※この作品はR-18です。

モンハン 紋章の狩人   作:扇 漱真

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蜜鳴(みつね) ♂ (29)

泡狐竜タマミツネの紋章人。
普段はユクモ村とその他の村や里を行き来している商人兼用ハンター。実力はちゃんとあるし、なんならG級並の常連。背中に紋章があり、他の人には刺繍といって誤魔化している。容姿が淡麗すぎて、良く女に間違われるし、私服も女性物が似合いすぎて逆にそればっかり着てるせいで余計に女に見られるようになった。けど【男】。短髪で身長はそれなりにある感じの人。紋章の力を解放すると変化するのは頭と体。下半身には尻尾、頭には狐の耳のようなヒレ。爪は鋭くなり腕力や脚力が人間とはかけ離れたものになる。普段はユクモ村に居て、商店を構えている。

装備はミツネ一式。ミツネの操虫棍。
オトモアイルーは二匹。
「鈴(すず)♀」と「鈴(りん)♀」。
蜜鳴は鈴の音が好きなのでそう名付けた。漢字にすると区別がつかないが、結局は名前で呼んでるのであんまり関係ない。実はこの二匹は双子。

雅(ミヤビ) ♀ (31)

雷狼竜ジンオウガの紋章人。
ユクモ村近くの村で暮らしていたがハンターとしてユクモ村に派遣され今はユクモ村専属ハンターの一人。ミツネとは赤の他人で幼なじみとかでもない。女性らしい体や美しい髪、誰もが憧れる女性像ではあるが、男勝りな口調が特徴。軍人見たいと言われるのが最近多くなった。紋章は右手にあり、力を解放すると変化するのは背中で腕と尻尾。雷光虫を操れるようになり、本物のジンオウガのように追尾の光雷球を出すことも可能。ポジション的にはモンハン3rdの主人公ポジ。

装備はジンオウガ一式。ジンオウガの太刀。
オトモアイルーは二匹
「テル♂」と「コル♂」。
ユクモ村に来てから出会った二匹。最初から最後まで雅について来てくれた優秀なオトモアイルー。テルとコルは鈴と鈴に一目惚れしている。


泡狐は雷狼を喰ラウ

 嵐龍を退治してから幾重の時間が流れた頃。ユクモ村に商人として帰って来る者がいた。その迎えに行って欲しいと、雅はユクモ村の村長に依頼を任される。そして、雅はそこで知ることとなった。自分と同じ存在がこの世界にいた事を。そしてそれは、新たな出会いだと言うことを。

 

「貴方も私と同じなのか……?」

 

 …………

 

「ニャ! 姉御、準備出来ましたニャ!」

「よし行くぞ、テル、コル」

「ニャ!」

「ハイにゃ!」

 

 ガーグァの荷車に乗り、雅とオトモアイルーのテルとコルが返事をする。ガラガラと揺すられながら改めて村長からの依頼の用紙を確認する。といっても、ただ単にお迎えと書いてあるだけだった。しかしその迎えにも意味がある。どうやら、商人として歩いていた分荷物が増えてしまったとのこと。今の自分の荷台では限界があるため、追加の荷台を持ってきて欲しいとの事だった。それが今回のお迎えの内容だった。

 

「しかし、この村にも専属の商人が他にいたとはな。何か知ってるか二人共?」

「ボクも初めて聞きましたにゃ。ずっとユクモ村に居たけど村長からも聞いたこと無かったにゃ」

 

 テルが答えると隣にいたコルも頷いた。二人は知らないようだが村長だけはその人をわかっているような口ぶりだった。どのような人かも理解していて、嬉しそうに話していたことも覚えている。村長曰く自分の古い友人と言われた。雅自身も会ったことがない。村に居たらしいが顔も名前も知らない。

 全く検討がつかないと荷台に揺られていると、一匹のオトモアイルーが前方からやって来た。

 

「ニャニャ! もしかしてユクモ村からのお迎えですかにゃ!?」

「あぁ、そうだ。君の主人を迎えに来たんだ」

「助かったニャ〜! 荷物が多すぎてガーグァにも少しづつしか進んでもらえてなくて行き詰まってた所だったのニャ! 案内しますニャ!」

 

 そのオトモアイルーに連れていかれると、渓流の木陰で休んでいるそれはそれは、なんとも見惚れる程に美しい天女のような人が居た。着物のような羽織を着てその華奢な体からはとても村長の言うような実力があるようには見えなかった。しかし、見ているだけでわかるのはただならぬ雰囲気と怪しい色気。ずっとそばに居ると引き込まれそうな程の何か。雅は少し警戒しつつも、その人へ近づいた。

