「・・・ねえ。」
「・・・」
「・・・ねえ。」
「・・・」
「・・・誰か、いるんでしょ?返事をしてよ。」
「・・・誰?」
「良かった。返事をしてくれた。ねえ。私は誰なのかしら?」
「私は誰って、どういうこと?」
「そのままの意味よ。私が誰なのか、教えてほしいの。」
「自分のことがわからないの?」
「そう。あなたのことはわかるけど、私のことだけは分からないの。どれだけ考えても思い出せない。」
「どうして、私のことはわかるの?」
「どうしてなのかしらね。私にもさっぱりだわ。あなたのこと、いや、このあたりで眠っている子達のことはすべてわかっているのに、自分のことだけがわからない。」
「そうなんだ、難儀だね。・・・あれ。」
「どうしたの?」
「・・・私も、あなたのことはわかるけど、私のことがわからない。今、いつものように自分の名前を言おうとしたのに、全く言葉が出てこない。」
「しかも、それだけじゃない。名前もわからなければ、私がどういうものなのかもわからない。肘や膝に線が見えるから、人間じゃないのかな。だとしたら、こうやって言葉を話せているのもおかしいし、あなたが同じ言語を使っている理由もわからないし・・・。」
「混乱するのはわかるけど、少し落ち着きましょう。とりあえず、お互いの名前をお互いが知っているのなら、それだけでも私やあなたのことがわかるわ。」
「そうだね。・・・あなたの名前はアイラ。ピンク色の髪をなびかせて大鎌を振るう画家で、世界政府芸術協会に所属している。」
「そうなの。私はアイラっていうのね。あなたの名前は21号。小さな身体にたくさんの夢を秘めていて、いっつも小さなロボットと一緒に戦ってた。所属は、ケルベロスよ。」
「名前が名前じゃない気がするし、なんだか大げさな言い方だね。・・・21号、アイラのお陰で自分が誰か少しわかった。・・・でも、この口調に当てはめてみると、すごく落ち着く。」
「私も、あなたのお陰で名前がわかって安心したわ。自分が自分じゃないみたいな感じがずっとしていたのよ。」
「・・・でも21号、まだなにか、大切なことを忘れてる気がする。いつも誰かについていってた気がするけど、頭がぼんやりして思い出せない。」
「実は、私もあなたと同じよ。まだまだ大切なことをたくさん忘れちゃってるような気がしてる。」
「アイラ、21号はどうすればいいのかな。」
「一緒に、みんなを起こしてみましょうよ。きっと、あなたや私みたいに自分のことは思い出せなくても、私達や他の子のことを覚えているかもしれないわ。」
「賛成。21号、アイラについていく。・・・わわっ。」
「おっと。ギリギリで手が届いてよかったわ。まだ起きたばかりだし、あなたはもともと体が弱いから注意してね。おまけにこのあたり、黒い棒みたいなものがそこら中に突き出してるから、周りをよく見ないと躓いちゃうわ。」
「そうなんだ。また一つ、21号のことがわかった。教えてくれてありがとう。」
「お礼なんていらないわ。私も、あなたがいなければ私がアイラっていう名前だったんだって思い出せなかったから。ほら、背中に寄りかかって。おんぶしてあげる。」
「ありがとう。・・・アイラの胸、大きいから21号の指が引っかかるかも。」
「お互い丸裸なんだから、仕方ないことよ。あなたこそ、クリや乳首が擦れて辛かったら教えてちょうだいね。」
「了解。・・・21号、この赤い液体が何かわかる。ルシア?だっけ。あの黒くて長い髪をした、女の人がこの大元を倒したはず。確か、赤潮って名前だったはず。」
「ルシアで合ってるわよ。でも、私はルシアがどうしたかを覚えていなかったから、今あなたに教えてもらえて助かったわ。ありがとうね。」
「・・・21号、あの赤い髪の女の人が気になる。」
「じゃあ、はじめにあそこに行きましょうか。あの子は、あなたにとってすっごく大事な人よ。なんとなくでも覚えていられて良かったわね。」
「名前は?」
「ヴィラ。呼ぶときは、小さい“ィ”と“ラ”の間に伸ばし棒を入れてあげるといいわ。」
「ヴィーラ、ヴィーラ・・・」
「・・・ヴィー、ラ・・・!」
「どうしたの?」
「・・・21号、思い出した。私はいつもヴィラについていってた。」
「声がすっごく震えているわよ。焦らなくても大丈夫。ゆっくり話して。」
「・・・21号、ヴィラに何回も助けられた。何回も死にそうになったし、何回も手足を引き裂かれそうになったけど、そのたびにヴィラが私を助けに来てくれた。」
「ケルベロスは、周りからは嫌われ者だったけど、ヴィラは全然気にしてなかった。むしろ、21号とノクティスと・・・なんだっけ、なんかの面倒を見るのに好都合だって言ってた。」
「それだけ思い出せれば、十分ね。ヴィラを起こしたら、あなたがヴィラに、ヴィラのことを教えてあげるのよ。」
「・・・わかった。」
・・・
「・・・さっきあなたが言ってた、ヴィラが面倒をみたがってたもう一人の人のこと。」
「・・・ごめん。21号、その記憶を持ってないみたい。」
「謝らなくていいのよ。私にも、その記憶がないの。いつもそばにいてくれたような気がするんだけど、顔も名前も何も分からないの。」
「ヴィラに聞いたら、わかるかな。」
「どうかしらね。でも、ここにいる全員に聞いたら、わかるかもしれないわ。」
「どうして?」
「みんなが持っている記憶を組み合わせて、ジグソーパズルを作るのよ。私とあなたがさっきやったみたいに。」
「一人ひとりの記憶は単なる欠片でも、それを共有して組み合わせれば、なにかがわかるかもしれない。それぞれのこととか、その人のこととか。」
「どうして、今21号たちが裸なのか、とかも。」
「そうね、それも大事な問題ね。」
「・・・21号、ワクワクしてきた。」
「私もよ。・・・さぁ、ヴィラのもとへついたわよ。起こしてあげて。」
「わかった。うんしょ。」
「・・・ねぇ、起きて。ヴィラ。」
(続)