ゲシュタルトがルシアたちを「代謝」してから数日がたった。
空中庭園に、彼女たちの姿はもうない。
残された彼女たちの装備は厳重なセキュリティがかけられている倉庫に格納されており、好きにそれを見られるのは私ぐらいだ。
ルシアとリーフの服がかけられているラックには、いつの間にか培養槽に消えたはずのあのペンダントも一緒にかけられている。
彼女たちそれぞれの装備がかかったラックには、それぞれが残した通信ログなども全てファイリングされている。
最終更新は、すべてゲシュタルトが彼女達をハッキングして送信した「代謝」に関する内容だった。
彼女たちがどんな処置を受け、どれだけの回数射精したのか、電子脳がどう変化したのかなどが詳細に記載されており、見るだけであの日のことがフラッシュバックして吐き気がする。
「大将、今日のご予定ですが・・・」
おもむろに、秘書が声をかけてきた。
こうした役割はもともとリーフの役目だったが、あの日以来人間の秘書がつくようになった。
下手に構造体を割り当ててしまうと、「代謝」されたあとが面倒だからだろう。
そもそも、今の空中庭園が慢性的な構造体不足に悩まされているという問題もある。
今のリーフは、ゲシュタルトの秘書としてうまくやっているのだろうか。
「・・・ということで、今日は基本的に丸一日スケジュールは自由となっております。」
「わかった。」
「何かやるべきことはありますか?」
秘書が私に尋ねる。
「いや、ない。君にはいつもお世話になっているから、今日は君も自由にしてくれ。給料はしっかり払うから。」
「承知しました。それでは、お言葉に甘えて私も休暇をいただきますね。」
秘書は恭しく一礼すると、私の部屋を去っていった。
秘書が去ったのを確認した私は、鍵のかかった引き出しから1枚のパスを取り出した。
これがあれば、あらゆるセキュリティがかかっているすべてのゲートを開けられる。
あの日以来、怖くて一度も使えていなかった。
しかし、いつかは彼女たちと向き合わなければならない日が来る。
私は、今日がその日だと理解した。
秘書は女性だ。“あの姿”をそう簡単に見せる訳にはいかない。
清掃担当の詰め所に清掃不要の連絡を入れたあと、私は自室を後にした。
廊下を歩いていると、部下に何度も挨拶をされた。
そのうち数名は戦術に関する相談をしたいと頼み込んできたが、明日以降にもう1度連絡するように伝えて回避した。
レベル3のセキュリティゲートをくぐり抜けると、流石に部下の姿はなくなった。
代わりに聞こえだしたのは、機械の動作音だった。
ゴオゴオと大きな音を立てる機械に向かい、ゆっくりと歩みを進めていく。
途中、幾度となくハイレベルのセキュリティゲートがあったが、このカードさえあれば問題ない。
ゲートが残り2つになると、機械音に混ざって別の音が聴こえてくるようになった。
金属がこすれる音をかき分けるようにして響き渡る、人か獣かの区別もつかない生命体の咆哮。
異重合生物の断末魔を思い出し、足がすくむ。
手足の震えを抑え込みつつ、最後のゲートのロックを解除する。
轟音とともに開きつつあるゲートの隙間を縫うようにして、私はついにあの領域に足を踏み入れた。
くすんだ金属と青白い光の中に、まるで人形のような白い構造体が埋め込まれている、あの領域に・・・。
「大将、久しぶり。」
場所は違ったが、あのときの培養槽の中に21号の姿があった。
隣には蒲牢もいたが、今は休眠中のようだ。
21号の様子を見るに、すべての記憶を失ったわけではないのだろうか。
「21号、現在ゲシュタルト様のザーメンタンクとして任務中。隣にいる蒲牢は、いまタンクの中身が空っぽだから、休憩中。」
そう言うと、21号はフリフリと腰を振り、大きく勃起しているペニスを見せつけた。
蒲牢は乳房とペニスに管のようなものが繋がれており、顔はチューブがつながったマスクで覆われている。
「見て、大将。21号、こんなにおおきなおちんちんを授かった。