 

「村長からの依頼を受けたのだが、貴方で合っているのかな?」

「えぇその通りどす。こないな所までおおきに」

 

 変な話し方だな。雅はそう思う。しかし、悪い人という印象はない。不思議な感覚の人だという印象は強いが。

 

「積んでいく荷台はどれなんだ?」

「はい。こちらに」

 

 手を差し出されて見えたのは3台半の大荷物。ガーグァ1匹にこれは流石に持ち過ぎだと雅は少し呆れそうになった。ガーグァが息を切らしているのもよく分かる。

 

「ある程度はこっちに移すぞ?」

「はい。おたのもうします」

 

 荷物を荷台に乗せながら、雅はその人に尋ねる。

 

「貴方は村長と古い友人だそうだが、何故ユクモ村に居ないんだ?」

「村におっても中々手に入らへんものを仕入れるのも商人の役目。ウチはそないな商品を入荷してるんどす」

 

 ゆったりと眠くなるような喋り方。確かに村長の友人というのも頷ける。目が細い所も、艶やかな口紅も、艶やかな髪色も、こんな美人に見惚れない男性はいないだろう。しかし、雅は違和感を感じていた。言葉を交わせば交わすほど、人とは違う何かに相対している感覚に苛まれる。そこにいる気配がモンスターのソレに近い。人間では無い何かがそこにいる。

 

(いや……違う……!)

「──────!!」

 

 雅とその人が振り返るとそこには迅竜ナルガクルガが迫っていた。ガーグァの匂いを辿りこちらに気づいたらしい。

 

「クソッやっぱりか!」

「あ〜らら、見つかってもうたわ」

 

 隣を見ても私服のハンターと武器無しのオトモアイルーが2匹。一方こちらも軽装備の雅とテルとコル。村付近での依頼だったので重装備まではしてこなかった。素早いナルガクルガはすぐ目の前。そしてガーグァに視線を合わせたナルガクルガはその刃翼を構えて飛びかかった。迎撃体勢が取れなかった雅はとにかく持ってきた片手剣を握る。

 

「くっ、テル! コル! 今すぐ客人を……」

「鈴、ウチのエモノ頂戴な」

「ハイですニャ」

 

 その人のオトモアイルーが操虫棍を手渡すと標的にされているガーグァの目の前に立ち、操虫棍を構える。

 

「馬鹿な真似はよせ! 生身で戦えるほどの相手じゃない!」

「ええさかい。黙って見とって」

 

 ナルガクルガの刃翼の一撃をその人は操虫棍を背面で回して受け流す様にいなした。その咄嗟のテクニックに雅は驚愕する。まともな装備を着ていない人間がモンスターの攻撃を受けられるわけが無い。ましてや操虫棍で直接攻撃を受け流すなど聞いたことがなかった。

 

「な!?」

 

 耳障りな金属音が鳴り響くと、受け流されたナルガクルガはすぐさま体勢を立て直し威嚇し出す。赤い残光の目の前にはただ一人、着物姿の人間のみ。猟虫も携えずに操虫棍だけで立ち向かおうとしている。すでにナルガクルガの尾の棘は開いている。眼光も赤く靡いている。こちらが何をしようがその標的を仕留めるまでは止まらない。しかし、その人は余裕そうに笑みを浮かべて立っている。

 

「えらい盛ってるなぁ。お腹すいてるんかいな? それと……もっ!」

 

 飛びかかりの斬撃をまた受け流す。

 

「発情期にでもなってるんかいな?」

 

 一撃、また一撃と、軽々しく受け流す。それはまるで妖艶な舞いの様。地面を滑る様にすり足で立ち回り、疲れを促すかのように戦っている。

 

「あんまりウチも長引くのんは嫌なんやんな。出来たら帰って欲しいんやけど……なっ!」

 

 しなる尻尾に一撃お見舞いすると、ナルガクルガの怒りは頂点に達した。

 

「────ー!!!!!」

「やっぱり腹減ってるんやな。ほんまに。そら難儀な事で」

 

 ナルガクルガは高く飛び上がるとその鋭い尻尾を上へ掲げた。

 

「叩きつけか! 逃げろ! 客人!」

「────!!!」

 

 大地を揺るがすナルガクルガの叩きつけはとてつもない威力と共に地面を砕いた。爆風とも思えるような砂埃からその人の影はもう見えなかった。そう、【人の影】は見えなかった。

 

「あ〜ぁ、思わず使うてもうたで。引っ込めたまま戦うつもりやったんやけど。相手が相手か。そうもいかへんわな」

 

