる。
「セツナはんの思っとる通り、あの三人のことや」
「ど、どうやって……」
「顔合わせの夜、リゼがスマホを忘れたのは偶然やない。わたしが隠したからや。ほんでリゼが部屋に入って来たことも、こっそりとわたしたちの行為を覗きながらオナニーしていたことも知っとった。わたしとしてはリゼにほんまもんのオスを見せ付けようと思うただけで、まさか魅了されるとは思わんかったわ」
「もしかして、あの時話していた解消法は?」
「あれはほんまのこと。リゼならきっと、絆の方を選んでくれるって信じとったけど」
確かに、リゼさんは忘れたスマホを取りに来た。あの時は意識しなかったけど、考えてみればスマホはテーブルの真ん中に分かり易く置いてあった。急いでない限り、あんな場所に置いてある自分のスマホを忘れていくのは考えにくい。
「おレンはもっと簡単やった。リゼやアンジュはんの口止みせんとけばええ。そうすればおレンの耳にも遠からず、わたしに恋人が出来たって話が伝わる。自分で持ってきた薬の所為でポンするのは、おレンらしいとは思うけど」
だからあの時、全然俺のことを責めなかったのか。
いや、だとしても未だカトリーナさんの件が残っている。
「カトリーナさんの時はどうしたんですか?」
「あれは事前にアンジュはんからも合コンに参加するって話は聞いとったん。そこへセツナはんからも連絡を受けて、例の同僚さんに頼んで二人っきりになるよう仕向けて貰ったんよ。ああ、アンジュはんには予めセツナはんの男性器は太くて固いって伝えておいたから、研究者気質のアンジュはんならきっと興味本位で手を出すって思うてたんやで。因みに興奮剤の方はわたしやないで」
ああ、なんてことだ。
つまり、俺のこれまでの性事情は。
「つまり、とこさんの手の上で踊らされていたってことですか?」
「そこまで陰謀詭計なことはしてへんで。すべてを思い通りなんて無理やし、わたしに出来るのは軽く誘導する程度」
結果として、俺を囲むための包囲網は出来上がった訳か。
男として多様な美女美少女と関係を築けることは喜ばしいので、文句の一つも出てこない。
「わたしはこんな女や……嫌いになった?」
そう言ってとこさんは不安げに俺を見つめてくる。
悪戯をして親に叱られる前の子供のような表情に、俺は彼女を安心させるためにとこさんを抱きしめる。確かに彼女の行動は決して褒められたものではなかったかもしれないが、俺にはそれを咎める権利はなかった。何故なら彼女にそんな風に考えさせ、行動させたのは俺が原因なのだから。
「俺は何があっても、とこさんを嫌いにならないから」
「セツナはん……」
そうして俺たちは静かに抱きしめ合った。
だが、つい自分たちの世界に入っていて忘れていたが、ここは人通りのある小道である。
つまりは周囲には同じようなカップルがおり、何とも生暖かい視線が周りから向けられていることに気付いた。
「い、行きましょうか。とこさん!?」
「そ、そうやね!」
俺たちは身体を離すと、急いで小道を奥へと駆け足で進んでいった。その後は道の果てにある展望デッキにて、海の向こうに見える富士山を眺めながら鐘をとこさんと一緒にお互いの名前を呼び合いながら3回鳴らした。
帰り道でとこさんから聞いたけど、あそこは『恋人岬』と呼ばれるこの辺りでは有名なデートスポットらしい。あの『愛の鐘』を愛しい人の名前を叫んで3回鳴らすと、想いが叶うとして謳われているとか。
ああ、道理でやたらとカップルは多いし、生暖かい目で見られた訳だ。
色々あったけど、恋人と通じ合うことが出来たのだから良しとしよう。
今回の内容は如何だったでしょうか?
ご都合ではありますが、全てはとこさんの手の平で踊らされていました。
幾ら行為中だからとて動物が周囲の物音に全く気付かない訳もなく、普段から慕ってくれる後輩が暴走するのは想像に難くなく、ムッツリスケベな研究者の好奇心を刺激するのも容易ということです。
因みに明記していませんが、実はとこさんの行動は半分ほど賭けでした。獲物を囲うために餌を用意しましたが、その餌に釣られて包囲網から抜け出る可能性もありました。しかし予め獲物に極上の餌を与えておいたので、他の餌に目移りすることはあっても、獲物が逃げ出すことはなく、彼女は賭けに勝利したのです。
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