ドアを開けると、そこは広めの廊下だった。
一見すると何も見えない廊下に大将が足を踏み入れると、センサーがそれを感知して照明が一気についた。
先程の「生命体保護室」と同じように、廊下とその中は厚いガラスで仕切られており、廊下からもその中からもお互いを認識できるほど距離は近い。
しかしながら、この研究室の中は、「生命体保護室」ほど生命の存在を感じにくい。
なぜなら、廊下に並んでいるのはたくさんの培養槽、それも出産の時を静かに待ち続ける構造体が入ったものばかりだからだ。
ゲシュタルトに「代謝」された女性構造体のほとんどは、ここに送られる。
ゲシュタルトによると、「人類の数を増やすことで地球再興が指数関数的に加速する」からだそうだ。
優れた武勲をあげた構造体だろうと、戦場のナイチンゲールとして讃えられた構造体だろうと、ここに来ればすべて同じ。
ここでの彼女たちは、その製品寿命が尽きるまで徹底的に使い潰される機械の孕み袋だ。
一度孕んでしまえばその身は完全にゲシュタルトの管理下に置かれ、彼女たちはすくすくと育つ生命の萌芽に合わせて腹部を膨らませることしか許されない。
今、大将の眼の前には、古い機体のナナミとハカマが静かに眠っている。
必死にナナミを探し続けていたハカマであったが、まさかこんな形で再会するとは夢にも思わなかっただろう。
小柄なナナミも、大人びた風格のハカマも、共にその腹部を大きく膨らませて出産の時を今か今かと待ちわびている。
母乳で培養槽を汚さないように乳房には搾乳機が取り付けられ、時折母乳を搾り取られている。
それぞれの培養槽の前には小さなディスプレイがあり、受精した精子と卵子の提供元のデータと、彼女たちの妊娠の進行度、子の性別などが示されている。
「提供元のデータ」・・・つまり、彼女たちは自分自身の卵子で孕んだ訳では無い。
空中庭園に生きる人類からゲシュタルトがピックアップし、その精液と卵子をかき集め、彼女たちの子宮の中で混ぜ合わせているのだ。
当然ながら、彼女たちにどの精子、卵子が渡されるのか知らされることはない。
重ねて言うが、彼女たちは単なる孕み袋。
ゲシュタルトにその身を、子宮を捧げる人形なのだ。
大将は目的の構造体の姿を探し回った。
しかし、そこにいたのはどれも古い機体のものばかりで、数十分かけても見つけることはできなかった。
ひょっとすると、今まさに彼女はその身をゲシュタルトに捧げようとしているのかもしれない。
そう思った大将は、廊下の一番奥にある部屋のドアを開けた。
部屋の中は真っ白な壁と床の無機質な空間が広がっており、先程と同様にガラスで仕切られている。
ガラスにはホログラムで様々な情報が浮かび上がっており、これから交配試験を行う精子と卵子の情報を示すボックスは今は空白のようだ。
部屋の中にも構造体はいないため、大将は諦めて外へ出ることにした。
その時、リフトが動く音がした。
大将が急いでホログラムを見直すと、先程のボックスが埋められている。
そして、その下のエリアには、次のように書かれていた。
『卵子保有構造体:WH-20110リーフ・白夜』
『精子保有構造体:WH-19547ルシア・鴉羽』
部屋の隅にあるゲートに目を凝らす。
3つあるゲートのうちの1つに、2つの培養槽が送られてきた。
片方にはルシアが、もう片方にはリーフが目を閉じて直立している。
培養槽が開き、裸の二人の白い肌があらわになると、ルシアのそばにあったタンクから針のついたチューブが伸び、ルシアの腹部に太い針を差し込んだ。
タンクに入っている白い液体が、ゆっくりとルシアの中へ注ぎ込まれていく。
クリトリスがゆっくりと膨らみ始め、先端からは注ぎ込んだばかりの白い液体が滲み始めた。
クリトリスはヒトのメスのそれを簡単に上回り、むくむくと膨張を続ける。