 土煙が晴れると、そこに居たのは叩き潰された人ではなく、ナルガクルガの叩きつけを尻尾で受け止めるとある【何か】だった。

 頭部に揺れる狐の耳のようなヒレ。

 人の形を辞めた鉤爪。

 腰から出ている尻尾はまさに泡狐竜のソレ。

 それはまるで、泡狐竜が人の姿を成したような。

 その人は操虫棍を構えると眼の色を変える。

 

「さぁて? どないな風に殺されたい?」

「──ー!!!!」

 

 ナルガクルガは再び臨戦態勢。サイドステップを繰り返しながら、的を絞らせないように動く。遂にその人を標的と見定めたようだ。

 

「──!!」

 

 そして、急速旋回からの刃翼の一撃。その人は受け流すのは当然の事、だがナルガクルガはそのまま受け流される。そしてまたサイドステップなどを繰り返し、連続攻撃。ナルガクルガ特有の流れるような連撃に客人は防戦一方となる。

 

「あぁ、そないな?」

 

 その人は何かを察したように笑うと、泡狐竜の尾を地面に擦り付ける。その地面には泡狐竜の泡が撒かれている。ナルガクルガはその事を知る由もない。止めどなく連撃を加えていたナルガクルガはいつの間にか泡まみれになっていた。しかしそんなことも関係なしにナルガクルガは突っ込んでくる。その人はふっ、と笑うと武器を収めた。

 

「はいはい。当たらへんで」

「──ー!?!?!???」

 

 微動だにすることなく。ナルガクルガはその人の真横を通り過ぎて行った。その勢いを殺す事は出来ずナルガクルガは正面の岩山に頭から激突。巨大なクレーターを作り、ナルガクルガは悲鳴を上げてその場に倒れた。どうやら、滑りやすくなった自分の足のせいでスピードの制御が効かなくなり、突進を止められなかったようだ。

 

「ん、お〜わり」

「…………そんな」

 

 客人は「あ」、と何かを思い出したかのように雅に振り返るとすぐさま、鉤爪や尻尾を隠す様に慌てふためく。

 

「え、あ、こらちゃうんやわぁ!? そのなんちゅうかその……えと……」

「貴方も私と同じなのか……?」

「え……?」

「それは人の力じゃないな。貴方も【取り憑かれてる】のか?」

「んぇ? あんさんもウチと同じなん?」

「あぁ」

 

 雅は紋章を光らせると、雷狼竜の尻尾を出現させた。それを見た客人は安心したように深く息を吐いた。

 

「なんや、驚かせんといてや。慌てて損したわぁ……え? えええぇぇぇぇ!!!???」

 

 …………

 

「おほほほ。そういえば伝え忘れていましたね。雅さんも蜜鳴さんと同じらしいんですよ」

「せやったらそうと手紙に書いてほしかったわぁ。ウチとおんなじ人見つけたら報告して〜って前から言うとったやん」

「そういえばそうでしたね」

 

 ナルガクルガを退治した後、雅と村長の友人『蜜鳴』は、ユクモ村へ辿り着いていた。村長へ挨拶ついでにお互いの事を紹介していた。

 

「という訳で、雅さん。こちらユクモ村の商人兼ハンターの蜜鳴さんです」

「蜜鳴と申します。どうかよろしゅう」

「あ、あぁ、よろしく」

 

 ゆったりとしたお辞儀をされ、その丁寧さになんだがむず痒い感覚になる。

 

「しばらくは村に居られるのですか?」

「そうやな。村長に言われた物も揃えてきたし、暫くはここにおんで」

「二人のハンターがこの村に、頼もしい事です」

 

 村長はにこやかに笑っているが、雅は疑心暗鬼の顔で蜜鳴に視線を送ると、蜜鳴は笑顔で返してくれる。その綺麗な笑顔に息を飲みそうになった雅はそれに気づかれないことを祈った。

 

「これからはお二人に依頼を任せられそうでよかったです」

 

 うふ、とユクモ村の村長は微笑んだ。

 

 …………

 

「そっちに行ったわぁ!」

「任せろ!」

 

 蜜鳴の声とともに雅の前に立ちはだかるアオアシラ。前脚の鉤爪の一撃を雅はチャージアックスの盾で受け止める。

 

「はぁっ!」

 

 弾き返すと、すぐさま剣と盾を変形させて剣斧構える。すでにチャージ済みのビンを解放して、高出力解放切りを喰らわせる。

 

「──!!」

 

 見事に炸裂した衝撃波でアオアシラの前脚の甲殻が砕け散り、大きく仰け反った。蜜鳴が後隙を逃さない。つがえた弓の矢を引き、狙いを定めていた。

 