おっきくて、びくびくってして、びゅーって白いザーメンをたくさん出せるの。」
その言葉とともにペニスをとくっと震わせて、培養槽の中に透明なカウパー液を排泄する。
「ね、すごいでしょ。おちんちんの先は真っ赤になってて、生き物みたい。
ゲシュタルト様に「再教育」されて良かった。
ゲシュタルト様が言うには、若い構造体の作るザーメンは元気で扱いやすいんだって。
何に使うのかはわからないけど、お役に立てているなら、それでいい。
頑張って袋にザーメンを貯めて、ゲシュタルト様に捧げる。これが、今の21号の使命。」
到底スラスラと話せる内容ではないはずだが、21号は誇らしげに言い放った。
ゲシュタルトは、一体彼女たちに何をしたのだろうか。
予想とはかけ離れた彼女の言動に、私は混乱を隠しきれなかった。
「・・・ちょうど今、ゲシュタルト様が射精しろって言った。」
培養槽の上からするすると透明なチューブがのび、21号のペニスを捕捉する。
「大将、21号、今から射精する。すっごく気持ちよくて、面白いから、見てって。」
21号が目を閉じた。
「ザーメンタンク、21号。射精プロセス実行。」
上のモニターの円グラフで、「発情」のエリアが急速に拡大していく。
ペニスがビクビクと震え、玉袋がどんどん小さくなっていく。
小さな乳房につんと立つ乳首が膨れあがり、外の世界へ伸びていく。
呼吸が荒くなり、舌が垂れる。
ペニスからはカウパー液が溢れ、チューブをどんどん汚していく。
「・・・21号、射精準備完了。これより射精します。」
途端、21号の機体がくの字に曲がり、射精が始まった。
「びゅー、びゅー、びゅー・・・」
まるで乳を搾られる乳牛の乳房のように、ゆっくりとペニスは脈動し、そのたびに大量の精液を送り込む。
21号は培養槽の壁に手を付き、足をガクガクと震わせて射精の快楽の虜になっている。
「あっ・・・あっ・・・しゃせー、すごい・・・。また、きおく、なくなっちゃうみたい・・・ふわふわしてる・・・」
静かに眠る蒲牢とは全く対照的な21号は、温度管理がされた培養槽の中で滅多にかかない汗をかいているようだった。
しばらくして、射精が終わった。
「はぁ、はぁ・・・大将、どう?今の21号の射精。ちゃんと、ゲシュタルト様にザーメン送れたかな?」
引き続き壁に手を付きながら、大将に問いかける。
「・・・あれ、おちんちん、小さくなっちゃった。
21号も、蒲牢と同じで空っぽになっちゃった。
大将、21号、もう休まなくちゃ。またね。」
そういうと、21号は直立姿勢になり、再び目を閉じた。
すると、細いチューブが21号の耳に入り、その直後にペニスと乳首が勢いよく勃起していった。
外尿道口が開ききったペニスと、乳口が開いた乳房に、これまた細いチューブが差し込まれる。
しっかりとチューブが挿入されたところで、耳に入っていたチューブは引き抜かれ、勃起もおさまっていった。
口元にやってきたマスクが21号の口元を覆った。
こうして、21号も休眠状態に入った。
・・・
「大将、もう行ったかな。」
赤潮をパシャパシャと蹴り上げながら、21号がつぶやいた。
「おかえりなさい、21号。大将、どうでした?」
こちらの世界に戻ってきた21号を、蒲牢が迎えた。
「なんだか、少しやつれてた。やっぱり、私達のことが気になってるのかな。」
「そうですか・・・。」
蒲牢は悲しそうにつぶやいた。
「21号、本当は大将ともっと話したかった。でも、これ以上言ったらゲシュタルトに怒られると思ったから、言えなかった。」
「あなたを責めるつもりはないですよ。下手なことを言ったら、また記憶を消されちゃいますからね。」
蒲牢と21号は同時に下を向いた。
赤黒い液体の中に、一筋の白い液体の流れが見える。
その流れは黒い棒にぶつかり、かき消えていった。
「・・・私達も、いつかはこうなっちゃうんですかね。」
「・・・信じるしかない。大将を、いや、人類を。」
(続)