最終的に、ヒトのオスのペニスのようにカリ首や裏筋が生まれたところでチューブは引き抜かれた。
直径にして1cmはあろうかなり太い針を刺されたはずのルシアの腹部には、不思議なことに傷一つ残っていなかった。
一方のリーフは、ルシアの様子とは裏腹にいかなる処置もなされていない。
どうやら、「精子保有構造体」がヒトのオスとして、「卵子保有構造体」がヒトのメスとして位置づけられているようだ。
「WH-20110「リーフ・白夜」、WH-19547「ルシア・鴉羽」。起動せよ。」
ゲシュタルトの声に、二人の構造体はまぶたを開き、くすんだ目をあらわにした。
「WH-20110「リーフ・白夜」、交配モードで起動。卵子管理番号はAX4758です。
現在のステータスは、総交配回数12回、出産回数8回、出産人数9人、精子注入回数4回となっています。」
「WH-19547「ルシア・鴉羽」、交配モードで起動。精子管理番号はBX9612です。
現在のステータスは、総交配回数29回、出産回数13回、出産人数17人、精子注入回数16回となっています。」
「認証成功、登録データに一致。
機体操作権限を付与。」
その瞬間、逆元装置が淡く光りだすと、二人の目に輝きが戻っていった。
「・・・お久しぶりですね、ルシア。」
「ええ。また会えました。」
数刻ぶりの再会に、二人は顔を見合わせて微笑む。
「あれから、どれぐらいの時が経ったのでしょうか?」
「リーフと最後に交配したのが、私の21回目の時でしたから・・・ざっと80日ぐらいでしょうか?」
「どうでしょうか。私は最後にルシアの子供を生んでから、しばらく生命体保護室の方へ移っていましたから。」
「システムログを漁ってみましょうか?」
「そんなことをしたら、ゲシュタルト様に怒られるかもしれませんよ。
とにかく、また会えたという事実だけで、リーフはお腹いっぱいです。」
柔らかな雰囲気が二人を包んでいる。
それぞれは今、ゲシュタルトの交配試験に使われるオスとメスだということを忘れているかのように。
あるいは、「そうであること」が常識だと洗脳されているのかもしれないが。
「交配試験を開始せよ。」
ゲシュタルトが指示をする。
「・・・それじゃあ、はじめましょうか。」
ルシアとリーフはそれぞれの肩に手をおいて向き合った。
唇を近づけ、目を閉じる。
唇と唇が重なっては離れ、また重なって離れる。
吐息が互いの顔にかかる。
ルシアが舌を伸ばすと、リーフはそれを優しく受け入れた。
じゅるじゅると音を立て、リーフがルシアの舌を啜る。
互いの吐息がかかり続け、顔が湿っている。
リーフはゆっくりとルシアのペニスに手を伸ばした。
亀頭から垂れているカウパー液を手のひらに受けると、亀頭をそっと握って根本へとストロークする。
「うっ・・・ああっ・・・」
きめの細かいリーフの手でペニスを包まれたルシアは、カクカクと腰を震わせている。
リーフはもう片方の手をルシアの腰に当て、ルシアが腰を引くと手でぐっと押して引き寄せる。
「もう、まだ始まったばかりじゃないですか。」
リーフはなめらかに手を滑らせ、絶え間のない快楽をルシアに送り込んでいく。
亀頭から根本へは優しく。
根本から亀頭へは少しだけ強く。
ドクドクと熱い精液を吐き出す、あの強烈な射精の快楽を思い出させるようなリーフの手つきに、ルシアは一方的に弄ばれ続ける。
(なにかしないと、保たない・・・!)
腰の震えがさらに大きくなったルシアは、リーフの女性器へ手を伸ばして反撃を試みた。
くちゃりという音とともに、リーフはルシアの指をすんなり受け入れた。
いつの間にかリーフの女性器からも愛液が垂れており、膣内ではペニスを受け入れる準備が着々と進められていた。
ルシアが指を入れた瞬間、その突然の刺激に驚いたリーフは目を開けた。
そして、リーフはガラス越しに立っている大将と目が合ってしまった。
(続)