「もろうた!」

 

 放たれた剛射の一撃はアオアシラの頭を貫通しその場で絶命した。

 それを見るなり、雅は一息つき武器を収める。

 

「ナイスやナイス! ほんまに使いたての武器なん? 全然そないには見えへんけど?」

「いやまぁ、訓練所で何度か試してはいたんだがな。こんなにも扱いやすいとは。それもこれも、蜜鳴さんのおかげだな」

「蜜鳴さんなんてそないなぁ。呼び捨てでええのに」

「出会いたてでそうはいかないだろう」

 

 律儀やなぁ。そう言いながら蜜鳴は弓をしまう。

 

「ほな、クエストも終わったしキャンプに戻ろか」

 

 素材を持ちながらベースキャンプへの帰り道。雅は不思議な気持ちに苛まれる。何故だかいつもより足取りが軽い。心が軽い。誰かと狩りをするのは初めてだった雅はなんとも言えない感覚になっていた。

 

「なんや? その顔は。誰かと狩りをするのんは初めてやったりする?」

「あぁ、いつもはこの子達とばかりだったからな」

 

 そういいながら、雅はテルを撫でる。

 

「ニャ! ボクは姉御とずっと一緒ニャ!」

「ありがとう。テル」

「こないな辺境の地やさかいな。誰か来る方珍しいわなあ」

「蜜鳴さんも……」

「蜜鳴」

 

 蜜鳴が言葉を遮ると、雅は少し照れくさそうに咳払いをする。

 

「…………蜜鳴もずっとこの村に?」

「そや。ずっとこの村におる。初めて来たのは10……3の頃やったかいなあ? 渓流で倒れてるのを村長に拾うてもろうてから」

「渓流で……?」

「そう。ウチもあちらこちらと転々としとったさかいな。行き場所無うなっとったんや」

「そうか……」

 

 行き場所がない。それは雅も同じだった。派遣されたとは言え、ハンターになる前までは雅にも居場所はなかった。それもこれも、この『紋章』のせいで。

 

「こんなん。別に欲しおして持ってる訳ちゃうねんけどなぁ」

 

 蜜鳴はそう言って雅の紋章を見る。

 

「これ、調べた事ある?」

「いや、文献で少し探した程度だが……」

「『竜の力をその身に宿し、竜の力を操るもの。それは狩人とも、人間とも、竜とも、交わらない存在になる。新たな種となるであろう。その名を紋章人』やって」

「そんな文献、見たことないぞ?」

「村の文献だけで探しとったからやろ? ウチのこの話は北の北のう〜んと北の村で聞いたさかい。それにこれだけ歩き回ってもウチとおんなじ人は見つけられへんかったんや」

「そうなのか?」

「うん。素性を話す訳にもいかへんさかいな。こんなん話しても信じてもらえるわけあらへんし、言い伝えがある村やら何個かあったんやけどなぁ」

「上手くいかないものだな」

「せやな〜」

 

 なんて言いながら、蜜鳴は雅の紋章をじっと見つめてくる。

 

「な、なんだ?」

「アンタのそれ。雷狼竜の紋章やん? 生まれつきの力なん?」

「これは生れつきだ。私の一族はジンオウガを最高神として扱っていた、変わった部族でな。しかし、その力を見に宿した忌み子として私は部族から嫌われていた」

「なんで? それやったら、普通は神の祝福〜やらになるんちゃうん?」

「いや、おこがましい。と言われてな。謙虚な一族なんだよ」

「ふ〜ん。そうか。生まれつきか」

「蜜鳴のソレはいつからなんだ?」

「ん〜? ウチ? ウチはいつからやろうな。昔親の狩りに勝手について行った時にタマミツネに襲われて、背中を怪我した時、背中治ると同時にこの紋章現れたんや。人と竜の血ぃ混じったきしょいやつ、なんてずっと言われとったで」

「なら貴方も……」

「うん。忌み嫌われとったで。ウチも。人外やなんや言われて色んな村を転々としとった。まぁ、それもこの力を制御出来へんかった頃の話やけどなぁ。そやけど、この村はそないな事関係なしにウチを迎えてくれた。そやさかいそれが単純に嬉しかった。アンタもおんなじやん? 行く宛て無おしてここに派遣されたって聞いたんやけど?」

「たしかにな。その通りだ。この紋章のせいで居場所も家族も失った。私の家族にはこんな力などなかったのに。しかしここはそんな事も関係なしに迎えられた」

「なぁんだ、そこまで一緒やねん。えらい気ぃ合うなウチら。やっぱしこの出会いも運命的ななんかやったりね」

 

