※この作品はR-18です。

ぼくのミューズ   作:ふみどり

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きらきら星

ピアノの音で目が覚めた。

音楽に詳しくない私でも、この音はわかる。あの人が奏でる、ピアノの音だ。

ベッドの中でもぞりと寝がえりを打ち、ピアノの方に顔を向けた。やはりピアノを奏でていた彼は、いくらかフレーズを弾いては楽譜に書き込むのを繰り返している。

「……ああごめん、起こしたかい?」

「いえ……」

ピアノの音で起こされるのは嫌な気分じゃない。むしろ、彼が奏でる素敵な音で目が覚めるのは心地よかった。響輔さんはピアノの前に座ったまま、優しいまなざしをこちらに向けてくれる。

「響輔さんの、ピアノ……すきですから」

そう言うと彼は少し照れた顔をして嬉しいことを言ってくれるね、と微笑んだ。

お世辞でなく本心だった。音の違いはわからないけど、彼の奏でる音は心地いい。音楽に触れている時の彼の背中を見るのも好きだった。

「君といると、音楽が次から次へと溢れてきてね。……不思議なくらいだ」

「不思議、ですか……?」

「作曲家としてはとっても助かることなんだけどね」

でもどの音も幸せすぎて、気に入りすぎて、他に聴かせたくない。そうおどける彼にシーツにくるまったままふふ、と小さく笑う。

「よし、起こしてしまったお詫びに一曲弾こうか。そういえば柚希の好みは聞いたことなかったな、好きな曲とかあるかい?」

彼の生演奏を聴けるうえに、リクエストまで許されるなんて。何て贅沢なことだろうと思いつつ、好きな曲と聞いてぱっと思いついたものを口に出す。

「……きらきら星」

「……へえ」

「こ、子どもっぽいですが、……好き、なんです……」

「子どもっぽいだなんて。モーツァルトの名曲だよ、それじゃ軽く」

響輔さんの両手が鍵盤を踊る。音の粒がちらちらと降りそそぐ。軽やかで、可愛らしくて、あたたかくて、やさしい。音の粒はきらきらと輝き、本当に星のようだ。

輝いていた星々の音の雨が止むと、自然と拍手が零れ落ちる。響輔さんは改めて顔をこちらに向け、ちょっと意地悪そうに口元をゆがめた。

「ところで、知ってるかい? 柚希」

「え……?」

きらきら星って、もともとは可愛い恋の歌なんだよ。

そう楽しそうに言う響輔さんに一瞬きょとんとして、すぐにかっと頬が熱くなった。

「恋人に恋の歌をねだられるって、なかなかいいね」

響輔さんはそっと立ち上がり、ベッド脇に腰かける。真っ赤なままの私の頭をやさしくなでた。

「柚希の好きな曲ならもっと練習しようかな」

「ほ、んとに、もう……からかうの、やめてください……!」

「柚希が可愛いから、だめ」

愛し気なまなざしに堪え切れなくなって、私は頭からシーツをかぶる。くつくつと笑う彼の声に、ますます恥ずかしさがこみ上げた。

このとき、私はまだ知らなかった。

彼がピアノの演奏をリクエストされるたびに、決まってこの曲を選ぶことを。その理由を尋ねられると、笑顔で「妻が好きな曲だから」と惚気るようになるということを。

そんな幸せな未来が自分のもと訪れることを、まだ。

 




お付き合いありがとうございました。
始めて本にした物語なので、とても思い入れがあります。
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