 のほほんと笑う蜜鳴に対して、雅は呑気だな、と頬に汗を垂らす。蜜鳴が村に帰ってきて一週間。ほぼ毎日一緒に狩りに出ていた二人は自然と距離が縮まっていた。二人はあまり自覚していないようだが、アイルー達は二人を見るなりニヤニヤ笑っている。

 

「なんだテル。何笑ってる」

「なんでもないニャ。ねー、鈴さん?」

「そうですにゃぁ。テルはん」

「ふふっ、賑やかなんはええ事やな。ウチは嬉しいよ。雅はん」

 

 ふわりと、微笑む蜜鳴を見ると雅はそのあまりにも綺麗な笑顔に顔を赤くしてそのまま見られまいと逸らしてしまった。

 

「雅はん?」

「い、いや、なんでもない」

 

 異性でもないのにこんなに意識することがあるんだろうか。雅は心で考える。綺麗な容姿だということはわかっていたが、至近距離で見ると明らかにラインを超えている絶世の美女だった。そんな事を考えて顔を赤くしている雅を見る鈴は首を傾げ頬に汗を垂らした。

 

(雅さん……もしかしてと思うたけど、やっぱり『勘違い』してるかもしれませんにゃぁ……)

 

 雅の『勘違い』が解けて欲しいと願うばかりだった。

 

 …………

 

「ふふっ……また明日……か」

「今日もいっぱい狩りをしたにゃ。姉御。お腹ぺこぺこニャ〜……」

「今日もありがとう。テル。明日はコルに頼むかな」

「了解にゃ!」

 

 ビシッ、と敬礼ポーズのテルを見てつい微笑んでしまう。

 

「……?」

 

 村に帰ってくるなり、明日降ると思っていた雨が降り出した。これでは明日の狩りも心配になる。渓流の環境保護を含めての狩りが続いているので、休みも中々取りづらい。

 

「やっぱり降ってきたにゃ〜」

「仕方ない。通り雨だと祈ろう」

「にゃ!」

 

 そう言って、雅達は自宅へ戻った。

 食後のお風呂の後。私はテルとコルの毛ずくろいをしていた。まだ雨降っている。雷まで鳴り出した。不安な夜になりそうだ。

 

「にゃ……姉御ため息吐いたにゃ……何かしたかにゃ?」

「あぁいや、なんでもない。さ、もう寝よう。明日もあるぞ」

「はいにゃ」

 

 そう言って布団に潜り込む。

 雨は嫌いだ。

 色んなものを思い出す。

 あの日の事も思い出す。

 蜜鳴に隠してしまった秘密を思い出す。

 一族の中で生まれた私は、手の甲に紋章があった。ジンオウガの紋章が。それは当然見つかるなり、私は特別な人だと崇められた。私はそれが嫌だった。皆私に頭を下げ、崇めるように私を見る。それが嫌で仕方なかった。家族にもその信仰は見られた。私の家族を神として扱うものや、家族にゴマすりをするような人間もいた。だから早く家族と共に一族を抜け出したかった。そして、私がハンターとしてひとり立ちできるようになったら家族全員でドンドルマへ引っ越すことに決めた。それは一族の誰にも伝えてはいなかった。そのはずだった。

 ハンター試験に遂に合格出来た私は家族の元へ走り出していた。嬉しい気持ちとやっとこれで一族村の人間から開放されると心が踊っていた。そして、その日は生憎の雨だった。

 

『父さん! 母さん! 私合格したよ! これで───』

 

 家に着いた時にはもう遅かった。

 何を思ったのか、一族村の人間は、私の父と母を貪り尽くしていた。狂ったようにしきりに父の体を食いちぎり、母は首を跳ねられ、体を啜られていた。はねた首も男どもに使われていた。皆何かを呟いていた。

 

【神の子の肉……】

【これを食べればワシらも……】

【女の肉……】

【神の肉……】

【私達も神と同じになれる……】

 

 そこに居たのはただのモンスターだった。死体を食い漁るモンスター。どうやら、力を欲していた一族の誰かが私に嫉妬し、ありもしない噂をばら蒔いていたらしい。それのせいで、私は神から使われた子と言われ、それを産んだ私の母や父の肉を食えば、私と同じになれると思っていたらしい。ただその時はもう何もかもがどうでもよかった。父と母を殺された事で頭がいっぱいだった。

 その時初めて、私は紋章の力を使った。私はその日、村の人間を全員皆殺しにした。紋章の力で雷を起こして、村を火の海にした。どうやら村の人間全員私と私の家族を殺すつもりだったらしい。殺してる最中に抵抗してきた人間が教えてくれた。

 

【父さん……母さん……】

 

 雨が降っていた。その水面に映る誰かは、血まみれで人の姿をしていない。角が生え、鉤爪は痛々しく、体に雷電が走っている。それはまるでモンスターだった。

 お前はもう普通に生きられないんだ。人を殺して、誰かを失って、呪いに取り憑かれて、もう二度と普通の人とは交われない。

 もう二度と……。

 私は───

 

「雅はん……! 雅はんっ!!」

「っ!?」

 

 雅は目が覚めた。叩き起されたように目を開けて、定まらない焦点が蜜鳴を映し出していた。いつの間にか体が大量の冷や汗をかいていた。

 

「蜜……鳴?」

「あぁ、よかった! 魘されてるってアンタはんのオトモから呼ばれて来たんやけど、ほんまにいけるん? 凄い苦しそうやったけど……」

 

 雅はゆっくり体を起こす。目に入ってきたのは心配そうな蜜鳴とテル達だった。

 嗚呼……『また』か。雅はため息を吐く。最近思い出していなかったから忘れていた。自分がどういう存在なのかを。そして、どういうふうに生まれたのかも。あの雨の日に人としての雅は死んだ。そして生まれ変わった別人としての自分が。その自覚を忘れていた。蜜鳴と共に過ごして幸せを感じていたから。

 

「……っ大丈夫だ。今は1人にしてくれ」

「嘘。1人になりたいのは分かるけど、その顔は嘘をついてんで」

 

 蜜鳴は察しの良い人間だった。震える手を握ってくれていたのが今見えた。ぐしゃぐしゃになった髪を撫でてくれているのも今わかった。テルとコルには話した事が無かった事。ずっと独りで隠し通していこうとした雅の秘密。握った手の感覚と温度が自然と涙を誘い出した。こんな事をされた事がなかったから、暖かくて、優しくて、今の雅は情けなく泣くしか無かった。

 

「っ……ふっ……ぐっ……うぅっ……」

「ほらもう。1人で抱え込み過ぎなんやわぁ。アンタは」

 

 …………

 

「落ち着いた?」

「ぐすっ…………うん」

 

 一頻り泣いた後、雅は目を赤くさせて頷いた。泣いてる間、蜜鳴はずっと手を握ってくれていた。ずっと「大丈夫」と撫でてくれた。

 

「情けないな。私は……」

「何言うてんねん。お互いさまやわ。ウチも1人で泣く事ぐらいあんで。誰にも相談出来ひんことってぎょうさんあるさかい」

 

 また抱き寄せてよしよしと撫でてくる。雅はなんだか子供扱いされているようで少し恥ずかしくなってきた。が、そんな蜜鳴に抵抗すること無くそれを受け入れいている。しおらしくなった雅を蜜鳴は可愛がる。

 

「なんか、しおらしいと可愛いなぁ。アンタはんも」

「可愛いって……私にはそんな言葉は似合わないだろう」

「ん〜ん。そないな事あらへんよ? ほら、アソコでテルはんも見てるし」

「ニャ!?」

「なっ、テル! 今は入ってくるなと言ったろう!」

「ニャニャニャ!? ゴメンにゃ姉御! ホットミルク持ってきたから部屋に入ろうとしただけニャ!」

「あっははは。やっぱしおもろいなぁ。アンタはんら」

 

 ホットミルクは受け取って、テルとコルはしばらく蜜鳴の自宅へ向かうように伝えた。しかし、雅ももう落ち着いていた。ホットミルクのカップが空になった頃に蜜鳴は、ほな、と帰ろうと立ち上がる。すると、雅は帰ろうとした蜜鳴の手を掴む。

 

「雅はん?」

「も、もう少し居てくれないか? 思い出してしまった夜はどうしても眠れないんだ。わがままを言っているのは分かっている。だけど、1人になりたくないんだ。誰かそばにいて欲しいんだ……」

 

 すがるように蜜鳴の手を握る。蜜鳴はふっ、と微笑むと雅の手を握り返す。

 

「ええよ。寂しい思いはしたないもんね」

 

 そう言って、蜜鳴は雅を押し倒し、蜜鳴は雅に覆い被さる。

 

「蜜鳴……」

「なんとのう分かっとったんちゃうん? こないな雰囲気かてさ」

「そんな……やましい気持ちはない……多分」

「ほんまに?」

「ほんとだ……」

「その割には抵抗しいひんのやな?」

 

 髪を撫でる。雅の髪は綺麗な翠色。蝋燭の炎で余計に艶があるように見える。蜜鳴も少し余裕が無くなってきた。目の前の女の色気に誘われてその気になってしまったから。

 

「ウチのしたい事してもええ?」

「ん……」

 

 ゆっくり唇を塞ぐと、雅は小さく体を弾ませた。

 

「かんにんえ。アンタにやましい気持ちはなかったかもしれへんけど、ウチは結構持っとったかもしれへん」

 

 頬を撫でるとその手に重ねて来る。

 

「私も……嫌じゃない。蜜鳴なら受け入れられると……思う」

「そんなん、今は反則やわ。雅はん」

「ん……」

 

 手が重なる。温度も重なる。連なる体が暖かい。少し口を開ければ入ってくる舌は初めての感覚でふわふわと体が浮かんでしまいそうだった。なのに、瞳は垂れ下がって重くなる。眠くて眠くない不思議な温度。口の中を舐られる度にぎゅう、と手に力が入る。強ばってしまう。雅も蜜鳴もお互いに初めての事だからなのだろうか。

 

「痛ない?」

「いや、痛くない…………から……」

 

 もっと、とはなんとも言い難い。自分から求めた瞬間、戻れなくなる気がする。そう雅の本能が告げていた。

 

「ん? もっとしたいならちゃんと言わへんと分からへんよ?」

「っ……わかってて言ってるじゃないか。蜜鳴だって」

「ほんまに可愛いなぁ。雅はんは」

 

 再びキスで塞がれる。舌を絡めるのも抵抗がなくなってきた。むしろされればされる程欲しくなる。不思議な感覚で、雅と蜜鳴は息をするのも忘れていた。

 

「ぁ……」

 

 首筋に唇を落とすと、雅が小さく息を漏らす。反応を見るに痛いとか嫌だでは無いのを確認してから、蜜鳴は雅の体を舐める。首筋から胸へ、胸から下腹部へ、ゆっくりと降りていく。

 

「濡れてるなぁ」

「やめ……て、言わないで……」

 

 らしくない声になってきた雅のその顔に蜜鳴は背徳感に似た何かを覚える。背筋に走る寒気のような感覚に思わず舌なめずりで雅を見下ろす。目の前の女が自分の誘っているそれはもう明らかな事だった。

 

「ウチももう我慢できひんさかい、最後までシてもええ?」

 

 そう言って蜜鳴は裸になる。綺麗な体に美しい筋肉。穢れを知らないその表面には女性らしく儚さを覚えさせる。そしてその雄々しくも猛々しい股に付いた一本の…………

 

「っ!?!?」

 

 雅は勢いよく上半身を起こした。ここで遂に鈴が言っていた勘違いが現実となる。

 

「な、み、蜜鳴……お前……」

「あれ? 言うてへんかった? うちは男やわ」

「おおお、男!? だ、だってお前ずっと……」

「いつの時代も、狩場に来るタマミツネは雄。そやさかい家に紋章宿ったんやろうな」

 

 と言いながら、確かに蜜鳴は自分を女だと言ったことをないのを思い出した。勝手に自分が勘違いしていた事を自覚すると恥ずかしさのあまり縮こまってしまう。

 

「ご、ごめん……なんか勘違いしてた……」

「ん〜ん。ええよ。ウチは……でぇもぉ……」

 

 そんな雅を無視するように蜜鳴は雅の足を開く。

 

「っ……!」

「これ放ったらかしにされるのんは、困ってまうわな?」

「は、入る……のか? それ、そんな大きい……もの……」

「入んで入る。雅はんのも充分濡れてるさかいな」

 

 入口に当てられただけで、息があからさまに激しくなる。

 

「っぅ……!」

 

 ゆっくりと、押し込まれる肉のソレは雅の膣を掻き分けけて進んでいく。ミチミチと何かがちぎれるような感覚。その感覚が怖くて雅は赤面のまま目を閉じることしか出来ない。

 

「あっは、雅はん。その顔結構そそるさかいやめて欲しいんやけど?」

「そんな事っ……言ったって……はじめてで……っ……!」

「ウチも初めてって言うてるやん。ほら、奥に着いたわ」

「こ、これ……入ってる……のか? 全部?」

「うん。全部」

 

 どんな感じ? と聞かれても体に入ってるものを感じ取るので精一杯であまり感覚が分からない。蜜鳴を見れば意外と余裕のない顔をしている。

 

「蜜鳴……お前も、そんな顔するんだな」

「そらっ……こないな事しとったらそうなんで」

「ふふっ……なんか可愛いな」

 

 雅の蕩けた笑顔を見た途端、ブツン、と蜜鳴の中で何かが切れた。

 

「ッッ!!」

「うぁっ!!??」

 

 キレた蜜鳴は加減などせず大きく腰を前に突き出した。雅は突然の事に驚き膣が締まる。蜜鳴は妖しく笑うと、余計に腰を振りだした。

 

「なっ……なん、だ……! 急にそんな……っ、動かさ……ないでぇ……!」

「そないに煽る方悪いやん! 今ので我慢しろは無理やさかい!」

「あぅっ……! あっ、ま、待って、感覚が、凄すぎて……っ、追いつか……ないぃ……!!」

 

 肉と肉がぶつかる音。こじ開けられた雅の足は蜜鳴にしっかり掴まれて閉じることができない。強くねじ込まれる程に雅の膣は強く締まる。

 

「っは、かなんかなん言うてもこれなん? ホンマにやらしい人やわぁ!」

「ち、ちがっ……こんな……っ、わたし……はぁ……っ!」

 

 胸を抓られ、足を開かれ、膣を犯され、その感覚でいっぱいいっぱいで、雅は何も考えられない。

 

「ちょい、かんにんえ。もうウチの方がもたへんかも……っ」

「うぁっ!?」

 

 蜜鳴が雅の奥の方を押し上げる。余りの快感に雅の体は反り返った。それと同時に蜜鳴の腰も早くなる。

 

「雅はっ……もう……で、るっ……!」

「っ……ま、イ、クッ……っっ〜〜〜〜〜〜!!」

 

 蜜鳴と雅は同時に果てる。奥に押し込まれる蜜鳴のソレは雅の中を満たして頭が弾けるような感覚に陥る。蜜鳴も射精した快感から戻って来れない。また飛びそうになる理性を歯を食いしばって抑えている。

 

「っ……はぁ……はぁ……み、つね……」

「っかんにんえ、ウチの方が持たんかったわ……」

 

 …………

 

 色々すっ飛ばして、カップルが行き着く先であろう事を済ませてしまった二人はとりあえずもう一風呂入って、ベッドに入ることにした。

 雅は全く気が気では無いのだが、蜜鳴は満足そうに雅の髪を弄っている。

 

「なぁ。蜜鳴」

「ん〜?」

「お前は、私でよかったのか?」

「ん? 何の話?」

「だっ……から……こういう事をする相手が私でよかったのかと聞いているんだっ」

 

 赤面で震えながら、雅は言う。蜜鳴はそれに堪らず吹き出した。

 

「……ぷっ、あっははは! 何? 雷狼竜はんはウチで満足出来へんかったん? えらいヤらしい人やな。あないに、あんあん喘いどったのに、まだシたりひんなんてとんだおませさんやなぁ」

「なっ……!! ちがう! そういうのではなくてだな……」

「ええわ。ええわ。っくく……ウチの言い方悪かったなぁ。ウチは良かった思てんで。雅はんとひとつになれて」

「っ……お前そういう事を……」

「気持ちよかったし、嬉しかった。似た境遇の相手に出会えるってこないに心地ええ事なんやなぁって分かったさかい。互いの傷をねぶり合うのも大人の特権やさかいね。それにこないな美人に慰めてもらえるなんてウチは幸せ者やわぁ」

「お前……ほんとに男なんだよな……?」

「ん〜? ウチは男やけど?」

「美人なんて。言われ慣れない。私はそういう人間だ」

「そないな人間……か。ウチもそないな『人間』でありたかったな」

「蜜鳴は立派な人間だろう」

 

 言われた蜜鳴はぱちくりと目を開く。

 

「……え?」

「綺麗で、強くて、皆からの信頼もある。それはもう充分に人としての証を残しているだろう。それに、そんな蜜鳴を否定する者がいたとしても私は蜜鳴を肯定する。人じゃないと言われても、私は蜜鳴を人として見る。それだけは約束しよう」

「……な、なんか。そないな真っ直ぐ言われるとこっちまで恥ずかしなってくんで」

「さっきのお返しだ」

「っ……」

「なんだ蜜鳴。顔を逸らすんじゃない」

「ウチの顔見んといてや。今アンタに見せられへん顔してんやさかい」

「なんだ、可愛い所があるじゃないか」

「ちょ、調子狂うさかいやめてくれへんかなぁ? さっきまでウチ優勢やったのに……」

「綺麗だよ。蜜鳴」

「そんなん……アンタの方綺麗に決まってるやん」

「ん? なんだ? なんて言ったんだ?」

「あーもーやかましいっ! 黙って寝よう! 明日も一緒にクエストに行くんやさかい、はい寝る!」

 

 この世界にいる。【紋章人】。

 それは、竜の力をその身に宿す不思議な人種。

 これはそんな二人が出会った物語。




前書きをよく読んでから、作品をご覧になってください。(今更)
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